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第8話 なんで連れションしてるの?

「それにしても、困りましたね」

「全くだ」



 ハジメと上司はトイレで並びながら雑談をしている。


 わざわざズボンをおろしていせいで、上司の毛むくじゃらなお尻がモロ出しになっている。


 上司が部下から嫌われる理由の一つである。

 トイレで上司に会うだけでも気まずいのに、その汚いお尻までは見たいと思う人はいないだろう。



「いつもながら、メタマちゃんには振り回されるな」

「そこがいいんですけどね」

「まったくだ」



 上司が身震いすると、皮が余ってダルダルなお尻が、プルプルと揺れた。



「今日は尿の切れが悪いな」と小声で呟きながら、ズボンを履く。


(そんな情報は知りたくなかった……)



 なるべく嫌な気持ちを顔に出さないようにしつつ、ハジメは話を続ける。



「今日はメタマちゃんの初めての手元配信ですからね。楽しみですね」

「ああ、全くだ。

 今までは全くリアルを見せてこなかった彼女が、ついにリアルを見せてくれるんだ。リアルタイムで見る以外の選択肢はない」



 ハジメは力強く頷いて同意する。


 2人の顔は真剣そのものだ。

 午前中に開かれた、社命のかかったプロジェクト会議の時よりも顔が引き締まっている。



「しかし問題は配信時間です。普段は21時が多いのに、今日は15時から。つまりは就業時間の真っただ中です

 しかも不運なことに、会議室はすべて埋まっていました」



 ハジメの指摘に、上司は当然のことのように言う。



「仕事中に、周囲に隠しながら視聴するしかないな」



 まさかの判断であるが、その場にはツッコミ役はいない。

 

 ストッパーも責任感も失った社会人2人は、さらに話を進めていく。

 


「上野課長は壁際なので問題ないですが、オレの背後は通行が多いです。そこを解決しないとなりません。流石に音だけ聞く、というのも味気ないですから」

「それなら視聴方法に工夫が必要だな」

「ええ。その通りです」



 ハジメが自信満々な顔を向けると、上司は悪役のようにニヤリと笑った。



「その顔は何か秘策があるのかな?」

「ええ。もちろんです」

「ほう。楽しみだよ」



 二人は不敵な笑みを浮かべたまま、職場へと戻っていくのだった。

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