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34 きれいな夜空の謎

 闇を切り裂くようにして滑空し、ザウターとティファナは全身で風を感じていた。


〈月の城〉の桟橋から跳びおりたのち、二人はティファナが召喚した幻鳥の巨大ふくろうの背中にのって、夜の空を飛んでいた。


「うふふ、あいつらの驚いた顔みた? うふふふ」

 ティファナがザウターの背中にしがみつきながらくねくねはしゃぐ。


 巨大ふくろうがティファナの身じろぎにともなって、ぐらりとゆれた。

 

 ザウターは危険なので諭そうかと思ったが、なにより任務が成功したことに安堵していたので、大目にみることにした。


 それにもう外敵の出現はないだろうし、城にいた連中が追いついてくることもないだろう。

 遠ざかった白亜の城はすでに闇にとけて、ふりかえっても遠景にしりぞいていた。


 さきほど、もう一棟の尖塔の最上階から橋に踏みだしたところで、ザウターたちはずっと気配を殺してなりゆきをうかがっていた。

 

 月の変容とともに、橋の中央に出現したベノワは強い負のオーラをまとっていたが、少しも攻撃に転じる殺気は放っていなかった。


 向かいの尖塔のドアをでたところにいる敵の一団も行動をためらっているようだった。


 しかし、幸運にもベノワは、対面の部屋(すなわち敵のほう)に向けて移動をはじめた。

 

 ベノワはまるで突風のような速度で突き進み、その異質さにザウターは一瞬おののいたものの、注意が自分たちには向けられなかったことに笑みをうかべずにはいられなかった。


 それは邪魔者なしで、橋の中心に置かれた宝石のかけらをこっそり奪いとる機会にめぐまれたと解釈してまちがいなかったからだ。


 ザウターは焦って失敗しないよう、昂奮する心をおさえていたが、口もとの笑みはどんどん凶悪なものになっていった。


 ティファナが「おばけ? ねぇ、ベノワのおばけ?」とうしろから小声でささやいてきた。

 

 ティファナにしてはめずらしく空気をよんでおり、大声をたてて、ベノワに感づかれないようにしたようだ。


 ザウターはふりかえらずに答える。

「だいじょうぶだ。亡霊にせよなんにせよ、なぜかはわからないが、オレたちの勝利だ」


 ザウターはティファナのあたまをぐしゃぐしゃなでる。


「そうなの? 勝ちなの?」とティファナはうれしそうにのどをごろごろ鳴らした。


 敵の集団はベノワに追いたてられるようにして、部屋のなかにころがりこんでいった。


 ザウターはすぐにも走りよって〈荒城の月〉を確保したい衝動にかられたが、充分にためをつくってから着手することにした。


 油断は禁物だった。

 とりあえずザウターは入手後の行動について考えることにした。

 宝石のかけらを入手したら、城からすぐに脱出しなくてはならない。

 一度手に入れても、そのあとベノワなり敵一味なりに奪還されてしまったら意味がない。

 即座に城から離れる必要があった。


 熟慮したのち、ザウターはティファナに幻鳥の召喚を頼んだ。

 そしてティファナは、二人が背中にのって飛び去ることができるような、巨大なふくろうを幻獣の世界から呼びだすことに決めた。

「ふくろう男爵にお願いだよ」ティファナはそう言ってにっこりした。


 それから数分ののち、向こうの部屋に変化が起こった。


 窓から光線がもれ、激しい魔力が解放された。

 それと同時に、暗転していた世界が少しずつ明るくなってきた。

 隠匿のとばりがおりていた空がもとどおりになりつつあり、月が通常どおりのかがやきをみせはじめていたのだ。


 ザウターは根拠はなかったが「いまだ!」と叫んで駆けだした。


 置いていかれたティファナが「あっ」と声をあげたが、気にしないで駆けぬけた。

 ティファナはなぜか「ずるーい!」とわめきながら追ってきた。


 ザウターは〈荒城の月〉をひろいあげる。

 

 サイズは沙漠の国にあったかけらと同様で、20センチくらいの高さで、しずくの形状をしていた。

 台座のせいもあるかもしれないが、大きさのわりにはずっしりと重かった。

 宝石からは特殊な効能は感じられない。


 研磨職人たちが製作する一般の工芸品と値打ちのほどは変わらないという感想をもったが、ザウターは満足げにうなずいた。「よし……これでいい」


「わーい、目的達成だね?」ティファナも喜んだ。


 ザウターはベノワたちの入っていった部屋をちらりとみたが、だれ一人ザウターたちの動向を悟ってはいなかった。


 あっけない勝利だった。

 あとは逃走するだけだ。


 ザウターは夜空に視線をめぐらせる。

 満月があばただらけの顔を銀色にかがかせていた。


「よし、いくぞ、ティファナ――」

 ザウターはティファナに召喚魔法を命じた。


「はーい! おいでおいで、ふくろう男爵――」

 ティファナはほほえみながら魔法の角笛に口をつける。


 まぶたを閉じたティファナが数秒ほど笛を吹くしぐさをすると、「はい、おしまーい! いま、夜の森からふくろう男爵が飛びたったところだよ」と、冗談か本気か判別しづらいことを言った。


 どちらでもかまわなかったのでザウターは「よくやった」とティファナのあたまを、空いたほうの手でポンポン叩く。ティファナはうれしそうに身体をうにゃうにゃよじった。


 そのとき、ようやくベノワの居室にいた外敵たちがドアから桟橋にでてきた。

 ベノワはいないようだ。

 先頭にいた小柄の女が憤懣やるかたなしといった態度だったので、ついザウターは顰笑をこぼしてしまった。


 女はめざとくそれに気づいたようで、むっとして「調子にのってるんじゃないわよ!!」といきりたちながら走りだした。


 なかなかの速度で感心したが、ザウターは余興につきあうつもりはなかった。

 

 すばやく欄干をまたいで、ティファナに「相手にするなよ――」と念を押してから闇のなかに跳びおりた。


 橋の影だったこともあり視界は真っ暗だったが、橋梁のすぐ下にティファナが呼びだした巨大ふくろうが待機していた。

 猛禽類の背中は、立っているのが難しいくらいやわらかかった。


 すると「惜しかったわね。残念でした。じゃあね、ばいばーい」と橋のうえからティファナが敵をからかう声が聞こえた。

 

 そしてその直後、どすんとティファナが落下してきて、ふくろうがあまりの衝撃にびっくりし、頚を100度ほど回転させた。


「相手にするなといったじゃないか」とザウターがいさめると、「あいつら、おもしろいんだもん」とティファナがくすくす笑った。


 ザウターが黙りこむと、「とにかく、出発だね? 夜間飛行です、ふくろう男爵!!」とティファナが右手をすらりとふりかざした。


 巨大ふくろうは頚をくるりと反転させたのち、ホーとうすく鳴いて返事をすると、つばさを何度かはばたかせてから、がくんと加速し、風を切って飛びはじめた。


 ザウターはふりとばされないようにふくろうの背に馬乗りになって頚をつかみ、ティファナはザウターの身体に手をまわしてしがみついた。

 

 ふくろうは夜にとけてしまいそうな速力で空をすべるように飛んでいき、〈月の城〉はみるみる遠くなっていった。ザウターたちは夜空をとびこえるようにして、城から遠ざかっていった。


 しばらくしたあと、ザウターは胸にたまった息を吐いた。

 いろいろなことがあり、あたまのなかで整理ができていなかったが、とりあえず長い任務が終了したことを実感した。

 ストレスから解放されたせいもあったのかもしれなかったが、ふと視線をめぐらし、きれいな夜空だと思った。


 青、赤、金、銀、碧、その中間色の星々が星座を描き、天の川などの乳白色の星団が夜を横切ってさまざまな色彩で飾られている。


 飛行に慣れてくると、いろいろなことが想い起こされた。


 結局のところ宝石のかけらはベノワがかくしもっていたのだろう。

 ティファナが言うように、ベノワが亡霊だったのかどうかは不明だが、長年だれにも発見されなかったというわりには、あっさりと入手できてしまった。


 ハーマンシュタイン卿は詳細を推察していたからこそ、ザウターたちを送りこんだのだと考えられたが、そもそもベノワと宝石のかけらがどこから現出したのかもザウターには謎だった。

 それに宝石を手にとるさい、ベノワの抵抗はなかった。


 そうすると、ティファナが接触した外敵たちがベノワを退治したのだろうか――ザウターの脳裏にはとりとめもなく、淡い夢のようにたくさんの思考が浮かんでは消えた。


 しかし、どの問題も深く考えても答えなどわからないし、わかる必要もなさそうだった。


 いずれにせよ、任務は無事に完遂できた。

 目的を果たしたのだから、謎が謎のままだったとしてもザウターにはなんの支障もない。

 いくら悩んでも、やがて忘れてしまうにちがいなかった。


 前方をみつめる目がかすんだ。夜を徹して行動することなど日常茶飯事だったが、それ以上の疲労感があるような気がする。

 その原因ぐらいはつきとめたいと思ったが、背中に抱きつくようにしてしがみついていたティファナが、むにゃむにゃと寝言をつぶやいたのでやめることにした。


 太陽がのぼるまで、無心のまま飛んでいくのも悪くない。


 二人の盗賊をのせた巨大ふくろうはやがて、満月のシルエットに浮かびあがった。

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