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第15話


「はっ!晩御飯の支度…」 亮太は叫び、ソファーから飛び起きる。

何故かしら、すっかり家政夫な気分の亮太である。


「やあ…起きたかい?」

 そんな亮太に台所のダイニングテーブルに座りニッコリと笑う夢パパ。

「げっ、夢おやじ!」

 引きつり顔で夢パパを凝視して固まる亮太。

あのさっきのリスペクトな感じはいずこへ…?


「いやぁ、すまないねぇ。こんなに綺麗にして貰っちゃって…」

 少し照れくさそうに笑い、頭をポリポリかく夢パパに、

「いえ、家事は普通に得意ですので」

 胸を張って威張る亮太を見て、なぎとは肩を揺すりくくっと笑いだした。

 そんななぎとをジロッとひと睨みして、


「…っていうか、なんなんですか!あの恐ろしい札束の山はっ!無用心を通り越し過ぎですよ!」

 怒りをあらわにする亮太に夢パパは、ほんやりと笑って、

「あはは、通帳作るのが面倒でね」

 さすがは父親、といわんばかりに笑顔や雰囲気がのぞみとそっくりである。

 亮太は若干いらっとして、

「物騒過ぎるじゃないですか!一人暮らしだってのにっっ!!!せめて金庫置いて下さいよねっ!通帳や実印はちゃんと保管しなくちゃ、強盗とか入ったらどうするんですか!」

 完全に説教モードの亮太なのだが、

「ああ♪そうそう、ちょうど印鑑捜してたんだよ♪いやいや、助かったよ♪」


(この親父は…、実印の意味を知らねーのか…?)

 なんとものんきな夢パパに亮太は一瞬言葉を失う。がしかし、ここで負けてはならないとばかりに、

「とにかくっ!お金はちゃんとしないとっ!夢食いだって、詐欺られて文無しで大変だったんですから!

仕送りを忘れるなんて事!絶対ダメです!」

 亮太は夢パパに懇々と説教する。


「あのさぁ…、亮太ぁ…、話の腰を折るようで悪いんだけどさぁ…、お前の携帯にさっき着信あったよぉ」 なぎとは紅茶を飲みながら苦笑いする。

「は?誰からだよ?」

 亮太は眉間にしわを寄せてなぎとに視線をやる。

「バイト先から…」


「バイ――げっっ!!!

やべえっ、しまったっ!今日ファミレスのバイト入ってたんだっっ!」

 事の重大さに気付き、みるみるうちに青ざめる亮太。

「夢パパがさ、親戚の振りして急な法事が入ったって謝ってくれたんだよ」

「!!!…マジですか…?」 亮太は夢パパをじっと見つめてつぶやいた。


「君は職場ではとても信頼が厚いんだね。店長さん、疑いもせずに「気を落とさずに…」と君に伝えて欲しいと言付かったよ」

 夢パパの言葉に、(店長ぉ…すみません)

 亮太はうなだれて心の中で謝罪をした。


「今朝の監督さんも亮太君は真面目で頑張りやさんだって言ってましたよねぇ?亮太君はとても働き者なんですねぇ」

 のぞみはサクサクとんまい棒を食べながら笑った。

「ねぇ、亀井君…、もしよかったら、家で働いて貰えないだろうか…?」


 突然亮太に話を切り出す夢パパに、


「は……?」

 亮太は夢パパのあまりの突然の言葉に、眉間にしわを寄せて首を傾けた。


「月30万の報酬でご飯付きでどうだい…?

部屋は余ってるから、住み込みでも構わないよ。もちろん家賃は無料で。」


(つ、月30万!?住み込み!しかも家賃タダですとっ?)

 なんておいしい話っ!

今の家より全然大学に近いし住み込みで30万も貰えるなんて!


掛け持ちしているバイトを辞めれる=絵を描く時間が沢山取れる!


(うう…、即オッケーしたい!…でもな…)

 なんだか急な展開過ぎて、ちょっと怖いな…、とも思い、返答に困る亮太を差し置いて、


「そんなお話、亮太君がオッケーする訳ないじゃないですかぁっ!」

 のぞみはダイニングテーブルをぺちんと叩き、ぷんっと怒る。

「亮太君はあのお家がお気に入りで大好きなんですっ!私だってあのお家がなくなったらとっても困るしっ!」

「なんでお前が困るんだよ!」

 のぞみをギロッと睨み威嚇する亮太。

「私のこたつパラダイスが無くなるなんて嫌ですっ!ぜ~ったいに反対ですぅっ!!!」


(いつからお前のこたつになったんだよ!!!)


 言いたい放題ののぞみにぶち切れ寸前の亮太。


「じゃ、住み込み無しの通い家政夫でいいじゃん」

 なぎとはにこっ♪と笑ってさらりといい放った。

「だってさ、夢食いちゃんも夢パパさんもお互いに亮太が必要なんでしょ?

どのみち夢くいちゃんの面倒もみなきゃいけないなら、亮太がここに通ったほうが手っ取り早いよ」

「は?何で俺が夢くいの面倒までみなきゃなんねーんだよ?」

「いやいやだって、もうすでにしっかり面倒みてるじゃん♪」

 なぎとはけらけらと笑って、亮太を指さす。

(住み込みのほうがいいだろっ!)


「ただし、通うなら、亮太に自転車か原付きくらいは提供して貰わないと」


 なぎとは勝手に話を進めだした。

「来て貰えるなら、そんなのお安い御用だよ♪」

 紙袋を亮太にひとつ差し出す夢パパ。

(…その額だと高級外車が一台買ってもおつりがきちまうだろ?)

 亮太は大きなため息をひとつ床に落として呆れる。

「夢食いちゃんだってさ、亮太にご飯やらこたつのお世話になりたいなら、食費と光熱費くらいださなきゃだよ。もちろん俺もね♪」

 なぎとの勝手な仕切り出しで、話はあれよあれよと進み………。


「――というわけで、明日から早速宜しくお願いします」

 丁寧に深々と夢パパに頭を下げられた亮太は、結局「ノー」とは言えずに…


「はい…」

 若干煮え切らない気持ちではあるが、通いという形で夢パパの家政夫として働くことに決めざるを得なくなってしまったのである。

(住み込みでもいいのに…いや、むしろ住み込みがよかったのに…)


 亮太は、心の中で小さくぼやいた。



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