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限界オタク

「…え、それって」


皐月が言葉の真意を聞こうとした時だった。


―キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴り、休み時間に入る。

それと同時に、笹原は皐月の腕を掴む。


「え、笹原?」

「皐月くん、ちょっと付き合って」


そういうと、笹原は返事を待たずに皐月を引っ張って教室を出た。

中庭につくと、笹原は動きを止め、周りを見る。

誰もいないことを確認すると、皐月の方を振り返る。

その勢いに少しビクついた皐月だったが、笹原の表情を見てさらに驚いた。


「笹原、お前…」


トロンとした瞳、上気した頬、緩められた口元。

先ほどまでの余裕のある笑みとは全く違っていた。


「皐月くん、僕はね、あの二人と友人だなんて本当に烏滸がましいと思っているんだ」


それはさっき聞いた、と口を挟もうとしたが、何となくできる雰囲気ではなかったので止める。

無言で次の言葉を待っていると、笹原は浮ついた様子で語り始める。


「あの二人は本当に素晴らしいんだ。とても優しくて、人間性が良くて、僕なんかとも親しくしてくれるんだ。本当に神様のような人達なんだ」


笹原の様子を見て、皐月は既視感を覚えた。

何かとても身近なものと言動と思考が似ているような気がした。


「それに二人は中身だけではなくて外見も良くて!本当に日々眼福なんだ。ずっと抑え込んでいるんだけど、本当は毎分写真におさめたい!」


考え込んでいる間にも笹原は早口で捲し立てる。

今まで溜め込んできたものを一気に放出しているせいだろう。


「近くにいるとすごい良い匂いするし!本当に無理!存在がもう神様!尊い!」


最後の方になってくると、語彙力の低下が著しい。

しかし、皐月はピンときた。


「さてはお前、限界オタクだな」



「…限界オタクというのは語弊があると思います」


皐月の一言で冷静を取り戻した笹原は、熱弁を止めて普段の口調に戻る。


「僕は二人の間に埋もれたいだとかは考えたことがなくて、むしろ…壁とかそこらへんの草とかになりたいというか」


やはり限界オタクだと皐月は確信する。


「…僕はね、モブになりたいんです」

「は?」


モブとは自身が思っているものと同じモブで良いのかと一瞬考える。

モブ、つまりはその他大勢。


物語のメイン所とは違う、名前も付けられないような端役。

よく酷い扱いをされることから、モブに人権は無いとまで言われるような、そんなモブになりたいというのだろうか。


「目立ちたくないとか、そんな理由ではなくて…。ただ、素敵なものを近くでずっと見ていられるモブになりたいんです」

「はあ…」


ここまで来ると理解が全くできなくなっていた。

そんなことモブでなくてもできるだろうとか、いろいろとツッコミたいことはあった。


しかし、笹原も笹原で、いろいろ考え抜いたあげくの思考なのだろうと、あまりツッコんで聞かないことに決めた。

それに何より…。


「笹原」

「ん?」

「やっぱり、お前おもしろいな!」

「えっ」


皐月はガッシリと笹原の肩を掴んで、満面の笑みを向ける。

そんな様子に驚き、笹原の目はまん丸になる。


「オレの目に狂いはなかったな!これからもよろしく頼むぜ」

「え、えっと…?」


豪快に笑う皐月についていけない様子の笹原。

笹原はきっと、意味が分からないと切り捨てられ、今後一切話しかけられることは無いのだろうと思っていた。


しかし、目の前で笑う彼はきっとそんなことはなく、明日からも普通に話しかけてくるような、そんな雰囲気があった。


「…」


赤野木と渡會以外に出来た―正確にはこの二人は神格化しているため、笹原にとっては友人では無いかもしれない―初めての友人。


その事実に自然と頬が緩んだ。


「よろしく、皐月くん」

その頃、教室には


「伊澄、笹原は?」

「いない!どこ行っちゃったんだろう!」

「くそ!目離したせいで…」


涙目になりながら笹原を探している幼なじみコンビがいた。

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