第14話
その頃ファミレスでは。
ほのぼの親子+1匹、ランチを食べながら団欒中である。
「いやぁ~♪一週間振りくらいのまともな食事だよ」 もぐもぐと和風御前を食べる夢食いパパ。(略して夢パパ)
「パパ様ぁ…、相変わらずですねぇ?家政婦さんが辞めた事に全然気付かないなんてぇ…。私も何度それで困ったことか…」
やれやれとため息混じりにカルボナーラをもぐもぐと咀嚼するのぞみ。
(あ、やっぱり夢食いちゃんも経験済みなんだ…)
苦笑するなぎとはハンバーグステーキ定食をぱくつくいている。
(あの状況で、普通に落ち着いちゃってたしねぇ…)
「いやいや、辞めるならちゃんと連絡くれればいいのにねぇ…」
やれやれとばかりに微笑んでいるが、実は連絡は留守電に入っているのだが、夢パパが気づいていなかっただけのことであるのだが…。
「いや…でも一週間近く気付かないのは本当にすごいですよね~♪」
なぎとはあははっ、と笑う。
「全くぅ、パパ様は相変わらずなんですからぁっ」
のぞみもあはっ、と笑った。
「いやぁ、あははは♪」
なんてほのぼのとした光景であろうか…。
それに引き換え、気の毒なのは亮太である…。
ご飯も忘れてひたすらゴミ屋敷の再生作業中とは…。(まあ、亮太は亮太で何だか楽しそうなのだが)
「しかし、のぞみに友達ができるなんてね~」
夢パパは実に嬉しそうだ。
「失礼なっ!私にだって友達くらい作れますよぉ!」 のぞみは膨れっ面でアイスティーをちゅ~っと飲んだ。
「…それで、どんないきさつでみんなと仲良しになったんだい?」
まったりとコーヒーを飲みながら、興味深々の笑みでのぞみに尋ねる夢パパ。
「実は、俺達、夢くいちゃんとは昨日友達になったばかりなんです♪」
なぎとは昨日の出来事を話始めた。
◇
一方、亮太はというと…。
冷蔵庫を綺麗に磨いて気分爽快、勿論台所もピカピカである。
「よーし!リビング、ダイニングは終了だっ♪」
見事なまでに元通りの素敵な部屋へとその姿を変えたリビングを見つめて「うん、上出来だな♪」とひとり納得して頷く。
ベランダへと続く横に広いサッシから入る、暖かい日射しと少し冷たい11月の風を受けて亮太は満足そうに笑った。
「さて、次は…」
向かって左側、奥の2部屋を開ける。
片方は夢パパの書斎らしき部屋だろうか?黒い木製の本棚には、アルバムと様々な本がずらりと並んでいる。
もう片方はのぞみが使っていた部屋であろう。
両方の部屋は全く手付かずで、家政婦が掃除したそのままの状態でぱっと見た感じは綺麗だった。
しかし、うっすら積もるホコリが目につき、それが気にいらないのが亮太である。
各部屋を掃除機、モップ、雑巾がけのフルコースでピカピカにしてゆく。
「これでよしと♪」
亮太は部屋を見渡して、大層満足気に笑った。
ここまでの作業で1時間半が経過した。3人が帰宅するまで、あと30分というところである。
「あとは風呂と、仕事部屋か…時間、足りるかな…」 亮太の怒りは部屋の美しさが蘇るにつれ、どんどん落ち着いていくが、若干神経質とも潔癖とも取れる性質が祟ってか、汚れをみつけると掃除しなくては気が済まなくなり、結局部屋の全てを掃除してしまっているのである。
風呂を覗くと、風呂も全然使用した気配がない。
「チッ、汚い親父だな…。何日風呂入ってないんだよ……」
軽蔑の眼差しで浴室を見つめるが、うっすらホコリらしきものを見逃せずに、
「…全くよお…」
ぶつぶついいながらも浴槽やタイルをゴシゴシと磨きあげてゆく亮太。
愚痴りつつも、実に楽しそうである。
「ふぅ…、完了♪」
ピカピカの浴槽を指で擦るとキュッキュッと鳴るのがたまらない快感とばかりに、にんまりと頬を緩める。
バスタオルやマットを新品に換えて、満足気に微笑んだ。
「さーてと。カーテンは乾いたかなー?」
風呂場の脱衣場にある全自動洗濯乾燥機を見つめて、
「いいなぁ…、除菌イオン消臭機能付き……」
うっとりと洗濯機を見つめる亮太は、洗いたてのレースのカーテンを取出して、リビングのカーテンレールに丁寧におさめてゆく。
ふんわり香る洗剤の臭いにまたまたうっとりしている…。
「外観は古いが、日当たりは抜群だよなぁ…」
一息いれる為に、ベランダにでて、外の空気を吸う。
「勢いであの親子をなぎとに託しちまったが……あいつ、大丈夫かな…?」
ベランダから街並みを見つめて、ちょっと不安げにつぶやくが、
「ま、あいつは変わり者の扱いはかなり上手いから大丈夫だろうな。まっ、俺は全然マトモだけどな♪」
いやいや…十分変わり者…。無自覚とは恐ろしいものである。
「さてと…。あとは最後の難関、奴の総本山に入るか…。」
ちょっと真剣に決意の顔をみせる亮太は気合いをいれてベランダから引き上げて、夢パパの仕事部屋へと足を進める。
「もう、よっぽどの事では驚いてやらんぞ…」
そうつぶやき、掃除機を抱えてドアノブを回した。
「………」
ドアを開けて立ち尽くし数秒の沈黙の後、
ガタンッ!!!
「うおぁっ!!!やっべ!掃除機落としちまった!」
亮太は驚きあわてて掃除機を持ち直し、
「何だよ……」
ぽつりとつぶやき、再度言葉を失った。
亮太の見つめるドアの向こうは―――まるで別世界である。
15畳くらいはあるゆったりとしたその空間の壁一面には、ラッキースターマンの原画が額に入れられずらりと飾られてある。
「すげーなぁ……」
思わず感嘆し、原画をじっくりと鑑賞した亮太は、ふと、南側に目をやる。
その窓際には、外国製であろう黒にほど近い焦げ茶色の木製の大きな机が置かれている。
その机の隣の、原稿や童話、茶封筒が綺麗に収納された机と同じ材質の整理棚は、カリスマ家政夫亮太も(美しい…)とうっとり見とれる程であった……。
「仕事場はやっぱ、別モノなんだな…」
言葉には上手くできないが、かなり感動している様子だ。
中央には画材の陳列棚。その奥にアトリエ。
配置もとても使い勝手が良さそうだな、と亮太は自然と頷く。
イーゼルに立てられたカンヴァスには、白い布がきちんとかかっていて、
「中、のぞきたいな…。でも、描きかけなら内緒でもやっぱ失礼だよな…」
芸術家(?)のモラルは人それぞれであるようだ。
気になりながらも、亮太はカンヴァスには触れない事にした。
「それにしても凄いよなぁ…」
幼少の頃、憧れていたヒーローの生原画に囲まれ、再度ため息を零し、うっとりと夢の世界に浸る亮太。
ゆっくりと見回し歩き、整理棚の中の童話を手に取る。
「おおっ!俺、これ持ってた!テレビでも見たし!」 タイトルを見て思わずテンションがあがってしまった。
「あぁ、この話。すげー悲しいけど温かくて好きだったなぁ…」
ラッキースターマン13
『イジワルンの涙』
ラッキースターマンの敵キャラである『イジワルン』が、たった一度だけ良い事をするお話である。
イジワルンの妹の『イジメルン』ちゃんが突然原因不明の病気になってしまい、イジメルンちゃんを助ける為に、イジワルンは、『カナイ星』の高い高い山の上に咲く虹色の花、『ネガイトドケ草』を取りに行く。
最後は敵であるラッキースターマンの助けを借りて必死で花を持ち帰り、イジメルンちゃんを助ける事に成功する。
イジメルンちゃんが目を覚ました時にイジワルンはわんわんと大声で泣いてしまうのだ。
そんなふたりの兄妹を窓の外から見つめ満足そうに、「よかったね、イジワルン」と笑うラッキースターマン。
そんな美しい友情と兄弟愛いっぱいの物語である。
本を読みながら小さく鼻をすする亮太…。
「はぁぁ~…、やっぱり好きだなぁ…、この話」
なんだか心洗われる清々しい気持ちになり、
(やはり凄いお方だな。夢野輝先生は)
うんうんとひとり何度も頷いた。
つい先程までクソ親父と言っていたのは、どこのどいつであろうか……?
「さぁて…、ちょっと休憩するかな」
夢パパの仕事場は結局掃除の手を入れるのをやめて、キッチンに置いてあるピカピカに磨かれた電気ポットでコーヒーを入れて、亮太はソファーで一息つく。
「それにしても本当に暖かいなぁ…今日は……」
充実感に満たされ、綺麗になった部屋で、座り心地が抜群のソファーに身を預けて、暖かく心地よい陽射しを浴びていると、知らぬ間に亮太は、ぐっすり眠っていた。
無理もない……。
昨日はのぞみに散々振り回され、絵が思うように描けずに一睡もせず、今日は片付け三昧……。
でも今日は不思議と、自分の絵のことは思い出さない。それすら気づいていない亮太である。
いや、きっとそんな事を考える暇がない程目まぐるしい時間であったと言うほうがきっと正解だろう。