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第26話 アイドルの朝


 昨日、るあちゃんが転びそうになってきたところを助け、何故か美鈴ちゃんに逮捕されそうになってから、夜が明けた今日。


 あれから結局、るあちゃんに幽霊業界のことを説明して、途中で放置されていた彼女のテント設営作業を手伝って、寝られたのはいつも通り深夜二時過ぎだった。


 ちなみに、前回と同様、気が付いたら錬のやつは簀巻きの布団だけを残して中身だけ綺麗にいなくなっていて、またそれを捕まえに行くと去っていった美鈴ちゃんもいなくなってしまったので、るあちゃんのテントの設営を手伝ったのは俺だけだ。


「おはようございまふ……昨日はテントを立てるのが大変で、寝るのが……ふぁぁあ~ぁ……遅かったんでふけど……」


 それでも俺は染みついた習慣に従って七時半に目を覚まし、歯磨きなどのモーニングルーティンを済ませた後、眠い目をこすりながら、るあちゃんの様子を見に来ると、彼女もちょうど今起きたところらしく、大変仕事熱心なことで、寝癖も整えずにそのままカメラを回していた。


 テントの戸口(パネル)を閉め切ったままでは暗く、映像の映りが悪かったのか、パネルチャックを全開にした状態で、入り口から半分、身を乗り出すような態勢で撮影しているのだが……下半身が寝袋に入ったままのミノムシ状態なので、どことなく滑稽な見た目をしている。


「ふぁ? あ、礼二さん、おはようございまふ」


「おはようございます……って、るあちゃん! カメラカメラ!」


「ふぇ?」


「録画してる時に、幽霊の俺に話しかけちゃ不味いでしょ」


「……あ」


 寝ぼけ眼でハンディカメラを手に取っていたのは、職業病で身体が勝手に動いていただけなのか、頭の方はその俺の言葉でようやく目が覚めたようで、フワフワしていた彼女の視線が安定すると、その表情がだんだんと焦りの色を帯び始めた。


「って、あははー、私ったら、何を言ってるんですかねー? 何だか寝ぼけて、変な夢を見ていたみたいですー、あははー」


 やっと意識を覚醒させたらしい彼女が、手に持ったカメラに向かって慌ててそう弁明するが、果たしてこの言い訳がそのままの意味で通じる視聴者が何人いるだろうか。


 確かに、彼女は先ほどまで動きも喋り方もふにゃふにゃで、誰がどう見ても寝ぼけているのは明らかだったが、俺に気づいて挨拶をしてきた時は明らかにそこに人がいるようにカメラから視線を外してこちらを見ていたし、流石に幽霊と喋っていたとは思わないだろうが、番組スタッフに挨拶していたとは思われそうだ。


 まぁ、撮影した映像に俺の声は入ってないだろうから、もしかすると、意外と彼女の言葉を信じて、夢の中の登場人物に挨拶をしていたと信じる視聴者もいるかもしれないだろうが、そうなった場合でも、果たして彼女が呼びかけた「礼二」という人物が誰なのかという疑問が尽きることは無いだろう……。


 うーん……視聴者からの面倒な質問ラッシュが浴びせられるのは可哀そうだし、編集さんの気遣いで、この映像は番組に使用されないことを願うばかりだ。


「そういうわけで、今日の日中もこの廃ビルを探索して回るので……寝癖とか整えるまで、少しだけ待っていてください」


 そうしている間にも、彼女は番組用の撮影を進めていたようで、そんなセリフと共に、最後に可愛らしい笑顔でカメラに手を振ってから、録画終了のボタンを押した。


 ちゃんと目を覚ましてからの彼女は、流石プロだと感心させられるような様子で、手元に開かれている遠足のしおりのような冊子に書かれたスケジュールを視界に収めながら、番組の進行を完璧にこなしてみせたが、寝癖が付いたまま、ミノムシのような格好でのセリフだったので、どこか頼りなさげに映っていると思われる。


 撮影を終えた彼女は、すぐに俺の方へ駆け寄ろうとしたようだが、その動作の途中で停止して、「ちょっと待っててください」というと、寝癖を抑えながら、テントのパネルを閉めて中でゴソゴソと身だしなみを整え始めた。


 俺は別に寝癖がついていたところで気にしないんだが、やはり真面目なグラビアアイドルである彼女としては、人前では身だしなみに気を付けたいのだろう。


「はうー、お待たせしました……そして、すみません……私、朝は弱くて、完全に寝ぼけてました……」


「いや、別に俺は被害を被らないだろうから謝る必要はないんだが……るあちゃんの方は大丈夫なのか?」


「うーん……編集さん次第ですねー……さっきの映像を使うとしても、なんかいい感じに編集してくれると助かります……寝癖とかメイクとか……」


 いや、気にしていたのは寝癖とかメイクじゃなかったんだが……まぁいいか。


 だがまぁ確かに、昨日、短時間で涙の痕を消していた時も感心したが、彼女の身だしなみを整える技術はすごい。


 テントに籠って30分も経っていないと思うが、その間に寝癖を整えるだけじゃなく、着替えもメイクも済ませたようで、先ほどとは打って変わって、どこからどう見ても雑誌の表紙を飾れるグラビアアイドルだった。


 男の俺からしたら、彼女はすっぴんでも別に可愛いと思ったので、メイクをしていなかろうと、寝癖がついていようと、パジャマのままだろうと、寝袋でミノムシになっていようと、気にならなかったと思うのだが、やはり人に見られる職業というところもあって、そういった部分に対して一般人以上に気にするのかもしれない。


「……それで、番組の予定的には、これから昼の廃ビルを探索するパートなんですけど……いいですかね?」


「うん? あぁ、別にここは俺の所有地とかじゃないから、番組スタッフさんたちが実際の所有者さんに許可を貰ってるなら、俺の許可は必要ないよ?」


「なるほど、たしかに」


「まぁでも、流石に俺の部屋が撮影されて、それが全国のお茶の間に届くのは避けたいから、そこ以外を撮影してほしいけどね」


「あ……あー……そうですよねー……」


「ん?」


 一言目の俺の言葉に納得したような彼女が、二言目の言葉を聞いて、どうにも歯切れの悪いような返事をする……。


 そして、顔を横に逸らしたり、少し困った様子で、その状態で俺の方をチラチラと見て、「告白前の女子か!?」と、俺に一通りの勘違いを植え付けた後に、まるでラブレターでも渡すかのように、そっと、一つの紙を差し出してきた。


 当然、それはラブレターなどではなく、先ほども彼女が見ていた、番組のスケジュールなどが書かれた冊子だったわけだが……。


「開かずの扉の……探索……?」


 開かれたそのページに書かれていたのは、おそらく、最初の撮影で俺が必死に扉を抑えていたせいで、そんな名前が付けられたのであろう場所の探索予定……。


 つまり、俺の部屋の探索予定だ……。


「……」


「……」


 そして、目の前では、何も言わずにその紙を見せてきた彼女が、まるで、告白した女子が相手の返事を待つような様子で、俺の返事を待っているわけだが……。


 さて、どうしたものかな……。


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