第3話「炎の双剣」後編
「β、ミナミは!?」
数十分後。誠人から連絡を受けたレイが、ミナミの運ばれた病院の手術室前に駆け込んできた。
「今、手術中です。・・・医者は命に別状はないと言ってましたけど、とにかく雷が落ちた腕の火傷がひどくて・・・」
その時、手術室のドアが開き、中から手術を担当した医師が姿を見せた。
「先生、ミナミは・・・?」
「幸いにも、雷に打たれたにしては火傷の程度は軽いです。・・・少し時間はかかるでしょうが、数週間から一か月ほどで、元の状態に戻ることでしょう」
「そうですか・・・よかった・・・」
医師の言葉にほっとすると、まるで力が抜けたように誠人は近くのベンチに座り込んだ。レイも一瞬安堵の表情を浮かべたが、すぐに表情を険しくして誠人に問いかけた。
「β、あの赤毛女はどこ?」
「そうか・・・ボル・ドナーは、ライトニングボールを作っていたのか・・・」
同時刻。病院の屋上で、カグラはGPブレスを通じて事のあらましをジョージに告げていた。
「ええ。ボル・ドナーはすでに地球で二つ、ライトニングボールを使用しています。幸いにも然したる被害は出ていませんが、これ以上あの男を放置するのは非常に危険です。ブライドの悲劇を繰り返さないためにも」
その言葉を受け、ブレスレットの画面に映るジョージが神妙な表情になった。だがそれも一瞬のこと、彼は画面に目を戻して決断を下す。
「承知した。ではこの瞬間より、ボル・ドナーをレッドレベルの指名手配犯とする。DOE社にも連絡を取り、ライトニングボールの取り扱いの即時中止を命令しよう」
「長官・・・ありがとうございます!」
「うむ。カグラ、これまで以上に注意して、任務に当たるように。以上だ」
その言葉を最後に、通信は打ち切られた。それと同時に、屋上にレイと誠人が姿を現す。
「レイ・・・?なんであんたが・・・」
と、その時であった。レイが怒りに顔を歪ませて大股でカグラに詰め寄ると、彼女の頬を音高く平手打ちした。
「レイさん・・・!?」
「なんてザマなの・・・?あなたがついていながら、ミナミを負傷させるなんて!」
その言葉に一瞬酢を飲んだような表情を浮かべたカグラだったが、すぐに大声で反論した。
「う・・・うるさい!端から協力する気もなかった奴に、どうこう言われる筋合いはないね!」
「・・・!何を・・・!」
「ああもう、やめてください二人とも!今内輪もめしてる場合じゃないはずでしょ!?」
間に割って入って大声を上げた誠人に、ヒートアップしていた二人は我に返った。二人はお互いから視線を背けると、相手の体に背を向ける。
「・・・βの言う通り。カグラ、長官に事の次第を報告してたんでしょ?・・・何て言ってた?」
カグラに背を向けたままレイが問いかける。するとカグラも、レイに一切の視線を向けずに言葉を返した。
「ボル・ドナーは、レッドレベルの指名手配に格上げ。DOE社には、ライトニングボールの取り扱い中止を求めるって・・・」
「DOE社・・・?さっきもその名前聞きましたけど、それって一体何なんですか?」
「全宇宙でも五本の指に入る、巨大軍事企業だよ」
カグラはそう答えると、GPブレスを操作して様々な映像を空中に浮かび上がらせた。その多くは、DOE社の商品である兵器のプロモーション映像だった。
「金さえ払えばどんな犯罪者にだって武器を提供する、悪徳企業としても知られている。β、一昨日あなたを襲ったガルバー星人バリィが、ロボット兵士を使っていたでしょ?そのロボット・・・ソルジャーロイドも、この会社の商品の一つ」
「そしてつい一か月前、このDOE社からとんでもない新商品が発売された。それがさっきボル・ドナーが使った、ライトニングボールだ」
カグラがGPブレスを操作すると、新しい映像が浮かび上がる。その映像には、先ほどボル・ドナーが使ったものと全く同じ球体が、生み出した雷で街を破壊する様子が記録されていた。
「この商品が発売される二週間ほど前、ブライドという小さな星からSOSが発信された。たまたま近くにいたあたしが到着した時には、もうすべてが終わっていた。・・・破壊された街並み、感電死した住民達の死骸・・・・・・そしてそこには、わずかながら機械の部品のような物が残っていた。ブライドでは扱われていなかったはずのその機械は、やがてある兵器の材料の一つと分かった。・・・その兵器こそが・・・」
「ライトニングボールだった・・・というわけね?」
レイの問いかけに、カグラは重々しくうなずいた。
「そう。そしてブライドが壊滅する前後に、星にボル・ドナーが出入りしていたことが分かった。・・・あたしは長官に願い出て、ボル・ドナーを追い続けた。奴こそがブライド壊滅の真相の鍵を握ってるって、そう刑事としての勘が告げていた。・・・でもまさか、奴がライトニングボールを生み出した張本人だとは思わなかった。そしてあの口ぶり・・・絶対に奴が、ブライドを壊滅させた張本人に決まってる・・・!」
カグラは震える拳を血がにじむほど握り締めると、強い決意を込めた目で誠人を見つめた。
「少年、あんたのユナイトの力を貸して。・・・悔しいけど、あたし一人の力じゃ、あいつには勝てないって十分思い知らされた。ミナミが戦えない以上、あんたの力を借りるしかない。だから・・・!」
声を様々な感情で震わせながら、カグラは誠人に懇願した。その思いを受け止めると、誠人はカグラの肩に手を置いた。
「分かりました。僕なんかの力でよければ、いくらでも」
「・・・!少年・・・」
目を潤ませながらカグラが見上げると、誠人は強い決意と共に力強くうなずいた。それを見たカグラは懐からブランクカードを取り出し、GPブレスにスキャンさせる。
『Authentication start、please wait a moment.』
「でも、ボル・ドナーの居場所は分かるの?倒すと言っても居場所が分からなきゃ、追跡することだって・・・」
「甘く見るなレイ。奴にはあたしのマグマスコーピオンが張り付いてる。その信号を辿っていけば、奴に辿り着ける・・・!」
『Authentication complete.Allow combat as Iris.』
カグラがレイに言葉を返すと同時に、カードの認証が完了した。『FLAME』と刻まれた赤い炎のカードを、誠人はカグラの手から受け取る。
「よし・・・行きましょう、カグラさん」
「ああ。・・・レイ、あんたの力は借りないよ。これはあたしの失態・・・あたし自身でけじめをつける」
「ええ、そうね。・・・まあ、せいぜい死なないように頑張って」
最後まで、レイとカグラが互いに向き合うことはなかった。カグラは誠人と共に病院を去ると、ボル・ドナーの追跡を始めるのだった。
☆☆☆
それから、数十分後。都内某所の発電所の前に、ボル・ドナーが姿を現した。
「さて、次はここの電気を・・・ん?」
その時、彼の携帯端末から着信音が鳴り響いた。
「もしもし・・・ああ、俺だ。ライトニングボールの生成は順調で・・・え?もう契約は打ち切り?金輪際関わりは持たない?そんな馬鹿な、待ってくれよ!俺はあんたらに多大な利益を・・・もしもし!?もしもし!?」
一方的に切られた電話に苛立ちながら、ボル・ドナーは手にした携帯端末を投げ捨てた。
「くそっ。一体どうなってやがんだ・・・?」
「要するに、あんたは全ての運から見放されたってことよ!」
その時、爆音と共に一台のイリスピーダーが、ボル・ドナーの前に現れた。その運転手のヘルメットからは、燃える火のように赤い髪がなびいていた。
「お前らは・・・!」
ヘルメットを外した運転手の正体は、銀河警察の刑事であるカグラであった。後部座席に乗せていた誠人と共にバイクから降りると、彼女は怒りに満ちたまなざしでボル・ドナーを睨んだ。
「どうやら年貢の納め時みたいね!ボル・ドナー、今すぐ武装を解除して、投降しなさい!」
「へっ、ふざけんな。ライトニングボールはまだたくさんある。DOE社が駄目なら、別の会社に売り込むまでだ!」
そう叫ぶと同時に、ボル・ドナーは懐に隠し持っていたライトニングボールを空中に投げた。
「そう来ると思った!」
『Start Up、Land Tiger』
誠人はミナミから渡されていた予備のカードで、ランドタイガーを召還した。ランドタイガーは空中に勢い良くジャンプするとライトニングボールに噛みつき、それが効力を発揮する前に噛み砕いて破壊した。
「今のは抵抗と見なしていいと思いますよ、カグラさん」
「はっ、言われるまでもない。・・・覚悟しなボル・ドナー、あんたは今やレッドレベルの手配犯だ!」
そう言うが早いか、カグラは手にした二本の剣でボル・ドナーに斬りかかった。その攻撃をかわしながら、ボル・ドナーが苦々しそうにつぶやく。
「ちっ、DOE社が俺を切ったのはそれが理由か・・・・・・だが、俺が何をしたってんだ?もしブライド星のことを言ってるんなら、あんなのは大した罪じゃねえさ!」
「ッ・・・!」
ボル・ドナーは体内に蓄えた電気を角に回し、近距離からの電気攻撃を試みた。それを悟ったカグラが大きく後退し、その攻撃を回避する。
「大した罪じゃない、だって・・・?やっぱり、あの星の壊滅はあんたの仕業・・・?」
「ああそうさ。あの星には、ライトニングボールの実験台になってもらった。どうせあの星は、人口の急激な減少でもう2、30年すれば滅びる星だったんだ。だったらこれから巨額の利益をもたらす兵器の実験台になった方が、よっぽど有意義というものさ!」
悪びれもせず言い放ったボル・ドナーに、とうとうカグラの怒りは頂点に達した。
「ふざけんじゃないよ!たとえ滅びる運命だったとしても、そこに住む人達の命を奪う権利なんて、あんたにはこれっぽっちもありゃしないんだよ!」
カグラはその目に怒りの炎を宿らせると、ボル・ドナーに剣を突き付けた。
「あんただけは、あたしの手で倒してみせる。・・・覚悟しな、この金の亡者!」
「フン。おもしろい。やれるもんならやってみやがれ!」
ボル・ドナーが指をパチンと弾くと、周囲に潜んでいたソルジャーロイドが一斉にその姿を現し、カグラ達を包囲した。誠人はそれに慌てることなく、イリスバックルを取り出して腰に装着する。
「行きますよ・・・カグラさん!」
「ああ・・・頼んだよ、少年!」
誠人はバックルのボタンを押して待機状態にすると、ホルダーから『FLAME』のカードを取り出した。そしてそのカードを、勢いよくバックルの中央にかざす。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete』
電子音声が響くと同時に、カグラの体が赤い鎧へと変化した。そして誠人の体を包むイリスの強化スーツの上から装着され、彼を新たな姿へと進化させる。
『燃え盛る業火!フレイムアーマー!』
灼熱の炎を思わせる赤い鎧が装着され、緑色となった複眼が一瞬光り輝いた。新たな姿になったイリスが、目の前の空間に両手を伸ばす。
『プラモデラッシャー!』
カグラが呼びかけると、バックルから巨大なプラモデルが召喚され、一瞬で二本の剣へと合体を果たした。イリスはそれを両手で握り締めると、周囲の敵に向かって走り出す。
『おおりゃああああああああああああああっ!!』
気合十分なカグラの叫びと共に、イリスの両手に握られた剣が勢い良く振り払われた。その剣の切れ味は抜群で、立ちはだかるソルジャーロイドの体を次々と切り裂き、破壊していく。
「ちっ・・・なら、これでどうだ!?」
ボル・ドナーは体に蓄えた電気を、角から光線として放った。だがイリスは二本の剣で光線を受け止めて一気に前進し、ボル・ドナーとの距離を詰めてその角に剣を振り下ろし、へし折った。
「うわああああああっ!!俺の・・・俺の角が・・・!」
痛みに悶え、よろめくボル・ドナー。それを見て、カグラはここが勝機と確信した。
『決めるよ、少年!』
「はい!」
イリスは右手の剣を天高く放り投げると、素早くベルトのホルダーからフィニッシュカードを取り出し、左手の剣の認証部分にスキャンさせた。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
剣から電子音声が流れ、それと同時に振ってきた剣をイリスは右腕でキャッチした。両手の剣に炎のエネルギーが最大までたまった瞬間、イリスは左手の剣のトリガーを押した。
『フレイムストライク!』
イリスはボル・ドナーのもとに駆け寄ると、両手の剣でその体を連続で切り裂いた。ボル・ドナーは断末魔の叫びと共に大爆発を起こし、地上から跡形もなく消滅するのだった。
☆☆☆
「そうですか・・・ボル・ドナーは、カグラと誠人さんが・・・」
翌日。ミナミの見舞いに病院を訪れた誠人が、カグラと共に戦果を報告した。
「ああ。少年のおかげで、ブライドの人達の無念を晴らすことができた。・・・本当にありがとう、少年」
「いえ・・・僕は、僕にできることをやったまでですから」
照れ臭そうにカグラに微笑みかける誠人。それを見て、ベッドの上のミナミが妬いたように声を上げる。
「あ、ちょっとカグラ、何誠人さんとの距離縮めてるんですか?こないだも言いましたけど、誠人さんに手を出したら承知しないんですからね」
「はは、それはない。あたしはミナミと違って、護衛対象に恋なんてしないから」
「あ・・・そういえば、カグラさんも今後は僕の護衛をしてくれるんでしたよね?・・・もしかして、ミナミ達と一緒にうちに住む気ですか?」
「いや、そこまで迷惑をかける気はないよ。住む場所はもう決まってるし、今後はそこを拠点にして、少年を守ることにする」
「そう、それは何よりね」
その時、誠人達とは別にミナミの見舞いにやって来たレイが、牽制するようにカグラに声をかけた。
「あなたと一緒に住んでたら、その暑苦しさでおかしくなりそうだから」
「ふん。こっちだってあんたと一緒に住んでたら、冷酷人間になっちゃいそうだよ、オケアノス人」
「やめてください二人とも。喧嘩なら病院の外でお願いします」
年下の誠人にたしなめられ、レイとカグラはバツが悪そうにお互いを睨みつけた。そしてほぼ同じタイミングで、相手から顔を背ける。
「こりゃまた、前途多難な予感がしますね、誠人さん」
「ああ、まったくだよ・・・」
苦笑いしながらかけられたミナミの言葉に、誠人はため息交じりに答えるのだった。
第3話、いかがでしたでしょうか。
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