第21話
夢野家に到着したのは午後2時手前。
亮太に遅れた理由を聞かれたのだが、なぎとが適当に笑ってごまかして、二人は少し遅い昼食にありついたがしかし…、
「……おい、夢食い?」
亮太はのぞみを見つめて眉をしかめた。
のぞみは箸を持ったままぼーっと一点を見つめてどこか上の空である。
先ほどのひと騒ぎを思うと、それは無理もない事ではあるが、そんな事はもちろん知らない亮太は、
「お~い!もしも~し。トリップ(脳内絵本製作)中か?」
のぞみに手をかざす。
「はっ!……。なんですか?亮太君」
のぞみは我に返り亮太を見つめてつぶやいた。
「うどん……延びるぞ。」 せっかくのうどんが…、とムスッとする亮太。
「あっ…、はい。……。」 何だか元気なくのぞみは俯いた。
「…もしかして…、具合悪いのか?こたつで寝てたし…」
亮太はのぞみがいつもと違うおかしさに気付き、立ち上がりのぞみの額に手を当てた。
「熱はなさそうだな…」
亮太はのぞみを見つめて小さく首を傾げた。
「すみません…」
のぞみは苦笑いを浮かべて小さな声でつぶやいた。
(亮太くんには内緒…)
なぎとの声が頭の中に響くも、のぞみは亮太を騙して悪い事をしたような罪悪感に悩んでいたのである。
そんなのぞみを見てなぎとは思う。
(あちゃ~っ…、さっきの出来事は、夢くいちゃんには少々刺激が強すぎたみたいだなぁ)
心の中で苦笑いをしつつも、ポーカーフェイスでなぎとはうどんをすする。
「…あのぉ、」
のぞみは箸を置き、俯いた。
「どうしたんだ…?」
亮太はコーヒーを飲む手を止めてのぞみの様子をうかがう。
「…あのぉ…、すみません…。やっぱりちょっと具合が悪いのかもしれません」
何とも曖昧な言葉を発して、のぞみは箸を下ろした。
「お…い、マジで大丈夫か?」
亮太は気遣いの色を見せながらのぞみをのぞきこむ亮太の優しさに、のぞみの胸には更に余計に罪悪感が膨らんでいく。
「すみません。今日は…、もう、お家に帰ります」
のぞみは席を立ち、ぺこりと頭を下げた。
「あ、待ってよ。送ってくから……」
なぎとの言葉に、
「…いいです…。一人で帰ります」
ぼ~ッとした表情でのぞみは歩き出そうとした。
「夢食い、ちょっと待て」
亮太は少し声に力をこめてのぞみを止めだ。
その声にびくっと体を強張らせ足を止めるのぞみに、
「……なにがあった?」
亮太はのぞみの腕を掴み、ストレートに尋ねる。
(明らかにおかしい。いつもおかしい奴だが、またそれとは違うおかしさだ)
亮太はのぞみの顔をじっと見つめた後に、ちらりとなぎとに視線をやった。
「…ダメです…なぎちゃん……、やっぱり私亮太君に隠し事はできませんよぉ」
のぞみは声を潤ませて半ベソ状態である。
「なぎと…、どーゆー事だ?」
亮太はなぎとを見る。
「はぁ…、だよねぇ~…。隠し事はダメだわな…」
なぎとはポーカーフェイスをやめて苦笑いした。
「…とにかく座れよ」
亮太はのぞみを椅子に座らせて、
「なぎと、ちゃんと説明しろよ」
亮太はため息をひとつついてなぎとをじっと見る。
「ここに来る前にさ、…夢くいちゃんの携帯にサギ島から電話が入ったんだよね…」
なぎとの言葉に亮太の顔が険しくなる。
「…で、ついさっき、サギ島コンパにのりこんだ」
まるで子供が大人にいたずらがばれたような笑みを浮かべるなぎとに、
「……で?」
と、更に亮太は顔を険しくしてなぎとを見つめる。
「オーナーとサギ島を吊しあげて、謝罪させた」
なぎとはあはっ♪と笑いさらっと言い放つ。
「悪かったよ……。夢食いちゃんにはちょ~っと刺激が強すぎたかも…
反省してますぅ……」
しゅんとする(ふり)のなぎとに、
「…違うんですぅ…」
のぞみは小さな声をテーブルにおとした。
「夢食いちゃん…?」
なぎとは少し驚きをふくませた顔でのぞみを見つめた。
「…亮太君に隠し事してる自分を思うと…、なんだか頭がもやもやぐちゃぐちゃしてしまって…。そうしたらなんか気分が悪くなっちゃって…」
のぞみは嘘がつけないのである。
そして、隠し事もできない性質なのだ。
「友達に隠し事はいけないのです。ごめんなさい……、亮太君」
のぞみは深々と頭を下げた。
「…ごめん、亮太」
なぎとも謝る。
「たとえ、仕事先が夢パパさんのところでもさ…、今日は仕事の初日じゃん?
もしお前に電話したら絶対仕事放って飛んで来るじゃん…。だからさ、本当は後でゆっくり話すつもりだったんだよね」
なぎとの苦笑に、亮太は大きなため息をつき、
「……で、ぐうの音も言わせない位、懲らしめてやったんだろうな?」
切れ長の目に力をこめてなぎとに軽い笑みをむけて尋ねた。
(へっ…?)
亮太の言葉にのぞみは顔を上げる。
「これでもかっ!って言う位?…う~ん、いや…、そうでもないかもなぁ…。
だって夢食いちゃん怯えすぎて気絶しそうだったしね♪ちょっと加減しといた」
なぎとは軽やかに笑う。
「まあ、…そうだろうな」
亮太は鼻を鳴らしつつも穏やかな笑みを浮かべた。
「ぇ???」
叱られるであろうはずが笑みを浮かべている亮太を見て、混乱するのぞみ。
「俺なら240万円分暴れてくるけどな。
どうせカモられた金は戻って来ないんだろ?」
「いやいや、俺はお前程熱くはなれないよ~♪」
なぎとはあはっと笑う。
「??ど~いうことでしょうか?」
のぞみはキョトンとして二人を見つめた。
「…つまり、ぜ~んぜん怒ってねーって事だよ」
亮太は全く、とつぶやき笑う。
「ええぇ~ッ?」
仰天して思わず立ち上がるのぞみに、
「んな事位でいちいち怒ってたら、なぎととは付き合いきれん。
もちろんお前ともだぞ」
亮太はなぎとの丼をさげながら再度鼻を鳴らして笑った。
「…で、気分はちょっとはスッキリしたか?」
亮太は台所のシンクへ歩きながらのぞみに問い掛ける。
「な…、なぎちゃんがとても恐ろしくて…、そんな事考える余裕はありませんでしたよ!
だってね、頭からアイスコーヒーざば~って!」
手足をバタバタさせて、一生懸命あの場面を伝えるのぞみに、
「ぬるいな……、俺ならホット顔面にぶっかけてもやり足りないぞ」
そう言ってニヤリと笑う亮太。
「…だろうね~♪」
なぎとは手を叩きながらけらけらと笑った。
「…ぇ…とぉ…。それじゃあ、結局…私は何を悩んでいたのでしょうかねぇ?」
のぞみは頭を抱えて悩みだす。
「な~んにも悩まなくていいんだよ。お前はアホなんだしな」
亮太はクスっと笑って、
「あ、アホで思いだした。おい夢食い、携帯かせ♪」
亮太はのぞみに手を差し出した。
「?なんでしょ…?」
のぞみは首を傾げながらも素直に携帯を亮太に渡す。
赤外線受信中。
なぎとは亮太の行動をのぞきこみ、
「ぶはっ!でたッ!」
思わず吹き出した。
「よし、オッケーだ。なぎと、お前のデータも送っとけよ」
「オッケー、ボス♪」
のぞみの携帯を2人の男は見つめてくすくすと笑いだす。
「???」
のぞみはそんな2人を見つめて眉間にしわをよせ、小さく首を傾げた。
「よし、転送完了♪はい、どうぞ♪」
なぎとは満面の笑みでのぞみに携帯を返す。
「?………」
のぞみは携帯の待ち受けをじっと見つめて、
「……ぎゃ~ッ!!ぴっ、ぴっ、ピエロぉ~ッ!!」
真っ赤になってあたふたしながら絶叫した。
そんなのぞみのリアクションに、げらげらと笑う2人の男。
のぞみの待ち受けは、半開きの目で爆睡する、夢くいピエロのなんとも間の抜けた写真が。
「画伯、マジ死ぬかと思ったよ、俺♪」
なぎとは目頭を押さえて尚笑う。
「コイツ、全っ然起きないし。しかも、筆動かすと、うっすら笑ってちょっと薄気味わり~し」
亮太も思い出し目頭を押さえて笑う。
「き~ッッ!なんていじわるなっっ!」
のぞみは足をバタバタと鳴らして悔しがる。
「ついでに、俺達のメアドと番号もいれといたからね~っ♪」
なぎとにかっと笑ってのぞみの頭を撫でた。
「くだらない事で電話してくんなよ。あと、携帯止まるようなバカは2度とするな」
亮太はクスクスと笑いながらものぞみを戒める。
「うれしいけど~ッ!この待ち受けはいやですぅ~ッ!」
なんとも賑やかな昼下がりである。
悩んでいたのぞみのもやもやぐちゃぐちゃした気分は、自らの滑稽なピエロ姿の写真によって、どこかへ吹き飛んでしまったようだ。
実は亮太はとても嬉しかったのだ。
のぞみが素直に
『ごめんなさい』
と言ってきたのが。
人に対して、飾ることのない思いやりの気持ち。
(アホだけど、心は腐ってないよな…うん)
改めてのぞみを、
(嫌いじゃないな、こういう奴)
と感じる亮太であった。




