第28話「相棒」後編
「カグラさん達、まだがんばってるんでしょうか・・・」
数時間後。自宅で夕食を取りながら、誠人が呟くように声を上げた。
「そうでしょうね。カムイもカグラも、残る一人の容疑者を捕まえるって、意気込んでましたから」
「あの二人ならきっと大丈夫だよ。だって、最高のバディなんだもん」
ミナミとキリアが、夕食を頬張りながら声を上げる。その一方で、レイはほとんど食事に手をつけられずにいた。
「どうしたの、レイさん?どこか具合悪いの?」
「い、いえ・・・そういうわけでは、ないんですけど・・・」
どこか歯切れ悪く茜に答えたレイに、シルフィが何かを悟ったような視線を向ける。夕食が終わると、彼女はレイを虹崎家の庭に呼び出した。
「お気づきになったのですね?あの敵の正体に」
「うん・・・あなたも、何かに気づいてるんでしょ?だから、ウィンドペガサスを使って様子をうかがった」
「ええ・・・ですが、まだ確信には至っておりません。そこで、ソフィア様にお願いしました」
「お願い?何を?」
レイが問いかけたまさにその時、シルフィのGPブレスから着信音が鳴り響いた。
「ソフィアよ。やっぱり、あなたの予想通りだったわ」
ソフィアの口から、『真実』が語られる。それを聞き終えたシルフィとレイの表情は、重く沈んだものであった。
「そうでしたか・・・ありがとうございます、ソフィア様」
「いいのよ。それよりも・・・カグラの方を、何とかしなきゃね」
「うん・・・でも、それは私に任せて」
決意が宿った目で言ったレイに、ソフィアが確かめるように尋ねた。
「いいの?・・・すごく、辛い仕事になるわよ」
「分かってる。でも、彼女は私の大事な友達。だから・・・私が・・・」
レイの覚悟を確かに受け取り、ソフィアはそれ以上の言葉をつぐんだ。彼女との通信を打ち切ると、レイはシルフィに視線を向けた。
「じゃあ、行ってくる」
「承知しました。・・・ご武運を、レイ様」
シルフィの言葉にうなずくと、レイは虹崎家を後にしようとした。と、その時――
「どこに行くんですか?レイさん」
レイの背後から、誠人が声をかけてきた。彼は何かを悟ったかのような表情で、レイの顔を見つめている。
「β・・・」
「僕も行きます。・・・レイさんだけに、重荷を背負わせたくない」
先ほどの食事の時から、誠人は薄々感づいていた。レイが何かの真実に気づき、それを自分一人で背負おうとしていると。
「β・・・」
断ろうとしたレイだったが、彼女は誠人の目を見てすぐに悟った。今の彼に何を言ったところで、必ずついて来るだろう、と。
「ありがとう・・・私、隠し事が下手ね・・・」
自分の不器用さを嘲笑いながら、レイが消え入りそうな声で言った。程なく二人は誠人が運転するイリスピーダーで、カグラの家に向かうのだった。
その頃。カグラは自宅の一室で、カムイと共にタルフの端末を解析していた。
「ごめんね、カムイ・・・あたしがもっと早くカビを始末してたら、あいつを捕まえられたのに・・・」
「何を謝る。お前の咄嗟の判断で、大勢の命が救われた。刑事として、お前は正しい決断をしたんだ」
申し訳なさそうに謝罪するカグラを、カムイは微笑みと共に慰めた。その笑みを見て、カグラはどこか気恥ずかしそうに顔をそらす。
「優しいね、相変わらず・・・・・・やっぱり、あんたはあんたのままだ」
「ふっ・・・だと、いいがな・・・」
どこか寂しげにカムロが声を上げた、まさにその時。二人が見つめる端末に、ある反応が示された。
「これは・・・間違いない、ハモンの端末だ」
「よし・・・今度こそ逃がさない。行こう、カム・・・イ・・・?」
意気込んで立ち上がろうとしたカグラだったが、その首筋にカムイが一本の針を突き立てた。その針の先に塗られた薬の効果で、カグラは強烈な眠気に襲われる。
「カムイ・・・なん・・・で・・・?」
「すまない・・・だが、最後にお前の顔を見ておきたかった。・・・お前の声を聞いて、言葉を交わしておきたかった。・・・もう、心残りは何もない」
「カ・・・カム、イ・・・」
押し寄せる眠気に抗い切れず、カグラは床に倒れこんだ。するとその時、二人にお茶を持ってきたミュウが部屋に入ってくる。
「先輩達、お茶どう・・・って、え!?カグラ先輩!?」
事態を把握できず混乱するミュウの首筋に、カムイが投げた針が刺さる。彼女もカグラと同様に、針に塗られた薬の効果でその場に倒れこんだ。
「すまない、カグラ・・・」
震える声で小さく詫びると、カムイは反応のある地点を目指して駆けだした。すると彼の目の前に、誠人とレイが乗るイリスピーダーが立ちはだかった。
「カムイ・・・悪いけど、この先には行かせない」
誠と共にバイクから降りると、強い眼差しをカムイに向けてレイが言った。
「レイ・・・やはり、君は気づいたか」
「あの剣技、そしてウィンドペガサスを射抜いたあの針・・・あれほどの腕を持つのは、私が知る限りではあなただけ」
「今更訊くまでもないことですけど・・・宇宙カビを使ったのは、恋人のナタリーさんの仇討ちですか?」
シルフィは立ち聞きしたカグラとカムイの会話を、先ほどレイに伝えていた。そしてその話はレイから誠人にも伝えられ、誠人もカムイの悲劇的な過去を知る一人となっていた。
「もうそこまで知っていたか・・・その通りだ、少年。俺が宇宙カビを使ったのは、ナタリーを殺したあの三人に、彼女の苦しみを味わわせるためだ」
「じゃあ、他の人を巻き込んだのはどうして?タルフが乗ったバスの乗客の他にも、あなたはこの星で何人かの人を殺めている・・・!」
「確かめたのさ、宇宙カビの力を。全ては復讐を完璧に成し遂げるため。そのために多くの命を巻き込んだが・・・全ては、ナタリーのためだ・・・!」
「違う・・・あなたは、あなたのためにやったのよ!ナタリーは絶対・・・あなたがそんなことをするのを望んでなんかいないはず!」
レイのその言葉を、カムイは否定しなかった。彼は悲しそうにふっと微笑みながら、ため息をつくように言った。
「ああ・・・そうだな。全ては俺の自己満足だ。だが・・・ここまで来た以上、もう後戻りはできん」
カムイは手にした四角い装置を、胸に押し当てた。すると装置が装甲服へと変わり、カムイの姿がショッピングモールに現れた戦士のものへと変わる。
「そこをどいてもらおう。このままでは、ハモンを逃がしてしまう」
「その心配はないですよ。ハモンなら、僕達の仲間が捕まえてます」
誠人の言葉通り、ハモンはシルフィの依頼を受けたソフィアによって取り押さえられていた。彼の所持品の中に装甲服は含まれておらず、結果としてタルフとヌーヴを殺したのは彼ではないことが明らかとなった。
「今、ハモンは銀河警察の護送船の中にいる。でも、まだ護送船は出発していない。・・・その理由、あなたなら分かるでしょ?」
「なるほど・・・俺が来るのを待っているのか」
「そういうこと。・・・カグラは、あなたが犯人だと知っているの?」
「いや・・・だが、気づいたかもしれん。どの道、遅いがな・・・」
カムイは剣を握り締めると、誠人とレイに突き付けた。彼が一歩も退かないことを、二人は嫌でも思い知らされた。
「お願いです・・・銀河警察に、自首してください。これ以上罪を重ねたら、カグラさんだって悲しみます!」
「だろうな。だが・・・俺ももう退けんのだ!」
血を吐くように叫ぶと、カムイは雄叫びと共に誠人達に向かって駆け出した。確かめるように視線を向けてきた誠人に、レイは覚悟を決めた表情で強くうなずいた。
「ユナイト・・・オン!」
『Read Complete.スプラッシュアーマー!』
レイと合体してイリスになると、誠人はマグナムモードのプラモデラッシャーでカムイの剣を受け止めた。そして力いっぱい武器を押し上げて相手の姿勢を崩すと、ひるんだカムイに水の弾丸を連射する。
「うあっ!・・・ふぅぅぅ・・・はあっ!」
カムイは剣を振り回して赤いオーラを纏わせ、それを光の刃に変えてイリスを狙った。その一撃をジャンプしてかわしたイリスを、カムイは熱を纏わせた針で射抜こうとする。
『はっ!』
だがその針は、レイの正確な射撃ですべて撃ち落とされた。イリスは地面に着地すると相手の懐に飛び込み、零距離からの射撃をお見舞いした。
「うっ・・・ぐあっ!ああっ・・・!」
誠人とレイの脳裏に、笑顔で親しげに言葉を交わし合うカグラとカムイの姿が蘇る。それを振り払うかのように、二人は武器のトリガーを引き続けた。
「あっ・・・ああっ・・・!」
銃弾を連続で浴び続け、装甲服を纏うカムイの体にもダメージが蓄積されていった。千鳥足になる彼の姿を見て、イリスはフィニッシュカードをバックルにかざす。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
電子音声が鳴り響くと、イリスの背後に大きな波が立ち上った。イリスはバックルのボタンを押してジャンプすると、波に乗って一気にカムイに迫る。
『スプラッシュフィニッシュ!』
カムイの体を左右の足で交互に蹴りながら、イリスはプラモデラッシャーの銃撃をお見舞いした。そして両足を揃えたキックでとどめを刺すと、イリスは後方宙返りして地面に着地する。
「うっ・・・うあっ・・・!」
その攻撃で装甲服が破壊され、カムイは地面に膝をついた。彼は荒い息をついてその場に座り込むと、誠人との合体が解除されたレイに尋ねる。
「レイ・・・もし逮捕されたとして、俺は・・・どうなると思う?」
「・・・死刑になる可能性、高いと思う。よくて・・・終身刑かな・・・」
「当然だな・・・俺は、人としての道を踏み外した。もう・・・生きている価値など、ない・・・!」
そう言うと、彼は懐に隠し持っていた針を握り締めた。そしてその針に熱を纏わせ、自らの喉を貫こうとしたその時、何者かが彼の体に飛びついてその手を押さえこんだ。
「・・・!カグラ、どうして・・・!?」
「馬鹿野郎・・・あたしが、あの程度の薬に負けるか・・・!」
薬に負けそうになる体に鞭打ち、カグラはカムイのGPブレスの反応を追ってここまでやって来ていた。彼女の腕の中でもがきながら、カムイは声を震わせて叫ぶように哀願した。
「頼む!死なせてくれ、カグラ!・・・・・・もう、復讐は果たされない。そんな俺に・・・これ以上惨めな生き恥をかかせないでくれ!!」
「馬鹿野郎!生きることは、恥ずかしいことなんかじゃない!恥ずかしいのは・・・罪の償いもせずに、死んで全てから逃げることの方だ!」
カグラは針を持つカムイの右手首を強く握り締め、彼から針を手放させた。そしてその体に馬乗りになると、涙がにじむ目でカムイの目を見つめて叫ぶ。
「生きて・・・生きて償え!これ以上・・・ナタリーを悲しませるな!」
カグラの目から零れる涙が、カムイの頬に落ちる。彼女の泣き顔を目にした時、カムイの目からも涙が溢れ出した。
「カグラ・・・すまない・・・すまなかった・・・・・・!」
「馬鹿野郎・・・謝るなら、あたしにじゃなくてナタリーにだ・・・・・・この・・・大馬鹿野郎・・・・・・!」
カムイの胸に顔をうずめながら、カグラは人目もはばからず泣き続けた。カムイは目元の涙を手の甲で拭うと、泣き続けるカグラの肩を優しく抱くのだった。
☆☆☆
それから、数十分後。カムイはカグラ達に付き添われ、ソフィアが手配した銀河警察の護送船に出頭した。
「カグラ・・・俺は最後まで、生きる。生きて・・・俺にしかできない償いをする」
「ああ・・・信じるよ、あんたを」
最後にカグラと微笑みをかわし合うと、カムイは職員と共に船に乗り込んだ。程なく護送船は地球を飛び立ち、宇宙の彼方へと去っていった。
「・・・さて!あたし達も、行こうか。明日も早い、刑事の仕事は、年中無休だからね」
護送船が完全に見えなくなると、カグラはくるりと背を向けて歩き始めた。彼女に慰めの言葉をかけようとした誠人だったが、レイがそれを察して彼の胸に手を当てる。
「あの子なら、大丈夫。私達が何も言わなくても、自分の中で気持ちにけじめをつけるはず」
レイが誠人の耳元に囁きかけた、まさにその時。カグラが急に足を止めると、振り返ってレイに視線を向けた。
「レイ・・・ありがと。あいつを・・・止めてくれて」
カグラの感謝の言葉に、レイは気恥ずかしそうにうつむいた。わずかに頬を赤く染めながら、彼女はカグラに言葉を返す。
「それが・・・・・・仕事だから」
その言葉に微笑みで応えると、カグラは再び背を向けて去っていった。その背中を見守りながら、ソフィアがレイに声をかける。
「いい仲じゃない、あなた達。まるで・・・相棒ね」
「ううん・・・カムイに比べれば、とても相棒と呼べるほどの仲じゃない」
ソフィアの言葉に首を振りながらも、レイは確かな自信と共に言った。
「でも、これだけは言える。私達は・・・・・・友達よ」
かつては敵の星の人間として、いがみ合っていたレイとカグラ。だが今の彼女達は、何者にも断ち切れない強い強い絆で結ばれていた。
第28話、いかがだったでしょうか。
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