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第23話


「全くやな女だ……」

 亮太はぶつぶつ言いながら自転車をこぎ帰路を走る。

「金持ちのくせに奨学金の権利掻っ攫いやがって…。しかも「奨学金なんて私には必要ありません」なんてあっさり言い放ちやがって…。だったらいちいちコンクールなんかに出品すんなっての!」


 加えて言えば、辞退した奨学金は銀賞の亮太ではなく、入選した1年のものとなったのだ。

『なるべく残り在学年数の多い人に譲渡させて戴きたいです』

 との花音の意見によるものだ。


 悔しいが確かに花音の意見はもっともであると亮太は思っている。

自分より苦労している学生もいるのは確かなことだとだとも理解はしているのだが……


「ふんっ!ちょっと絵が上手いからって……」

 完全なる嫉妬心である。亮太はコンクールで花音に還付なきまでに負けたから。

 コンクールのあの日、亮太が花音の絵を見た衝撃は凄まじいものだった。


(ポール…、セザンヌ…) 心の中でつぶやき唇を噛みしめ、花音の描く世界に心を奪われた自分自身に怒りが沸いたのだ。

 透明感、立体感、厳かさえもカンヴァスから伝わる、静寂した光の美しさ…。

 風景の中、まるで人物がそっと息をし語りかけてくるような生きた表情。


 亮太とはまるで正反対の花音の印象派の美しい絵画を目の当たりにして、思わず震える両拳を堅く握って絵の前で立ち尽くしたのだった。


「くそっ!負けるもんかっ!」

 亮太は敗北した自分のイメージを無理矢理振り払うかのように自転車を走らせる足に力をこめた。


   ◇


「…という訳で亮太は花音先輩が苦手なんだよねぇ~」

 海老フライ定食をほおばるなぎとはのぞみに亮太と花音の因縁(?)を説明し終えた。

「へぇ~…。そんな事があったんですかぁ…」

 のぞみはやや感嘆気味でオムライスをパクリとほおばりつぶやいた。

「しかし…、なぁんて見目麗しいかたでしょうねぇ~」

 のぞみはスプーンをくわえたまま、うっとりと上目で食堂の天井を見つめた。

「ほんとだよねぇ~。セレブだわ頭はいいわ、絵は上手いわ、モデルのような綺麗さだわ……。性格も良さそうだし、まさにパーフェクトっ♪」

 なぎと同様にもうっとりと感嘆した。


 変態呼ばわりされてたことには気付いていないのか?


「…な~んか亮太君って凄い人なんだなぁ…」

 のぞみはスプーンでオムライスを突きながら少しだけしゅんとする。

「単なる家事好きの口うるさいママだとばかり思っていましたけどぉ……、」

 オムライスの白い皿が小さく音をたて、

「大学では凄い有名人なんだもん…。もうびっくりですよぉ…」

 ため息混じりにオムライスをパクリとほおばった。

「まあ、ねぇ。女子にも一部男子にも人気あるしねぇ~♪大学じゃ無口だけど実際見た目カッコイイしね。頭もかなりいいし、無愛想だけどなんだかんだと面倒見もいいし」

 なぎとはコーヒーを飲み小さく笑みを浮かべた。


「なぎちゃん、実はね、私今日講義の後で女の子に意地悪されたんですぅ…」


「は?…マジで?」

 なぎとは顔色を変えてのぞみをみつめて眉をしかめる。

「ネタノート取られちゃって…えへへぇ…」

 のぞみはゆるっと笑う。「でもね、亮太君が助けてくれたんですよ。…あ…、そうだった…。亮太君が……」

 のぞみは思い出して困惑した顔で苦笑いしながら、

「私と付き合ってるのはなぎちゃんだって…」

 のぞみは、なぎとを真顔でじ~っと見つめた。


「…マ…マジ…でぇ?」

 なぎとは目が点。

「ええ、マジですが…?」 更に真面目な顔でなぎとを凝視するのぞみ。


「見つめ合ってる、超らぶらぶじゃーん」

「へ~ッほんとに付き合ってるんだぁ…」

「さすが石峯、とうとう究極の域に達したか…」


 周りの声が急に耳に飛び込んで、まさに『鳩が豆鉄砲』状態のなぎと。

(やられた…。亮太の奴ぅ…、ちゃっかり俺にかぶせやがったな…)

「なぎちゃん?」

 のぞみはなぎとに手をかざして手を振る。


 少々の沈黙の後に、

「……ま、いっか♪どうせキャラも扱いも全っ然変わらないし♪」

 コーヒーを飲み吹っ切れたかのようにけろりと笑い、

「いいよ~ん♪彼氏でも♪全然オッケ~だしぃ♪」

「ぇえええ~~っっ!!」

 のぞみは真っ赤になり仰天した。

「いやいやいや、振りだよ振・り♪亮太と夢食いちゃんが学校の噂になっちゃ、夢食いちゃんがあまりにも可哀相だし」

「えっ??どうしてですか??」

 のぞみは首を傾げる。

「決まってんじゃん。女子に超イジメられるからだよ~」

 なぎとは小声で話す。

「…うーん…確かにそれは嫌ですぅ…」

 思わずのぞみも小声になり会話を進めた。

「俺が彼氏の振りしてればことは丸く収まるよねっ♪」

「なぎちゃぁん……」

 のぞみは、なぎとを見つめて感謝の笑みを送った。「さて、と。ぼちぼち亮太んとこに行こうか?多分花音先輩に遭遇して、ひねくれてへこんでるからさ♪」 なぎとはうひひっと笑って立ち上がった。



   ◇



 その頃亮太はというと、自宅でひとり黙々と昼食を食べて、お茶を飲みながらこたつでぼ~っとしていた。

(ああ…久しぶりに静かで幸せだな…。今日はず~っとこうしていたい気分だ…。あ、晩御飯茄子味噌炒めにしよう。白菜の残りはお浸しにでもするかな)


 どうやら花音のことはもう気になっていないようだ。やはりのぞみに会ってからは少し精神的にタフになったようだ。


 ぬくぬくとしたこたつに包まれて考えながら、次第にうとうとし始めた。



もうすぐなぎと・のぞみが来るというのに。


 そんな事は考えもなしにいつしかしっかりと眠りに落ちる亮太であった…。



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