第32話「影、繚乱」後編
一方。誠人達はイリスピーダーを駆り、エルダー達が指定した公園に向かっていた。
「誠人お坊ちゃま!」
ふと聞こえてきた声に視線を向けると、デュアルスピーダーを駆るシルフィがすぐ真横に来ていた。そして後ろからは、自分達と同じくイリスピーダーに跨るレイとミュウ、そしてソフィアの姿が見えた。
「とりあえず、全員集めておいた。取引がスムーズにいくとは、どうしても思えないから」
「レイさん・・・ありがとうございます!」
「坊や、たとえ解毒剤が確保できなかったとしても、絶対に自分を責めないで。あなたは・・・何も悪くないんだから・・・!」
「・・・!ありがとうございます、ソフィアさん・・・!」
刑事達全員に感謝の思いを抱きながら、誠人は取引現場に到着した。そこには既に、シブリングスの四人が宇宙船と共に待ち受けていた。
「来たな、虹崎誠人。ガスの被害者を救うために、自らの身を投げ出すか」
「ああ、来たさ。・・・さあ、解毒剤を渡してもらおうか!」
誠人が叫びかけると、エルダーは背後に振り返って小首をかしげた。すると一番下の妹であるライラが、緑色の液体が入った瓶を手に誠人達の方へ向かう。
「解毒剤と身柄の交換は、同時に行うわ。さあ、こちらにいらっしゃい」
シュリの言葉に小さくうなずくと、誠人はエルダー達の方へ向かい始める。そして誠人とライラがすれ違うかと思われたその時、二人の周囲をカラスのようなロボットが飛び回り始めた。
「きゃっ!何これ!?」
ロボットはその黄色い目で、追い払おうとするライラが持つ瓶をじっと見つめた。そしてライラに襲い掛かってその足で瓶を掴み、二人のもとから離れてある人物の方へと飛んでいく。
「あ・・・あなたは!」
「やあ、虹崎君。同じ日に二度も会うとは、面白い偶然もあるものだ」
ロボットが飛んでいった先にいたのは、先ほど別れたばかりのファルコであった。ロボットはファルコを見てカラスのような鳴き声を上げると、足でつかんだ瓶を彼の手の中に落とし、目にした瓶の中身をデータとしてファルコに見せた。
「やはりな。ネビュラカンパニーのエージェントが、約束を素直に守るはずもない」
「え・・・?どういうことですか、それ!?」
ファルコの言葉を聞いたミュウが、身を乗り出すようにして尋ねる。ファルコはそれに答えるように、瓶を足元の地面に落とした。
「あ・・・何を!?」
短く叫んだ誠人の目の前で、瓶は地面に落ちて粉々に割れ、中の液体が地面に生えた草に染み込んだ。するとその草からシュウシュウと嫌な音が聞こえたと思うと、草から煙が立ち上ってあっという間に枯れてしまった。
「偽物だ。奴らが君達に、本当に解毒剤を渡すとでも?まったく、とんだお人よしだよ、君達は」
ファルコの言葉に唇を噛みながらも、誠人は素早く飛びずさってシブリングスと距離を取り、ミナミ達と合流した。一方のライラも兄達に合流し、誠人達と対峙する。
「貴様・・・何者だ?なぜ、私達の邪魔を・・・?」
「私はDOE社の利益保護部門長、ファルコ・レン・ザブール。今君達に、その少年を確保されるわけにはいかなくてね」
「あの男・・・DOE社の人間だったのか・・・!」
誠人をあごで示したファルコの言葉に、カグラが思わず声を上げる。一方のシブリングス達は怒りに満ちた目で、ファルコを睨み据えた。
「僕達の計画をよくも・・・許さない・・・!」
「お兄様、お姉様、あいつやっちゃおうよ」
「ええ・・・邪魔者には、死を・・・!」
『セット』
シュリとエルダーはユナイトガントレットを腕に装着し、手にした黒いカードを装填した。そしてほぼ同時に、ガントレットのボタンを押す。
「「融合」」
『ユナイト、スタート』
ザックとライラの体が鎧と化し、それぞれエルダーとシュリの体を覆いつくす。一方のファルコは銃を手にしながら、不敵な笑みを浮かべた。
「ちょうどいい。シャドウアーマーの実験台に、君達を使わせてもらおう」
ファルコは懐から一枚のカードを取り出すと、銃身のカードリーダーにスライドさせた。すると銃から待機音が鳴り響き、ファルコは銃のトリガーを引く。
「アーマー・オン」
銃から機械音が鳴り響いたと思うと、その銃口から煙のようなものが噴出してファルコの体を覆いつくした。そして煙は漆黒の鎧と化し、ファルコの体を覆いつくす。
『インストール、シャドウアーマー』
まがまがしい電子音声と共に、ファルコは鎧の装着を完了した。彼は変形銃・シャドウブラスターを手に、その場にいる者全員に宣言する。
「私はエージェント・シャドウ。これより、我が社の利益を守るための、戦闘を開始する」
そう言うが早いか、シャドウと化したファルコはシャドウブラスターから光弾を連射し、エルダーとシュリに攻撃を仕掛けた。シュリが反撃のために放った銃弾を回避すると、シャドウはエルダーのもとにジャンプし、シャドウブラスターのトリガー付近のボタンを押す。
『ブレード』
禍々しい電子音声と共に、銃口の下に収納されていた一本の刃が展開された。シャドウは銃の先の刃を振るってエルダーに接近戦を挑むも、ザックの力を利用したバリアに弾かれ、攻撃が当たらない。
「なるほど、これは厄介な能力だ」
忌々しげに吐き捨てたシャドウに、シュリが執拗に銃弾を浴びせかける。その攻撃をかわして敵と距離を取ると、シャドウは誠人に叫びかけた。
「この際だ、一旦手を組もうじゃないか。奴らを共に倒してくれれば、すぐにでもガスの解毒剤を渡そう」
「え・・・?持ってるんですか、解毒剤を!?」
「我が社の科学力をなめないでもらいたい。敵対企業が作ったガスの解毒剤くらい、既に用意してある」
シュリの攻撃をかわしながら、シャドウは一本の小瓶を手にして誠人に示した。彼が小瓶を空に放り投げると、空を飛んでいたカラス型ロボット・ダーククロウがその両足で小瓶を掴み、猛スピードでその場を飛び去る。
「お坊ちゃま、いかがなさいます?」
GPドライバーV2を腰に装着しながら、シルフィが誠人に問いかけた。
「・・・ここは、彼を助けます!シルフィさん、ディアナさん、力を貸してください!」
誠人もGPドライバーV2を装着し、ホルダーからサンライズのカードを取り出した。シルフィは大きくうなずくと、フュージョントリガーを起動させる。
『フュージョントリガー、スタートアップ』
「「アーマー・オン!」」
『Read Complete.アーマーインサンライズ!サンライズ!』
『フュージョン、スタート!二心一体、ライトニングハリケーン!』
『行くぜ!』
誠人はイリスV2に、シルフィはディアナと共にライトニングハリケーンのデュアルに変身し、それぞれの武器を振るってシュリに攻撃を仕掛ける。
一方で、シャドウはザックのバリアを纏うエルダーに手こずっていた。だが、エルダーが剣を突き出す瞬間、ファルコは彼がザックのバリアを解いていることに気づいた。
(ほう・・・バリアがあると攻撃できないのか・・・ならば・・・)
繰り出された剣の一撃をかわすと、シャドウは銃から光弾を連射してエルダーを牽制した。そして一枚のカードを手に取り、シャドウブラスターに読み込ませる。
『マガ・ユナイト、ポイズンコブラ』
禍々しい電子音声と共に、派手なオレンジ色のコブラのようなロボットが現れた。するとそのロボット・ポイズンコブラは一瞬で剣のような姿になり、シャドウの左腕に装着された。
「あいつ・・・ロボットと合体した!」
その様子を見たキリアが、驚きの声を上げる。シャドウはシャドウブラスターから伸ばした刃と左腕の剣で、エルダーに猛攻を仕掛ける。
「はっ!」
バリアでその攻撃をしのぎながら、エルダーが手にした剣でシャドウに反撃を仕掛けた。しかしシャドウはその攻撃をかわして相手の懐に入り込むと、バリアを展開するよりも早く敵の鎧に左腕の剣を突き立て、その切っ先から何かを流し込んだ。
『う・・・うわああああああっ!』
「ザック!?」
鎧と化しているザックが、苦悶の叫び声をあげる。すぐさまシャドウと距離を取ったエルダーに、ザックが弱々しい声をかける。
『兄さん・・・苦しい・・・力が出ない・・・!』
「何!?・・・貴様、何をした!?」
困惑して剣を突き付けるエルダーに、シャドウは左腕の剣を撫でながら説明した。
「この刃には、猛毒が仕込まれていてね。その毒が君の弟の体を蝕み、そして力をも奪っている・・・!」
シャドウは一気にエルダーとの距離を詰め、左腕の剣と銃から伸びた刃の二刀流で再度攻撃を仕掛けた。バリアでそれをしのごうとしたエルダーだったが、毒に冒されたザックは力を発揮できず、バリアは展開されなかった。
「はっ!」
「『うわあああああああっ!』」
シャドウの剣が直撃し、エルダーは鎧から火花を上げて大きく吹き飛んだ。それを目にしたシュリが、思わずそちらに視線を向ける。
『お兄様!』
「ザック!」
『よそ見してんじゃねえ!』
そんなシュリ達に、デュアルがガトリングモードのガトリングアックスで攻撃を仕掛ける。シュリは一瞬で我に返るとライラの能力を使い、デュアルの狙いを見定めて高速の弾丸を回避していく。
「くっ・・・早いとこ決めないと!」
『トリニティガントレット』
イリスV2は戦況を打開するため、トリニティガントレットを装着した。そしてカードホルダーから二枚のカードを取り出し、ガントレットにセットする。
『ライトサイド、スプラッシュ!レフトサイド、ゴールド!オールセット!』
「レイさん、キリア、頼みます!」
『ユナイト、スタート!』
「分かった!」
「任せて!」
ガントレットのボタンを押すと同時に、例とキリアの体が鎧と化した。そしてイリスV2の両腕に、鎧と化した二人が合体する。
「トリニティ・ユナイト!」
『完成!スプラッシュゴールド!』
二人と合体したイリスV2は、デュアルの攻撃から逃げるシュリの隙をつき、高速移動でタックルを仕掛けて敵の体を宙へと打ち上げた。そして右手にマグナムモードのプラモデラッシャー、左手にガンモードのライズガンセイバーを握り締め、頭上のシュリを狙って一斉に銃弾を発射した。
「あああああっ!」
『きゃああああっ!』
放たれた全弾が命中し、シュリは大ダメージを受けながら地面に叩きつけられた。イリスV2とデュアルはシュリを挟み込み、同時に必殺技を発動させる。
『マックスチャージ!Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
『トリニティチャージ、スタート!』
デュアルはガトリングアックスの威力を上げ、その状態で必殺技を発動させた。一方のイリスV2は紅、青、金の三色のエネルギーを、全てプラモデラッシャーの銃口にチャージさせる。
『サンライズ、スプラッシュ、ゴールド!トリニティフィニッシュ!』
まず引き金を引いたのは、イリスV2であった。プラモデラッシャーから発射された三色の弾丸が、金色の残像を残すほどの速さでシュリに迫る。
『お姉様、もっと速く!』
「そんなこと言われても・・・無理よ!」
必死に逃げようとするシュリだったが、猛スピードで迫る弾丸はあっという間に彼女に追いつき、その体に直撃して大きく吹き飛ばした。そして吹き飛ばされたその先では、デュアルがアックスガトリングの狙いを定めて待ち構えていた。
『ライトニングマックスエンド!』
「はあああああああああっ!」
『おりゃあああああああっ!』
デュアルの裂帛の叫びと共に放たれた強化された弾丸が、シュリ、そして鎧と化したライラの体を次々と貫いた。二人は弾丸の雨をかわすすべもなく、断末魔の叫びと共に爆散した。
「さて、こちらも決めるか」
それを見たシャドウが、エルダーを剣で斬り裂いて距離を開く。そして一旦ポイズンコブラの合体を解除すると、一枚のカードをシャドウブラスターに読み込ませた。
『デフィート』
待機音が鳴り始めると共に、再びシャドウの左腕にポイズンコブラが合体した。エルダーがよろよろと立ち上がると同時に、シャドウは銃の引き金を引く。
『ポイズンブレイク』
シャドウは大きくジャンプすると、エルダーに向けて毒々しい輝きを放つ左腕の剣を突き出し、その体を刺し貫いた。貫かれたエルダー、そして鎧と化したザックは剣先から猛毒を流し込まれ、その毒で体がジュクジュクと不快な音をたてながら溶け崩れていき、数秒後には跡形もなく消滅したのだった。
☆☆☆
それから、数分後。誠人達の姿は、柚音達が運び込まれた病院にあった。
「大丈夫・・・なんだよね?」
緑色の液体が入った注射器を、医者が柚音の腕に打った。その様子を見たキリアが、不安そうにファルコに尋ねる。
「もし効果がなければ、私を逮捕でも何でもすればいい。私は私のできることをしたまでだ」
ファルコが表情を変えずに答えたその時、眠っていた柚音の目が開いた。最初は虚ろだったその目に次第に輝きが戻り、いつもと変わらぬ表情で不思議そうに病室を見つめている。
「あれ?ここ、病院?・・・って、都築君!?なんでここに!?」
「よかった・・・これで、星南も他の人達も助かる・・・!」
目を覚ました柚音を見て、誠人は全身の力が抜けるほど安堵した。彼はファルコに視線を向けると、深々と頭を下げた。
「本当に、ありがとうございます。あなたの解毒剤がなかったら、皆を助けられなかった」
先ほど医者が柚音に注射した、緑色の液体。それはファルコから与えられた、ベルデガスの解毒剤であった。
「ふっ・・・君達には先ほど助けられたからね。これで貸し借りは無くなった」
そう言うと、ファルコは鋭い視線を誠人達に向けた。
「だが、覚えておいてくれたまえ。私の目的は、DOE社の利益を守ること。もし君達がその障害になるようなら、私は君達を敵と見なす」
釘を刺すように言い残すと、ファルコはその場を後にした。その後ろ姿を見送りながら、ソフィアが誠人に声をかける。
「何だったのかしら、あの男」
「分かりません・・・でも、これだけは言えます」
去り行くファルコの背中を見つめながら、誠人は声を震わせて続けた。
「あの人は味方なら心強いけど・・・敵に回すと、きっと恐ろしい相手になる・・・・・・」
その言葉が聞こえていたかのように、ファルコはふっと小さな笑みを浮かべた。誠人とファルコ、二人の深い因縁は、まだ始まったばかりであった。
第32話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです




