第9話 休日の出会い
「え? 幽霊の方にも、国の法律が適用されるんですか?」
「ああ、だから、空中を飛べるからって、人の家の上を通ったら不法侵入になるんだってさ」
「へー、そうなんですね」
世間的な休日、日曜日のお昼頃、俺はわざわざ休日にも関わらずお弁当を持ってきてくれた女子高生、四条 静子と一緒に、彼女が作ってくれたお弁当を食べながら談笑をしていた。
こんなおっさんと話していて楽しいのかさっぱり分からないが、まぁ他にやることも無くて暇だというので、わざわざお弁当を作って遊びにきてくれたお礼も兼ねて、少しでも楽しい話をしてやろうとは心がけているが……本当になんなんだ? この状況。
「でも、民法的には上下どこまでがその範囲なのか明確になってなくて、航空法だと建物の天辺から上空300m以内だったら土地所有権の侵害で、それ以外は領空侵犯に引っかかるらしいけど、幽霊は航空機じゃないし、そもそも起訴されないと取り締まれないしで、実際には殆ど無法地帯らしい」
「まぁ、そうですよね……普通の人には幽霊の人が見れないでしょうし、起訴しようがないですよね」
「そゆこと……ってか、静子ちゃんは何で俺のことが見えるんだ?」
「え? うーん……私も今まで特に見えてなくて、礼二さんが初めてだったので、よく分からないんですよね……もしかしたら、愛の力……とか……ポッ」
「あ、あー……えーと……まぁ、俺もあんまり沢山の幽霊にあったことがあるわけじゃないし、たまたま出会って無いだけなんじゃないか? 普通の幽霊は昼間に寝て夜に活動しているらしいしな」
「そうなんですね……ちょっと他の幽霊の方にも会ってみたかったですけど、私は夜は早く寝ちゃう派なので、難しそうですね」
「そうだなー、昼間にも活動していそうなのは、俺の知ってる限り、この間出会った警察官の女の子か……」
「呼ばれて飛び出てニャニャニャニャ~ん♪」
「……うん、まぁ、こいつくらいだよなぁ」
お弁当も食べ終わって、お茶を飲みながらの談笑タイムに入ったところで、今日も今日とて唐突にこいつは現れた。
布団を片付けたゴザの上に置いたちゃぶ台の中央から、生首のように器用に首から上だけのぞかせて、相変わらず凝った登場の仕方をするもんだ。
「あれー? 礼二くん、いつもより反応が薄いニャ」
「まぁ、慣れてきたって言うのもあるかもしれないけど、昼間だし、一人じゃないしな」
「そっかー……それじゃあ仕方ないね、また夜に脅かしに来るにゃ」
「いや、来るのは構わないが、脅かさんでいい」
そう言って俺はそいつと、いつものように何でもない会話をすると、今日も特に何かを持ってきたわけでは無かったようで、ネコミミ少女のネココは、一体何をしに来たのか、興味を失ったようにゆっくりとその首を沈めて……。
「いやちょっと待て!」
「にゃふっ!」
と、帰ろうとしたところで、俺は両手でバシンとネココの顔を挟み、ちゃぶ台に沈みゆくその首を捕まえた。
ほっぺたがつぶれて可哀そうな見た目になっているが、そんなことは今は重要ではない。
「静子ちゃん、こいつ、見える?」
「にょんっ!」
俺はそのままネココを引っ張り上げて、ちゃぶ台から引っこ抜くと、掴む場所をほっぺたから襟首に持ち替えて、静子ちゃんの方へ顔が見えるように突きつけた。
「えっと……ネコミミをつけた、女の子?」
疑問形なのは、こいつが襟首をつかまれて本当に猫みたいになっているからか、女の勘か何かでこいつの本当の年齢に気づいて女の子と呼んでいいか迷ったからか、どちらにせよとりあえずその姿は見えているらしい。
「にゃー」
「それか、猫の妖怪……?」
声も聞こえているらしい。
「ほーう、やっぱり俺以外の幽霊も普通に見えるんだな」
「そうみたいです」
「ってことは、まぁ、別に俺が何か特別な存在であるってことも無いわけだ」
「べつに特別じゃないという証拠にはならないと思います」
「……」
「……」
「……あのー、とりあえず、下ろしてもらっていいかにゃ?」
「あ……」
何とか、何かにつけて俺を特別視する静子ちゃんの考えを変えようとしてみたんだが、どうやら彼女の頑固っぷりは、この程度では打破できないらしい。
俺はとりあえずネココをその辺にポイと放り投げると、その下ろし方が気に食わなかったのか、ネココは四つん這いになってシャーと威嚇してきた。
霊体だし飛べるんだから別にいいだろう。
「それで、この子は?」「この方は?」
そして、お互いにお互いを指さしながら、同時に首をかしげて、そんな疑問を俺に投げかけてくる、仲のいい二人……。
いつかはこの二人が出会う日が来るだろうとは思っていたが、さて、なんと説明したものか……。