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第14話 二人目の指名手配犯


「かんぱーい」


 コツン。 と、後輩の声に合わせて二人で手に持っている缶をぶつけ合い、決して軽快とは言えない音が鳴った後、ゴクゴクゴクと、のどごしの良い液体を一気に喉の奥へ流し込む音を響かせる。


「ぷはぁー!」


 本当にこれはどこから持ってきているのか、流石にここまで運んできている過程がある以上、キンキンに冷えているとまではいかないものの、まだそれなりに冷たい炭酸が喉を通る感覚は、それだけで夏の暑さを多少なりとも和らげてくれている気がする。


 まぁ、幽霊だからなのか、暑さも寒さもそんなに感じないんだけどな。


「んで、酒がうまいのはいいとしてだな……お前、俺に色々と隠してただろ」


「それっすよねー……うーん……美鈴みすずちゃん関連のことだけじゃないってなると、ちょっと思い当たらないんすけど……」


「はぁ……まぁいい、とりあえずそれも文句を言いたかったところだし、まずはそのことについて話してくれ……お前とあのコスプレ警官はどんな関係なんだ?」


「あははは、コスプレ警官、それはいいあだ名っすね、今度あいつに会ったら使わせてもらうっすね」


「いいから話を続けろ」


「うっす……って言っても、実はそんなにかしこまって長々と話すようなことは何にも無くてっすね……ただ、何というか……」


 ん? なんか最近、似たような流れがあったような……。


「実は俺、指名手配されてるっす! てへっ」


「お前もかぁーい! ってか『てへっ』まで再現すんな、お前がやっても気持ち悪いだけだ」


「んー、その反応をするってことは、もうネココからは指名手配のことを聞いたんすね」


「最近な、ってか、お前もあいつと知り合いなのか」


「そうっすね、まぁ、犯罪者仲間って感じっすかね」


「嫌な仲間だな……」


 それから詳しく話してくれたれんの話をまとめると、犯罪者として指名手配されている理由も窃盗ということで、ネココと同じような感じだった。


 だが、決定的な違いとして、ネココは人に使われなくなった物、ゴミとかを漁ってるのに対して、こいつの場合は人から直接奪っていること……。


 とは言っても、れんが人から奪うにもそれなりの理由があって……人を犯罪者にしないために、代わりにこいつが犯罪者になってるってことらしい。


 こいつが酒を奪う対象は……まだ酒を飲んでいい年齢に達していないやつら。


 本当は、そもそもそいつらが酒を買えてしまっているってのが良くないんだが……酒を買う客全員に年齢確認として身分証を求めるのも、その店の回転が悪くなって客足が遠のくってことで、そうは出来ていないのが現状の社会だ。


 だから、ちょっと老け顔の未成年が買いに行ったり、店員が新人アルバイトとかでまだ年齢確認とかに慣れてなかったりするところを狙われると、酒を飲んではいけない年齢のやつらも、酒を手に入れられてしまう。


 れんの言い分としては、そういう社会のルールから逃れて酒を手に入れた悪い奴から酒を奪う、ダークヒーロー役になっているだけだそうだ。


 いつも大量に持ってくる缶ビールや缶チューハイを、一体どこから持ってきているのかと疑問だったが、どうやら生きている人間が買ったばかりのそれを奪って回って、飲み会が出来るくらい集められたら俺のところに来ているということらしい。


「言い分は分かったが、犯罪は犯罪だろう……あ、ってことは、それを飲んでる俺も同罪、ってことか?」


「はっはっは、その通りっす! 捕まる時は一緒っすよ! 先輩!」


「嫌だよ、捕まるならお前ひとりで捕まれ、もらった酒は飲むが、俺が捕まりそうになっても何も知らないふりをするからな」


「えー、酷いっすよー、俺っちと先輩の仲じゃないっすかー」


「同じ職場で働いてたってだけで、犯罪者の仲間になったつもりはない」


 まぁでも、俺はネココからも家具とか漫画を卸してもらってるからな……犯罪加担率で言ったら、結構な重罪人だったりするんじゃなかろうか……。


「表社会を裏から守るダークヒーロー、ねぇ……」


「そうっす、俺っちは、正義のために泣く泣く犯罪に手を染める、報われない主人公なんすよ……」


「酒を飲んで顔を赤く染める、ただの飲んだくれ、じゃなくてか?」


「あははは、それも合ってるっすねー、先輩、座布団一枚!」


「いらねぇし、そもそもここにそんなものはねぇよ」


 まぁ、こいつのやっていることは犯罪で、犯罪は悪いことだが……これもネココの時と同じ、俺は聞かなかったことにする、が正解だな。


 それが良いことだとか悪いことだとか、そういうのを判断するのは、話題のコスプレ警官にでも任せる。


 見てみぬふりも悪いこと? 知るか、俺がそうしたいと思ったんだから、それでいいんだよ。


 その代わり、もし本当に俺自身も罪に問われることがあったなら、その時は、素直に罰を受けてやるさ……『何もしない』『見てみぬふり』という選択を選んだのは俺だ……俺は、俺の意思で選んだ結果から逃げないし、後悔もしない。


 自分の選択を誰かのせいにしたって、空しいだけだろ? ……その結果、命を落とすことになったとしてもな。


「んで、お前がどうしようもなくバカな後輩だったって話は置いておいて、他の隠し事についても聞きたいんだが……」


「先輩酷いっす! ってか、他の隠し事って、特に思い当たらないんすけど、なんすか? あ、ちなみに俺っちの誕生日は……」


「いや、お前の誕生日なんかどうでもいい……俺がモヤモヤしてるのは、自分の生前の所持品は念じれば手元に出現させられるとか、こっち側にも日本の法的な手続きとかを管理してる団体がいるってことを教えてくれなかったことだ」


「え? 先輩、知らなかったんすか?」


「は?」


「いや、だって、俺が会った時、既に普通に部屋に家具とか並べて悠々自適に生活してたっすから……てっきりもうそういうのは知ってるものだと……あと、ついでに言ったら、先輩も普通にこっち側……俺っちとかネココとかと同じ、指名手配犯かと思ってたっす」


「まじかよ……」


 確かに、そう言われて、れんの立場を想像してみたら……俺でも『こいつならもう知ってそうだし、敢えて言う必要もないか』ってなりそうだな……。


 ってことは、それもこれも全部、俺が何も知らないと知りつつ、漫画をエサに都合のいい情報だけを渡し続けていたあいつ(ネココ)のせいじゃねぇか?


「んじゃ、難しい話も終わったことだし、改めて飲みなおしましょう、かんぱーい!」


 コツン。 と、れんが俺の飲みかけの缶に勝手に自分の新しく開けた缶をぶつけると、ゴクゴクゴクと、一人分の酒を飲む音が響く。


 いつもそうだが、こいつは酒好きだが、酒豪というわけじゃないから、俺より先に顔を赤くして酔っ払って、俺より早く寝落ちする。


 逆に俺は、別に酒が大好きという程の好物ではないし、飲んでもそんなに酔えないんだが、まぁ、人に迷惑を掛けない程度の酔っ払いと話すのは楽しいからな、付き合いで飲んだりする行為自体は好きだ。


 だが、その代償として……。


「くかぁー……」


 寝落ちした酔っ払いの面倒を見るのも、俺の役目になるんだよな……。


「はぁ、先輩先輩と呼ぶわりに、先輩よりも早く寝やがって……」


 時刻はいつも通り、深夜2時……。


 俺は寝落ちした後輩をソファーに横向きに寝かせて、最近ネココから新たに入荷したタオルケットをかけてやる。


 こいつが来るのは決まって金曜日だから、明日は土曜日で学校も休みだし、特に朝から誰かと会う予定もない……ゆっくり寝かせておいてやってもいいだろう。


「俺も明日は少しくらい寝坊するかな」


 ちゃぶ台を片付けて、布団に挟まり、俺は暗い天井に向けてそう呟くと、静かに目を閉じる。


 この変わらない、のんびりした日常が、いつまでも続くように、願いながら……。


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