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ゴールド・ノジャーと秘密の魔法  作者: たまごかけキャンディー
【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編
7/52

7


「えっ! うそ……!?」

「バカなっ」


 斥候少女の短剣が首を滑るが、傷一つ負わずに佇む俺に周囲が息をのむ。

 回復魔法によってある程度の実力を認識していた後衛組は、もしかしたらこんな結果になるのを理解していたのかもしれない。


 主に驚いているのは前衛組で、目の前で起きたことが信じられないらしい。


 斥候少女は自分の武器と斬ったはずの首を交互に見比べ、そんな無防備な姿を自らが前に出ることで庇う戦士のダイン。

 しかし、いまの攻防で既に勝ち目がない敵だと認識したのか、手を出してはいけない相手に戦いをしかけてしまったと思い込んでいる戦士ダインの表情は暗い。


 それでも尚、仲間を庇う勇気には敬意を表したいところだけどね。


「そう怯えずともよい。貴様らの事情は凡そ察している故な。いまの攻防は、ほんの余興じゃ」


 そもそもなぜこの冒険者たちがこの無人の大森林に訪れていたのか。

 アカシックレコードで理由を確認したところ、それは人探しのためであったようだ。


 彼らが捜しているのは、なんと伝説の勇者。

 近年動きが活発になり、この大陸とは別の大陸から侵攻してくる魔王とその魔族に対抗するため、切り札となる人間最大の戦力を確保するためにこんな辺境にまで訪れていたらしい。


 そも、勇者とはなんなのか。

 一言でいうなら、この世界の神々に存在を祝福された人間種。

 それが善き行い、善き歩みである限り、絶対勝利の運命を約束されたご都合主義の塊のことである。


 ご都合主義とはなんぞやといわれれば、まあ、要するに勇者の都合の良いような結果が生まれやすくなる神の加護みたいなものだろうか。

 つまり勇者という存在は、神々から見て間違った行いをしない限りにおいて、ある程度人生が上手くいくように調整された生き物ということになるのであった。


 こんな世界の真理に関わる裏情報を知っている人はいないので、あくまで世界側からみて存在を定義するならという注釈付きだけどもね。

 人類からすれば、伝説に度々現れる偉人、めっちゃ強い救世主という認識で相違ないだろう。


 でもって。

 この高位の冒険者パーティーは、辺境のどこかで勇者が生まれたという信託を受けた教会側から依頼を受け、人探しのために無人の大森林を含めた様々な場所で調査を行っていたというわけである。

 なんで人探しで森につっこむのか、という至極もっともな疑問があると思うが、勇者というのは伝説上どこに現れるか全く規則性がないのだ。


 時に孤児だったり貴族だったり、人里離れたエルフの集落からだったり、珍しいところだと無人の大森林に隠れ潜む賢者が勇者の赤子を育てていた、なんてこともあるくらいなんでもありなのであった。


 しかも、この近くにはここ三年の我が住まいたる、ゴールド・ノジャーの隠れ家的ログハウスがあるため、あながち見当はずれの人探しというわけでもないのがミソ。

 いつもどこでも結界型絨毯にのって浮遊しているわけでもないので、このくらいの浅い場所なら人型の生き物が生息している足取りから、彼らが調査に乗り出すことも可能性としては十分ありえる範囲なのである。


「貴様らの目的は、あれじゃろ。北の方で暴れておる魔王に対抗すべく、人探しのためにこんな辺境まで訪れたのであろう?」

「なぜそれを……」

「ちなみに、それならば儂が手をかしてやれんこともないぞ」

「いや待て。そんな都合のいい話が……。だが、しかし……」


 目的を言いあてられ、一瞬だけ唖然とする戦士ダイン。

 だが警戒も敵対もしていない俺の暢気のんきな態度から、うまく取引に持ち込めば有用な情報が引き出せるかもしれないと、リスクとリターンを天秤にかけて熟考し始めた。


 そうそう、それでいい。

 パーティーのリーダーたるもの、常に冷静でなくては。


「ダイン! やっぱこの魔族ヤバイよ! なんで依頼の機密まで知っているのかわからないけど、怪しすぎる! ここで仕留めておかないと危険!」

「ばっ、ばかやろう! リーサは黙っていろ! 普段は慎重なくせに、形勢が傾くとすぐに短絡的になるのはお前の悪いところだ! クレア、エルロン、しばらくリーサを拘束しておけ!」

「はあ~っ!? ウチはパーティーのためをおもっ……むぐぐ……」


 そして、いざという時の判断力もなかなかのもの。

 仲間である斥候少女、もとい斥候のリーサを後衛二人に預け、とっさにこれ以上の暴走を制し状況をコントロールできることからも、しっかりとパーティーの手綱を握っている優秀なリーダーだ。


 斥候のリーサの気持ちもわかるけどね。

 俺が同じ立場だったらいますぐ逃げて情報を持ち帰るか、もしくは決死の覚悟でぶち殺すしか敵対者に対して優位は取れないから。


 本来敵対者である魔族、それも格上との悠長な取引なんて、それなりに修羅場をくぐり抜け場数を踏んでいないと覚悟なんて決まらないよ。

 いくらその相手が攻撃的には見えなくてもね。


 それくらい、古来から北の大陸から侵攻してくる魔族とこの中央大陸の人間種との溝は深く、戦いの歴史は長く続いてきたのだ。


 そうして俺が物思いにふけっている間にも戦士ダインは熟考を重ね、ようやく重々しく頷き結論を出す。


「……いろいろと思い返し、状況は凡そ理解したつもりだ。おそらく、俺やリーサが回復し、あの絶体絶命の窮地から脱しているのは貴女のおかげなのだろう」


 大けがをしていたはずの自分の体調と、雷虎の去った今の状況から察したらしい。

 真剣な面持ちで俺と目を合わせるその顔には、ありありと感謝の色が浮かんでいた。


「そして、その上でさきほどまでの行いを見逃し取引に応じてくれるのであれば、俺にできうる限りの対価を支払おう。ただ、厚かましい願いではあるが、どうか対価が足りずとも、仲間たちだけは見逃してやってくれ。頼む……」


 リーダーの覚悟に中てられたのか、さきほどまでモガモガと拘束されつつも暴れていた斥候のリーサも、成り行きを見守っていた弓使いのクレアも、魔法使いのエルロンも黙りこくる。

 だがその表情からは、いざリーダーである戦士ダインがピンチになれば、取引の結果やお互いの戦力の如何に関わらず戦闘に突入する心づもりのようだ。


 なかなか強い絆で結ばれた、よいパーティーだな。

 やはりこの冒険者たちになら、手を貸してやっても後悔はしなさそうである。


「ふっ。貴様らの覚悟、しかと受け取った。戦士よ、良い仲間を持ったのう」

「ああ、俺の自慢のパーティーだ。リーダーとして、貴女の取引に応えるだけの信頼はこいつらからも得ているつもりだ」

「うむ、そのようじゃ。ならば貴様らはもはや儂の客人も同然。我が住まいへと招待しようではないか」


 そういうと俺は空間魔法を展開し、この場にいる冒険者たちを巻き込んで自宅のログハウスへと転移したのであった。


 ……さ~て、彼らにはどんな形でアシストしようか。

 いろいろ考案した魔道具がありあまってるし、そちらの方向で気に入った冒険者を強化するのもありかな?

 いやはや、久しぶりに心地よい人間たちに出会ったな。



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