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9/11

*別の精神科医(氏名非公開)による調査報告文書 No.02

私は、2022年2月2日に患者第20211337号と実際に対話を行った。以下はその所見として私が対話中に覚えたことを漠然と記す。また、併せて患者に対する適切な治療法の一例を挙げることで本文の結論とする。

患者はいわゆる被害妄想的あるいは神経過敏的というよりも、内向的や自閉的というべきだろう。そしてその内向世界と現実世界の摩擦によって生じる本人が抱く違和感について、患者はそれを特に問題視しておらず、そもそも患者自身が思い込んでいる「現実で起こっていること」と現実自体を区別できているように私は感じる。

そこだけでは結局正常な妄想の範疇であるが、この患者について問題と思われるのは、むしろ患者がその認識している現実の歪み方を非常に客観的に、詳細に語ることができるという、ある種精神患者の「正常性」にあると考える。

例えば、本人が「壁の症状」と呼んでいる患者の認知現象がある。これはつまり閉塞感を感じたり、何もない所でプレッシャーを感じてしまう被害妄想的な症状のことを指していると思われるが、この患者に関しては、我々が所見で抱くこういった精神医学的な観点は患者自身もしっかりと持っていることがうかがえる。その上で私がその話を聞いた際、個人的な感想だが、あまりのリアリティに私は形容しがたい不安を覚えた。

患者から聞いた話として、常々心理カウンセラーになりたいと語っていた。理由を尋ねたところ、患者は自分のように認知が極端に歪んだ人々の苦難に、同じ経験者として寄り添いたいというごく一般的な感情であった。

患者の幼少期について、2歳の時に父親が蒸発、それ以降は稼ぎの少ない母親と二人で暮らしていたが、口ぶりを聴く限り、ネグレクトがあったと見られる。しかしながら患者が嬉々として話すのは、学友に恵まれていたとのこと。患者はこういった家庭内と学校での対照的な精神状態にさらされて、アンバランスな考え方が育まれたように感じる。

私としては正直、この患者の根本治療はかなり困難を極めると思っている。理由はやはり患者が「冷静」な点にある。だからそもそもこれを病状と呼ぶのかも懐疑的だが、本人が苦悩していることを考えれば、やはり精神科医としては治療にあたるべきだろう。有効な対処法としては、社会的療法を通じて社会通念を積極的に刷り込ませる"洗脳"(編者注:専門用語のことで実際の洗脳ではない)が良いと考える。患者が外からの情報に対して非常に柔軟である性格を考慮しての提案である。

だが、患者に対面する上で注意すべきは、担当医の側である。私がカウンセリングをした数時間で感じたことだが、この患者の会話はまともに聞き続けることが非常に苦痛である。今までの患者とは明らかに違う、吸い込まれるような何かがあった。これは一般的な意味とは異なり、精神科医にとって「重篤な精神患者」である。半年~一年以上同じ担当医がこの患者を受け持つ際にはそういった点に注意しなければならないと警告しておく。


以上

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