第30話「トリニティ・ユナイト」後編
翌朝。窓から射しこむ太陽の光に、誠人とミナミは目を覚ました。
「おはよう、ミナミ」
「おはようございます、誠人さん。・・・なんだか今でも信じられません。誠人さんと、一緒に同じ部屋で寝たなんて・・・」
恥ずかしそうに頬を赤らめて言うミナミに、誠人の表情はほころんだ。ミナミが昨晩からつきっきりで守ってくれたおかげで、誠人の心にも大分余裕が戻ってきている。
「いいにおいがする・・・シルフィさんが作った朝ごはんだな」
「そういえば、昨日の夜から何も食べてませんよね?じゃあ、今日の朝ごはんはきっと、いつも以上に美味しいですよ」
「はは。違いない」
そんな会話を交わしながら、誠人とミナミはダイニングキッチンに向かった。そこにはシルフィやレイ、キリアだけでなく、カグラとミュウ、そしてソフィアの姿もある。皆昨晩から、誠人の身に何かあった時のために、この家に泊まり込んでいたのだった。
「皆さん・・・おはようございます」
「おはよう、β。・・・よく眠れたみたいね、よかった」
一同を代表して、レイが誠人に声をかけた。その言葉にうなずくと、誠人はミナミと共に食卓につく。
「さあ皆様、召し上がってくださいませ。一日の始まりは朝食から、でございます」
「ええ・・・いただきます」
誠人は手を合わせると、朝食にありつき始めた。先ほどのミナミの言葉通り、昨晩何も食べていないせいか、ことのほか朝食が美味く感じられた。
「よかった・・・誠人君、元気を取り戻したみたい」
「うん、キリアも安心した」
そんな彼の食べっぷりを見て、隣同士に座るミュウとキリアが互いに耳打ちし合う。同じく安堵したように彼を見つめていたレイが、頃合いを見て誠人とミナミに話しかける。
「昨日の夜、長官から連絡があった。銀河警察本部はネビュラカンパニーを正式に犯罪組織と定め、場合によってはその構成員の抹殺も許可する、って」
「つまり、心置きなくあいつらと戦えるようになった、ってわけさ。・・・もっとも今は、あのユナイトガントレットへの対処法を、早急に考えなきゃだけど」
レイに続いて声を上げたカグラが、少し表情を歪ませた。そんな彼女に――いや、その場にいる全員に、誠人はある考えを口にした。
「そのことなんですけど、僕あることを思いついたんです。・・・これは、あくまで仮定の話なんですけど・・・」
と、その時だった。全員のGPブレスから、警告音のような物が鳴り響いた。
「・・・!アクアドルフィンからよ、みんな気をつけて!」
レイが叫ぶように言った次の瞬間、キッチンの窓ガラスが割れ、無数の苦無が誠人達を目掛けて飛んできた。辛うじてその攻撃を回避した誠人達だったが、休む間もなく今度は死神忍団が、割れた窓からキッチンに侵入してきた。
「来ましたね、死神忍団!」
「ええ、参りましたとも。・・・皆、必ずやあの少年を捕らえるのです。他は殺しても構いません!」
ミナミの言葉に応えると、忍者達を率いるリヤが誠人を指さして部下に命令した。すると彼女の背後に控えていた忍者達が、一斉に誠人達に襲い掛かる。
「応戦開始!」
誠人達もただやられるだけではなく、レイの掛け声を合図にGPブレスや各自の能力を使って反撃を試みる。だが相手の数の多さと屋内の狭さを活かした戦術に、誠人達は徐々に追い詰められていく。
『セット』
「融合」
『ユナイト、スタート』
そんな誠人達に追い打ちをかけるように、リヤはユナイトガントレットを使用して部下の一人と合体した。さらに今回は彼女だけでなく、彼女の左右を守る男女の部下も、同様にガントレットを身に着けている。
「「融合」」
『ユナイト、スタート』
二人の部下もガントレットを使用し、仲間と合体して誠人達に攻撃を仕掛けた。その攻撃をかわして必死に反撃しながら、ソフィアが誠人に叫びかける。
「坊や、さっき何か思いついたって言ってたわよね!?」
「ええ・・・こうなったら、実践するしかない!アーマー・オン!」
『アーマーインサンライズ!サンライズ!』
誠人はイリスV2になり、ライズガンセイバーを振るいながらリヤに戦いを挑んだ。それを見たシルフィも、GPドライバーV2とユナイトガントレットを両手に持つ。
「私達も行くわよ、ディアナ!」
『ああ!』
『フュージョントリガー、スタートアップ』
シルフィはドライバーを腰に巻き、フュージョントリガーをセットした。そしてホルダーから二枚のカードを取り出し、同時にドライバーに挿し込む。
「アーマー・オン!」
『二心一体、ライトニングハリケーン!』
ライトニングハリケーンのデュアルがイリスV2に加勢し、リヤ達に挑みかかる。その戦いはもはや虹崎家の中だけでは収まらず、彼らは壁や窓に穴を開けて外へと飛び出し、さらに激しい戦いを繰り広げた。
「ふふふ・・・はあっ!」
だが、やはりイリスV2やデュアルよりも、リヤの方が上手だった。彼女は両手に握りしめた刀を勢いよく振るい、イリスV2とデュアルをまとめて斬り裂いた。
さらにそこに、ユナイトガントレットを使用する二人の部下が追い打ちをかけた。ガントレットの力で強化された二人の力はすさまじく、リヤとの連携でイリスV2とデュアルを攻撃し、その体を大きく吹き飛ばした。
「うわああああああああっ!」
『うあっ!・・・おいボウズ、何か考えがあるんだろ!?』
痛む体を必死に起こしながら、ディアナがイリスV2に向かって叫びかける。すると彼から返ってきたのは、予想すらしていない言葉であった。
「ええ・・・あのガントレットを、奪います!」
「え?・・・お坊ちゃま!」
「はああああああああああっ!」
シルフィの制止も聞かず、イリスV2は体から真紅の輝きを放った。それにリヤ達が怯む隙に、彼はリヤのもとへ駆け寄り、その左腕から力ずくでガントレットを引きはがした。
「何!?ああっ!」
ガントレットを奪われたことで、リヤと部下の合体が解除された。イリスV2はガントレットからカードを抜き取り、自身の左腕に装着した。
「まさか・・・お坊ちゃまが思いつかれたのは・・・」
「ええ・・・イリスV2の状態で、このガントレットを使えれば・・・僕は元々ユナイト持ち、血清がなくても、このまま使うことができるかも・・・!」
短絡的な考えではあったが、誠人にはこれしか思いつかなかった。彼は懐からグランドのカードを取り出すと、ガントレットに挿し込んだが――
「くっ・・・やっぱり駄目か!」
ガントレットからは、うんともすんとも反応がなかった。そうこうしている間に、リヤは部下の一人からガントレットを受け取り、再びカードを装填した。
『セット』
「融合・・・!」
『ユナイト、スタート』
再び部下と合体したリヤが、目にもとまらぬ速さでイリスV2に攻撃を仕掛ける。なすすべもなく攻撃を受け続け、グロッキーとなったイリスV2を見て、リヤは必殺技を発動させる。
『パワーチャージ、スタート』
リヤの両手に握られた刀に、ガントレットからエネルギーが充填されてゆく。そしてそれが最大まで溜まると、リヤは再びガントレットのボタンを押した。
『コンクルージョンアタック』
「はあああああっ!!」
リヤが勢いよく振り払った刀から、白い衝撃波が放たれる。デュアルがアックスガトリングを盾にしてイリスV2を守ろうとしたが、衝撃波の威力にイリスV2と共に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた拍子に変身が解除されてしまう。
「あ・・・!誠人さん!」
するとそこに、ようやく屋内の敵を退けたミナミ達がやってきた。そんな彼女達に視線を向けると、リヤは再び刀から衝撃波を放った。
「やめろ!」
イリスV2が敵の意図を悟って声を上げたが、もう遅かった。リヤの刀から放たれた衝撃波はミナミ達の足元に炸裂し、彼女達の体を吹き飛ばした。
「ミナミ!皆!」
ミナミ達の体は地面に叩きつけられ、受けたダメージの大きさに立ち上がれる者はいないと思われた。だがミナミは気力と体力を振り絞って立ち上がると、イリスV2を庇うようにリヤ達の前に立ちはだかり、GPブレスを突き付けた。
「ほう・・・まだ立てるだけの力がありますか」
「もちろんです・・・誠人さんを守るのが、私の使命ですから・・・!」
文字通り満身創痍の状態であるにもかかわらず、ミナミは強い意志と共に言い切った。そんな彼女に、イリスV2が必死に叫びかける。
「ミナミ・・・駄目だ、逃げろ!」
「逃げません!」
リヤ達を睨みつけたまま、ミナミは倒れこむイリスV2に言葉をかけた。
「私、言いましたよね?たとえ最後の一人になったとしても、絶対あなたを守るって!だから・・・・・・私、絶対逃げたりなんかしません!」
「ミナミ・・・」
覚悟を決めたミナミの言葉が、誠人の胸を打った。だが次の瞬間、リヤが刀を握り直してミナミに言い放った。
「茶番はそこまでです。邪魔するのなら・・・死になさい、お嬢さん・・・!」
リヤが刀を手に、目にもとまらぬ速さでミナミに迫る。GPブレスの狙いを定めようとするミナミだったが、既に彼女の頭部にリヤが振り下ろす刀が迫っていた。
「・・・!」
――もう、間に合わない。ミナミが死を覚悟した、その時であった。
「やめろおおおおおおおおおおっ!」
叫び声を上げたイリスV2の体から、突如オレンジ色の光が噴き上がった。光の眩さにその場にいた者はことごとく目を覆い、ミナミを倒そうとしていたリヤはその輝きに気圧されてふらふらと後ずさる。
するとその光がリヤの左腕のガントレットを包み込み、次の瞬間ガントレットはリヤの腕から外れて宙に浮遊した。さらにイリスV2の腕にはめられたガントレットもそれに続いて宙に浮かび上がり、さらに彼の体からイリスバックル用の合体カード6枚が浮かび上がり、二つのガントレットを取り囲むように空中で回り始める。
「な・・・何が起きてるの・・・?」
目の前の光景に、ミュウが呆気にとられて声を上げる。すると光の中で二つのガントレットが一つに合わさって新たな形となり、6枚のカードをその中に取り込んでイリスV2の手の中に戻ってきた。
『トリニティガントレット』
「・・・!これは・・・」
二つのカード挿入口を持つ新たなガントレットの起動音に、誠人は思わず声を上げた。だがその使い方を、なぜか彼は触っただけで概ね理解していた。
「馬鹿な・・・二つのガントレットが、一つに・・・?」
「ああ、僕もびっくりだ。だけど、この力でお前を倒す。僕が・・・いや、僕達が!」
イリスV2はリヤに言葉を返すと、ガントレットを左腕に装着した。そしてガントレットのボタンを押してカードホルダーを展開すると、その中に納まっていたグランドとゴールドのカードを引き抜き、左右の挿入口にそれぞれセットする。
『ライトサイド、ゴールド!レフトサイド、グランド!オールセット!』
電子音声が鳴り終わると、代わりに新たな待機音声が流れ始める。誠人は一呼吸おいて決意を固めると、ガントレット中央のボタンを押した。
「トリニティ・ユナイト!」
『ユナイト、スタート!』
電子音声が鳴り響いた次の瞬間、ミナミとキリアの体が鎧となってイリスV2のもとへ飛んでいった。そしてキリアが変化した鎧が右腕に、ミナミが変化した鎧が左腕に装着された。
『完成!ゴールドグランド!』
『な・・・何ですか、これえええええええっ!?』
『よ・・・よく分かんないけど、もしかして、キリアとミナミが一緒に合体してる?』
初めてのイリスV2との合体に、ミナミとキリアが困惑の声を上げる。誠人も驚いてはいたが、それでも目の前の敵を倒すために武器を握り直す。
「そういうことらしいな。とりあえず、今はあいつを倒すぞ、二人とも!」
『うん!』
『はい!』
そんなイリスV2の目の前では、リヤが部下から受け取ったユナイトガントレットで再度鎧を身に纏っていた。彼女は憤りに目を血走らせ、両手に刀を握り締める。
「おのれ・・・はっ!」
彼女は目にもとまらぬ素早さで、一気にイリスV2に迫った。だがその手の刀が届くと思われた瞬間、イリスV2の体は金色の残光と共に消え失せた。
「!?」
『こっちだよ!』
背後から聞こえたキリアの声に、リヤがぎょっとして振り向く。するといつの間にか背後を取っていたイリスV2がハンドアックスモードのプラモデラッシャーを振るい、リヤの体を斬り裂いた。
『どんどん行きますよ!』
今度はミナミの声がイリスV2から響き、プラモデラッシャーをソードモードに変えてリヤに挑みかかる。リヤは攻撃を受け止めようとしたがミナミの怒涛の攻めに追い込まれ、バランスを崩したところを大振りの一撃で斬り裂かれた。
「うあああっ!・・・馬鹿な・・・複数の人間と、同時に合体するなんて・・・!」
これまでの常識では考えられない事態に、リヤが声を震わせた。その一方で、イリスV2の体からどこか場違いな口論が聞こえてくる。
『ちょっとミナミ、もうちょっと向こう行ってよ、キツイって・・・』
『あんたこそ向こうに行きなさい!キツイのはお互い様ですよ!』
「ああもう、喧嘩するなって。とにかく今は、あいつを倒すことに集中するぞ・・・!」
イリスV2は右手にライズガンセイバー、左手にソードモードのプラモデラッシャーを握り締め、一気にリヤとの距離を詰めた。そして二本の剣を巧みに振るい、リヤの体を続けざまに斬り裂いて吹き飛ばした。
「ああああああっ!!・・・こうなったら・・・!」
『パワーチャージ、スタート』
グロッキーになったリヤはガントレットのボタンを押し、刀にエネルギーを溜め始めた。それを見た誠人達も、必殺技の準備をする。
「だったらこっちも・・・行くぞ、二人とも」
『はい!』
『うん!』
『トリニティチャージ、スタート!』
ガントレットのボタンを押すと、紅、金、黒の三つの色のエネルギーが、イリスV2の全身に流れ始めた。そして両者のエネルギーはほぼ同時に最大まで溜まり、それぞれのガントレットのボタンが押される。
『コンクルージョンアタック』
リヤの両手の刀から、白い衝撃波がイリスV2に向かって放たれた。だがイリスV2は高速移動でそれをかわし、リヤの死角から強烈なパンチをお見舞いしてその体を宙へと打ち上げた。
『サンライズ、ゴールド、グランド!トリニティフィニッシュ!』
イリスV2は高速移動しながら、打ち上げたリヤに向かって様々な方向から飛び蹴りを連続で浴びせ続けた。そして大きくジャンプしてリヤの上空から、とどめの右足蹴りを放つ。
「『『はああああああああっ!!』』」
誠人、ミナミ、そしてキリアが声と呼吸を合わせ、強烈な一撃をリヤに叩き込んだ。キックを受けたリヤの体は大きく吹き飛び、その体から小さな爆発が続けざまに起こる。
「そんな・・・この、私が・・・あああああああああああっ!!」
最後まで己の負けを認められないまま、リヤは大爆発を起こして跡形もなく消滅した。その炎に照らされながら、誠人達は勝利の余韻を噛みしめるのだった。
☆☆☆
「ありがとう、ミナミ。僕のこと、身を捨ててまで守ってくれて」
数分後。変身を解除した誠人が、ミナミの目をまっすぐ見つめながら礼を言った。
「いえ・・・それが仕事ですから。それに・・・」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、目を伏せながらミナミが言った。
「好きな人を守りたいって思ったら、体と心が動いちゃいました。・・・無茶ですよね、私って・・・」
その言葉に微笑みを浮かべると、誠人はミナミの体を優しく抱きしめた。驚きの表情を浮かべるミナミに、誠人が再び感謝の言葉を口にする。
「その無茶に、僕はまた救われた。・・・本当にありがとう、ミナミ」
「誠人さん・・・」
それ以上は何も言わず、ミナミは誠人の体を抱き返した。そんな二人の様子を、仲間の刑事達は笑顔で見つめ続ける。
「相変わらず、見せつけてくれる二人だよ。ねえ、レイ?」
「え?・・・う、うん・・・」
カグラからかけられた言葉に、レイはしどろもどろな声で応えた。彼女は先ほどからずっと、誠人が見せた異能の力のことを考え続けていた。
(あの力・・・ただのユナイトの力じゃない。他者との複数合体だけじゃなく、物質同士を融合させるなんて・・・・・・)
誠人は二つのユナイトガントレットを融合させ、全く新しい物質であるトリニティガントレットを生み出した。さらにそのガントレットの力とはいえ、二人の人間と同時に合体してみせた。レイが知る限り、そのような力を持つユナイト持ちは、この宇宙には前例がないはずだ。
(β・・・あなた、何者なの?あなたの力は・・・普通のユナイトとは違うというの・・・・・・?)
「マガ・ユナイト。とうとうその領域に達したか、虹崎誠人」
同時刻。宇宙船の一室で、ガモンが小さな笑みと共に呟いた。
「これでいい。私の計画も、いよいよ本格的に動き出す。宇宙は一つに・・・そして、全ての生命も・・・・・・」
第30話、いかがだったでしょうか。
もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです




