第33話「危険なペット!?」後編
「生物兵器の実験体・・・確かに、そう言ったんだな?」
数時間後。誠人達はシルフィのマンションに集められ、そこでキリアから昼間の出来事を聞かされていた。
「うん・・・あいつ、この子を無理やり奪おうとしたの。シルフィ達に助けられて、ここに逃げてきた・・・げほっ、ごほっ!」
誠人に言葉を返していたキリアが、突然咳き込み始めた。ミュウがその肩を抱き、背中をさすると、程無くして彼女の咳は止まった。
「このガス、かなり危険な代物ね・・・・・・その程度で済んでよかったわ、キリア」
キリアの血液を採取し、ルナスネークとGPブレスで血液から検出されたガスの毒素を調べていたソフィアが、キリアに声をかけた。
「もう少し吸い込んでいたら、内臓や神経に大きな悪影響を与え、最悪昏睡状態になってたかもしれない」
「昏睡状態?・・・誠人さん、もしかして・・・!」
先ほど聞かされた、人が昏睡状態で発見されたという話。それを思い出し、ミナミが誠人に視線を向けた。
「ああ・・・信じたくないけど、パクの仕業だろうな・・・」
誠人は一呼吸置くと、どこか元気のないパクを優しく抱きしめるキリアに言葉をかけた。
「キリア・・・すごく言いづらいことだけど、パクは危険な生き物だ。もう、これ以上は・・・」
「やだ」
誠人が自分を気遣ってくれていると、キリアは頭では十分理解していた。だが彼女の心は、到底その言葉を受け入れることはできなかった。
「だって・・・パクは何も悪くないもん!あいつらに無理やり改造されて、兵器の実験体にされちゃっただけだもん!さっきのガスだって、キリアを守ろうとして・・・」
「でも、そのガスがキリアちゃんを苦しめちゃってる。・・・キリアちゃんだけじゃない。パクのガスを吸い込んで、昏睡状態になっちゃった人達がいる。・・・もう、パクは君の手に負えない存在になっちゃったんだよ、キリアちゃん」
いつになく険しい表情で、ミュウはキリアにそう言った。キリアは動揺で目を見開きながら、叫ぶように言葉を返した。
「ミュウまで・・・ミュウまでそんなこと言うの!?・・・やだ。キリア、決めたもん。最後まで責任を持ってパクの面倒を見るって、そう決めたんだもん!」
「飼い主の責任は、ペットを世話したり、守ることだけじゃないんだよ。もしペットが人を傷つけた時、相応の落とし前をつける・・・それも、飼い主の責任なんだよ!」
あえて厳しい言葉を口にすると、ミュウはキリアの肩を掴んだ。
「一度責任を持つって決めたからには、辛いことだって受け入れなきゃ!・・・別に、DOE社にパクを返す必要なんてない。ガイルトン長官に連絡して、銀河警察に引き取ってもらう手だってある。その先がどうなるかは分からないけど、何もしないよりはよっぽどましだよ!」
ミュウの言葉は、キリアの胸に深く突き刺さった。やがて彼女は小さくうなずくと、ぐったりとしたパクの体を撫でながら言った。
「分かった。長官に連絡する。この子のことを話して、引き取ってもらえないか相談してみる」
その言葉に、ミュウ達はほっと胸をなでおろした。だが、その時だった。
「それは困る。その実験体は、私が預かろう」
突然、一同の背後から声が聞こえた。振り返ると、そこにはシャドウとなったファルコの姿があった。
「ファルコ!どうしてここに!?」
「実験体がガスを使ってくれたおかげで、噴霧装置のセンサーが常に反応していてね」
『スチームモード』
レイに得意げに答えると、シャドウはシャドウブラスターのダイヤルを切り替え、トリガーを引いた。すると周囲を銃口から放たれた煙が包み込み、誠人達がその煙を振り払った頃には、シャドウの姿はそこになかった。
「き・・・消えた!?」
「ファルコだけじゃない!キリアもいなくなってるわ!」
カグラとソフィアが相次いで叫び声を上げる中、キリアはシャドウに右手を掴まれ、マンションの外に連れ出されていた。シャドウは先ほどの煙で誠人達の目をくらませ、その間にキリアだけをさらったのだった。
「さあ、もうわがままはやめるんだ、お嬢様。実験体はこちらで引き取る。それで万事解決だ」
キリアはシャドウの手を払いのけると、高速移動で逃げようとした。だがガスに冒された体は思うように動かず、その場につんのめって転んでしまった。
「痛い・・・あ、パク!」
倒れこんだキリアが目にしたのは、目を赤く光らせながら宙に浮遊し、シャドウを睨みつけるパクの姿だった。一方のシャドウはそれを見ても、余裕の態度を崩さなかった。
「やめた方がいいぞ、ナンバー5。次にガスを使ったら、お前は恐らく死ぬことになる」
「え・・・?どういう、こと・・・?」
シャドウの言葉に衝撃を受けながらも、キリアは気丈に問いかけた。
「見て分からないかい?先ほどガスを使ってから、実験体は見るからに弱っている。恐らく短期間の間にガスを立て続けに使い、体力をほとんど使い果たしたのだろう。成長を促進させるために投与した薬も、どうやらその個体にとってはダメージになったようだ」
「そんな・・・・・・じゃあ、パクは・・・・・・」
「ああ。次にガスを使えば、恐らく死ぬ。・・・もっとも、これほど虚弱な体質なら、ガスを使わなくてもそのうち死ぬかもしれんがね」
そう冷たく言うと、シャドウはパクの方へ歩み寄った。それを見たキリアは持てる力の全てを振り絞り、シャドウに飛び掛かってその体に組み付いた。
「パク!逃げて、パク!」
必死にシャドウを食い止めようとしたキリアだったが、弱った体では十分な力を発揮できず、いとも簡単にシャドウに振り払われた。なおもその体に組み付こうとした彼女を、シャドウは容赦なく蹴飛ばした。
「困ったお嬢様だ・・・少し、寝ていたまえ」
『テイザーモード』
シャドウは銃のダイヤルを回して機能を切り替え、キリアに銃口を向けた。だがその時、パクが絞り出すような鳴き声を上げると、その口からガスを吐き出した。
「やめろ!」
シャドウは短く叫び声を上げると、シャドウブラスターから電気ショックの威力を付加した光弾をパクに向けて発射した。光弾はパクの体に命中し、パクは悲鳴のような声を上げながら、地面に落下した。
「パク・・・パク!」
キリアは悲痛な声で叫びながら、パクの方に駆け寄った。マンションを出た誠人達が彼女を見つけたのは、まさにその時であった。
「あ、あそこだ!」
キリアの姿をみとめた誠人達が、大急ぎで駆け寄ってくる。キリアは倒れこむパクの体を、そっと両手で抱き上げた。
「パク・・・・・・キリアのこと、守ろうとしてくれたんだよね・・・・・・?」
その言葉に応えるように、パクは表情を崩して小さく鳴いた。だが、それを最後にパクの顔は動かなくなり、程無くしてその呼吸も止まった。
「ごめんね・・・・・・守ってあげられなくて、本当にごめんね・・・・・・!」
パクの亡骸を抱きしめながら、キリアは人目もはばからずに涙を流した。ようやく彼女のもとに駆け付けた誠人達も、何が起きたのかを嫌でも理解させられた。
「他人を守るために己の命を投げ出すとは・・・・・・まったく不出来な実験体だ。兵器としても価値はなかったな」
パクの死を見届けたシャドウが、吐き捨てるように呟く。その言葉を耳にしたキリアが、涙に濡れた目を上げて彼を睨みつけた。
「パクは不出来なんかじゃない・・・・・・自分が死ぬって分かってて、それでもキリアのこと守ろうとしてくれた!この子に価値がないなんて・・・・・・あんたにそんなこと言う資格はない!」
キリアはパクの体を抱きしめながら、立ち上がってシャドウに怒りの声をぶつけた。誠人もGPドライバーV2を手に、シャドウと対峙する。
「僕も、今の言葉だけは許せない。あなたの言葉は・・・命に対する冒涜だ!」
誠人はドライバーを腰に装着すると、ホルダーからサンライズのカードを取り出した。そして待機状態にしたドライバーに、カードを勢いよく挿し込む。
「アーマー・オン!」
『Read Complete.アーマーインサンライズ!サンライズ!』
「やれやれ・・・君達とやり合うつもりはなかったが」
イリスV2に変身した誠人を見てため息をつくと、シャドウは一枚のカードを懐から取り出した。
「そちらがそう来るなら仕方ない」
『マガ・ユナイト、ブラッディシャーク』
シャドウが銃にカードを読み込ませると、赤い体のサメ型ロボット・ブラッディシャークが現れた。ブラッディシャークはサメの頭部を模したような姿に変形し、シャドウの右腕に手甲として装着された。
『トリニティガントレット』
一方のイリスV2も、左腕にトリニティガントレットを装着した。彼がガントレットのカードホルダーを展開しようとしたその時、キリアがその右腕を掴んだ。
「お兄ちゃん・・・キリアも行かせて!」
「え?・・・体、大丈夫か?」
「・・・まだ万全じゃないけど、あいつに一発お見舞いしなきゃ気が済まない!」
そう答えたキリアの目には、怒りと共に確かな決意が宿っていた。誠人はそれを酌み取ると、ホルダーから二枚のカードを手に取った。
「なら行くぞ!キリア、ミュウ!」
「「うん!」」
『ライトサイド、フォレスト!レフトサイド、ゴールド!オールセット!』
「トリニティ・ユナイト!」
『ユナイト、スタート!』
キリアとミュウ、二人と合体するカードをガントレットにセットし、イリスV2はガントレットのボタンを押した。同時にキリアとミュウの体が鎧と化し、イリスV2の両腕に合体する。
『完成!フォレストゴールド!』
「プラモデラッシャー!」
イリスV2はハンドアックス、ダガーの両モードのプラモデラッシャーを召還し、その両手に握りしめた。それを見たシャドウは右手に装着したブラッディシャークの口から、無数の鰭型のカッターを放つ。
イリスV2はその攻撃を高速移動で回避し、その死角から奇襲を仕掛けた。だがシャドウはブラッディシャークに搭載されたロレンチーニ器官を使って正確に敵の位置を捕捉し、その攻撃を受け止めてみせた。
「高速移動とは・・・やるじゃないか」
「そっちこそ、こっちの攻撃を受け止めるなんて・・・!」
イリスV2は飛びずさってシャドウとの距離を取り、アローモードに切り替えたプラモデラッシャーから光の矢を放った。シャドウは左手に握りしめたシャドウブラスターを連射し、その矢をことごとく射ち落とす。
「なんという・・・あれが、シャドウの力・・・」
その戦いぶりを目にしたシルフィが、思わず声を震わせて呟く。シャドウは一旦ブラッディシャークとの合体を解くと、右手に銃を、左手にカードを握り締めた。
「生憎、これ以上遊んではいられなくてね。君達の相手は、また今度ゆっくりと・・・」
『デフィート』
シャドウはカードを銃に読み込ませ、必殺技の準備にかかった。それを見たイリスV2も、ガントレットのボタンを押して必殺技を発動させる。
『トリニティチャージ、スタート!』
『逃がさない・・・あんただけは、絶対許さない!』
キリアが怒りの声を上げると同時に、ガントレットからのエネルギーの供給が完了した。イリスV2は武器を投げ捨てると、再度ガントレットのボタンを押した。
『サンライズ、フォレスト、ゴールド、トリニティフィニッシュ!』
『ブラッディブレイク』
イリスV2とほぼ同時に銃のトリガーを引いたシャドウが、再度右手に装着したブラッディシャークの口から赤い水流を放った。イリスV2はその水流に飛び蹴りをぶつけ、押し返す形で徐々に敵との距離を詰めていったが、水流を突破する頃にはシャドウの姿は消え失せていた。
「くっ・・・逃げたか・・・!」
変身を解除した誠人が、悔しそうに声を漏らす。その一方で、彼との合体が解除されたキリアは、パクの亡骸を抱きながらその場にうずくまった。
「パク・・・パク・・・!」
彼女の金色の瞳から零れ落ちる涙が、パクの亡骸をぬらしていく。むせび泣く親友の肩を、ミュウが無言でそっと抱きしめるのだった。
☆☆☆
その日の夕方。キリアは虹崎家の庭の一角に、パクの亡骸を埋葬した。パクが埋められた土の前には、パクの好物だったリンゴや煮干しが供えられた。
「パク・・・きっと、キリアちゃんに会えてよかったって思ってるよ」
ミュウが言葉をかけると、キリアは悲しそうな笑顔で小さくうなずいた。彼女は涙で潤んだ目を、誠人の方に向ける。
「ありがとう、お兄ちゃん。キリアの気持ち、酌んでくれて」
「いいんだ。僕も、あの言葉だけは許せなかった。人であろうと、それ以外の生き物であろうと、その命の価値や使い方を馬鹿にする権利は、誰にもないはずだ」
誠人の言葉に、キリアは力強くうなずいた。彼女はパクの墓に目を向けると、心の中で最愛のペットに礼を告げた。
(ありがとう、パク・・・・・・キリアに、幸せな思い出をくれて・・・・・・)
☆☆☆
とある椿事が巻き起こったのは、その日の夜のことであった。
その日、レイはいつも通りGPブレスで宇宙各地のニュースを斜め読みし、その後眠りにつこうとしていた。だが彼女が布団に横たわろうとしたその時、彼女のGPブレスに緊急通信が入った。
「将軍・・・!はい、こちら・・・」
「360号、これは何だ?」
レイの言葉を遮ってそう尋ねたのは、以前より事あるごとに彼女が連絡を取っていた、オケアノス星の軍人であった。彼はレイのGPブレスに、ある映像を送りつけた。
「こ・・・これは・・・」
その映像は、イリスV2がトリニティガントレットを使い、襲ってきた賞金稼ぎドロイドを倒した時のものであった。レイの動揺をつくように、将軍と呼ばれた男はさらに重ねて問い詰めた。
「イリスV2が使っている、この装備は一体何だ?ネビュラカンパニーが販売しているユナイトガントレットに酷似しているが・・・君はその存在を隠していたな?」
「そ・・・それは・・・・・・」
二つのユナイトガントレットを結合してトリニティガントレットを生み出した、誠人の謎の力。その真相が分かるまで、母星にもトリニティガントレットの情報は伏せておこうと考えていたレイだったが、その考えが浅はかだったと彼女は思い知らされた。
「360号、君の行いは我らオケアノスへの反逆行為だ。本来なら死罪を言い渡すところだが・・・君にいま一度チャンスをやろう」
「・・・!チャンス・・・?」
男の言葉に、うつむいていたレイは素早く顔を上げた。それを予期していたかのように、男は小さく、そして冷たい笑みを浮かべるのだった。
第33話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです




