第44話 るあちゃんの場合
将来の可能性が無限に広がっている、現役女子高生、四条 静子ちゃんのための職業紹介イベント。
俺、錬、ネココに続く、4人目のエントリーは、現役グラビアアイドルの平井 るあちゃんだ。
自ら手を挙げて職業紹介に身を乗り出す姿勢もさることながら、集まっているメンバーの中で、色々な意味で、本日の主役である静子ちゃんに一番近い存在であるため、きっと彼女の背中を押すような、夢のある話をしてくれるのだろう……と。
そう思っていたのだが……。
「グラビアアイドルは、現実的な職業ではありませんっ!」
ずいと静子ちゃんの方へ身を乗り出しながら、開口一番、そんなセリフから始まった職業紹介は、その言葉とは裏腹に、とても現実的な内容だった。
まず、当たり前のことだが、募集している人数が他の一般的な職業と比べものにならないほど少なく、事務所に所属するだけでも、本当に狭き門をくぐり抜ける必要がある。
そして、たとえ事務所に所属できても、いくつもの雑誌に掲載されたり、写真集を出したりできるような、いわゆる世間で注目されているグラビアアイドルになるまでは、収入なんてあってないようなものなので、貯金に余裕がないと一人暮らしも出来ないほど。
しかも、努力して有名になっても、グラビア雑誌や写真集だけで食べていける寿命は線香花火並みに短いので、名が売れているうちに、一番仕事が忙しい時期に、タレントや女優のような道を目指す活動をしなくてはならない。
「外からは、若い子たちからも憧れの眼差しを向けられる、キラキラした職業のように見えますけど、優雅に水面を進む白鳥が、水面下で足をバタバタさせているのと同じように、裏では文字通り血がにじむような努力をしているんですっ!」
「そ、そうだったんですねー」
「静子ちゃんは可愛いので、もしかしたら、街を歩いている時に、スカウトされたりする機会があるかもしれません……でも、そこで私みたいに、安易な気持ちで引き受けちゃダメですっ! 目指すなら本当に覚悟を持って挑まないと、過去の自分を一生恨むことになりますっ!」
「は、はい……気を付けます」
あまりの迫力に、その言葉を向けられている静子ちゃんだけでなく、俺を含む周囲全員が若干引き気味になっているが、あの日、撮影を手伝った時にも思った通り、彼女も色々と苦労しているのだろう……。
職業紹介の内容は、予想していたものとはちょっと違ったが、まぁ、むしろその業界の厳しさを目指し始める前に知ることが出来てよかったんじゃないかな……。
まだ夢を見て自由の羽を広げたい小学生を相手に今の説明をしていたら、あまりの剣幕と夢の崩壊にその場で泣き出すかもしれないが、相手は本当に将来を決め始めなければならない女子高生だ……これが適切な回答だったと思うことにしておこう。
俺は、その後もしばらく、静子ちゃんの手を両手で握りながら辛い体験や大変な現実を語り続ける彼女を眺めながら、芸能人って言うのも大変なんだなーと陳腐な感想を抱きながら、腕を組んで頷くだけの人形になっていた。




