第35話 男の約束
「本当に、先輩に頼んでいいんすね?」
「ああ」
「男と男の約束っすよ」
「任せておけって」
「絶対に絶対っすよー……!」
生前の会社の後輩、管野 錬と、月を見ながら酒を飲み交わした翌日。俺はそう言って手を振りながら去っていく錬を見送る。
あれから結局、深夜というより明朝や明け方と呼ばれそうな時間帯まで雑談は続き、いつの間にやらそのまま屋上で眠っていたのか、目が覚めた時もここにいた。
去り際に言い残していった約束というのは、その酒の席、雑談の中で出てきたものなんだが、朝起きても覚えてた上に、さらに念押ししてくるってことは、本当に本気なんだろうな……。
「まさか錬が、美鈴ちゃんに対してその気だったとはねぇ……」
度々宅飲みをする仲の男が2人。己が命を失う前に自分のパソコンを破壊したい、という雑談から止まることなく、酒の席での男同士の会話らしく、その気になるパソコンの中身の方へと、話題が移っていったわけだが……。
錬の趣味は、ナースさんやら、バニーさんやら、CAさんやら、学校の先生やら、秘書さんやら、メイドさんやら、巫女さんやら……とにかくコスプレ物で埋め尽くされていたそうだ。
当然、その中にはミニスカの女性警察官さんも含まれていたので、美鈴ちゃんと出会った当時、目の前に現れたそのファンタジーな現実に大層衝撃を受けたらしい。
俺も彼女の服装については気になっていたのだが、話を聞くところによると、最初は普通に生前に仕事で着用していたパンツタイプの制服を着ていたそうだが、幽霊同士の喧嘩を仲裁している際にその制服が破れてしまったとのこと。
もちろん、最初は同じタイプの制服を求めたが、洋服を提供してくれる協力者も、パンツタイプだろうがスカートタイプだろうが流石に本物の警察官の制服を仕入れることは出来なかったらしく、簡単に手に入るコスプレ衣装を渡されたそうだ。
ちなみにその洋服を提供してくれる協力者っていうのは、古着屋の店主をやっている霊感を持った人間らしく、他にも、霊界の役所は人間社会の中に様々なつながりを持っているらしい。
「俺なんかはネココから生活必需品を貰っているが、そうじゃない人向けの正規の卸業者もいるんだな……」
美鈴ちゃんの場合、求めるものが求めるものなので、たとえネココが調達したとしてもコスプレ衣装になっただろうけど。
まぁとにかく、錬の恋の始まりが、そんな致し方なくコスプレ衣装に身を包んでいたらしい美鈴ちゃんを見て、性癖にヒットしたから、という、なんとも邪な感情からくるものだったわけだが、まぁ、男の恋愛なんてそんなものだろう。
未成年の不良どもから酒を奪うという犯罪を繰り返すのも、ミニスカポリスに追いかけられてみたい、という、お前は男子高校生か! と突っ込みたくなるような下らない理由だったようだし、あいつのアホさ加減には呆れるを通り越して感心するな。
ただ、彼女は、錬を追いかけている途中でも、他に困っている幽霊を見かければ声をかけて助けてあげるような、真面目で優しい警察官だったこともあって、そんな姿を見続けるうちに、あいつはミニスカポリスではなく、苦掘 美鈴のことを好きになっていったとのことだ。
いつも酔っ払いつつも冷静に行動していて、彼女と会ってもいつも通り、別段取り乱したりとかしていなかったから、全く気が付かなかったが、酒を飲んで常に顔を赤くしているのは、もしかして、彼女と会って顔が赤くなるのをごまかすカモフラージュだったり……いや、まさかな。
まぁとりあえず、俺からしてみたら、錬だって、いつもお茶らけていながらも、困っている人を見かければ、たとえ力不足で、最終的に何も助けになれなかったとしても、声をかけて手伝おうとするようなやつだ。
そう考えると、案外お似合いなのかもしれないな。
「さて、いっちょ恋のキューピット、やってみますか」
俺は酒の席で交わした、美鈴ちゃんと錬の恋をサポートするという約束を実行するための作戦を考え始めた。




