第27話「狂獣再臨」後編
「誠人さんがピンチ!?本当ですか、ミュウ!?」
一方。ようやく虹崎家に辿り着いたミュウが、ミナミ達に事の次第を伝えていた。
「はい。敵は前にも相手したことがある生物兵器なんですけど、なんか、その・・・前より強くなってるみたいで・・・」
「それってもしかして、あのブラック何とかいう怪物のこと?」
茜の問いかけに、ミュウは苦々しそうな表情でうなずいた。
「いずれにしろ放っておけねえ。行こうぜ、皆!」
シルフィから体の主導権を受け取ったディアナが、早くも玄関に向かいながら一同に声をかけた。ソフィアも表情を活き活きとさせながら、その後に続く。
「ええ、もちろん。その生物兵器とやらの顔、拝んでみたいしね」
「そんなこと言ってる場合ですか!?さっさと行きますよ、さっさと!」
そんなソフィアを怒鳴りつけながら、ミナミもミュウと共に玄関に向かった。息子や刑事達の無事を心より祈りながら、茜がミナミ達の背中に声をかける。
「行ってらっしゃい、気をつけてね!」
一方。誠人を連れたファルコは、人気のない町はずれまで辿り着いていた。
「ちょっと、いい加減放してくださいってば!」
無理やり自身の手を振り払った誠人に、ファルコは小さなため息をつきながら言った。
「やれやれ。せっかく助けてあげたんだ、感謝の言葉くらいはないのかい?」
「そ、それはありがとうございます。でも、皆が!仲間の皆がピンチなんです!戻らないと!」
すぐにでも仲間のもとに戻ろうとする誠人に、ファルコは再びため息をついた。
「まったく・・・以前から自分の危険を顧みない子供だと思っていたが、まさかここまでとはね」
「以前から?・・・何者なんです、あなた?」
「とりあえずは、君の味方と名乗っておこう。・・・今はね」
はぐらかすように言うと、ファルコは誠人にネオ・ブラックローグについて説明し始めた。
「あの怪物・・・惑星ドゥレンテの反政府組織が開発したブラックローグの体に、とある企業が開発した薬品が注射された。強制細胞活性剤、その効果は君も見ての通りだ」
「強制細胞活性剤・・・聞くからにヤバい薬ですね・・・」
「もっとも、あの化け物達に使われたのはまだ試作品。よほどのことが起きない限りは、およそ10分から20分で薬の効果は消滅する。そして薬の力に耐えきれず、投与された生物も死ぬ・・・安心したまえ。あと10分もすれば、奴らは自然と死んでいく」
(そう・・・こっちはそれを待つだけでいい。そして奴らが死んだら、その遺体を処分する・・・あのナキアという女ごと・・・)
頭の中で計画を再確認し、ファルコは誠人に背を向けて小さく笑みを浮かべた。だが――
「10分も待てません!悠長に構えてたら、仲間達が死んでしまう!・・・やっぱり、僕戻ります。大切な仲間達を、見殺しにはできない!」
叫ぶようにファルコに言うと、誠人は現場に向かって走り始めた。三度ため息をつくと、ファルコは誠人の背中に声を投げかける。
「なら、これを使うといい」
そう言うと、彼は振り返った誠人にある物を投げ渡した。それは黄色い薬液で満たされた、銀色の注射器のような物であった。
「これは・・・?」
「活性剤の逆の働きをする、強制細胞萎縮剤。効果は言うまでもないだろうが、薬は1体分しかない。空を飛ぶ方と地面を走る方、どちらに使うかよく考えてから、打ち込みたまえ」
「・・・分かりました。ありがとうございます!」
ファルコに小さく頭を下げると、誠人は仲間達のもとに急いだ。彼が到着した時、レイ達三人の刑事は二体のネオ・ブラックローグに追い詰められ、絶体絶命の状況であった。
「皆、無事ですか!?」
逃げたと思っていた誠人の帰還に、刑事達は驚きの声を上げた。
「β・・・!どうして・・・!?」
「馬鹿!あのまま逃げて、安全な所にいればよかったものを・・・!」
「そうだよ!早く逃げて、お兄ちゃん!」
「ふぅ・・・悪いけど、仲間を見殺しにするなんて、僕にはできません。僕にできることがあるのに、それから逃げることなんてできない・・・!」
レイ達に言葉を返すと、誠人はGPドライバーV2を腰に装着した。そしてそのパーツをスライドさせて待機モードにすると、手にしたサンライズのカードをドライバーに挿し込む。
「アーマー・オン!」
『Read Complete.灼熱!焦熱!光熱!アーマーインサンライズ!サンライズ!』
イリスV2に変身した誠人はライズガンセイバーを手に、二体のネオ・ブラックローグに果敢に戦いを挑んでいった。そんな彼の姿を見て、ナキアが冷酷な笑みを浮かべる。
「愚か者め。自ら死地に飛び込んでくるとは・・・」
彼女の視線の先で、イリスV2はガンモードのライズガンセイバーから光弾を発射しつつ、左手に握りしめた注射器を打ち込む機会をうかがっていた。だがネオ・ブラックローグは二体とも俊敏な動きを見せ、とても近寄れたものではない。
(あの人の言うことが正しければ、この薬は一体分・・・それに、あと少し耐えればあの怪物達は死ぬ。・・・だけど・・・!)
もし、それが誤りであったとしたら、自分や仲間達の命が危ない。それに戦いの余波で、何の罪もない周辺の人々を危険に巻き込む可能性が極めて高い。それを防ぐには、一刻も早く目の前の怪物達を倒す他に手はない。
「・・・あ、いました!誠人さん!助けに来ましたよ!」
と、その時。誠人の耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。
「ミナミ!・・・皆!」
「遅れて悪かったな、ボウズ!」
ソフィアをデュアルスピーダーの後部座席に乗せて現場にやってきたディアナが、バイクから降りるなり腰にGPドライバーV2を装着した。ミナミとミュウもイリスピーダーから降りると、GPブレスを戦闘モードに切り替えて臨戦態勢に入る。
「誠人君、ボク達どうすればいいんだろう?」
「ブラックローグが強化されて、そのうち一体が空を飛び回ってて手が付けられない状況だ。ディアナさん、デュアルスピーダーを飛行モードにして、空の方の敵を頼めますか?」
「おお、任せとけ」
「ソフィアさん、あなたの能力が頼りです。地上の方の敵を、少しでいいから足止めしてもらえませんか?奴の動きが止まったら、これを注射して倒します」
イリスV2がファルコから受け取った注射器を見せると、ソフィアは怪訝そうな表情を浮かべた。
「これは・・・?」
「奴らの強化された細胞を弱体化させる薬だそうです。どれほど効果があるかはわかりませんが、試してみたいんです!」
「・・・分かった。その薬のことはよく分からないけど、とりあえずやってみるわ」
「お願いします。・・・ミナミとミュウは、レイさん達を避難させてくれ。さっきからずっと戦ってて、ダメージが大きい」
「分かりました!行きますよ、ミュウ!」
「は、はい!」
「よし・・・じゃあ皆さん、頼みます!」
誠人の声を合図に、ミナミとミュウがレイ達を助けに走り出す。ソフィアは地上のネオ・ブラックローグと対峙し、ディアナは腰のドライバーにライトニングのカードをセットする。
「アーマー・オン!」
『Read Complete.アーマーインライトニング!ライトニング!』
『Switch to flying-mode』
デュアルとなったディアナはデュアルスピーダーをフライングモードに変化させ、ハンマーモードのプラモデライザーで空中のネオ・ブラックローグに戦いを挑んだ。その一方でミナミとミュウはレイ達を安全な所へ避難させ、ソフィアはその手に黄色い光を纏わせる。
「はっ!」
ソフィアが両手を宙にかざすと、手に宿っていた光がネオ・ブラックローグの上空に飛んでいき、黄色い光の棒になってその四方を取り囲むように地面に突き刺さった。するとそれぞれの棒から黄色い光が天に立ち上り、光のドームとなって怪物をその中に閉じ込めた。
「ギャアアアアッ!!」
上半身を起こしてドームを突破しようとしたネオ・ブラックローグだったが、ドームは逆に触れた怪物の体にダメージを与えた。敵にドームが突破できないと確かめると、ソフィアがイリスV2に叫びかける。
「少しの間だけ屋根を開けるわ。そうしたら中に飛び込んで、その薬を注射しなさい!」
「はい、お願いします!」
ソフィアは両手を宙にかざし、ドームの屋根の部分を開いた。イリスV2は大きくジャンプしてドームの中に飛び込むと、怪物の首筋に注射器を打ち込んだ。
「ギャアアアアアッ!グアアアアアアアアアアアッ!!」
悶えてのたうち回る怪物の体が、徐々に元の大きさまで戻っていく。薬を打ち込んでからわずか10秒ほどで、その体は完全に元のブラックローグへと戻った。
「何!?あの薬は・・・?」
予期せぬ事態に、戦いを見守っていたナキアが驚きの声を上げた。一方のイリスV2はこれを好機と見て、ホルダーからフィニッシュカードを取り出す。
「よし・・・これで倒せる!」
『Read Complete.Be prepared for burning impact.』
イリスV2はフィニッシュカードをライズガンセイバーに読み込ませ、ドームの外へ大きくジャンプした。そして眼下の怪物に狙いを定め、武器のトリガーを引く。
『バーニングサンライズ!』
放たれた真紅の光線が、ブラックローグに直撃した。ソフィアが再びドームの屋根を閉じると、怪物の体はそのドームの中で爆発四散し、跡形もなく消滅した。
「よし・・・あと一体!」
ドームの外に着地すると、イリスV2は上空に視線を向けた。そこではデュアルスピーダーに乗ったデュアルが、空を飛び回るネオ・ブラックローグに苦戦を強いられていた。
「くっ・・・野郎、ちょこまかと・・・!」
ネオ・ブラックローグの強化された前脚、そして口から放つ高周波の攻撃に、デュアルは攻め手を欠く展開が続いた。逆に怪物の突進を受け、彼女の体はデュアルスピーダーから落下して地面に叩きつけられた。
「うわあああっ!くっそ・・・!」
「ディアナさん、大丈夫ですか!?」
イリスV2はデュアルのもとに駆け寄ると、彼女に手を貸して立ち上がらせた。
「ああ、平気だ。・・・しかし、意外と強敵だぜ、あいつ・・・」
「ディアナさん、もう一度、デュアルスピーダーを飛ばしてくれませんか?今度は、僕も乗りますから」
「おお、任せとけ」
『ディアナ、ここは私も手を貸すわ。二人の力が合わされば、あの敵にも勝てるはず!』
ディアナの苦戦を目の当たりにして、シルフィが体の中から声を上げた。
「ああ。借りるぜ、お前の力」
『フュージョントリガー、スタートアップ』
デュアルはフュージョントリガーを起動させ、ドライバーの上部にセットした。そしてスイッチを押して待機モードにすると、ホルダーから引き抜いたハリケーンのカードをドライバーに挿し込む。
『レディ、フュージョンスタート!二心一体、ライトニングハリケーン!』
ライトニングハリケーンへの変身が完了すると、デュアルは再びデュアルスピーダーを動かし始めた。イリスV2と共に台座に飛び乗ると、彼女はその手にアックスガトリングを握り締める。
「リベンジマッチだ、行くぜ!」
デュアルスピーダーを高速で飛ばしながら、デュアルはガトリングモードのアックスガトリングから雷の力を込めた弾丸を雨あられと発射した。イリスV2も武器をガンモードにし、真紅の灼熱の弾丸を放って怪物を牽制する。
「グオオオオッ!」
怪物が怒りの声を上げ、デュアルスピーダーに向けて高周波を放つ。だがライトニングハリケーンのデュアルが周囲に突風を纏って高周波を分散させ、空中でいくつもの爆発が起こった。
『アックスモード』
『セイバーモード』
その間にデュアルとイリスV2は武器の形状を変化させ、一気にネオ・ブラックローグに突っ込んだ。そしてそれぞれの武器を一閃させ、怪物の体をすれ違いざまに深く切り裂いた。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
苦悶の咆哮と共に、怪物の動きが空中で静止する。その一瞬の隙を、ディアナは見逃さなかった。
「とどめだ!」
「はい!」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
二つのGPドライバーV2から、同時に必殺技の発動音声が鳴り響く。デュアルスピーダーが怪物の体を真正面に捉えると、イリスV2とデュアルは同時にドライバーのパーツをスライドさせた。
『サンライズフィニッシュ!』
『ライトニングハリケーン、デュアルエンド!』
二人は同時にデュアルスピーダーの台座からジャンプし、強力な飛び蹴りをネオ・ブラックローグにお見舞いした。その一撃は怪物の体を貫き、怪物は断末魔の叫び声を上げると、空中で爆発四散した。
「やった!・・・あ、宇宙船が逃げてきます!」
ネオ・ブラックローグの撃破に歓喜の声を上げたミナミだったが、怪物を操っていたナキアは宇宙船を急発進させ、その場からの逃亡を図った。地面に着地したデュアルはデュアルスピーダーを使おうとしたが、宇宙船は早くも豆粒ほどの大きさになっている。
『無理よディアナ、あの速さじゃ追いつけない!』
「分かってるよ!チッ・・・ここまで来て、逃がすのか・・・!」
「イリス、そしてデュアル・・・・・・私は、こんなところで捕まりはしないぞ・・・!」
一方。宇宙船で逃亡するナキアが、徐々に小さくなっていくイリス達の姿を見て恨めしげに声を上げた。
「いずれ、もっと強い兵器と共に、私は戻ってくる。そして、今度こそ貴様らを・・・」
「今度はない。悪いけど、ね」
突然聞こえてきた男の声に、ナキアはぎょっとして振り返った。彼女の視界に飛び込んできたのは、息絶えて横たわる部下達と、先ほど目にした銀髪の青年の姿であった。
「貴様・・・どうやって、この船に?」
「ふふ。どうやら、少し刑事達と化け物の戦いに気を取られすぎたようだね。警備の甘い船に潜り込むなど、赤子の手をひねるよりたやすい」
得意げにそう言い放つと、ファルコは手にした銃をナキアに向けた。
「我が社の製品の試作品を奪い、それを悪用するとはいい度胸だ。ドゥレンテ星人ナキア、その蛮行を命で贖ってもらおう」
「くっ・・・貴様、DOE社の者だったか。・・・まさか、ネオ・ブラックローグを弱らせたあの薬は・・・!」
ナキアの言葉に、ファルコは肯定するように冷たい笑みを浮かべた。それを見た瞬間、ナキアは全てを悟って怒りに顔を歪ませた。
「お・・・おのれえええええええええっ!」
彼女がサーベルを手にファルコに襲い掛かった次の瞬間、彼の手に握られていた銃から光弾が発射された。その光弾によってナキアは苦悶の声を上げながら消滅し、それから程なく彼女の宇宙船は大爆発を起こした。
『・・・!お坊ちゃま、あれを!』
その爆発は、地上のイリスV2達の目にもしっかりと捉えられた。爆炎と共に消滅する宇宙船を見て、誠人が仮面の下で声を上げる。
「あれは・・・まさか、あの人が・・・?」
☆☆☆
「なるほど・・・じゃあ、坊やにあの薬を渡したという男が、ナキアの船を爆破したと?」
数時間後。虹崎家に集まった刑事達を前に、誠人は自らの見解を口にした。
「はっきりと、証拠があるわけじゃありません。でも・・・僕には、あの人がやったとしか思えないんです。そして・・・」
――とりあえずは、君の味方と名乗っておこう。・・・今はね――
「あの人とは、きっとまた出会う気がするんです。その時、また味方になってくれるかは、分かりませんけど・・・」
「虹崎誠人、か・・・・・・まったく、とんだ命知らずの坊やだった」
同時刻。地球の大気圏外で自前の宇宙船を操りながら、ファルコが誰に言うともなく呟いた。
「いずれ、彼とはまた出会うことになるだろう。そう・・・これが私達の宿命だ・・・」
第27話、いかがだったでしょうか。
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