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第13話


「いやあ~、すみません。ふと気づいたら家政婦さんが急に来なくなってしまっていて」


 水を飲み、少し落ち着いた様子でのぞみの父は穏やかに笑みを浮かべる。

(まさか自分家で遭難するなんて……、どんだけアホなオッサンだよ……)

 呆れ返る亮太の隣で、それは仕方がないことだとなぎとは思う。

(だって、夢くいちゃんのパパなんだもん…)


「ところで貴方達は…?新しい編集者さんかな?」

 初対面の亮太となぎとを見て笑いかける。


「私のお友達ですっ!」


 父にその存在を忘れられ、まるで餅のようにほっぺを膨らませるのぞみ。


「おや?のぞみじゃないかぁ?やあ、元気そうだねぇ?」

 なんとも呑気な挨拶である…。

「また、突然どうしたんだい?」

「昨日ちゃあんと電話したぢゃないですかっ!仕送りです、し~お~く~りっ!」

 のんびりとマイペースの父に、ぞみは何故かしら怒っているようだ。


「ああ…、そうだったかなぁ…?え…と、お金は…」 適当に辺りをキョロキョロ見渡し、

「多分その辺りに紙袋があるはず。そこに入ってるよ」

 ゴミの山を指さす。

のぞみはごそごそとゴミの山を掻き分けると、中から菓子折りの紙袋が出てきた。

「うぇっ!重いっっ!!」 のぞみの素っ頓狂な声。「う~んしょっ!」

 紙袋を引っ張り上げた瞬間―――袋が破れて、バサーッと札束が宙を舞う。


「ぎゃあああ~っ!!!!」

 その光景に、けたたましい悲鳴を上げたのは亮太だとは言うまでもなく……。

 なぎとはただただ、口をあんぐりと開けっぱなしにしている……。


 なんて無頓着な親父なんだろう…。ゴミ屋敷だわ、遭難してるわ、大金がゴミ山に混ざってるわ………。

 次々に信じられない出来事が目の前でポンポン起きるので、亮太はいやがおうにも驚きっぱなしである。 そして、

(このオッサン…一人にしたら、間違いなく死ぬだろうな…)

 亮太はこめかみを押さえながら、深いため息をついた。


 まぁ、しつこいようだが…のぞみの父親なので仕方がないだろうとも諦めて納得する気持ちも勿論あるわけで。


(納得したらなんか…この状況に目が慣れてきたぞ…)

ふと思う亮太。

(っていうか、なんだろう、無性に片付けたいぞ。

つーか、家政婦がいないんじゃ、ほっといたらこの親父…間違いなくゴミ山で溺死するだろ!)


 何故かしら、亮太の主婦スイッチが急にオンになる。

(そうだよ!こんな親父でも死んだら全国のちびっこ達が悲しむぞ!しかもゴミ山で溺死なんて事になれば、ちびっこ達の夢もぶち壊しじゃねーかっ!)


そんなことを考えながら、すくっと立ち上がり、

(ラッキースターマンを信じてるちびっこ達の夢を守らなければ!)


 うおぉぉ~っ!となんだか一人、心に闘争心に火がついてしまったのだ。


 カリスマ家政夫覚醒の瞬間である……。


「…なぎと、このバカ親子を連れて昼飯にでも行ってこい!」

「は?」

 亮太のいきなりの言葉に、なぎとは大混乱。


「掃除するんだよっ!このきったねーゴミ屋敷をかーたーづーけーるのっっ!!だから、お前らまとめて邪魔なんじゃっ!

いいからさっさと出ていかんかあーーーーっっ!」


(どぉうわっ!やべぇ!亮太っ、目がマジだしっ!)

 触らぬ亮太に祟りなし……。

「ちょっと、ここは亮太に任せて、ランチに行きましょう!!」

 なぎとはあわてて夢野親子を外に避難させる。


「いいかっ!最低でも2時間は戻ってくんなよっ!」

 亮太は非常に恐ろしい形相でバタンッと玄関のドアを閉める。そして、


 ガチャリ………。

と鍵をかけてしまった。


「「???」」

「・・・・」


 親子揃ってぽか~んとおんなじ間抜け面でドアを見つめるその隣で、

「はぁ…、あのカリスマ主婦め……。あまりのめちゃめちゃ具合で覚醒しやがったか…。まぁいいや、ファミレスにでも行きますか」

 亮太の鬼の形相を思い出して、もう苦笑いするしかないなぎと。

(ドリンクバーがあれば、なんとか時間も潰せるだろう…)

「ま、ここはカリスマ家政婦に任せておきましょう」 亮太、カリスマ主婦からカリスマ家政夫へ、レベルアップ…。

「へ~…彼、家政夫なんですかぁ?なるほどぉ」

 夢食いパパも何だかよくわからないが、納得したようだ…。

「亮太君は家事がすっごく得意なんですよ~♪よかったですねぇ♪お部屋、ぴっかぴかになりますよお~♪」

 そんな呑気な会話をしながら、ファミレスへ向かう3人であった…。



   ◇


「それにしても…」

 部屋の惨劇を眺め、ため息をつき亮太は独り言のオンパレード。

「ゴミひとつ片付けられんとは、全くもって最低な大人だよな!」

 

 それも仕方ないことなのである。

 夢パパこと夢野輝は、童話を書くことに夢中になると、周りが見えなくなる超没頭型人間であるのだ。


 お金はあるのに、食べることを忘れて倒れるなんて夢パパには極普通のことなのだ…。自らの体調管理や生活にはかなり無頓着なのである。


「ああ…、なんか夢食いの部屋も心配になってきたぞ…。あの親にして…だもんな…」

 ぶつぶつとぼやきながら、テキパキとゴミを分別し片付けてゆく。


「うおあっ!こんなところにも札束袋がっ!」

 大金の入った紙袋を恐る恐る持ち上げ、部屋の隅っこに積み上げる。


 ゴミを片付けているうちに発掘した大金入り紙袋は…なんと7袋!


「あのクソ親父…、ギャラは銀行振込みにしてもらえよなっ!…げっ!こんなところに通帳までっ?」

 いちいち驚きと呆れたため息がでる。

「しかし金って、あるとろにはあるもんだな…。そりゃ、さすがにあんだけグッズとか売れてりゃ、印税収入はそりゃあすげーんだろうなぁ…」


 ぼやきつつも、亮太の片付けの手は止まることはなく、ゴミはみるみるうちに仕分けられ、ゴミ袋がベランダに詰まれていく。


リビングのフローリングに掃除機やモップをかけ、ゴミ屋敷は、みるみるうちに綺麗な部屋へと息を吹き返していく。


「ふんっ!いくら金持ちでもこんなだらしない生活じゃあなっ!」

 若干ひがみ混じりと取れる独り言も吐きつつ、


「よーし、これでオッケーだな」

 フローリングは見事に復活し、ぴかぴかと輝きを放っている。

 品のよい光沢のある白い革張りのソファーに(ほとんど未使用だろうな)美しく繊細な銀細工が施されたガラスのテーブル(なんか上等なアンティークの匂いがするぞ)


 その美しい家具達は眠りから覚めてたかのように日の光を浴びて輝いている。

 窓ガラスをふき、カーテンを外し、全自動洗濯機で洗濯、乾燥する。


「次は台所だな…」

 家政婦が来なくなってから明らかに使用した形跡がない。

(冷蔵庫の中身が怖いな)

でも開けなければ作業は進まない。

 亮太は、恐々と冷蔵庫を開けた。


「は……?何で?」

 パタンと冷蔵庫閉めて、目を擦ってさいど開けてみる…。


「な、何でんまい棒がびっしり詰まってんだよぉおっ!!一体どんな家電製品の無駄遣いだぁあっ!?」

 怒りながら冷凍庫もついでに開ける。

「こっちはチョコ味かよ!バカじゃね?あのオッサン!!!」

 完全にひとりツッコミ状態である…。


「さすがは、夢食い親父!夢食いの数段上行くアホっぷりだよな!

夢食いの存在がほんっと可愛く思えるくらいだぜ!

つーかどんっだけダメ親父だよっ!しかも何だかなぁ~っ!この見事なまでに整理された「んまい棒軍団」はよおっ!えっ?種類分けも完璧じゃねーかっ!

なんでこんなくだらない事にだけ全力で労力発揮してんだよっ!

そんなにんまい棒好きなら、作家なんてやめて駄菓子屋でもやりやがれっっ!」

 亮太は、んまい棒がつまった冷蔵庫に怒涛の如く文句をぶつける。

「ハァ…ハァッ……。」

 若干息が切れているようだが、なんだかその表情は幾分かすっきりとしているようだ。


「ふぅ…」

 息を整える亮太は、

「クスッ…、そうだ…。これ、全部夢食いの餌にしてやる……」

 冷凍庫、冷蔵庫から出たんまい棒はゴミ袋(45L)2袋分。


「ざまあみろだ…クソ親父…」

 ククッと不敵な笑みを浮かべる亮太…。

若干性格がおかしなことになっているような…。


「ふふっ、こうなったら、徹底的に片付けまくってやる……」


更に闘争心に火がついた今の亮太を止められるのは…おそらく誰もいないだろう。



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