第31話「父と子の再会」後編
「え?GR-13 が?」
数分後。なんとかなんとかロボット群の攻撃をしのいだミナミが、レイ達に急を告げた。
「そうなんです!十機くらいは倒したんですけど、まだ数十機が誠人さんを捜してます。しかも、誠人さんはお父様を連れていて・・・」
「分かった。すぐ、キリアとそっちに向かう。カグラ達にも連絡を取って、そっちに向かってもらうから」
レイは通信を打ち切ると、キリアとシルフィに声をかけた。
「行くよ、キリア。シルフィ達はここにいて」
「はい。お二人とも、どうかお気をつけて」
シルフィに見送られながら、レイ達が現場に向かい始める。それと時を同じくして、誠人と宗介はレストランの一つに身を隠していた。
「びっくりだよ・・・お前が、あんな姿になるとはな・・・」
先ほど目にしたイリスV2の姿を思い出し、宗介が思わず声を上げた。
「まあ、僕にもいろいろあってね・・・・・・それより、さっきの話の続き、聞かせてもらえないかな?」
「な・・・!お前、この状況で・・・」
「こんな状況だからこそだよ。・・・もしかしたら、冗談じゃなくこれが最後の機会かもしれない。だから・・・お願いだ、父さん」
この状況下でも離婚のわけを尋ねる誠人に、宗介は小さくため息をついた。だが彼も、もう真実を告げることから逃げるつもりはなかった。
「俺と茜が出会ったのは、高校生の時だった。たまたま同じクラスで、たまたま席が隣になった。だが話してみたら意外と気が合って、すぐに俺達は付き合い始めた。・・・互いの夢なんかも語ったりしたな。あいつは冒険家、俺は自分の会社を持つ社長。お互い馬鹿げた夢だったが、それでも俺達は本気だった」
昔を懐かしむように微笑みながら、宗介は言葉を続けた。
「茜がお前を身ごもったのは、駆け出しの冒険家になってすぐのことだった。その流れで俺達は結婚、まあデキ婚ってやつさ。それ以来、茜はぱたりと冒険に出なくなった。お前や俺のために、自分の夢を諦めちまったんだ」
冒険に出たいという思いに蓋をして、育児やパートに専念する茜の姿。それを思い出すだけで、宗介は身につまされるような気持ちがした。
「離婚を切り出したのは俺だった。これ以上、夢を諦めたあいつの姿を見続けるのは、俺にとって辛かった。散々揉めた挙句、俺達は別々の道を歩むことになった。だが誤算だったのは、あいつがお前の親権を取ると言って譲らないことだった。お前を一人で育てるとなれば、今まで以上に夢から遠ざかるのは目に見えてた。それでもあいつ、俺にこう言いやがった。『私は自分の夢も、誠人の養育も、両方やり遂げてみせる』ってな。俺はそれ以上、あいつを説得することはできなかった。お前の親権をあいつに譲って、俺は家を出た。・・・けど、それは結果として正解だったみてえだ。お前は立派に育ったし、あいつも自分の夢を叶えた。俺はそれが・・・・・・たまらなく嬉しいんだ」
宗介の表情に、言葉に、嘘は一切感じられなかった。ようやく知った真実に、誠人は胸の中の父への思いが、徐々に変わっていくのを感じていた。
「父さんは・・・母さんのために家を出たんだね。母さんに・・・また夢を追いかけてほしくて・・・」
「ああ・・・だが、結果としてお前だけじゃなく、茜にも辛い思いさせちまった。せめてもの罪滅ぼしと思って、お前の誕生日に家に行った。記念すべきこの遊園地の最初の客は、お前と、茜にしたかった。だからあの時、チケットは二枚用意しといた。茜がこんな時まで海外にいるとは思わなかったが、それでも俺は嬉しかった。あいつが冒険家として生きてるって、改めて実感できたからな」
一瞬心から嬉しそうな笑みを浮かべると、宗介は表情を引き締めて息子に向き直り、両手をついて頭を下げた。
「この9年間、俺のわがままで、辛い思いをさせたな・・・・・・すまなかった、誠人・・・!」
嘘偽りのない、父の心からの言葉。それを確かに受け止めると、誠人は父の肩を抱いた。
「いいんだ・・・・・・父さんの本当の気持ち、やっと分かったから・・・・・・」
「誠人・・・」
息子の言葉に宗介が顔を上げた、次の瞬間。レストランの窓ガラスが大きな音を立てて割れ、その割れ目から無数のGR-13ドロイドが侵入してきた。
「くっ・・・もう嗅ぎつけたか!」
誠人はGPブレスを構えて臨戦態勢に入ったが、敵の数は圧倒的だった。あっという間に取り囲まれ、せめて父だけでも守ろうと、敵の前に立とうとしたその時――
「・・・!あれは・・・!」
突然、敵の包囲網の一角が崩れた。視線を凝らしてみると、ドロイドにランドタイガーとアクアドルフィン、そしてゴールデンホークといったプラモデロイドが襲い掛かり、その態勢を崩していた。
「お待たせしました、誠人さん!お父様!」
「お兄ちゃんにそのお父さん、助けに来たよ!」
「ミナミ!キリアに・・・レイさんも!」
駆けつけたレイ達と合流したミナミが、レストランに雪崩れ込んでGPブレスから光弾を放ち、ドロイドを次々と倒してゆく。さらに別の方向からは、二本の剣を手にしたカグラとミュウ、そしてソフィアが姿を見せた。
「あたし達もいるよ、少年!」
「皆さん・・・来てくれたんですね!?」
思わぬ敵の出現に、ドロイドの一体が警告音のようなアラームを発した。するとドロイド達は潮が引くように、一斉にその場から退避し始める。
「逃がしてたまるか!アーマー・オン!」
『Read Complete.アーマーインサンライズ!サンライズ!』
誠人はGPドライバーV2にカードを装填し、イリスV2へと変身した。そして父と瞬時視線を交わしてうなずき合うと、ミナミ達と共に敵の追撃に向かう。
『ガンモード』
空を飛んで逃げる敵を、イリスV2はガンモードのライズガンセイバーで次々と射ち落とした。だが敵の大多数はその攻撃範囲から外れ、遊園地の上空に浮かぶ宇宙船の方へと逃げていく。
「・・・っ!坊や、あれ!」
宇宙船の近くまで退避すると、ドロイド達はくるりとこちらに向き直った。それと同時に宇宙船の数か所に設置されたゲートが開き、そこから無数の小型戦闘機型ドロイドが出撃し、イリスV2達に銃撃を浴びせかけた。
「んな!?スカイドロイドまで!」
銃弾の雨あられを必死に回避しながら、ミナミが驚きの声を上げた。そこに追い打ちをかけるように逃げていたドロイドも反撃を開始し、さらに宇宙船に設置された大砲から強力な光弾が発射され、イリスV2達を執拗に襲う。
「くっ・・・なら、これでどうだ!?」
『トリニティガントレット』
イリスV2は左腕にトリニティガントレットを装着し、カードホルダーを開いた。そしてその中から二枚のカードを選び、ガントレットにセットする。
『ライトサイド、ムーンライト!』
「ソフィアさん!」
「ええ!」
『レフトサイド、フォレスト!』
「ミュウ!」
「うん!」
『オールセット!』
イリスV2の声に応え、ミュウとソフィアがその両隣りに立つ。それを確かめると、イリスV2はガントレット中央のボタンを押した。
「トリニティ・ユナイト!」
『ユナイト、スタート!』
ソフィアとミュウの体が鎧へと変わり、イリスV2の両腕に装着されてゆく。ものの数秒で、二人とイリスV2の合体は完了した。
『完成!ムーンライトフォレスト!』
「プラモデラッシャー!」
イリスV2はアローモードのプラモデラッシャーを召還すると、そこにグリーンビートルを合体させて威力を底上げさせ、空中に向けて光の矢を放った。
『秘技・裂光矢』
ソフィアが声を上げた次の瞬間、一本だった光の矢が無数の矢に分裂し、広範囲の敵を射落とした。さらにもう一本イリスV2が矢を放つと、矢は再び分裂し、さらに自らの意思を持つかのように自由自在に動き回り、敵を次々と破壊していく。
「す・・・すごい・・・」
キリアが呆然と声を上げる頃には、敵は宇宙船のみとなっていた。なおも攻撃を続ける宇宙船を、ソフィアが操るルナスネークがその赤い目でじっと見つめ、船内の様子を透視してイリスV2にその情報を送る。
『自動操縦・・・いいえ、あの宇宙船もドロイドよ!』
『なら遠慮はいりませんね?誠人君、とどめを刺しちゃおう!』
「ああ!」
『トリニティチャージ、スタート!』
イリスV2がガントレットのボタンを押すと、紅、黄、緑の三色に光るエネルギーがその両腕を通じ、プラモデラッシャーに蓄積されてゆく。その力が最大まで溜まると、イリスV2は再度ガントレットのボタンを押した。
『サンライズ、ムーンライト、フォレスト!トリニティフィニッシュ!』
イリスV2が弓の弦を引く動作を取ると、三色に輝く巨大な光の矢が充填された。そしてトリガーを引くと同時に放たれた光の矢が無数の矢に分裂し、その全てに射抜かれた宇宙船型ドロイドの体は、空中で爆発して消滅するのだった。
☆☆☆
それから、数分後。夕焼けが射しこむ遊園地の出口で、誠人と宗介が真正面から向かい合っていた。
「茜に、よろしく言っといてくれ。・・・それと、一つ伝言を頼む。・・・『お前の選んだ道、最後まで突き進め』、ってな」
「ああ・・・絶対伝える。今日は・・・・・・ありがとう、父さん」
誠人の言葉に微笑みながらうなずくと、宗介は息子の体を強く抱きしめた。誠人も父の体を、力強く抱きしめる。
「お前も・・・お前だけの道を行け。俺はそれを・・・心の底から応援してるぞ・・・!」
「そう・・・あの人が、そんなことを・・・」
その夜。テレビ電話で誠人から全てを聞いた茜が、ふっとため息をつくように言った。
「父さん・・・母さんが冒険家になれたこと、心の底から喜んでたよ。・・・直接言えばいいのにね。母さんのこと、今でも愛してるんだから」
息子のその言葉に、茜は思わずくすっと笑った。
「そういう人なのよ、宗介さんは。奥手で、恥ずかしがりやで、そのくせプライドだけは高くて・・・・・・けど、自分以上に他人のことを思いやれる、素晴らしい人なのよ・・・・・・」
そう口にした茜の目から、一筋の涙が流れた。それに気づくと彼女は涙を拭い、陽気な表情を作って言った。
「やだ!今頃になって、あの人のことで泣いちゃうなんて。・・・・・・じゃあ誠人君、また連絡するわね。受験勉強、頑張ってね」
「うん・・・またね、母さん」
「うん・・・また・・・」
通話を終えた茜の目の前から、誠人の顔が消えた。すると堰を切ったように、茜の目から大粒の涙が零れ始めた。
――父さん・・・母さんが冒険家になれたこと、心の底から喜んでたよ――
「ありがとう・・・ありがとう・・・宗介さん・・・・・・!」
その頃。DOE社の研究室で、ファルコは科学者に預けていたブラスター銃を受け取っていた。
「お待たせいたしました。ついに、完成しましたよ」
受け取った銃を、ファルコは優しい手つきで撫でた。彼は満足そうな笑みを浮かべながら、手の中の銃を見つめる。
「ようやくだ・・・・・・これで、我が社の未来は盤石となった・・・・・・」
「ああ、それと、ユナイト血清に使われている血液ですが、誰のものかがが分かりましたよ」
科学者のその言葉に、ファルコはさっと真顔になって視線を彼の方に向けた。
「・・・!本当ですか?」
「ええ。データベースに一件、合致する情報がありました。登録ナンバー・1138567、地球人女性、名前は・・・・・・虹崎茜」
そう言うと、科学者はタブレット型端末に一人の地球人女性の情報を表示した。その情報は紛れもなく、虹崎茜のものであった。
「これは・・・・・・そうか、そういうことか・・・!」
茜の情報を見たファルコが、様々な感情が入り混じった顔で笑みを浮かべた。情報を見せた科学者は生涯、この時のファルコの笑顔の理由を知ることはなかった。
第31話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです。




