第23話 幽霊スタッフ
「……うーん、流石に、もう使われてない廃ビルとは言っても、コンクリートの床に穴をあけるのはまずいですよねー……そもそも、トンカチっぽいものも見当たらないですし……」
俺と後輩が各々で見つけてきたコンクリートブロックを廃ビルに持ち帰ってくると、その仕事を選ばないグラビアアイドルは、テントに付属している金属のペグでコンクリート床をツンツンつつきながら、そんなことを呟いていた。
地面に広げられた説明書の近くにスマホが置いてあるので、きっとスマホでテントの建て方を調べたのだろう。
ヤラセでもなんでもなく、本当に本気でスタッフ全員がこの場から撤収しているようで、この場には相変わらず独り言をつぶやきながらテントを建てる方法を悩んでいる彼女しかおらず、その様子を三脚に備え付けられたハンディカメラが静かに見守っているだけだった。
カメラが回っている時はアイドル精神で独りぼっちな怖さを堪えているのか、たんにテントの建て方に悩み過ぎていてこれがホラー企画だと忘れているのかは分からないが、ただただ悩む姿が可愛らしいだけのこの映像は、果たしてホラー番組として公開されることはあるのだろうか……。
と、ちょうどそんなことを考えていたら、タイミングがいいのか悪いのか、ゴトン、と、すぐ近くから大きな物音がして……。
「ひゃうっ!?」
彼女はビクリと身体を震わせ、手に持っていた金属のペグを落としてカランカランという音を鳴らしながら、ホラー番組の視聴者が期待していたであろう、アイドルらしい可愛らしく短い悲鳴をあげた。
そして、彼女が音のした方へとゆっくりと視線を向けると……そこには、さっきまでは無かったはずのコンクリートスタンド……。
(あ、やべ)
(おい、錬! もっと静かに置かないと怪しまれるだろ! ってか、何でこんなところに堂々と置くんだよ! 入り口の陰とかに置けよ!)
(えー、それじゃあ気づかなくないっすか?)
(だとしても、何もないところに急に物が現れたら怖いだろ!)
(いや先輩、幽霊が相手の怖さに配慮してどうするんっすか……)
まぁ、確かに、彼女にこういった場所でどうやってテントを建てればいいのか気づかせるためとはいえ、そのためにつかうコンクリートブロックがさっきまで無かった場所に急に現れたりしたら、どこに置いたところで驚くだろう。
だが、彼女がちょっと視界を動かしたら見える範囲に置いてしまうよりかは、入り口から少し出ないと見えないところに置かれていた方が、もしかしたらスタッフの人が置いてくれたのかもしれないという心持になれただろうに……。
俺の方はちゃんとそこまで考えて、ついさっき40kgのコンクリートブロックを、入り口の陰に、ゆっくりと、慎重に、音をたてないように置くという、おっさんの錆びれた筋肉にとっては地獄のような苦行を達成したというのに、この飲んだくれは、そういうところに配慮に欠けるよなぁ……。
ほら、るあちゃん、めっちゃビビッて、泣きそうな顔でプルプル震えながら周りを見渡してるじゃん……可愛、いや、可哀想に……。
なんか震える手でさっき落としたペグを構えてるけど、幽霊相手にそれは効かないと思うよ? まぁ……俺には効くけど。
「あ、あのー……スタッフの方ですかー……?」
暫くすると、どうやら、るあちゃんは、目論見通り、スタッフの人が陰ながら彼女の手助けをしているのかという発想に思い当たったらしく、廃ビルの入り口に向かってそう声をかける。
いつの間にか一人で酒を飲み始めていた錬が、ふざけて「そうっすよー」とか返事をするが、当然、その声が彼女に届くことはないので、彼女の聴覚的には、あたりはシーンと静まり返ったままだろう。
そして彼女は、おそるおそる、という様子で、ゆっくりと、廃ビルの入り口に向かい、相変わらず震える手で、銃か何かを構えるように金属ペグを構えながら、ビクビクと、廃ビルの外を確認する。
「山田さんですかー……? それとも、佐藤さんですかー……?」
おそらくスタッフの名前だろう、そんな呼びかけをしながら、チラリと、入り口の陰に隠れて顔だけのぞかせるような形で、めちゃくちゃ薄目を開けて、なんなら片目は閉じた状態で辺りを確認しているようだが、その行為に果たして可愛い以外の意味はあるのだろうか。
「誰も……いない……? ん?」
やっとちゃんと目を開けた彼女が、それでも、誰かが隠れているにしては、あまりにも静かすぎるということ認識してしまった後、ふと、足元に視線を向けると……そこには、俺が苦労して静かに置いた、4つのコンクリートブロック……。
「うぅっ……ひっく……」
それを見た彼女は、静かに泣き出してしまった……。
……どうやら意図せず、後輩と俺の見事なコンボが決まってしまったらしい。




