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「死ぬかもしれなかったんだぞ?! どんなに……どんなに、心配したか……っ!」
涙が混じって少し裏返った声でパーシーが息子を叱る。その声は広場に響いた。
感極まって、それ以上続けられなくなったのか、パーシーは眼鏡を外し、手のひらで目元を覆って肩を震わせる。
ぎゅっと拳を握り、目に涙を貯めたヒューゴが、なんとか絞り出したような声で「ごめんなさい」と口にした。サラが何も言わずに息子の肩を撫で、その形を確かめると強く抱いた。
「本当に、良かった……っ」
パーシーが妻と息子をまとめて抱き締める。震えるヒューゴの手が、両親の服にぎゅっと縋り付いた。
家族の無事の再会を遠巻きに見ているユーダレウスの腕には、ティニが抱えられていた。
「……っ、ご、ごぇんなさ! っひ! ぐ、ぅえっ」
謝ろうとしているのはなんとなくわかる。わかるが、酷くしゃくりあげるせいで、ひとつもまともな言葉になっていない。
舌でも噛まれたら厄介なので、一先ず息を落ち着かせようと、ユーダレウスはひくひくと痙攣する背中をさすってみた。すると、ティニはユーダレウスの首元にしがみついて、わっと赤ん坊のように泣き出した。
完全に逆効果だった。ユーダレウスは顔を顰める。顔のすぐ近くで発せられる、劈くような泣き声から少しでも耳を離そうと首を傾げてみるが、全く意味はなかった。
「あの、大丈夫でしょうか……まさか怪我とか」
耳に直接叩き込まれる声に、弟子を叱る気すら失せたユーダレウスが、遠くの虚空へと眼差しを向けていると、ティニの余りの泣き様にパーシーが心配そうに声をかけてきた。息子をきつく抱き締めていたサラも、抱き締められていたヒューゴも、火が付いたように泣き出したティニをぽかんと見上げていた。
彼らが知る限り、ティニは大人しく、幼い見かけのわりにはしっかりとした子供だった。それは間違っていない。だからこそ、これほど泣いているティニに、何か怪我でもあったのではないかと疑うことに無理はない。
ユーダレウスとしても、ティニがここまで感情を露わにして泣くことは予想していなかった。死の縁に立たされたせいで、例のあの晩の記憶が蘇ったのかと一瞬疑ったが、ティニの口から出てくるのは後悔と、謝罪らしき言葉だけだ。
「……問題ない」
苦々しくそう答えた声は、わあわあと泣くティニの声にかき消されずにすんだのだろうか。
少なくとも、ユーダレウスが何かしら言ったことはわかったのだろう。パーシーは、案じるような、微笑んだような、曖昧な顔で頷いた。
ユーダレウスはティニの脇に片手を入れ、身体を少し離して顔を見る。普段は人形のようなその顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
この顔を押し付けられていた自分の肩は、今、どんな有り様になっているのか。ユーダレウスは想像しかけて途中でやめた。
「怪我はないな?」
答えを促すように、息もつけないほどに激しくしゃくりあげているティニを軽く揺する。ティニは目元から溢れる涙を小さな手でこすりながら何度も頷いた。
「反省してるな?」
「っ、ごえ、んなさ……っ!」
また始まった壮絶な泣き顔が可笑しくて、ユーダレウスは思わず苦笑する。自分は、ティニが無事であったことに心から安堵しているのだと、笑って初めて気が付いた。
腕にかかる重さも、温もりも、呼吸する振動も。確かに生きている証だった。目に映るすべてが、触れるすべてが、ティニといういのちの形をしていた。
「……わかってんならいい」
これ以上こすらないように、ティニの手を掴んで目元から離してやると、ティニの顎先からは頬を伝ってきた涙がいくつも滴った。
露わになった顔を見て、本当に酷い顔だと、ユーダレウスはふっと息を零す。大きく揺すって抱き直すと、ティニは手を伸ばし、目の前の肩にしがみついて、また、声をあげて泣いた。
親に抱かれて安心した子供のようだった。




