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合流

暗闇の中で誰かに呼ばれている。

それが誰なのかは分からない。

何を言っているのかも分からない。

ただひたすら、呼びかけられている。

それに応じるのは非常に面倒だと思った。

ただ同時にそれに応えるべきだとも思った。

応えなければ取り返しがつかなくなると、直感した。

よく目を凝らすと、暗闇の中、ぼんやりとした人の輪郭のようなものが現れた。

何かを必死に伝えようとしているが、何も聞こえない。

「誰?聞こえない。何?」



「大丈夫ですか!?しっかりしてください!聞こえますか!?」


大きな声が耳に入り、目が覚めた。

知らない女の子に顔を覗き込まれている。あまりよく見ていないから覚えていないが、多分受験者の1人だろう。


「あー、大丈夫です。多分?」


「気がつきましたか!危ないところでしたね、合流できて本当によかったです」


危ないところ?

あ、そういえば俺はゴーストにボコされて…


急いで体を確認する。傷がない。若干の痛みは残っているが、その程度では済まないような損傷を負ったはずなのに。


「もしや俺の秘めた力、超再生能力が開花して…」


「バカが、そこのアホが治したんだよ。無駄だって止めたんだがな」


声の方へ目をやる。壁にもたれかかった中性的な顔立ちの白髪の美青年。恐らく上流階級なのだろう。他とは装備や武器の質が違い、それが嫌でも目についたから覚えている。受験者の1人だ。


そしてコイツだけではなく、他の受験者も揃っていた。


「お!目ー覚めた?心配したよー、血まみれになって倒れてるんだからさー」


「僕もちょっと驚いたかな。短い付き合いとは言え、知り合いが死にかけてる光景を見るなんて初めてだ」


この2人は分かれ道で一緒になった受験者だ。もっとも、すぐに逸れてしまったが。


「ホント回復魔法マジすご!あーしも怪我したら治してね〜」


「あんだけボロッボロになってても治せるたぁ、アンタ相当スゲェな!回復超えて蘇生も出来んじゃねぇのか?」


「蘇生魔法なんて存在しない」


「とはいえ、ご無事で何よりです。命は大切ですからね」


全員揃っているのか、次々に喋り出す。辺りを見渡すと、そこそこ広い部屋のようになっており、2つ扉がある。


「回復魔法は燃費が悪い。あんな大怪我を治したらすぐに魔力が尽きる。それをこんなバカに使って後々どうするつもりだ」


「いくら何でも言い過ぎです。それに同じ受験者としてあの大怪我を放ってはおけません」


正直このチンピラ貴族には少しムカつくが、仕方ない。迷子になった挙句死にかけるなど目も当てられない。実際助けが遅れていたら、試験は全員不合格だ。試験ならまだしも、これが本当のダンジョン探索なら仲間を危険に晒す事になる。お荷物どころの話ではない。


「その、本当にすまなかった。それと助けてくれてありがとう。あと、ただの言い訳にしかならないけど聞いて欲しい。俺は気がついたらいきなり1人になってたんだ。転移みたいなトラップはこの試験場には無いはずだろ?そんな魔法を使えるような魔物もいない。本当に何が起きてこうなったのか…」


「そこについては責めていない。全員同じだからな」


「確かに警戒すべきだとは………今なんて?」


「全員、目が覚めたらいきなり1人ぼっちになってたってことー。君以外の皆は早めに合流できたけどー」


「そもそもここ最初の場所と違う」


「なんか一丁前に魔物の強さも上がってるしなぁ。ま、俺の敵じゃあねぇけどな!」


どういう事だ?一体何が…


「これも試験、ってのは考えにくいよね。色々調べてから来たけど、こんな状況になるなんて聞いた事ないし」


「てかあちこち壁崩れてきてるのヤバくない?壊れかけダンジョンとか笑えないんですけど」


「俺たちは突き当たりの地点に上の階層へ続く通路らしきものがあるのを確認していますが、壁が酷く崩落して通れる状態ではありませんでした。現状、試験場の立ち入り禁止である下層エリアに全員転移した、と考えるのが妥当かと」


試験場は制圧したダンジョンの第一階層を利用しており、第二階層以下は試験として利用するには危険なため封鎖していると聞いた事がある。そこに全員、転移した?


「恐らくここは最深層だ。狭い直線通路に少し力のある魔物が配置されていて、倒さなければ次の通路へ進むための扉が開かない。扉の先に休憩スペースがあり、入って横側のドアから次の通路へ進める。ボスが生息する最深層のメジャーな構造、回廊型のエリア。最深層にしては出現する魔物が弱いが、試験場として制圧してる以上、別にありえない話じゃない」


地鳴りのような低い音と共に、天井から砂粒や小石がパラパラと落ちてくる。少しずつだがこの部屋の壁にも亀裂が入っているようだ。


「壊れるはずのないダンジョンの崩落といい、異常事態なのは確定だ。話してる時間も惜しい。俺は先に進む。死にたくない奴はついてこい」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ」


さっさと扉に手をかけ次へ進もうとする貴族野郎に、俺はたまらず声をかける。


「最深層なら試験場とは比べものにならないくらい危険だろうし、お互いの名前とか使える魔法とか、情報をもっと共有してから進んだ方が良くないか?連携が取れた方が戦いやすいだろ。それに闇雲に進んでどう脱出するんだよ」


「必要ない。魔物は俺が全て倒す。お前ら雑魚が何人いようと意味がない。特にお前。あの程度のゴーストで死にかけるような奴は戦闘に関わるな」


「それは……」


「弱いのは仕方ない。誰しも最初は弱い。だが戦力差も考慮できず無謀な行動をとって死にかけるような無能は邪魔だ。庇いきれない」


何も言い返せない。相手の魔法を見た瞬間に敵わないと逃げに徹していれば、怪我を負わなかったかもしれない。結果、貴重な回復魔法使いを疲れさせている。足を、引っ張っている。


「ここでゆっくりお互い自己紹介でもしたいなら勝手にやってろ。ダンジョンが崩落して死ぬ寸前にあの時間が無ければと後悔しないならな」


「別に名前と得意な魔法を共有するくらい、そんなに時間かからないでしょ。あ、僕はランド。土属性魔法が得意だよ、よろしく」


「最後に、上の階層へ続く通路が通れない以上、地上へ帰還するにはボスを倒すしかない。最深部が回廊型エリアの場合、ボスは回廊に取り囲まれた中心の空間にいる事が多い。道に迷う要素は無い」


言い終えるやいなや扉を開け放ち駆け出す。殆ど全員が呆気に取られるなか、1人が笑い出した。


「ガッハハハ!面白れぇ!アイツ1人に良い格好させてたまるかよ!俺も進むぜ!!」


背丈が一際高く筋骨隆々、片手で巨大なハンマーを軽々と持ち上げる、いかにも戦士といった感じの男だ。


「俺はダイマだ!得意なのは殴る!魔法は自己強化しか使えねぇ!」


「じゃあ乗っかって、僕はランド。さっきも言ったけど得意なのは土属性魔法」


「あ、私はユア。回復魔法しか使えません。頑張って支援します」


「ファインだよー。剣と炎の魔法が使えるー」


「セーガです。風属性を少々。解析の方が得意ではあります」


「あーしはライカ。ド派手な雷攻撃はあんましだけど、探知は任せてね」


「ヒヨ。氷が作れる」


一度に言われても何がなんやら、さっきからずっと情報量が多すぎる。それでも全員で協力するなら、知らないより知っておいた方がずっと良い。はずだ。次は俺の番か。


「俺の名前は、レイ。水が出せるだけ。喉乾いたら言ってくれ」

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