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10 灰色の少年時代

 ベノワは開拓初期の〈星のふる丘の街〉において、移民の中流家庭で生まれた。


 父親は開拓事業に名乗りをあげた農夫で、母親は派遣されてきた看護師だった。

 父母ともに教育熱心というわけでもなく、とりたててめだったところのない家庭だった。


 しかし当のベノワは、幼少の頃から特に算術に秀でており、街内でも格段の成績をおさめていた。

 また、両親や牧師といった周囲の人物の顔色をうかがうことも上手だったベノワは、優等生としてあつかわれることに愉悦していた。


 みずからそれが狡猾であることもわかっていた。


 大人たちに「いい子だ」とほめられたり、ほかの子が「ベノワを見習え」と叱られているのをみるたびにほくそ笑んだ。同級生たちがどうして大人たちの機嫌をうかがわないのかがふしぎだった。

 

 叱られて体罰を受けたりするよりも、ほめられてご褒美をもらったりするほうがずっと得ではないかと睥睨していた。


 そのせいで多くの同級生たちはベノワとのあいだに壁をつくったり、遠巻きにしたり、時にいやがらせをしたりしたが、ベノワは目をふせて過ごした。

 

 自分のほうが優れているという陶酔感が、いつでもベノワの脳裏にはあって、ゆるがない牙城を築いていたからだった。


 事実、ベノワは的を射た勉強をこなし、同級生たちが身につけないような実用的で利便性のある知識を要領よく学んでいた。


 書物を読み解くための言語や数式を習得し、古代の歴史から類推して未来へと発展させていく知恵を空想した。日夜を問わず机に向かい、読書にいそしんだ。


 教会では体躯のたくましさにものをいわせるタイプの同級生たちに肉体的ないじめをうけたりもしたが、ベノワはそれをバランスだと考えていた。


 世の中のあらゆることにはバランスがあり、それをたもつためには多少の危険因子や障害はつきまとうものだと悟っていた。


 ベノワは、異質な存在としてのベノワを駆逐しようと固執している同級生たちのことをひそかに嘲笑っていた。

 だれかの足をひっぱることしかできない人間は、なにひとつ大成できずに終わるだろうと呪いの笑みをうかべた。


 ベノワはやがて、もっと遠くをみるようになった。幼い頃から書物で研究し、大人たちを観察し、技術を習得し、流れる雲をみつめ、草花の変化に目をとめて、物事の組成を想像し、知識と経験の均衡を念頭において、草原の国のかたすみではなく、もっと広大な未来をみつめるようになった。


 ほどなく、ベノワは〈星のふる丘の街〉をでて、カークランド辺境伯の伯爵都に移り住んだ。

 そこで雑貨屋を開店し、商業の世界に身を投じた。


 ベノワの機微のある商売はすぐに成果をあげた。その機転や需要を見抜くちからは、雑貨商として最大限の成功をもたらした。


 貴族たちの常連も増え、ベノワの名は伯爵の知るところともなった。

 心をゆるせる友人はできなかったが、観察眼にもとづく人当たりのよさや生来の器用さを活かしたベノワは、だれがみても好青年だと感じるような人物になった。


 やがて、評価が高まったベノワは王都に招聘された。

 王都でも、草原の国で築きあげた人脈を存分に使って商工会に入りこんだ。


 華々しい社交界にいてもベノワはもちまえの才能をいかんなく発揮した。

 名うての商人、貴族、著名人、発明家や学者、傭兵や魔法使いたちとも交流をもち、あらゆる客層のニーズに応える商売を展開していった。

 利益ははねあがり、私財は増えるいっぽうだった。


 同業者へのリスペクトを欠かさなかったため、ベノワの活動はあまり多くの敵はつくらなかった。

 一度のつまずきが追放を意味する消費の世界においても、ベノワはぬかりなく重大な失態はおかさなかった。

 だれもがおそれをなすような荒波をもベノワは難なくつきすすんでいった。


 ベノワの商人としての特色はフィールドワークにあった。

 ベノワは王都の傭兵団などとも契約し、旧跡の調査やあやしい森、モンスターの棲む洞窟などにも危険をおかして赴いた。

 一般の商人には、ほとんどみられない行動だった。


 恐怖を感じないわけではなかった。

 しかしベノワはふしぎと、自分が死ぬとは考えなかった。

 邪悪な巨鬼の洞穴に挑んだときも、無慈悲な妖精王の森にさまよいこんだときも、恐怖の中枢にある確固たる自信をもってベノワは生還した。


 自分が成功するのだという意思はどこかで確信だった。


 気づけば商工会だけではなく、建国の雄マルサリス王をはじめとする要人たちまでもがベノワに一目を置くようになっていた。

 ベノワは王直属の商工会の最高議会に理事として席を置くところまでのぼりつめた。


 そしてその功績によりベノワは、祖国のカークランド辺境伯からは、名誉貴族の称号を与えられることとなった。

 ベノワはそのとき33歳だった。


 だれもがベノワを賞賛の目でみた。

 順風満帆だった。ベノワもみずからの手腕に満足していた。

 幼少の頃にベノワを避けていた連中に、自分がまちがっていなかったことを証明できたような充足感だった。


 ベノワは強い光に照らされていると感じた。

 わが身に当てられる光の強さに、わが身が世界におよぼす影の長さに、思わず笑みをこぼさずにはいられなかった。

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