表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

ながい睫毛と拗ねた頬

 とても気持ちよさそうに眠っているその顔に、思わずいたずら書きをしたくなった。

それぐらいあなたの寝顔は無防備でかわいくて、だからこそ同じだけ憎たらしい。

あたしよりもはるかに長いその睫毛に爪楊枝でも乗せてやろうか、なんて、そんな子供じみた思いまで浮かんでしまい、苦笑する。

周囲の人間から言わせれば、あたし達の付き合いは猫同士がじゃれ合っているようにも見えて、仲がいいのか悪いのかわからないほど仲が良い、らしい。

よくわからない言われ方に、この人は笑ってうなずいて、あたしは眉間に皺を寄せる。

つまるところ、この人との仲は腐れ縁、なのだと思う。

高校からずるずると、あたしが家の仕事を継ぐ形で就職しても、こいつが大学へ行ってもそのままで、あたしの知らないこいつの世界がどんどん拡がっていっても、ただ一つこいつの世界の端っこだけは確かにあたしの物だと確信できるような何かがあって。

だからこそ、なんとかこうやって二人でくっついていられたのだと思う。

どれだけ一緒に眠ったのかなんてわからなくなってしまったベッドの上で、こうやって裸の上に毛布を一枚被せただけでうつぶせて、眠っているこいつの顔を見る瞬間が一番好きだ。

今日どれだけひどく喧嘩をしただなんて、一瞬にして忘れてしまえるほど無防備な寝顔は、まだあたしだけのものだと思っているから。


ふと、あたしが知らない世界を纏ってやってきた女の事を思い出す。


その子の事でいらない喧嘩をしたというのに、それすらも色褪せて、なかったことになってしまったようにこいつの寝顔を焼き付けながら瞼を閉じる。

綺麗に手入れされた爪も、雑誌のモデルみたいに綺麗に巻いていた明るい髪色も思い出せるのに、肝心の顔はすっかり浮かんでこない。

ただ、あたしを見て、勝ち誇ったように見下ろしていたその視線だけが瞼に浮かび、思わず目を開ける。

目の前にはやっぱり無防備に寝るこいつの姿があって、ほうっとため息をつく。

トモダチ、といった言葉に嘘はないと思う。

だけど、煩いほど女を主張する彼女の態度にチリチリと胸が焦げたのは本当のことで、少しぐらいそれがあたしの頬に拗ねた顔として出てしまっても仕方がないと思う。それを一方的にあたしだけをたしなめるなんて、合点がいかない。

やっぱり鼻でもつまんでおこうと、毛布からそっと腕を出す。

その腕が誰かに掴まれる。

誰か、だなんて、コイツ以外にはいないはずで、問答無用で唇が合わせられる。

突然のことで、とっくに慣れているはずなのに息ができなくて、離した瞬間大きく息を吸って笑われてしまった。

照れてぷくっと膨らんだあたしの頬を人差し指で軽くつつき、もう一度キスをする。


「愛してる」


短くもそっけなく、だけどずしんと心の真ん中に響く言葉だけを囁いて、再び熟睡体勢に入る。

どうしていいのかわからなくってじたばたする気持ちと、嬉しくって抱きつきたくなる気持ちがせめぎ合って、思わず毛布を被って無理やり眠る体勢に持っていく。

しばらくすると、本当に睡魔がすとんと降りてきて、あたしはようやく眠る事ができた。

やっぱりあたしも愛してる、だなんて、口に出してもいない言葉に勝手に照れながら。

昔あったお題サイト様からサブタイトルをお借りしました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ