第18話
【うわ~い♪ふっかふかですぅ~っ♪あなたはだぁ~れ?】
【おもしろい顔ですねぇ♪お鼻はぞうさんみたい、でも足は虎さん?尻尾…牛さんです♪】
《君の怖い夢を食べてあげるよ》
【えっ?】
《ママが遠くへ行っちゃう怖い夢を、僕が食べてあげる》
【ほんとですかっ!?】
《そのかわり―――》
【そのかわり?】
《必ず、僕を絵本の主人公にしてね。約束だよ――》
【はいっ♪】
「約束しまぁ~す!!」
のぞみ(顔はピエロ)は何やら叫び目を見開いて、突然ムクリと起きあがった。
「うっわっ!!びっくりしたっ!」
なぎとはピエロ(のぞみ)の突然のはっきりとした寝言と起床に目を点にして身を固めた。
「…なぁんだ…夢…、ですかぁ…」
小さくため息をついて複雑な顔をしているピエロ(のぞみ)を見て、なぎとはぷるぷると震え笑いをする。
「な、なんで笑ってるんですか?なぎちゃん…」
(寝癖がついてるのかな?) のぞみ(ピエロ)は口を尖らせて、髪を手櫛で直す。
「ぶーーっ!!ちょ、マジタイムっ!くくっ!」
なぎとはピエロ(のぞみ)を指さし、ますます笑い出す。
「んもうっ!!!なんなんですかっ!?」
なぎとが笑う理由に全く気付く気配をみせないのぞみ(しつこいようだがピエロ)に、
「か、かがみ、かがみっ!見てっ!」
なぎとは堪えきれずにこたつを叩きながらけらけらと爆笑。
のぞみは小走りで浴室に向かい、洗面台の鏡を見つめると―――
「ふぎゃぁああ~っ!!!」 浴室からのぞみの奇声があがり、
「ぴっ、ぴっ、ピエロになってるぅうう~~っ!!!」 のぞみの雄叫びに、なぎとは笑いながら、
「天才画伯のこたつの恨みだってぇ~♪」
「てっ、天才画伯ぅ…?
こたつ―――はっ!!」
咄嗟にのぞみの頭に浮かんだのは、イジワル亮太の口の端をちょっとだけ上げた笑い顔だった。
「…キィ~~ッ!!やられたぁああ~ッ!」
手足をバタバタさせながらなぎとに腹立たしさをみせるのぞみ(ピエロ)だが、
「あ~っはっはっ!やめてくれぇ~っ!そのへんてこな動き~っ!!」
なぎとは更に笑い転げる。
「…ぅキ~ッ!なぎちゃん!笑いすぎですっっ!」
捨て台詞を吐き、バタバターっと洗面所へ走り、のぞみは顔をジャバジャバ洗う。
「…おのれぇ…亮太君めぇ…、よくも私をおもちゃにしたわね…」
恨み節を吐きながら、タオルで顔を拭く。
「あ~ッ!もうっ!!朝からびっくりですよっ!」
のぞみはなぎとに怒りの顔を向け、
「なぎちゃんのバカぁっ!何で起こしてくれないんですかぁあっ!」
これでもか!と謂わんばかり膨れっ面でなぎとを睨んだ。
「いやいや!俺が起きた時はすでにピエロだったしぃ~」
目頭を拭いながら、なぎとは弁解しつつ、
「でもさ~、そんだけ顔に落書きされて爆睡してるってちょっとすごくね~?普通目を覚ますでしょ?」
またけらけらと笑いだす。
「はっ!そういえば…なんかへんてこな夢を見ていた気がする…」
のぞみは、うむむぅ…と少々小難しげな顔をして唸った。
「へぇ~、どんな夢?」
なぎとは尋ねるが、
「う~ん…、
・・・・・・・・・
忘れちゃいましたっ♪」
てへッ♪と照れ笑いのぞみ。
「ええっ!あんなにはっきりと約束します!って叫んだのにぃ~?」
なぎとは再度目頭を拭い笑いを収めるため呼吸を整えた。
「あ、そういえばもうそろそろお昼だよ、どうしよっか?夢食いちゃん」
なぎとは携帯の時計をみてのぞみに尋ねる。
「もちろん、ご飯を食べますよ♪」
「でも、ママ(亮太)いないよ?ファミレスでランチ―――」
「いえ、ママ(亮太)のところに行きましょう♪母をたずねて三千里ですよっ!なぎちゃんっ!」
そのママ(亮太)は仕事であるのだが…?
「そうだねぇ、どうせ夢食いちゃんの実家だしぃ~♪」
なぎとは笑う。
のぞみの実家には気を遣うとか何とか屁理屈を言っておきながら、結局遠慮無しに押し掛けるようだ。
「そのまえに、各自家に寄って着替えよ~♪」
「はあ~い♪」
ウキウキする、我が道主義な二人。
そのころ・・・・
「はっ!」
ただ今亮太はスーパーで食材の買い出し中である。
「な、何だろ…、今すげー胸騒ぎがした」
ねぎを片手に真顔で立ち止まる。
「…昼飯を余分に作らなきゃいけない気がする…」
ママ(?)の直勘?
「冷凍うどん…、5食入りを買おう…」
亮太は冷凍食品売り場へと歩く。
「さて、もうすぐ注文した金庫が届くだろうから、さっさと済ませて帰らなくちゃな」
亮太は買い物をするペースを早く切り上げ、家路へと急いだ。