22
バケツで水をかけているかのように、土砂降りの雨が雨戸をざぶざぶと叩いていた。時折、唸るような風がガタガタと窓枠を乱暴に揺する。
夜を迎えたこの街には、激しい嵐が到達していた。
「ししょう……」
既に寝る仕度を済ませたティニが不安気にユーダレウスを見る。同時に、稲光が走り、天窓がくっきりと光る。そう間を開けずにすさまじい雷鳴が鳴り響く。ティニは反射的に耳を塞いだ。
眉を下げ、恐る恐る耳から手を離したティニは、そのまま師に向けて両手を伸ばした。
しかし、ユーダレウスは厳しい顔つきで首を振る。
「守りの術はかかってる。大丈夫だからさっさと寝ろ」
「でも、こわいです……!」
頑張って堪えてはいるのだろうが、ティニの顔は既にほとんど泣いているようなものだ。
ユーダレウスは銀色の頭を乱暴に掻きむしると、やむなく弟子を抱き上げた。
弟子を甘やかさないという教育方針か、それとも二日連続の夜泣きの相手か。両方を天秤にかけた結果だった。
またしても稲妻が走り、ティニは上がりかけた悲鳴を飲み込んでユーダレウスの首元にしがみつく。震える背中をユーダレウスの手があやすように叩いた。
「し、ししょうは、平気なんですか?」
「あいにく、嵐の夜が嫌いじゃないんでな」
ティニの震えた感嘆の声を聴きながら、ユーダレウスは腕に抱いた小さな身体を抱え直す。
揺られているうちに寝てはくれないだろうかという淡い期待を持って、ユーダレウスはティニを抱いたまま部屋の中をうろうろと歩き出す。
しかし、雨戸を割らんばかりの強風や、大きな雷鳴が鳴る度にティニはびくりと身を竦めた。どうやら効果は薄そうだ。スン、と鼻をすすっているティニは、とてもじゃないが眠りそうにない。
雨戸に小石が打ち付けられているような雨音が響く。天窓からの景色も水の中にいるようだ。昔かけた防水の魔術がなければ、酷い雨漏りの被害を被っていただろう。
戦略を変えることにして、ユーダレウスはティニを抱いたままベッドに腰かける。
口ずさむのは、いつかどこかで聞きかじっただけの子守唄だ。曲の名前も知らない上、音も歌詞も曖昧だ。
それをじっと聴いていたティニが不思議なものを見るような顔つきになる。瞼がぱちぱちと上下し、長いまつ毛に引っかかっていた小さな滴が弾けた。
「……あの、師匠って、歌あんまり……」
「うるせぇ! 寝ろ!」
ユーダレウスはティニが言い終わる前に柔らかな頬をつまむと、さっさとティニをベッドに寝転がらせる。
「消したら暗いです! 暗いのこわいです!」と必死な様子で泣き言を言う弟子を無視して、ランプの明かりを消し、ティニのすぐ隣に身を横たえた。相変わらず騒々しい雷と轟音にいちいち怯えるティニの耳を、手を伸ばしてそっと塞ぐ。
大概のことを難なくこなす大魔術師・ユーダレウス。
そんな伝説的な男は、歌唱力に関してはどうにもいまいちなのであった。




