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顔バレしたVTuberはお別れした双子の妹で……  作者: ほづみエイサク
第4章 推しに言われて■■■することになりました
33/45

第32話 配信をした結果……誰一人来ませんでした

(全く人が来ない……)



 ハジメはモニターを前に、険しい顔をしている。

 モニター上には、普段見慣れない画面が映し出されていて、ゲーム画面が映し出されている。

 OBSという配信用のソフトを起動しているのだ。


 そして、画面に表示された視聴者数は《0》から全く動いていない。



(いやあ、わかっていたこととは言え、ヘコむなぁ)



 ハジメはどうしてこうなったのか、経緯を思い起こし始めた。



 事の発端は、レイに『VTuberになってみない?』と言われたことだ。


 かと言っても、すぐにVTuberになれる訳ではない。

 イラストレーターに絵を発注して、その後動きを作ってもらわないといけないのだ。


 後は配信用のパソコンや環境がなかったり、などなど。


 様々な理由により、すぐにVTuberになる準備は整わない。



『でも、ただ待ってても仕方ないし、練習がてらに軽くゲーム配信でもしてようよ』



 レイのそんな一言により配信を強要(・・)されてしまい、今に至る。


 だけどその結果が、視聴者数《0》という現実だ。



(やってるゲームも古いヤツだし、オレもうまく喋れている気が全くしない)



 普段からメタマちゃんの配信を見ている影響だろうか。

 冷静に自分のダメなところが分析出来てしまう。

 嫌な気分になってくる。


 やがて、虚無感が全身を覆いつくしていく。



(ああ。こんなことに時間を費やすなら、メタマちゃんの配信を見たい)



 そんな想いがあふれ出てしまったのだろう。



「メタマちゃんの初配信の時だけど、最初の設定を守ろうとしたり、頑張ってコメントに反応しようとしてるのが健気でかわいいよな。今の安定した配信スキルも素晴らしいけど、初期のあっぷあっぷしている感じも素晴らしい。特に初期の低迷していた時に――」



 ハジメはゲームをしながら、メタマちゃんのことについて、ブツブツと独り言を呟いていた。

 しかもほとんど無意識で。


 

 そんな奇妙な空気が漂う中、突然、変化が起きた。



 視聴者数が《1》に変わったのだ。



(まじか!?)



 あまりに突然すぎて、ハジメは慌てふためいてしまう。



(な、なにを話せばいいんだ!?)



 だけど、本当に一瞬の出来事に過ぎなかった。

 まるで扉を開けた瞬間にヤバイ店だと気づいたみたいに、速攻でブラウザバックしたのだろう。

 すぐに《0》に戻ってしまった。



「なんでだよおおおおおおおおお!!」



 あまりもの悔しさに叫んでしまうと、バン、と部屋の扉が突然開かれた。



「先輩、いきなり発狂しないでくださいよ!」



 リツに抗議されて、ハジメはシュンとしおらしくなる。

 環境が整のっているリツの家で、配信をしていたのだ。



「ご、ごめん……」

「全く、人の家であることを忘れないでくださいよ。タバコを落としかけたじゃないですか」



 リツは、まるでダメな息子を叱る母親のような立ち姿をしていた。

 タバコを咥えているから、ヤンママと言った方が近いだろうか。



『まあまあ』



 かわいらしく(なだ)める声とともに、ハジメの前の画面が切り替わって、メタマちゃんの顔が映し出される。



『じめにいも頑張ってるんだから、多めに見てあげてよ。あ、配信は切っとくねー』

「レイちゃんは先輩に甘すぎるんですよ」

『アタシも苦労を知ってるから、どうしても甘くなっちゃうのかも』

「いやー。配信始めたばかりのメタマちゃんは荒れに荒れてましたからね」

『その時はお世話になりました』



 メタマちゃんがお辞儀をすると、リツは『お世話しました』とちょっと愉快そうに返した。



「レイでも最初、うまくいかなかったのか」

『そりゃそうだよ。じめにいとあんまり変わらなかったよ』

「難しいなー」

『そりゃあ、個人だしねー。

 有名な企業からデビューすると、初配信前に登録者数10万人行ったりするけど、世界が違うよ』



 ハジメは驚きに目を見開く。

 本当に別の世界だ。



「うわ、なにそれズル」

『倍率1000以上を超えてきた特典みないなものかな。それだけの能力と運を持っている人たちだよ。

 上を見たってキリはないし、諦めた方がいい』



 レイの言葉を聞いて、ハジメの眉間のしわがさらに濃くなる。



「なんか、結局世知辛いな。VTuberって」

『世知辛くても、夢はあるよ。夢を見せる仕事だからね』

「オレには無理そうだ。早速心折れてる……」



 ハジメは哀愁を漂わせながら項垂(うなだ)れた。

 その姿を見たレイは、含みのある笑みを浮かべる。



『でも、誰も見ていないのにあれだけ喋れるのは、十分才能あると思うけどね。内容はさておき』

「人がいないのに、話し続けても意味ないだろ」



 レイは「そんな考え、甘いね」と言いたげな表情を浮べて、得意そうに語りだす。

 明らかに先輩風を吹かしている。



『配信って、アーカイブとして残るでしょ? アーカイブを見た人 そしたら、その人がリスナーになってくれるかもしれない』

「地道すぎるな」

『草の根活動ってヤツだね』

「はあ。でも、もう少し頑張ってみるかぁ。最愛の妹の頼みだし」

『アタシは配信を見る気はないけど、応援はしてるよ』



 歯に衣着せぬ物言いに、ハジメは地味にショックを受けた。



「なんか、もうやる気がなくなってきた……」

『舌の根も乾かぬうちに諦めないでよ』

「どうせオレなんて、どんだけ頑張ってもダメなんだよ」

『根っこからダメ人間だね。この根性なし』

「そうだよ。オレは負け犬根性だけが沁みついたダメ人間だよ。そんなオレが幸せになるなんて無理なんだよ」



 ハジメは半ベソをかきながら、駄々をこね始めた。

 もう30歳のオッサンなのに、だ。



『うわあ、久々のじめじめモードだ。こうなると長いんだよなぁ』



 そう言いながら、リツに視線を送る。

 だけどリツは肩をすくめて



「レイちゃんがなんとかしてくださいよ」と言った。



 レイは「しょうがないな」と呟いた後、ハジメに優しい声を掛ける。



『大丈夫だよ。じめにいは絶対に成功する』

「なんでそんなこと言えるんだよ。この有様だぞ。永遠の0だぞ」

『だって、このメタマちゃんと双子だもん。()は同じなんだから、間違いないでしょ』


(なんなんだよ、それ)



 ハジメは妹からの期待感を重く感じて、さらに嫌気が差してしまう。


 それが露骨に顔に出ていて、レイは面倒くさそうにしながらも、背中を押そうとする。



『大丈夫だよ。じめにいは配信者に合っていると思う』

「本当かなぁ」

『本当だよ。間違ってたら、頭に本の角を当てて死んでやる』

『いや、もう死んでるでしょ』



 ハジメは呆れたように呟くと、レイは何故か驚愕していた。

 だけどすぐに表情を柔らかくして、微笑む。



『少し前だったら、そんな冗談言えなかったよね。じめにい』

「確かに……」



 ハジメは何ともなしに、自分の胸に手を置いた。



(オレも少しは変わっているのか)



 そう思うと、自信を少し得られた気がした。


 尚『メタマちゃんについて永遠に語るヤバイ配信者がいる』とSNSで(さら)されてバズるのは、もう少し先の話になる。


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