第25話「心、体、一つに」前編
「・・・では、フュージョントリガーは起動しなかったと、そう言うのだな?」
それから、およそ一時間後。虹崎家の自室で、レイがGPブレスを使ってある人物と言葉を交わしていた。
「はい。ベンブリッツ刑事は、今もβの家で眠ったままです。・・・もしかしたら、フュージョントリガーそのものに、何かしらの不具合があったのかもしれません。銀河警察から送られてきた正規品ではありませんでしたし・・・」
「なるほど。・・・引き続き、ベンブリッツ刑事、及びフュージョントリガーの観察を続けろ。もし正常に使うことができたなら、その力も見極めるように」
「承知しました。・・・全てはオケアノスの未来のために」
「うむ。その働きに期待するぞ、360号」
その言葉を最後に、会話の相手は通信を打ち切った。レイは小さくため息をつくと、皆が集まるリビングに足を運んだ。
「どう?目は覚めた?」
「ううん・・・まだ、気を失ったまま。とりあえず、ドライバーとフュージョントリガーは外したけど・・・」
ソファに横たわるシルフィを心配そうに見ていたキリアが、レイの問いかけに沈んだ声で答える。その近くにあるテーブルには、GPドライバーV2とフュージョントリガーが置かれている。
「一体、どうしちゃったんでしょうね。これを使おうと思った途端、体に稲妻みたいなのが走ってましたけど」
フュージョントリガーを手に取りながら、ミナミが不思議そうに声を上げる。するとその時、シルフィの姿が一瞬でディアナのものに変わり、ミナミの手からフュージョントリガーをひったくった。
「簡単な話さ。オレとシルフィの気持ちがバラバラで、こいつの力でも一つにまとめられなかったんだ」
手の中のフュージョントリガーを、ディアナは悲しそうな目で見つめた。それを見て、誠人が彼女に問いかける。
「ディアナさん・・・さっき、一体何があったんですか?あのシルフィさんが、あんなこと言うなんて・・・」
「・・・あの二人、特にあの母親を、オレはどうしても許すことができなかった。自分の不幸の原因を娘に押し付けて、『あの時殺しておけば』とかほざきやがったんだ。・・・だからオレ、思わずあいつに向かって発砲しちまった。当たりこそしなかったけどよ、それでもシルフィにとっちゃショックだったろうな」
そこで一旦言葉を切ると、ディアナはふっと自嘲的な笑みを浮かべた。
「分かってるよ。全部、オレが悪いんだ。実の家族と戦いたくないってシルフィの思いを、オレは私情で踏みにじった。嫌われて当然さ・・・!」
どこかわざとらしく陽気な声を上げると、ディアナはある決意を口にした。
「だからよ・・・オレ、決めた。もう二度と、シルフィから体は奪わない。元々、この体はあいつのもんだ。だから・・・オレはもう、二度と表には出てこない。お前らとこうして話すのも、これを最後にするよ」
「そんな・・・待ってくださいよ」
ディアナの言葉に納得できず、誠人が思わず声を上げた。
「確かに、ディアナさんが取った行動は間違いだったかもしれません。でも、それを理由にシルフィさんの中に引きこもるのは、ちょっと違うんじゃ・・・」
「いや、オレは今まで散々、あいつに迷惑ばかりかけてきた。その罪滅ぼしって思えば、この体の中でずっと生き続けるってのも悪くはねえ。・・・あ、今のことあいつには言うなよ。今はあいつが眠ってるから言えたけど、あいつが起きてるうちは、恥ずかしくてとても言い出せたもんじゃねえや」
バツが悪そうに笑いながら、ディアナは自分の頭をかいた。そんな彼女の姿を見て、ミュウが心配そうに問いかける。
「いいんですか?その気持ち、シルフィさんに伝えなくて」
「ああ。あいつはただ、オレを憎んで嫌っててくれりゃあそれでいいのさ。それであいつの心が安らぐってんなら、いくらでも憎まれてやるさ、オレは」
「・・・!」
ディアナのその言葉に、ソフィアはかつての自分の言葉を思い出した。それは誠人と出会ったばかりの頃、教え子であるミナミの同期生達の死の真相を知った彼に向け、口にした言葉であった。
――誰かを恨むことで、あの子の気持ちが少しでも軽くなるのなら、いくらでも恨まれてやるわよ、私は――
(この子も、相手を想う一心で・・・)
「んじゃ、そろそろ失礼するわ。・・・もうすぐ、『同居人』がお目覚めみたいなんでね」
ディアナはあくまで軽い口調で言うと、ソファに自分の身を横たえて誠人達に視線を向けた。
「これでさよならだ。・・・シルフィのこと、お願いな」
「あ、ディアナさん・・・!」
カグラの制止も聞かず、ディアナは目を閉じて意識を深く沈めていった。程なくその姿がシルフィへと戻り、彼女はゆっくりとその両目を開く。
「ん・・・ここ、は・・・?」
シルフィはしばらく虚ろな目で周囲を見渡していたが、やがてその瞳が誠人達の姿を認識した。
「皆様・・・ここは、虹崎家でございますか?」
「シルフィ・・・よかった、目が・・・覚め、て・・・」
シルフィが目覚めたので喜びの声を上げようとしたキリアだったが、先ほどのディアナの言葉を思い出して言葉を詰まらせた。それを知らぬシルフィは額に手を置き、必死に何かを思い出そうとしていた。
「私は・・・確か、フュージョントリガーを使おうとして・・・・・・それから、えっと・・・えっと・・・・・・」
「無理に思い出そうとしなくていい。時間が経てば、自然と思い出すだろうから」
シルフィの肩に手を置きながら、レイが彼女を落ち着かせようと声をかけた。
「はい・・・すみません、お気遣いいただいて・・・」
「いいの、今は休んでて。・・・β、一応茜さんにも連絡入れて。シルフィが目を覚ましたって」
「あ・・・はい」
この時、茜は家に担ぎ込まれたシルフィのために、看病に使う道具を買いに行くと言って家を飛び出したきり、まだ戻っていなかった。誠人は母親に連絡を取るため、一旦部屋を退出する。
「お兄様・・・そうですわ!兄と母は、あの後・・・どうなりました?」
「・・・残念ながら、取り逃がしちまったよ。今はどこにいるか分からないけど、きっとまた襲ってくるはず」
シルフィの問いかけに、カグラが沈んだ表情で答えた。その答えを受け、シルフィが安堵とも落胆ともとれる、複雑な表情を浮かべた。
「左様で、ございますか・・・」
消え入りそうな声でそう言うと、シルフィは一同に深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。あの時・・・私が本気で戦っていれば、このようなことにはならなかったはず。・・・肉親とはいえ、相手はレッドレベルで手配されている犯罪者です。私の覚悟が・・・刑事としての自覚が足りなかったばかりに、このような・・・」
自責の念に駆られるシルフィの姿に、ミナミ達はかける言葉を失った。だがその時、ソフィアがシルフィのもとへと歩み寄った。
「シルフィ、少しいいかしら?」
「良かった・・・シルフィさん、意識が戻ったのね」
一方。誠人からシルフィが目覚めたと連絡を受けた茜が、ほっと安堵のため息をついた。
「うん・・・だけど、問題がもう一つできちゃった。ディアナさん今回の件で責任感じてて、もうシルフィさんの体は使わないって・・・」
「あら・・・それはかなりの問題ね」
誠人の言葉に深刻な表情で応えながら、茜は路地裏に入り込んだ。と、その時――
「虹崎茜、だな?」
一人の青年が茜の前に立ち塞がり、鋭い眼光を彼女に向ける。ただならぬ雰囲気を感じながらも、茜はスマホをカバンにしまって気丈に問いかけた。
「あ・・・あなたは・・・?」
「俺はマウォルス・ベンブリッツ。急な頼みで恐縮ではあるが、あなたの身柄を預からせていただく」
☆☆☆
「ディアナが、そのようなことを・・・!?」
数分後。虹崎家からほど近い公園にシルフィを連れ出すと、ソフィアは先ほどのディアナの言葉を彼女に伝えていた。
「ええ。あの子、全部一人で背負い込む気なのよ。全て・・・あなたのためにね」
『チッ・・・姐御の奴、余計な事を・・・』
シルフィの体の中のディアナが、決まりの悪そうな声を上げる。
「自覚はないかもしれないけど、あなた幸せ者よ。ディアナはあなたのこと、本当に大切に思ってる。あなたのお母さんを撃とうとしたのも、その気持ちが行きすぎちゃったということなんじゃない?」
「それは・・・しかし、あれは明らかにディアナが・・・」
「はいはい。とにかく、私から言えることは一つ。このフュージョントリガーを使いこなしたいなら、あなたとディアナ、二人の心を一つにする必要がある。でも今のあなた達じゃ無理ね。戦う気持ちも、お互いへの思いも、全部バラバラのあなた達には」
そう言いながらも、ソフィアはシルフィにフュージョントリガーを差し出した。困惑の表情を浮かべるシルフィに、ソフィアはさらに言葉をかける。
「この際よ。ディアナと、腹を割って話してみなさい。そうすればきっと、これを使いこなせるようになる。私は、そう確信してるの」
フュージョントリガーをシルフィの手に握らせると、ソフィアは虹崎家へ戻ろうとした。するとその時、3台のイリスピーダーが、公園の近くまで走り寄ってきた。
「あ・・・止めてくれ、ミナミ!ソフィアさん、シルフィさんも一緒ですか!?」
先頭のバイクの後部座席に座っていた誠人が、ソフィアを見止めて運転するミナミにバイクを止めさせ、早口で問いかけてきた。
「え、ええ・・・どうしたの、皆?」
「マウォルスに茜さんが捕まった。彼女のスマホを通じて、私達に奴から連絡が」
「連絡っていうか、挑戦状っていうか・・・とにかく、茜さんを助けたかったら来いって、ボク達にそう言ってきたんです!」
レイとミュウの言葉に、ソフィアの表情が歪んだ。すると彼女のもとに、異変を悟ったのかシルフィが駆け寄ってきた。
「兄と母が動き出したのですね?ならば、私も・・・!」
「駄目よ!今のあなたがするべきは、ディアナと腹を割って向かい合うこと。それが終わらない限り、この戦いに勝ち目はないわ!」
逸るシルフィをたしなめると、ソフィアはミナミに視線を向けて問いかけた。
「ミナミ、あなた達はどこに向かっているの?」
「ここから4キロほど先にある、旧北川工場跡って所です。そこに、奴らと茜さんが」
「分かった。シルフィ、話が終わったらそこに来なさい。それまで、私達が何としても時間を稼ぐから」
『Iri-speeder、come closer.』
ソフィアはイリスピーダーを呼び出すと、それに跨ってヘルメットをかぶった。
「いい?どれだけ私達が心配でも、お互い納得いくまで話し合わないうちは、絶対にここから出ちゃだめよ。分かった?」
「はい・・・皆様、ご武運を・・・!」
そのシルフィの返事を受け、ソフィアはヘルメットのバイザーを下ろしてバイクを走らせ、旧北川工場跡に向かった。その後に続くミナミや誠人達の姿を、シルフィは見えなくなるまで見つめていた。
一方。旧北川工場跡では、新たな強化スーツを身に纏ったマウォルスがさらってきた茜の手足を縛り、足元に転がしていた。
「そろそろ来る頃合いだ。虹崎茜、これからあなたの子息と、それを守る刑事どもをまとめて始末する。・・・今のうちに訊いておこう。あなたは子息の前と後、どちらに殺されたい?」
マウォルスの問いかけに、茜はふっと強気な笑みを浮かべた。
「その質問には、答えられないわ。だって・・・私の息子も、刑事さん達も、あなたなんかには殺せないから」
「何・・・?」
思わず眉を上げたマウォルスだったが、その傍らに立っていた母のモイラが、手を上げて息子を制した。
「勇敢な方ですね。しかし、今のマウォルスに敵う者はいません。例えイリスV2の力でも、今の彼は倒せない」
「どうかしら・・・?いずれにせよ、私は息子を・・・皆を信じるだけよ・・・!」
茜が自信満々で言い切った、まさにその時。4台のイリスピーダーが、廃工場跡に到着した。
「母さん!」
「誠人君!皆・・・!」
「待ちかねたぞ。・・・妹はどうした?」
シルフィがいないことに気づき、マウォルスが誠人達に問いかけた。
「あの子はいない。けど、いずれ必ずここに来る。・・・その時があなた達の最後よ!」
まるで確信しているかのように、ソフィアがGPブレスを構えながらマウォルスに答えた。一方のマウォルスもヘルメットをかぶり、それと同時に物陰に隠れていた無数のソルジャーロイドが、武器を構えて姿を現す。
「行くぞ。我らにはもう、失敗は許されないのでな!」
「来いよ。けど、僕達は絶対に負けない!ミナミ!」
「はい!」
隣に立つミナミに叫びかけると、誠人は装着したイリスバックルを待機モードにした。そしてホルダーから引き抜いたグランドのカードを、勢いよくバックルの認証部分にかざす。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.グランドアーマー!』
ミナミとの合体を完了し、誠人はグランドアーマーのイリスとなった。彼はソードモードのプラモデラッシャーを握り締め、勢いよくマウォルスに向かって駆け出すのだった。




