第46話 キーヤンの場合
「オレの職業—何でも屋! こなして見せるぜ—何でもな! 報酬ーゲッチュー! あの子をーウォンチュー! 今すぐ会いたいーアイニーヂュー! Yeah」
自分の出番が来るなり、立ち上がって、無駄にキレのいい振り付けと共に、そんなリリックを描き始めた、ファッション的にはロックシンガーよりな男、佐藤 吉一郎。
職業紹介とは関係のないポエムに移行して行ったり、わざわざライムを刻んで語ろうとするのは他所でやって欲しいところなんだが……。
「キーヤンさん、その話し方はこの場において不適切ですので、静子さんに分かりやすいよう、普通に話してください」
「そりゃないぜ委員長、オレのアイデンティティが……」
「あなたのアイデンティティより、静子さんの将来の方が大切です。あと、私は委員長ではありません、地方公務員です」
俺と同じ感想を抱いていたらしい宇井さんによって、職業紹介の間ずっとこのフロウを浴び続けなければならないという事態は何とか避けられたようだ。
そして、そんな風に、地方公務員の委員長にラップ口調を強制停止させられて、普通に職業紹介をし始めたキーヤンの話は、普通の話し方に戻してもらって本当に良かったと思えるほど長かった。
というよりも……。
この男の仕事……多岐にわたり過ぎだろう。
タクシードライバーと宅配業者を兼任しているのは、さっき聞いていて、車の魔改造具合から、自動車の整備士のような仕事もやってるんだろうなとは思っていたけど……。
機械修理に、家のリフォーム、電気工事に、水道工事まで請け負っていて、運転免許は大型の二種まで持っているから、バスの運転手まで対応できるらしい。
工事士系の資格も実際に大量に持っていて、ただ、主任技術者、管理者といった、作業リーダーの立場に立てる資格は持っていないため、単独でそういった仕事をすることは出来ないとのことだが……それでも十分にすごいだろう。
とは言っても、幽霊になってからは工事の依頼なんて来るはずがないので、実際にその仕事をしていたのは、生前、実際にそういう会社に勤めていた時の数回程度らしいが。
「話をまとめると……生前、色々な職業を転々としていた上に、幽霊になった今は車の運転手くらいしかやることがない、ということですね」
「HEY、委員長! その通りだけど、嫌なまとめ方をするなYO!」
「事実ですから。あと、委員長ではありません、地方公務員です」
……事実ではあるんだろうが、宇井さんの発言を聞くと、色々な仕事が出来て凄いな、という、さっきキーヤンに対して沸き上がった尊敬の念が一瞬にして冷めるな。
「キーヤンさんは、どうしてそんなに色々な資格を取って、色々な職業を転々としていたんですか?」
「YO! よくぞ聞いてくれたぜお嬢ちゃん! それはそれは聞くも涙、語るも涙なバックストーリが……」
「あ、簡潔にお願いします」
「Oh……その発言はなかなかドライ、俺のハートは涙がクライ……静子ちゃんも立派な委員長になれるYo……」
そして、宇井さんだけでなく、静子ちゃんからも辛辣な対応をされたキーヤンは、寂し気なライムを刻んだ後、生前の就職事情を話し始めた。
どうやら彼は、最初は、今まで通ってきた職業とはどれも違う、学校の先生という職業に就きたかったらしい。
だが、勉強が得意ではなかったので、最初の一歩である大学受験で失敗し、とりあえず仕事をしながら勉強を続けようと思い、父親の自動車整備の仕事を手伝うことにしたとのことだ。
しかし、自動車整備の仕事も、荷物運びなどの雑用だけでなく、きちんと父親の作業を手伝うためには資格が必要で、その資格を取るためにも勉強が必要だった。
だから、最初は、本当に仕方なく、といった気持ちで、父親に教わりながら、その資格の勉強をして、自動車整備の資格を取ったらしい。
けれど、苦労して手に入れた資格を見て、もしかしたら自分はやればできる……大学受験も何とかなるんじゃないかという気持ちになって、もう一度大学を受験してみたが、見事に敗北。
そして、そこで素直に諦めて父親の仕事を手伝う道もあったところなのだが、何を思ったのか、もっと合格の経験が必要だと、色々な資格を取得することに凝りだし始めて、いつの間にやら大量の資格と、大学に通うには少し遅い気がしてくる年齢だけが残ったそうだ。
ノリと勢いで資格を取ったまま色々な職業を転々として見たが、結局やりたいことには届かなかったなと諦めて、当初の想定通り父親の仕事を本気で手伝おうと、実際にその仕事を手伝いながら、あえて父親には内緒で、自動車整備主任者の試験を受けて、その試験に合格した帰りに、交通事故で亡くなったそうだ。
「まぁ、自分の夢を追うことも大事だが、それで人に迷惑はかけちゃいけないって教訓だな……お嬢ちゃんも、親御さんに心配をかけるような無茶はしないようにな」
「……はい」
最後の方には、また余計なポエムやライムの入らない、普通の話し方になったキーヤンが優しく微笑むと、静子ちゃんが静かにうなずく。
普段はお茶らけているが、彼も生前の後悔からこの世に留まってしまった幽霊の一人……そういったやるせない想いは抱えているのだ。
静子ちゃんの目指してはいけない将来の夢から発展した、幽霊とアイドルの職業紹介イベントは、こうして、少し寂しい気持ちを残して、幕を閉じた。




