注目の的
それにしても、と女子生徒は楽しそうに声を出す。
「笹原と同じクラスだなんて、ほんとに嬉しい。一年間よろしくね」
「おい、俺はどうなんだよ」
「あんたとは小学校の時からずっと同じクラスの腐れ縁でしょ。そろそろ離れてくれない?」
「こっちのセリフだ」
また懲りずに喧嘩を始める2人。
そんな2人に笹原は机に出していた本をしまってから声をかける。
「僕も2人と同じクラスになれて嬉しいよ。これからよろしくね」
「「笹原…」」
2人の声が重なる。
両者の表情は、どちらも感動しているようだった。
ここまできて、クラスメイト達は皆同じ疑問を持つ。
この笹原という人物は一体何者なのか、と。
先ほどから笹原の言動に一喜一憂している男女は共に美形で、学校カーストで言えば文句なしの最上位クラス。
対して、笹原は朝起きて少し梳かしただけの特にセットはしていない黒髪に、特徴のない丸眼鏡。
肌は綺麗で清潔感もあるが、イケメンかと聞かれると、そうでもない。
至って平凡な、大人しそうな男子生徒だ。
そんな三人がなぜ入学早々親しげに話しているのだろうか。
中学校からの同級生であれば、知り合いだから話しているということは納得できる。
だが、三人の間にはただの知り合いという雰囲気ではなく、とても親しい人間が出す雰囲気だった。
そういうわけでクラスメイトから好奇の目線を受けることになる笹原だったが、当の本人は全くと言っていいほどに気がついてなかった。
笹原の前にいる二人は視線に敏感なタチなので気がついてはいたが、笹原が気にした素振りを見せていなかったので、特段気にするようなことはなかった。
ここで笹原がもし嫌な思いをしていたならば、二人は即座に笹原から見えないようにクラスメイト達を威嚇していたことだろう。
「あっ、そうだ…」
男子生徒が口を開こうとした時だった。
―キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムが鳴り響き、教室の扉が開いた。
「はい、席についてください」
入ってきたのは温厚そうな若い男性教諭だった。
「あー、また後で話す。じゃーな笹原」
「離れたくないなあ。またね…」
「うん、また」
先生の言葉を聞いて、2人は名残惜しそうに別々の場所に向かう。
「私はこのクラスの担任の箔屋與一です。では、これからの説明をしますね…」
箔屋は教卓の前に立ち、笑顔で入学式の説明を始める。
穏やかな低音で、とても聞き心地が良い声に、うっとりと耳を傾ける女子生徒も見受けられる。
そんな説明が終わると、全員立ち上がり、廊下に整列する。
これから入学式が始まるのだ。
最前列にいる女子生徒は笹原を見つけると、嬉しそうに手を振る。
笹原はそれに笑顔で振り返す。
そんなことをしていると、不意に背中をつつかれる。
不思議に思ってゆっくりと振り返ると、スクエアメガネをかけた男子生徒がニコニコと笑っていた。
「どうかした?」
「ちょっと聞きたいんだけどさ」
男子生徒は笹原の肩を組み、ヒソヒソと耳打ちする。
「あの二人とどんな関係なの?」
「え?」
質問内容が意外だったのか、笹原は目を丸くする。
「どんなって言われても…友達だよ。中学からの」
「ふーん?」
男子生徒は求めていた回答ではなかったようで、どこか不満げに口を尖らせる。
それから何かに気がついたようで、眉根を下げて笹原を見て笑う。
「ごめん、そういえば自己紹介してなかった。オレは皐月肈。これからよろしく」
「うん。僕は笹原優太。よろしく」
こうして笹原の高校生初めての友人ができた。
「―で、あの二人とはどんな感じで…」
「あ、もう行くみたいだよ」
「…んー」
榊の好奇心が満たされるのは、もう少し後のことになる。