第29話「動乱」前編
数日後。誠人達の通う高校は、中間テストの最終日を迎えていた。
「は~あ・・・ヤマをかけてたとこ、ぜーんぶ外れちゃった・・・」
「私もです・・・やっぱり、日頃の積み重ねなんですね、テストって・・・」
最初のテストを終え、柚音とミナミががっくりと机に突っ伏す。一方の誠人は早くもノートを開き、次のテストの最後の対策に励んでいた。
「すっごーい・・・誠ちゃん、もう気持ち切り替えちゃって・・・」
「まあ、終わったテストにいつまでも落ち込んでられないからね。僕達も、最後のあがきといきますか」
星南が柚音の言葉に応えるように言った、まさにその時。誠人の目に映るノートの文字が、突如として見たこともない文字に変わった。
「!?ミナミ、これ・・・」
「え?ノートがどうかしたんですか?」
「いや、この文字だよ、この文字!さっきまで普通だったのに・・・」
「ええっ?・・・誠人さん、これのどこが変なんです?」
ノートを覗き込んだミナミが、怪訝そうな顔で誠人を見つめる。彼女が見る限り、そこに書かれているのは確かに誠人が書いた文字だった。
「まさか・・・分からないのか、君には?」
「そりゃあ、書いてあることの半分は理解できませんけど、ちゃんと地球の文字ですし、日本語ですよ?・・・誠人さん、もしかして勉強漬けで疲れちゃってます?」
ミナミは、この異変に気づいていない。そう確信した誠人はGPブレスをノートに向け、搭載されている翻訳機でその宇宙文字を読み解いてみた。
「『今すぐ屋上に来い』?くっ・・・こんな時に!」
「あ、誠人さん!」
急に駆け出した誠人を、ミナミは慌てて追いかけた。誠人は息を切らしながら、1分足らずで屋上に辿り着いた。
「誰かいるのか?・・・いるんだったら、出てきてくれ」
誠人は周囲に視線を凝らしてみたが、人の気配は感じられなかった。ようやく追いついたミナミが、彼の手を引きながら声をかける。
「どうしたんですか、誠人さん!?テスト始まっちゃいますよ!」
「分かってる。でも、確かにここに呼び出されて・・・」
と、その時。風を切る鋭い音と共に、一本の刃物が誠人の方へ飛んできた。刃物は誠人の首筋をかすめ、彼の後ろの壁に勢い良く突き刺さる。
「・・・!誰だ!?どこにいる!?」
見えない敵に誠人が呼びかけたその時、黒服を纏った集団が次々と屋上に姿を見せた。彼らは皆一様に頭からつま先まで黒い衣装を身に纏い、顔は目元を除いて布で隠している。
「に・・・忍者!?」
「わああああっ!本物の忍者ですよ、誠人さん!私、一度でいいから見てみたかったんです!」
突然現れた謎の集団に、ミナミが目を輝かせながら子供のように叫び声を上げた。
「そんなわけあるか!忍者なんて何百年も前にいなくなったし、大体あんな姿はしていない!」
「その通り。我らは銀河の彼方・惑星ソンブラーで修業を積んできた、死神忍団なり!」
黒服の集団の一人が、誠人の疑問に答えるように声を発する。彼は立っていた塔屋の上から屋上の床に飛び降り、誠人達と対峙する。
「死神忍団・・・?さては、誠人さんのお命を・・・!?」
「いかにも。覚悟せよ!はあっ!」
リーダー格の男が手にした苦無のような武器を、誠人達に向かって投げつけた。それを誠人達がかわすと同時に、男の背後に控えていた敵が一斉に襲い掛かってきた。
「くっ・・・速い!」
誠人とミナミはGPブレスを戦闘モードに切り替えて敵を撃とうとしたが、死神忍団と名乗るだけあって敵は素早い身のこなしと超人的な身体能力を披露して誠人達の攻撃をかわしてゆく。やがて数人の敵があっという間にミナミを取り囲み、鎖を投げつけて彼女の四肢に絡ませ、その身動きを完全に封じてしまった。
「しまった!・・・頼む、ミナミを助けてくれ!」
『Start Up、Land Tiger』
誠人はランドタイガーを召還し、ミナミを助けさせようとした。だがそれを見た敵の一人が苦無を投げつけ、それがランドタイガーの体に突き刺さると同時に刃の先から高圧電流が放出され、ランドタイガーの機能を停止させてしまった。
「そんな・・・うああああっ!」
その様子に気を取られたミナミの腹に、敵の一人が強烈なローキックをお見舞いした。その一撃にミナミは大きく吹き飛ばされ、塔屋に体を強く打ちつけて気を失ってしまった。
「ミナミ!くっ・・・こうなったら・・・!」
誠人はイリスバックルを腰に装着すると、塔屋に隠れながらキリアに連絡を取った。
「キリア、今合体いけるか!?」
「え!?どうしたの、お兄ちゃん!?」
「忍者みたいな奴らに襲われてる!奴らに対抗するには、君の力が・・・」
と、その時であった。敵の一人が誠人の前に現れると、手にした小刀のような武器を振り払った。咄嗟に右手で体を庇った誠人だったが、剣の刃がわずかに右手に当たり、誠人はその痛みでイリスバックルを手放してしまった。
「あ、しまっ・・・!」
手を伸ばしてバックルを拾おうとした誠人だったが、もう遅すぎた。敵がさっと落ちたバックルをかすめ取り、大きくジャンプしてリーダー格の男のもとにそれを届けた。
「よし、撤退だ!今回の目的は果たした、退くぞ!」
その声を合図に、敵は潮が引くように一斉に引き上げ始めた。殿として残った数人が、誠人に向かって手裏剣を投げて威嚇する。
「くっ・・・アーマー・オン!」
『アーマーインサンライズ!サンライズ!』
誠人は素早くイリスV2に変身すると、物陰から飛び出してバックルを持つ敵を追おうとした。だがそんな彼にひるむことなく、敵の殿が刀を手に挑みかかってくる。
「どけ!」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
フィニッシュカードをドライバーに装填したイリスV2の右足に、太陽のエネルギーが凝縮されてゆく。イリスV2は勢い良くジャンプし、ドライバーを展開して低空の飛び蹴りを放つ。
『サンライズフィニッシュ!』
そのキックの一撃に、敵の忍者達の体は大きく吹き飛んだ。だが彼らの体は仲間の忍者達に回収され、彼らもまたあっという間に誠人の眼前から消え失せてしまった。
「しまった、バックルが・・・!」
変身を解除すると、誠人は苦々しく声を上げた。そんな彼の声を聞き、キリアが心配そうに問いかける。
「お兄ちゃん、大丈夫なの!?」
「はあ・・・お世辞にも、大丈夫とは言えないな。・・・ミナミ!ミナミ、大丈夫か!?」
誠人はミナミのもとに駆け寄ると、その耳元に声をかけた。しばらく呼びかけ続けるうちに、ミナミの目が開いてその視界に誠人を捉える。
「誠人さん・・・私・・・いつっ!」
「こっちも大丈夫じゃなさそうだ・・・肩貸してくれ。保健室まで連れてくから」
体に走る痛みに表情を歪めるミナミを見て、誠人は彼女に肩を貸して歩き始めた。
「す、すみません・・・私、何もできませんでした・・・」
「そう落ち込むなって。ここは、『誠人さんが私に肩を貸してくれてるー!』とか、はしゃぐ方が君らしいと思うぞ?」
「あ、あはは・・・そうですね。私としたことが・・・」
誠人の冗談に、ミナミの顔にようやく笑みが戻った。それに少し安堵しつつ、誠人はイリスバックルを奪った敵の目的を測りかねていた。
(あいつら、なんでイリスバックルを・・・?何か、狙いがあるはずなんだけど・・・・・・)
「頭領、ご指示通り手に入れました」
数十分後。誠人の前から姿を消した死神忍団達が、とある廃倉庫に姿を見せた。そしてその中の一人が、倉庫で待っていた女にイリスバックルを手渡す。
「ご苦労でした。さあ、仕上げといきましょう」
そう満足げに声を上げたのは、バラムの命令で地球を訪れているリヤ・ソンブラーであった。彼女は手にしたイリスバックルに複数のケーブルをつなぎ、そのケーブルが接続されているノートパソコンのような機械を操作し始めるのだった。
☆☆☆
「イリスバックルを!?本当なの!?」
一時間後。なんとか次のテストを終えた誠人は保健室を訪れ、ミナミを見舞うと同時にレイに連絡を取っていた。
「はい、奪われてしまいました。・・・奴ら、確かソンブラーとかいう星の、死神忍団と名乗ってました」
「死神忍団!?・・・まさか、伝説だと思ってたけど・・・」
「知ってるんですか?奴らのこと」
「うん・・・暗殺や破壊工作に特化した、伝説の忍者集団。彼らの行く所必ず死が訪れることから、その名がついたといわれているけど、今まではっきりとした目撃証言がなかったの」
「なるほど、それで伝説扱いだったんだ・・・でも、確かに奴らはそう名乗りました。そしてあの口ぶり・・・多分、端から狙いはイリスバックルだったんだと思います」
誠人の言葉を受け、レイは思わず額に手を当てた。敵の狙いがイリスバックルだったとしたら、敵はこちらの手の内を理解していることになる。そして敵の手に渡ったバックルが解析でもされようものなら、銀河警察の科学技術の秘密が筒抜けになりかねない。
「そう・・・そっちは、大丈夫なの?」
「僕もミナミも、怪我は大したことありません。けど、もしまた奴らが襲ってきた時、僕だけで対抗できるかどうか・・・」
「分かった。とりあえず、キリアをそっちに送るわ。カグラとミュウにも連絡を取って、万全の態勢であなたを守らせる」
「ありがとうございます。じゃあ・・・お願いします」
「うん。私はすぐに、このことを長官に伝える。β、くれぐれも気を付けて」
その言葉を最後に、レイとの通信は打ち切られた。通信を終えた誠人に、ベッドで横たわるミナミが申し訳なさそうに声をかける。
「すみません、誠人さん・・・私が、もっとしっかり戦えていれば・・・」
「いや・・・僕も、もっと早くイリスになるべきだった。まさか、バックルを奪われるなんて、想像すらしてなかったから・・・」
一瞬後悔で表情を歪めた誠人だったが、すぐに気持ちを切り替えてミナミに話しかけた。
「とにかく、目の前のことに集中しよう。僕は最後のテストを頑張る。ミナミは、今は体を休めてくれ」
「はい・・・今は、できることをするしかありませんものね」
「そうだ。・・・じゃあ、帰るときになったら、また迎えに来るから」
ミナミの頭を優しく撫でると、誠人は保健室を後にした。ミナミはわずかに頬を赤らめると、誠人に撫でられた頭にそっと触れた。
「誠人さん・・・その優しいところ、大好きです・・・・・・」
☆☆☆
「何?イリスバックルが?」
その頃。レイから報告を受けた銀河警察・太陽系支部長のジョージが、以前より連絡を取り合っている眼帯の男にその事実を告げていた。
「はい・・・虹崎誠人が語ったところによれば、敵はソンブラーの死神忍団と名乗ったとのこと。現在、オケアノス刑事に事実確認を急がせていますが、何分未知の敵ということもあり、確認には時間がかかるかと・・・」
「死神忍団・・・ということは、ついにあの男が本腰を入れ始めたか・・・」
「・・・?あの男、とは・・・?」
ジョージは疑問に思って問いかけたが、眼帯の男はそれを無視してジョージに命じた。
「ガイルトン長官、地球の刑事達に至急、イリスバックルの奪還を命じよ。私への次の連絡は、イリスバックルの奪還成功以外の内容は受け付けんぞ」
そう言って一方的に通信を打ち切ると、男は座っていた机の上にある電話の受話器を取り、ある番号に電話をかけた。
「すまんが、至急アダム社長につないでくれ。・・・私か?元銀河警察のガモン、と伝えてくれれば分かる。頼むぞ」
電話の受話器を通じて、独特なメロディの保留音がガモンと名乗った男の耳に流れ込んでくる。そして数十秒待ち続けると、唐突に保留音が途切れて男性の声が聞こえてきた。
「久しぶりだな、ガモン。相も変わらずの暗躍ぶりと聞いている」
電話に出た人物が、親しみと皮肉を混ぜ合わせた口調でガモンに声をかけた。その人物は、ネビュラカンパニーと並ぶ宇宙の軍事企業・DOE社の社長であった。
「ああ、おかげで毎日退屈することがない。・・・アダム、今日は一つ面白い話を聞かせてやろうと思ってね。ことと次第によっては、君の会社は早晩潰れることになるやもしれん」
ガモンのその言葉に、アダムの眉がわずかに上がった。
「ほう・・・聞こうじゃないか。その『面白い話』とやらを」
アダムの言葉に、ガモンはにやりと笑みを浮かべた。仕掛けておいた罠に獲物がまっすぐ向かう姿を見た、狩人のような目を。




