第26話「言葉の刃」後編
「何?タブレットを紛失しただと?」
その夜。ラダロからの報告を受けたバラムが、問い詰めるような口調で言った。
「も、申し訳ございません・・・ですが、LMDの性能は素晴らしいものでございます。きっと、兵器として実用化できるかと・・・」
「そんなことはどうでもいい。その端末を銀河警察が入手したら、そこから足がついて我が社の関与が明確になる。カーチェス、すぐに端末を回収しろ。それができるまで、地球から一歩も出るな!」
高圧的に命じると、バラムは電話の受話器を乱暴に置いた。
「無能な奴め・・・ソンブラーはいるか?」
「はっ、これに」
振り返ったバラムの背後には、黒いマントを身に着けて目元以外の顔を隠した、一人の華奢な女性の姿があった。
「ソンブラー、直ちに地球に向かえ。カーチェスの動向を監視し、万一の時は始末しろ。よいな?」
「承知いたしました。では、これにて・・・」
バラムにそう応えると、ソンブラーと呼ばれた女は自らの体を黒い煙で覆いつくした。その煙が晴れる頃には、彼女の姿は跡形もなく消えていた。
「言葉が実体化!?・・・いやいや、まさかそんな・・・」
一方。誠人の家に呼び出されたカグラが、素っ頓狂な話に思わず声を上げた。
「そう言いたいところですけど、本当の話なんです。確かに人の口から、実体化した言葉が飛び出してきて・・・」
「どうやら、坊やの言ってることは正しいみたいね。ほら、これ見て。都内各地で似たような現象が起きてるって、SNSで話題になってる」
ソフィアが一同に見せたスマホには、『人の口からデカい文字が飛び出した!』『言葉が形になって、近所の家の壁がぶっ壊れたみたい・・・』といった、複数の書き込みが表示されていた。それを見て、カグラと共にやって来ていたミュウが、眉をひそめて声を上げる。
「こんなにたくさん・・・でも、どうやったら人の言葉が形になったんでしょう?」
と、その時。別室にいたレイとシルフィが、一同の前に姿を見せた。
「解析が終わった。このネックレスとタブレット、有力な手掛かりになりそう」
レイとシルフィが、それぞれ持っていた物をテーブルに置く。それは誠人が先ほど受け取ったネックレスと、ラダロが落としていったタブレット端末であった。
「このネックレスから発せられる特殊な音波が、身に着けた人間の言葉を一時的に物質化させるの。少し試してみたんだけど、どうやら身に着けた人間の感情が高い時に発した言葉だけ、物質化するみたい」
「そしてこのタブレットは、ネックレスに仕込まれた発信機の反応を受信し、現在地を特定するための物と思われます。現に、この場所を示す座標に、このような反応が」
シルフィが一同に見せたタブレットには、虹崎家を示す座標に赤い点印が重なっていた。それを見て、茜が思いついたように声を上げる。
「つまり、この点が示す場所に、これと同じネックレスがあるということね?」
「そうなるね。すぐに、ネックレスを回収しないと!」
「待ってβ、今日はもう遅い。明日になったら朝一で、ネックレスの回収に移りましょう」
☆☆☆
そして翌朝。誠人達はタブレットの反応をもとに、都内各地を飛び回ってネックレスの回収を始めた。
「そのネックレス、すっごく危険な物なんです。大変なことになる前に、引き取らせてもらえませんか?」
誠人達の呼びかけに、ほとんどの者がネックレスを手放した。中には誠人達の言葉が信じられず、引き取りを拒否する者もわずかにいたが、誠人達はネットに上がっているネックレスを使用した者の動画を見せ、危険だと分からせてネックレスを受け取っていく。
「よし・・・茜さん、次はどこに行けばいいですか?」
また一つネックレスの回収に成功したミュウが、タブレットで状況を確認している茜に指示を仰いだ。
「西に200メートルほど行ったところに、反応が1件。そこに向かってちょうだい」
「分かりました、すぐ行きます!」
ミュウはすぐに、指示された場所に向かった。すると――
「あ・・・昨日の!」
「あれ?お前昨日のあいつか。はぁ~あ、なんでこういうときに限って会うんだよ」
ミュウの目の前には、昨日電車の中でひどい目に遭わされた、あの高校生達がいた。しかもその一人の首に、回収しているネックレスが下げられている。
「そ・・・そのネックレス、ボクにちょうだい!それ、すっごく危ない物なの!」
「ああ、これだろ?・・・分かってるよ、うるせえな!」
少年・悟史が叫んだ瞬間、『うるせえな』という言葉が物質化し、ミュウに向かって飛んでいった。なんとかそれをかわしたミュウを尻目に、悟史は仲間の少年達に得意げに言葉をかける。
「な、言ったとおりだろ?これをつけて強い口調で言うだけで、その言葉が形になるんだ。すげえだろ?」
「す、すごくも何ともないよ!君、それがどれだけ危険な物なのか、分かってるの!?」
ミュウが怒ったような口調でたしなめても、悟史は馬鹿にした視線を彼女に向けるのみだった。
「はいはい、分かってますよー。さ、行こうぜ」
悟史が隣に立っていた友人の肩を叩きながら言った、次の瞬間。『行こうぜ』という言葉が実体化し、その友人の体に直撃して吹き飛ばした。
「お・・・おい!大丈夫か!?」
他の友人達が、慌てて倒れこむ少年のもとに駆け寄る。悟史はそれを、呆然としながら見つめていた。
「なんでだ・・・?今、普通の口調で言ったのに・・・」
「おい、悟史!お前、あいつに何したんだ!?」
友人の一人が、強い口調で悟史に問いかける。悟史は首を横に振りながら、消え入りそうな声で言った。
「な・・・何もしてねえ。俺は、何も・・・」
次の瞬間、『何も』という言葉が実体化し、問い詰めてきた友人を吹き飛ばした。それを見た他の友人達が、怯えたような視線を悟史に向ける。
「おい、やべえよ。逃げようぜ!」
「おい、待ってくれよ!おい、おいってば!」
悟史が必死に呼びかけても、友人達は聞く耳を持たなかった。彼らは倒れこむ二人の仲間を抱え、悟史の前から逃げていった。
「なんでだ・・・?一体、何が・・・」
「おやおや。どうやら故障してしまったみたいですね、そのネックレス」
その時、悟史の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。彼とミュウが振り返ると、そこには人間に化けたラダロ・カーチェスが立っていた。
「こ、故障!?なああんた、これ今すぐ直してくれよ!頼むよ!」
「生憎、今はそれどころではないのですよ。お嬢さん、そのブレスレットからして、あなたも銀河警察の刑事ですね?」
ミュウの腕につけられたGPブレスを見止めると、ラダロは宇宙人としての本性を露わにした。そしてコマンドロボットを引き連れ、自らも銃を握り締めてミュウに迫る。
「あなたの仲間が、私のタブレットを盗んだのでしょう?あなたには、タブレットを取り返す交渉のための、人質になってもらいますよ!」
「じゃあ、あなたがネックレスをばらまいたんだね?だとしたら、タブレットは余計に返せない!」
ミュウはGPブレスから光弾を発射し、ラダロの背後に立っていたコマンドロボットに命中させた。だがロボットはその攻撃に耐え、手にした銃から光弾を発射してミュウに反撃する。
「くっ・・・危ない!こっちに来て!」
「え?うわっ!」
コマンドロボットは、ミュウの近くに立つ悟史まで攻撃に巻き込もうとした。ミュウは彼の手を引くと、攻撃から逃れるためにその場を走り去るのだった。
「はあっ、はあっ・・・ここなら、大丈夫だと思う」
数分後。ミュウは悟史の手を引きながら、とあるビルの駐車場に逃げ込んでいた。
「どうして・・・どうして、あんなことに・・・」
駐車場の一角に座り込むと、悟史がネックレスを握りながら両手に顔をうずめた。
「だから言ったでしょ?それ、とっても危険な物だって」
「ああ・・・俺が馬鹿だった。こいつのせいで・・・俺の言葉で、人を傷つけちまった・・・こいつの、こいつのせいで・・・」
ネックレスを外して地面に投げ捨てながら、悟史が吐き捨てるように言った。と、その時――
「全部が、それのせいってわけじゃないよ。・・・それを使わなくたって、君は自分の言葉で、人を傷つけることがあるかもしれないんだよ!?」
ミュウが目を潤ませながら、悟史の肩を掴んで言った。驚いて顔を上げる悟史に、ミュウはさらに言葉を続ける。
「昔、父さんからこう教わった。『言葉は刃。使い方次第で、人を助けるものにも、殺めるものにもなる』って。・・・確かに、君の言葉を形にしたのは、そのネックレスだよ。けど、その言葉を口にする前に、それが本当に言っていいものなのかどうか、判断するのは君なんだよ!」
返す言葉もなく、悟史は黙り込んでミュウの顔をじっと見つめた。そんな彼に、ミュウは優しく微笑みかけて続けた。
「昨日のことを、謝ってほしいわけじゃないよ。ただ、忘れないでほしいんだ。君が口にする言葉には、確かな責任が宿るってことを」
「責任・・・俺の、言葉に・・・」
と、その時だった。遠くから複数の靴音が聞こえたと思うと、ミュウ達の前にコマンドロボットを従えたラダロが現れた。
「やっと見つけましたよ。さあ、大人しく捕まってください、お嬢さん」
ミュウに銃を突き付けながら、ラダロがじりじりと迫ってくる。するとその時、悟史がミュウの前に立ち塞がると、ラダロ達に向かって大声で叫びかけた。
「来るな!」
次の瞬間、彼の叫びが形ある文字となって、ラダロに向かって飛んでいった。突然のことに対処できず、ラダロは文字が直撃して大きく吹き飛ぶ。
「言葉は刃、だったよな?・・・こういうのも、時にはありだろ?」
悟史の言葉に、ミュウは微笑みながらうなずいた。そんな彼女の目の前で、ラダロがコマンドロボットに支えられながら立ち上がる。
「くっ、なんと恩知らずな!コマンドロボット、あいつを殺してしまいなさい!」
逆上したラダロの指示で、コマンドロボット達が悟史に銃を向ける。と、その時。どこからか現れたランドタイガーとウィンドペガサスが、ラダロの死角から攻撃を仕掛けた。
「!?あれ、まさか・・・!」
「ミュウ、助けに来たよ!」
そう声を上げたミュウの目の前に、誠人とシルフィが姿を見せた。二人が現れたことは嬉しかったが、なぜ彼らがここに来たのか、ミュウには分からなかった。
「二人とも、どうして?」
「母さんから連絡があったんだ。君の動きがおかしいって」
「私とお坊ちゃまが近くにおりましたので、こうしてやってきたのです。お坊ちゃま、彼がこの事件の犯人ですね?」
ようやくプラモデロイドを退けたラダロを指さしながら、シルフィが誠人に問いかけた。
「ええ、昨日の宇宙人です。シルフィさん、行きましょう!」
GPドライバーV2を取り出しながら、誠人がシルフィに声をかけた。シルフィはそれにうなずくと、自らもドライバーを腰に巻いて待機状態にする。
「「アーマー・オン!」」
『Read Complete.』
『アーマーインサンライズ!サンライズ!』
『アーマーインハリケーン!ハリケーン!』
誠人はイリスV2に、シルフィはデュアルとなり、ラダロやコマンドロボット達との戦いを開始した。敵の攻撃を剣で弾きながら、イリスV2がミュウに叫びかける。
「ミュウ、彼を連れて安全な場所に!」
その言葉にうなずくと、ミュウは悟史を連れて逃げていった。それを見届けるとイリスV2は全身から真紅の輝きを放ち、敵がひるんだ隙に剣にフィニッシュカードをセットする。
『Read Complete.Be prepared for shining impact.』
太陽の力を込めた真紅のエネルギーが、剣先に収束される。その力が最大まで溜まると、イリスV2はトリガーを引いて一気に剣を振り払った。
『シャイニングサンライズ!』
たった一振りで、イリスV2を囲んでいたコマンドロボット達は全滅した。一方のデュアルはラダロを捕らえようとしていたが、彼の持つ銃から放たれる光弾にプラモデライザーの光の矢をぶつけた瞬間、光弾が二つに割れてデュアルに迫り、その体に命中した。
「ああっ!・・・光弾が、二つに・・・!?」
ラダロは得意げに笑うと、さらに光弾を宙に向けて発射した。するとその光弾が無数に枝分かれし、まるで意思を持つように四方八方からデュアルに迫り、次々と命中してその体から火花を散らす。
『めんどくせえ相手だ。シルフィ、あれを使おうぜ!』
「ええ・・・行くわよ、ディアナ!」
『フュージョントリガー、スタートアップ』
デュアルはフュージョントリガーを起動させると、ドライバーの右上部にセットした。そしてカードスロットをスライドさせ、トリガーのボタンを押す。
『レディ』
フュージョントリガーから、新たな電子音声が流れだす。それを確かめるとデュアルはライトニングのカードを手に取り、カードスロットに挿し込んで展開させた。
『フュージョン、スタート!疾風!迅雷!烈風!激雷!暴風!強雷!二心一体、ライトニングハリケーン!』
ディアナと合体してライトニングハリケーンの姿になると、デュアルはアックスモードのアックスガトリングを左手に持ち、一気にラダロに向けて突っ込んだ。ラダロはデュアルに向けて光弾を発射するが、デュアルはそのことごとくを斧の刃で弾き飛ばし、ラダロとの距離を詰めてその体を斬り裂いた。
「うわあっ!・・・と言いたいところですが!」
ラダロがそう叫んだ瞬間、弾かれた光弾が意志を持つようにその向きを変え、デュアルの背後から迫ってきた。だがデュアルが右手を上に上げた瞬間、その周囲に落雷が降り注ぎ、迫っていた光弾もその雷と相殺されて消滅した。
『チャージ!』
デュアルがアックスガトリングの刃の近くにあるレバーを引くと、電子音声と共に刃に翠に輝く風のエネルギーが充填された。デュアルは強化された刃でラダロの体を斬り裂き、大きく吹き飛ばした。
「一気に行きますわ!」
『マックスチャージ!』
デュアルがレバーを三回引くと、風のエネルギーが最大まで充填された。その状態で、彼女は武器のスロットにフィニッシュカードをセットする。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
必殺技用のエネルギーが追加で充填され、斧全体が翠色の輝きを放った。デュアルは武器のトリガーを引き、斧をラダロに向けて投げつける。
『ハリケーンマックスエンド!』
投げられた斧は意思を持つようにラダロに向かって飛んでいき、その体を勢いよく斬り裂いた。その余剰エネルギーで大爆発が起こると同時に、斧はデュアルの手の中に戻る。
「あっ・・・ああっ・・・」
戦意を喪失したラダロが、うめき声と共に倒れ伏す。一方のデュアルは、手の中のアックスガトリングにまじまじと視線を向けた。
『やっぱすげえな、これ・・・』
「ええ・・・恐ろしいくらい、強い力ね・・・」
☆☆☆
こうして、一人の武器商人が起こした騒動は、誠人達の活躍で終息することになった。
「じゃあ、お願いします」
誠人はミュウと共に、回収したネックレスとタブレット、そしてラダロを、駆けつけた銀河警察の職員に引き渡した。去り行く銀河警察の宇宙船を見送るミュウに、誠人がふと思い出したように問いかけた。
「そういえば、あの時の彼、もう大丈夫なのか?」
「うん。悟史君、こないだの駅でのこと、謝ってくれた。ネックレスも手放して、お母さんにもしっかり謝るつもりだって、そう言ってたよ」
「そっか。・・・『言葉は刃』。ミュウの言葉、確かに伝わったようだな」
そう言うと、誠人はミュウの頭を軽く撫でた。ミュウは少し顔を赤らめながら、誠人に笑顔でうなずくのだった。
☆☆☆
事件が起きたのは、それからすぐのことだった。
ラダロの身柄や証拠品を受け取った銀河警察の職員は、一路ギャラクシーガーディアンを目指して船を進めていた。職員の一人がラダロの様子をうかがおうと、彼が囚われている部屋に入ろうとした、まさにその時――
「うっ!?ううっ・・・!」
突然、彼の腹を白銀に光る刃が貫き、その命を奪い取った。その背後に立っていた黒服を纏った女が、倒れこんだ職員の体から刃を引き抜き、遺体を漁って手に入れたカードキーで部屋に入る。
「あ・・・あなたは?」
「私はリヤ・ソンブラー。リーベルト社長の命で参りました」
突如現れた見知らぬ女に警戒したラダロだったが、『リーベルト社長』という言葉に彼の表情はほころんだ。
「しゃ、社長の!?もしや、私を助けに・・・?」
と、その時。ラダロの額に、リヤと名乗った女が手にした刃を突き付けた。
「いいえ。あなたを、始末しに参りました」
「な・・・!しま、つ・・・!?」
「リーベルト社長は、あなたの失態が我が社にもたらす影響をひどく憂慮されています。故に、全て始末させていただきます。あなたの所持品も、あなたが作ったLMDも、そして・・・あなたの命も」
その言葉通り、リヤは押収されたLMDやタブレットを、全て焼却処分していた。それを守ろうとした職員達は、全て彼女の刃のさびになっている。
「そ、そんな・・・嫌です、どうかお助けを・・・」
口をパクパクさせながら必死に命乞いするラダロに、リヤは冷酷な笑みを向けた。彼女はラダロの方へ身を乗り出し、その耳元にささやきかける。
「喜びなさい。その命を捧げることで、あなたは会社を守れるのです」
「や・・・やめ・・・」
程なく、船内にラダロの断末魔の悲鳴が轟き渡った。宇宙船が大爆発を起こしたのは、それからわずか1分後のことであった。
第26話、いかがだったでしょうか。
残暑が厳しい毎日ですが、この暑さに負けないよう頑張ってまいります。




