第55話 雨止み
「う……ん……?」
……あれ? わたし……寝てた?
眠りから醒めたわたしは、ゆっくりと浮き上がってくる意識と一緒に、少しずつ目を開いていく……。
ここ……どこ?
脳が起きてくるのと一緒に、ぼやけた視界も少しずつ鮮明になってくるけど、その視界に飛び込んでくるのは見知らぬ天井や窓、カーテンだけ。
寝る前の記憶も曖昧で、自分が今どこにいるのかさえ分からない。
まだわたしの意識はハッキリしていない中、半分、身体が勝手に動くような感覚で、少しでも周囲の情報を得ようと辺りを見回そうとするけど……。
身体が……重い……。
全く動かないわけじゃないけど、少し首を左右に動かすだけで、それが自分の身体じゃないみたいに重く感じる。
ピンポーン、と、チャイムの音にしては少し高い音が聞こえた。
ここは、誰かの家……?
それにしては、随分、白くて、無機質で、生活感が無いような気がする。
タッタッタッタ、と、誰かがこの部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
ゆっくりと、そちらへ視線を向けると、そこにあったドアが、コンコン、とノックされた後、「失礼します」という声が聞こえて、清潔感のある白い服を着た女の人と、白衣を着た女の人が部屋に入ってきた。
「四条さん、目が覚めたんですね?」
白衣を着た女の人は、わたしの寝ているベッドまで近づくと、そんな風に声をかけながら、わたしの目を覗き込んだり、額に手を当てたりしてきた。
「声を出すことは出来ますか? 普通の声量で、『あー』と言ってみてください」
「あー……」
わたしは、まだまとまっていない思考のまま、言われた通りの対応をしていく。
身体が重いとは思っていたけど、なんだか声も出しずらかった。
わたしは病気か何かなのかな……。
病気……?
ああ、そっか、知らない場所なのに、なんだか見覚えのある場所のようにも感じたけど、ここは病院だ。
そして、今わたしを診てくれているのは、お医者さんかな?
「腕、持ち上がります?」
わたしは、お医者さんに言われて、腕を持ち上げようとしたけど、思うようには持ち上がらなくて、ゆっくりと首を振った。
「そうですか……あれ? その状態で、どうやってナースコールを?」
「ナース……コール……?」
ナースコールという言葉を知らなかったわけじゃない。
でも、そんな風に尋ねられる意味は分からなかった。
「さっきまでご家族の方がいらっしゃったとか?」
ご家族……?
そう聞いて、部屋を見渡してみるけど、おじさんはいない。
というよりも、この病室には、わたしと、お医者さんと、看護師さん以外、誰もいない。
「ふむ……まぁ、いいでしょう。名越さん、四条さんのご家族の方に連絡を取って、四条さんが目を覚ましたことをお伝えしてください」
「わかりました」
お医者さんの指示を聞いて、看護師さんが部屋を出て行く。
「それで、これからの予定ですが……」
そして、部屋に残ったお医者さんは、わたしに、身体に問題が無いか、こんな検査をする予定だと、今後のスケジュールを話し始めた。
でも、わたしは、その声があんまり耳に入らなかった……。
まだ意識がぼやけているから……?
それもある。でも、問題は、その限られた思考を、別の何かに引っ張られているような感覚のせい……。
……なんだか、大切なことを忘れている気がする。
今、この部屋には、わたしとお医者さんしかいない……。
おじさんもお見舞いには来ていないみたい……。
でも、わたしが目を覚ました時、なんだか、誰かがずっと手を握ってくれていたような、そんな感じがした……。
……わからない。
わたしは、まだ睡眠が不足していたのか、そんな、すっきりとしない思考のまま、お医者さんの言葉を聞きながら、また、眠りについた……。




