プロローグ
幼い頃、1度は聞かれた質問。
“将来の夢は何ですか?”
純粋な子供たちは、なれるかどうかなんて考えずに、それぞれが憧れる職業を口にしたことだろう。
ある人は野球選手、ある人はお花屋さん、そしてまたある人は漫画家。
大変素晴らしい、とても素敵な夢だ。
かくいう僕も、当然その質問を受けたことがある。
『君のなりたいものは何ですか?』
小さな僕は、遠慮がちに答える。
『…分からない』
答えると、周りの空気は凍りつく。
まだ小さいからと、気遣わしげな笑顔で僕を慰める人もいた。
僕はこの時少しだけこの質問が嫌いになった。
別に、なりたいものを言ったところで叶うわけが無いとか、そういった穿った考え方をしていたわけではない。
ましてや、この場にいる大人達を困らせてやろうなんて考えをしていたわけでもない。
ただ本当に、自分のなりたいものが分からなかっただけだった。
テレビは見ていた方だと思う。
父親が好きだったバレーを見たり、母親が好きだった芸能人が出ている番組を見たり、妹が好きだった教育番組を見たりもした。
だけど、憧れる気持ちなんかは一ミリも湧き出てこなかった。
そんな僕だけれど、今では夢を抱いて生きている。
その夢はとは―
【立派はモブになること】
である。