第13話 深夜のヘラヘラ狂騒曲
ある冬の日の深夜。
ハジメは布団の中で、モゾモゾと動いた。
さっきから『ピコン』『ピコン』『ピコン』と、通知音が連続で鳴っていて、無理矢理起こされてしまったのだ。
眠気眼をこすりながらスマホを手に取ると、珍しくメタマちゃんーー双子の妹からのメッセージだった。
普段はハジメから連絡していて、無視されることも多いのだけど、珍しく通知が鳴っていた。
それだけでも驚きなのだけど、画面の内容はさらに衝撃的だった。
《ちょっと、リスナー同士が結婚したんだけど!?!?!?!?》
数秒も経たないうちに、さらなるダイレクトメッセージが連投され続けている。
《おかしくない!? メタマのファンとして交流してただけなのに、突然発情しやがって!》
《クリスマス配信をリアタイしてないと思ったらそういうことかよ!》
《交尾したんだ!!》
《許可なく乳繰りあってんじゃねえよ。せめてメタマを混ぜろ! 3Pだ、3P! どっちも嫁にしてやるよ!》
徐々に怒りが悲しみに変わってきたのか、今度はヘラり始める。
《メタマは結局、こういう不憫な立場なのかよっ!》
《もうやだ、配信したくない! VTuberなんてやめてやる!》
《ごめん、さっきの嘘!! やだ! やめるわけないだろ!!! 何言ってんだ昔のアタシ!!》
かなりの怪文書である。
ハジメは急いで返信を打っていく。
《とりあえず落ち着け!》
《これでも落ち着いたろうだの!》
おそらく『これでも落着いた方だよ!』と打ちたかったのだろう。
文面だけでも、荒ぶりようが伝わってくる。
《あーもー、イライラする。結婚式に突撃して、下ネタを連呼してやろうかな》
そのメッセージを見て、ハジメはハテナマークを浮かべた。
《メタマじゃくしなら、逆に喜ぶぞ》
《え、アタシのファンって、そんなんばっかなの……?》
《大多数はそうだと思うけど》
《そうかも……》
すこしの間の後、新しいメッセージが来る。
《まあいっか。かわいいし》
(かわいいか?)
ハジメは「かわいい」が分からなくなってきていた。
《ねえ、じめにい。じめにいは結婚しないよね? 誰かのものにならないよね……?》
《今のところ予定はないし、相手もいない》
《そんなことは、お母ちゃんの腹の中にいる時からわかりきってるんだけど。アタシが全部吸い上げたから》
ハジメは「おい!」と思わず声を出した。
だけど、他に誰もいない部屋の中で、空しく響くだけだ。
《気分だけでも味わないとやってられん! だから、今度の土日に付き合って》
《なにに?》
まだまだボケている頭のまま訊ねると、次に目が覚めるような言葉が目に入ってくる。
《じめにい、しょうがないからデートするぞ!》
「……え?」
予想外の提案に、ハジメの開いた口が塞がらなかった。




