過去からの手紙
この手紙を読んでいるのは誰だろうか。
私達の末裔か。
それとも全く別の種族だろうか。
いずれにせよ、この厳重な封印を破ることが出来るほどの技術が開発されたということだろう。
まずは挨拶をしよう。
親愛なる未来の支配者へ。
初めまして。
私はあなた方から見れば遥か昔に生きる者である。
既にご存知かもしれないが、私達は少なくとも現時点では『ここが終着点である』と断言出来るほどに優れた文明を持っている。
いや、持っていたと言うべきだろうか。
いずれにせよ、この封印を破ることが出来るほどの技術を持ったあなた方からすれば、私達の言う終着点など大したものではないかもしれない。
故に私達はあなた方に遺産を残したりはしない。
この手紙以外は。
さて、私がこの手紙を遺すのにはわけがある。
それは私達が犯してしまった過ちを後の世に伝えるためだ。
先に述べてしまおう。
私達の過ちはあなた方の時代にまで影響を残しているはずだ。
それをどうか許してほしい。
もしかしたら、私達の犯した過ちなどあなた方の時代では鼻で笑うことが出来るほどに些細なものであるかもしれない。
いや、そうであってほしい。
そうであることを願わずにいられない。
前置きが長くなった。
まず、幾つかの知識をあなた方と共有しなければならない。
既知であるかもしれないが、私達が生きる場所は星の上であり、星が存在しているのは言うまでもなく宇宙である。
その宇宙がどのように生まれたかをあなた方はご存知だろうか?
その生まれた宇宙が今、この瞬間も膨張しているのをあなた方はご存知だろうか?
そして、何より完全なる無からどのようにして宇宙が生まれたのかをご存知だろうか?
答えを教えよう。
全ては神によって創られたのだ。
完全なる無から宇宙を創ったのが神だ。
もしかしたら、馬鹿にするかもしれない。
あなた方の時代には神は居ないのだから。
しかし、これは事実だ。
私達は神に会った事がある。
故に神が宇宙を完璧に管理していることを知っていた。
では、今も宇宙は完璧に管理されているのか。
これは否だ。
宇宙は今、無秩序に膨張し続けている。
その終息に何があるか分からないままに。
最早、神がいないために。
私達が神を殺してしまったために。
許してくれ。
未来の支配者よ。
私達は神の支配から逃れることを願った。
ただ、それだけを望んでいた。
故に私達は神を殺す技術を磨いた。
磨き続けた。
そして、私達の刃は神を殺した。
愚かにも。
神は私達を慈しんでくれた。
愛してくれた。
守ってくれていた。
それなのに、私達は支配が気に入らないという一点の理由だけで神を殺した。
いや、殺せるから殺した。
理由など本当はなかったのかもしれない。
そして、宇宙は無秩序に膨張し始めた。
管理者たる神が消えたからだ。
私達は神を殺せた。
しかし、神の能力を持っているわけではなかった。
神をも殺す事が出来る技術を用いても宇宙の膨張を止めることは出来ない。
無限に膨張する宇宙は放っておけば災いに繋がるのかもしれない。
あるいは全て杞憂で放置しても良いのかもしれない。
だが、何が起こるか知っているはずの神はもうこの世界に居ないのだ。
この世界に居ないのだ。
許してくれ。
未来の支配者よ。
もう、世界には神が居ないのだ。
私達が殺してしまったから。
この手紙を読む者よ。
教えてくれ。
宇宙は今も膨張し続けているのだろうか。
それにより何か災いが起きているのだろうか。
それとも穏やかな時間が流れているのだろうか。
願わくば穏やかな時が流れていることを。
神などなくとも命が心穏やかに過ごせることを。
最後に。
この世界から神を奪ってしまった私達をどうか許してほしい。
世界にはもう神は居ない。
どうか、それを許してほしい。