第37話 三人のキューピット
「なんだ、そうだったんですねー。勘違いでよかったですっ、ホッとしました」
「ああ……分かってくれたみたいで、俺もホッとしたよ……」
廃ビル2階の一室。
先ほど話し始めた恋愛相談の対象は、自分自身のことではなく、錬と美鈴ちゃんに関してだと信じてもらうことが出来た俺は、すっかり冷めてしまったコーヒーを一気飲みしてから、今度はいつも通りの麦茶を静子ちゃんの分も一緒に用意した。
「ありがとうございます」
静子ちゃんが未成年であるということと、錬の名誉を考慮して、彼が美鈴ちゃんのことを好きになった映像作品に関しては、それなりにオブラートに包んで話したつもりなのだが、それを聞いた静子ちゃんが「気持ち悪いですね」と笑顔で言っていたので、思ったよりも正確に伝わってしまっているのかもしれない。
錬……すまん。
「それで、礼二さんは、そのへんた……後輩さんを応援しているんですか?」
「あ、ああ……そうだな、まぁ、悪い奴ではないし、美鈴ちゃんの方も恋人を欲しがっていたから……」
どうやら、静子ちゃんの中ではもう、錬が変態だという認識が固まってしまったようだが、コスプレなシチュエーションに惹かれるというのは、男からすると誰もが通るレベルで、そこまで変態な趣味では……いや、女性からしたら変わらないか。
そう考えると、いくら美鈴ちゃんが彼氏募集中とはいえ、女性からしたら変態以外の何ものでもない男を候補としてぶつけるのは、少し失礼になるのかもしれないな……。
いやまぁでも、恋の始まりは確かにソレだとしても、今は変な括りではなく、純粋に彼女の事を好いているようだし、応援してやってもいいんじゃないか?
「とは言っても、最終的には錬と美鈴ちゃん次第だし、俺はあくまでも、ちょっと進展があるように背中を押してやるくらいだよ」
「そうですか……まぁ、美鈴さんの意見が尊重されるならいいと思いますけど……礼二さん、何か作戦はあるんですか?」
「そりゃあもう、プロの意見を頼るのさ……ネココ?」
「呼ばれて飛び出てニャニャニャニャ~ん♪」
俺がネココの名前を呼んで指をパチンと鳴らすと、俺の斜め後ろの床から、いつも呼ばれなくても勝手に出てくるそいつが現れた。
いや、別に何か事前に打ち合わせをしていたわけでも無く、登場するときのセリフ的に、呼んだら本当に来るのかなー? と思って呼んでみただけなんだが……ホントに来たな……。
静子ちゃんが「礼二さん、魔法使いみたいですーっ」と目をキラキラさせながらパチパチと拍手をしてくれたが、多分、本当に魔法使いみたいなのは、何故かタイミングよく現れてくれた猫の方だ。
「コホン、まぁ、何で本当にタイミングよく現れてくれたのかは置いておくとして……ネココ、お前に頼みがある」
「ネココに恋愛相談は無理ニャ♪」
「いや、まだ何も言ってない……ってか……お前、いつから聞いてたんだよ」
「静子にゃんと一緒に来たから、最初から聞いてたニャ?」
だから呼んだら出てきたのか……。
っていうか、いるなら最初から一緒に入って来いよ。
「……まぁ、とりあえず、お前には最初からその手の話は期待してないから大丈夫だ」
「礼二くん酷いニャ!」
意外な裏切りを目の当たりをしたような顔をしているが、どこをほっつき歩いているか分からない野良猫だったやつに恋愛相談なんかしようと思わないだろう。
「それで、俺はネココに恋愛相談をしたいんじゃなくて、お前なら何かそういったことに関する参考書的な雑誌とかを仕入れてくれたりするんじゃないかと思って……」
静子ちゃんの恋のマニュアルはちょっと特殊だったからな……。
「だったら、わたしも今度持ってきますねっ。元は小説じゃないですけど、シェイクスピアさんの『ロミオとジュリエット』とかどうでしょう?」
ほらぁー! だから何でそういう物語を持ってこようとするのぉー!!
「え、えーと? ネココは悲恋の小説を持ってくればいいのかニャ?」
「いやいや、普通に世の若い女子に人気な恋愛系雑誌を持ってきて」
「了解ニャ!」
こうして、俺は静子ちゃんとネココという、頼れる? メンバーを仲間に加えて、三人で錬と美鈴ちゃんの恋を手助けすることになった。
「おー、やっぱり頼りになるなー、流石は本屋さん」
「本屋さんじゃニャいニャ!」
「ふふふ」
三人とも恋愛経験なんてない初心者だが、まぁ、三人寄れば文殊の知恵ともいうし、ちゃんとした恋愛マニュアル的な本を読みながら進めれば何とかなるだろう。
俺たちは、その日は、そのまま読んだことのある恋愛小説や漫画の話をしたりしながら過ごして、明日から恋のキューピット大作戦を開始することにした。




