第39話
竹林インターに到着したのは、午前8時を過ぎたところ。
「んん~っ!」
車内から降りたなぎとは、大きく伸びをする。
「朝早いのに結構賑やかだな…。トイレ行くなら行っとけよ」
「のぞみちゃん、お手洗い、一緒に行こう♪」
花音はのぞみと手を繋ぐ。
「はあ~い♪」
和やかな笑顔ののぞみをみてなぎとは、
(なんともほほえましい…まるでペットを散歩させてるみたいだね)
肩を揺らして笑った。
「とても近い歳には見えないな。あいつらすげぇ身長差だし…」
亮太はなぎとの笑顔をみてクスクスと笑い同じく肩を揺らした。
ちなみに、のぞみの身長は152センチ、花音の身長は173センチである。
亮太の身長は176センチ。
なぎとは167センチである。
(170センチだと本人は言い張るのだが…)
「よし、プリンサンデーゲットしなきゃ♪俺先に行ってならんでるから♪」
なぎとは目当ての品にできる列をめがけてダッシュした。
実は列に並ぶのが大好きななぎと。
順番待ちの間のうきうき感がたまらないらしい。
今日は休日なのもあってか、結構な人数である。
「20番目くらいか♪」
なぎとは列に入り、携帯をいじり「芸能ニュース」をチェックする。
亮太はテーブルを確保すると、ふきんを持ってきて拭き始める。
女子トイレでは、メイクなおしをする花音が鏡の前に立ち、洋服を確認している。
濃いめスキニーにダークブラウンのスリムなロングブーツ、上着はPRIDEのチェック柄ダウンベスト。
インナーもPRIDEの白いニットである。
バッグはクロエのパイソンレザーハンドバッグ 。カジュアルな装いですが、お金は十分にかっている。さすがはセレブであるといったところだ。
(はぁ~、花音先輩本当にお美しい…)
のぞみは鏡の中の花音にうっとりと見惚れていた。
そんなのぞみの今日の装いは、薄いグレーのハイネックシャツに、膝上10センチ程の黒いショートパンツにグレーのムートンブーツ(ロング)に、上着は膝丈程のアイボリーのカジュアルなロングニット。バッグは濃いグレーのトートである。ちなみに、全てノーブランドである。
何だか説明が面倒なくらいに普通の装いだ。
(本人は気合いをいれてきたと思っているが…)
あまりオシャレにはこだわらない、実用性重視の着こなしである。これでも一応セレブなのだが。
「お待たせ♪行きましょうか?」
「は~い♪」
二人は仲良く亮太達の元へ歩く。
「あ、いた♪あそこ。」
花音は売店横のテーブルを指さした。
指先をたどると、亮太がせっせとテーブルを拭いていた。
「あ、なぎちゃんがならんでる!私もいきますぅ~っ!」
子犬のように駆け出すのぞみを見て、
「クスッ……」
花音の口元から、若干不適切な笑みが…。
目線の先は亮太もちろん亮太である。
そして、静かに歩み寄ると、
「お待たせ♪」
「あれ、夢食いは?」
「あっちよ」
花音は列を指す。
「ふーん…、あいつもならびに行ったのか」
そう笑みを浮かべる亮太の隣にすっと座る花音。
「そうそう、東京の個展ね、よかったわよお~♪」
「ああ、岩月教授の教え子の?」
「西山善次さんって知ってる?」
「ああ…、確かこの前文科省の大臣賞取った人だろ?」
「さすが、チェック早いわね♪」
花音は緩やかに微笑んだ。
「繊細な日本画が素晴らしい画家さんよね。その絵の中にね、……」
花音は携帯を取り出し写メを亮太に見せる。
「うおっ、これって…」
テンションが思わずあがる亮太。
「ね、そっくりじゃない?亀井家に♪タイトルは《昭和》だって♪」
2人並んで写メを見る姿は、端から見れば完全にラブラブカップルである。
しかし、会話の内容は、
「渋いな。しかもこれ水墨画だろ?濃淡の使い分けがうまいよなー」
「でしょ?でしょ?情緒漂い、奥ゆかしい感じで気に入っちゃったわ♪
それでね、これ♪」
バッグの中から、
「お土産です♪」
《昭和》の絵のポストカードを亮太に差し出した。
「おぉ、いいのか?」
亮太の顔が思わず綻んだ。
「喜んで貰えてうれしいわ♪お家にでも飾ってね♪」「サンキューっ♪」
ご満悦の亮太に、花音は更に笑顔を咲かせた。
「花音せんぱぁ~い♪亮太くぅ~ん♪おまたせしましたぁ~っ♪」
のぞみはなめらかプリンサンデーを両手に小走りで駆けてくる。
「おいおい、危なっかしいなぁ…」
亮太はひやひやしながら立ち上がると、
「気をつけろよ!」
思わずのぞみの元へ小走りに駆け寄った。
「一個持つから…」
のぞみから品物をひとつ受け取り、やれやれと笑う亮太。
「にゃはっ♪ありがとうございます♪」
のぞみはにぱっと笑った。
「……」
無言でそんな2人のやり取りを複雑な笑顔で見つめる花音に、
「お待たせしました♪花音先輩♪」
屈託のない笑顔でサンデーを差し出すのぞみに、
「ありがとう♪のぞみちゃん♪」
若干つくり笑顔で花音は応えた。
「いやぁ、今日のならび加減はまずまず…」
以外とスムーズに購入できた事にやや不満を残しつつご帰還のなぎとは、亮太になめらかプリンサンデーを渡す。
「いっただきま~す♪」
のぞみはサンデーのソフトをパクリとほおばる。
「んん~っ~♪」
濃厚なソフトクリームは新鮮なご当地乳牛の搾りたての牛乳からできている。
「…はぁぁ~…♪ソフトクリーム、おいしいぃ~~♪」
至福の笑みで感嘆した。
「プリン超うめぇ~♪」
なぎとはサンデーの下からプリンを先に攻略し、目を丸くさせて笑った。
「うん。中々いけるわね♪これ♪」
花音はソフトとプリンを一緒に口へ運び、ご満悦の笑みを浮かべた。
「以外とさっぱりしてるな、甘ったるくなくてこれくらいなら食べれるな」
甘いものがあまり得意ではない亮太も頷きながら食べる。
バクバクと凄い勢いで食べ進めたのぞみは、ものの数分で完食。
「はぁ~♪おいしかったぁ♪………」
そう告げたはなから、じ~っとスプーンをくわえて亮太を見つめる。
(……はいはい、足りないんですね、…しょうがねぇなぁ…)
その視線に気付いた亮太は、
「ほれ」
クスリと笑い、食べかけのサンデーをのぞみに差し出す。
「にゃはんっ♪ありがと~ございま~っす♪♪」
待ってましたと謂わんばかりにぞみは、嬉しそうに亮太から奪ったサンデーをぱくつく。
「夢ぴい、超食いしんぼう」
なぎとはけらけらと笑ってスプーンでのぞみを差した。
「だって、とってもおいしいんですもの♪ひとつじゃ足りないですよぉ~♪」
「だったらひとつ余分に買っとけよ…」
やれやれと笑う亮太に、「だってぇ~、亮太くん、甘いもの苦手じゃないですかぁ?だから残してしまうんじゃないかと思ったんですよ」
「いやいや、食えるって言ったろ?」
「むぅぅ~、一旦貰ったものは返せと言われても無理ですよ?あ、でも一口なら……はい、あ~ん♪」
サンデーをすくい渋々スプーンを亮太に向けるが、「いらねーよ、つーかやめろ、恥ずかしい」
亮太は再度ため息をこぼして苦笑した。
そんなやり取りを見て、
(ふ~~ん…なるほどね) スプーンをくわえ、のぞみを観察する花音に気付き、チラリと様子を見るなぎと。
花音はスプーンでソフトクリームをすくうと、ポタリとダウンベストに落下させた。
「あ…」
と声を漏らした瞬間、
「うわっ!高いんだろ、この服っ!」
亮太は慌てて花音のベストをウェットティッシュで押さえる。
さすがは亮太ママである…、なんとも素早い対処。
「以外とどん臭いんだな、お前…」
亮太はやれやれと笑う。「シミにならなきゃいいんだが…」
ベストの上からポンポンと優しくウェットティッシュをあてながら、
「ありがとう…。」
花音は照れ笑いをこぼした。
「…………」
なぎとは思う。
(…わざと臭ぇ~感じがするのは俺だけか…?)
スプーンをくわえて苦笑いした。
「のぞみちゃん、まだ食べられる?」
花音はギブアップなのか、のぞみに残りのサンデーを差し出した。
「まだまだ食べたいです♪ありがとうございます♪」 嬉しそうに受け取り、バクバク食べる。
「しかし、本当によく食うよな…」
亮太はのぞみを見て涼しげに笑った。
「ほら、口にアイスついてるし」
ティッシュを差し出す亮太に、
「ありがとうございます♪」
えへへぇ~っと、なんともしまりのない笑顔で応えるのぞみを見つめ、
「亀井って、ホントにまめよねぇ~」
花音は感心する。
「いや、普通だろこれ位」 小さく笑みを浮かべて謙遜気味な亮太に、
「全然普通じゃないわよぉ♪是非ともお嫁さんに貰いたいわね、うん♪」
花音は亮太をじっと見つめて目を細め笑う。
「ふっ、嫁って…意味わかんねーし」
亮太はやれやれと笑う。
(花音先輩と亮太君が仲良しになってよかったですぅ~♪)
のぞみは安堵の笑みを浮かべた。
全くもって鈍感な性質である。
お目当てを食べ終えて、一行は車に戻る。
花音は、
「な・ぎ・ちゃん、席変わっていただけるかしら♪」 花音は笑う。
(…絶対言うと思ったしぃ…。花音先輩、ゆっくりと確実に距離を縮める作戦に出たな…)
なぎとはため息混じりに笑い、後ろに乗り込む。
「やっほぉ~、なぎちゃん♪」
花音の隣に乗車していてかなり緊張したせいか、なぎと登場でテンションが上がるのぞみ。
「さ、ここから一気に楠木まで行くからな」
亮太はアクセルを踏む。
残りの道中、亮太と花音は美術話に花を咲かせる。画家の賛否両論や、歴史的な話などを愉しげに論議し、とてものぞみやなぎとには理解できない話が飛び交った。
まさにシャットアウトという感じである。
(得意分野で夢食いちゃんを閉め出すのは結構なんだけど…ね)
なぎとは小さくため息をついた。
「か、…かりんとう♪なぎちゃん、《う》ですよ♪」
「う…、うみうしっ♪」
後部座席の2人はしりとりを始める始末であった。
こうして一同は楠木港へとたどり着いた。




