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チーム・イリスの事件譚  作者: 髙橋貴一
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第24話「忌み子」前編

「渡したのですか!?フュージョントリガーを、地球人の女に!?」

 同時刻。ギャラクシーガーディアンの長官室で、ジョージが一人の男とホログラムを使って会話していた。

「ああ。だがその女性は、君達が守っている虹崎誠人の母親だ。彼女なら間違いなく、ベンブリッツ刑事に届けてくれるだろう。違うか?ガイルトン長官」

「あ、いえ、仰る通りで・・・・・・しかし、いつの間に完成させたのです?我々の科学グループの総力を結集しても、まだ試作品すらできていないというのに・・・」

「それを知る必要はない。とにかく君の使命は、虹崎誠人という1000年に一人ともいうべき強力なユナイト持ちを、犯罪者どもの手から守ることだ。今の君に期待しているのは、それだけだ」

 そう言うと、男は通信を打ち切った。そのホログラムが消えると同時に、ジョージは力が抜けたように太いため息をつく。

「そうだ・・・犯罪者などに渡っては困るのだ。あの力は、使い方次第でこの宇宙そのものを変える。我々の目の届くところに、しっかり留めておいてもらわねば」

 一方、ジョージと話していた男が、自室の窓から見える広大な宇宙を見ながら呟いた。その男の左目には、黒い眼帯があてられていた。



「でも驚いたわ。まさかシルフィさんが刑事で、しかももう一つの人格を体に宿してたなんて」

 翌朝。誠人達とリビングでコーヒーを飲みながら、昨日帰ってきたばかりの茜がため息をつくように言った。

「驚いたのは僕もだよ。僕はてっきり、母さんは全部知ってると思ってたから」

「いいえ。母さんはただ、誠人君やミナミさん達の面倒を見てくれる家政婦さんを、ネットで募集しただけなのよ。でもまさか、それに銀河警察の刑事さんが応募してくるなんてね」

「黙っていて、申し訳ございません。本当の身分は隠すようにとの、厳命が下っておりましたので・・・」

 心から申し訳なさそうに詫びるシルフィに、誠人が助け船を出した。

「いえ、シルフィさんが悪いわけじゃないですから。・・・それより、例のフュージョントリガーのことについて、何か分かりましたか?」

「いいえ・・・あの後、ガイルトン長官に問い合わせたのですが、向こうも大層驚かれたご様子で・・・確認して再度連絡すると仰っていましたが、まだ返事はなく・・・」

「そうですか。・・・それにしても、あんなアイテムが作られてたなんて・・・」


 話は、一日前にさかのぼる。

「シルフィさん、それ何なんですか?」

 フュージョントリガーを目にした時、シルフィは困惑しつつもそれを知っているかのような言葉を口にした。その様子を見た一同の気持ちを代弁するかのように、ミュウがシルフィに問いかけた。

「これは、フュージョントリガーという物でございます。この体に宿る二つの精神・・・つまり、私とディアナの人格を同時にデュアルの鎧に反映させ、その力を倍以上に強化する・・・・・・要するに、デュアルの力を高めるための道具として、以前より開発が進められていたのです」

「でもまさか、こんなに早く完成するとはな。オレ達が聞いてた話じゃ、開発にえらい手間と時間がかかって、試作品の完成ですらあと半年はかかるってことだったんだ」

 シルフィの後を引き継ぐように、ディアナが表に出てきて言った。するとそれを初めて見た茜が、驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。

「か・・・変わった!シルフィさんが、別の人に!?」

「お母さん、あとでちゃんと説明するね。・・・でも、もしそうだとしたら、なんで今完成した物が届いたんだろう?」

 疑問の声を上げたキリアに、ディアナは小さく首を横に振って応えた。

「さあな。ただ、もしこいつが本当に完成品だとしたら、オレ達の力は確実に強くなる。なんせ、オレとシルフィの力が同時に使えるんだ。それは素直に歓迎すべきことだろ?」

「いずれにせよ、一度ガイルトン長官に伺いを立ててみます。これが本当に、正規のフュージョントリガーなのか。それを確認できないことには、これを使うことはできません」

「ま、またシルフィさんに戻った・・・母さん、もうついていけないわ・・・」

 ディアナの姿がシルフィに戻ると、茜が疲れ果てたように額に手を置いた。それを見て、ミナミが茜に声をかける。

「大丈夫ですよ、お母様。この二人と接するうえで、全員が一度は通る道ですから」

 そんな二人をよそに、誠人はシルフィの手の中のフュージョントリガーをじっと見つめた。もし、先ほどのシルフィ達の話が本当なら、確かに戦力アップは歓迎すべきことであろう。だが、本来ならまだ完成していないはずのアイテムが、なぜ今届けられてきたのか。誠人のみならずその場にいた誰もが、同じことを疑問に思っていた。

(一体誰が・・・何のために、これを送ってきたんだ・・・?)


「シルフィとディアナの力が一緒に使えるなんて、すごいアイテムだよね。もっとも、ちゃんと使えればの話だけど」

 誠人と同じく昨晩のことを思い出し、キリアが無邪気な声を上げた。

「ああ。ただ、シルフィさんも言ってたけど、誰があれを作ったのか、なんで今送られてきたのか、それがはっきりしないことには、軽々しく使えるアイテムじゃないと思う」

「ええ。私達も、まだこれは使わないことにします。もし何かが起きてしまっては、取り返しがつきませんから」

 手にしたフュージョントリガーを懐にしまうと、シルフィは気を取り直すように小さなため息を一つついてから言った。

「さて、これから昼食と夕食の食材を買ってまいります」

「買い物?なら、私も手伝う」

 コーヒーカップを皿に置きながら、レイが手伝いを申し出た。普段はあまり家事に関わらないレイの申し出に、シルフィが少し驚いたような表情を浮かべる。

「え?・・・よろしいのですか?」

「たまには、家事の一つも手伝わないと。・・・構わない?β」

「え?・・・まあ、レイさんがそうしたいなら、僕は別に」

「なら決まり。行きましょ、シルフィ」

「は、はい。・・・では、行ってまいります」

 誠人達に頭を下げると、シルフィはレイと共に買い物に向かった。それと時を同じくして、地球の大気圏外に、一隻の小型宇宙船が姿を見せた。

「あれがテラ・・・母上、もう間もなく到着です」

「ええ・・・マウォルス、あなたの活躍に期待しています。全ては、組織の恩義に報いるため」

「はっ。必ずや、ご期待に応えてみせます」

 強化スーツに身を包んだ若草色の髪の青年が、手にした光線剣を光らせながら言った。彼のスーツの左肩には、他星間テロ組織・ゼロワールドの紋章が刻まれていた。


☆☆☆


「うーん・・・今日の晩御飯のカレーのお肉、豚にしようかしら、それとも牛が・・・」

 それから、数十分後。新たな脅威が迫っていることなど知る由もなく、シルフィはレイと共に近所のスーパーで買い物を続けていた。

『おい、いつまで考えてんだよ。いっそのこと両方買えばいいだろ、めんどくせえなあ』

「いけません、それじゃ予算オーバーです。あなたもいい加減経済観念くらい持ちなさい、ディアナ」

「・・・シルフィ、あまりこういう場でディアナと喧嘩しないで。・・・ほら、皆あなたの方見てる」

 近くで魚を選んでいたレイが、シルフィの様子を見かねてたしなめるように耳打ちした。その言葉にはっと我に返ると、シルフィは周囲の買い物客の多くが自分を見つめていたことに気づく。

「も・・・申し訳ございません、レイ様!私ったら、なんて恥ずかしいことを・・・」

『おい、恥ずかしいってなんだよ。オレ達にとっちゃこれが普通だろうが』

「それは・・・もう!こういう場所で話しかけてこないで、ディアナ!」

「・・・だから、こういう場での喧嘩はやめて。ほら、またみんながあなたを見てる」

 再び一斉に向けられた周囲の視線に、シルフィの顔は恥ずかしさで真っ赤になった。彼女は牛肉をさっと手に取るとそそくさとレジに向かい、会計を済ませてさっさと店を後にした。

「申し訳ございません、レイ様。先ほどは、とんだ失態をお見せしてしまい・・・」

 虹崎家への帰路につきながら、シルフィが申し訳なさそうにレイに詫びた。

「私は、別にいいけど。・・・でも、やっぱり大変よね。自分の体の中に、もう一つの人格があるというのは」

「ええ・・・ですが、これは生まれつきのこと。ディアナとは、たとえ嫌でも一緒にいるしかないのです。この先もずっと・・・ずっと・・・・・・」

 胸に手をそっと当てながら、シルフィは自分に言い聞かせるように言った。するとそれを聞いたディアナが、心外とばかりに声を上げる。

『おい、それじゃまるでオレが厄介者みたいな言い方じゃねえか。オレだって好きでお前と一緒にいるわけじゃねえっつの』

「な・・・何ですって!?もう一度言ってごらんなさい、ディアナ!」

「ふう・・・やっぱり大変そうね、シルフィ・・・」

 レイがため息交じりに呟いた、その次の瞬間。突如として二人の上空に、一機の紅い戦闘機が姿を現した。

「な・・・何、あれは・・・!?」

 レイが驚きの声を上げる中、戦闘機から地上に向けて一筋の光が照射された。そしてその光の中から、装甲服に身を纏った一人の男が現れる。

「ここがテラ・・・ふん。何ともごみごみとした星だ」

「シルフィ、あの男・・・」

「ええ。職務質問し、場合によっては・・・」

 レイと視線を交わし合うと、シルフィは左腕のGPブレスを戦闘モードに切り替えた。そんな二人に気づくことなく、男は独り言を続ける。

「気分が悪い。さっさとターゲットを抹殺し、この星からはおさらばするとしよう」

「ターゲット?抹殺?随分物騒なことを言ってるわね、あなた」

 レイの言葉に、男はヘルメット越しに二人に視線を向けた。

「お前達は・・・なるほど。銀河警察か」

「いかにも。あなたは一体何者なのです?ターゲットとは、一体どなたのことなのですか?」

「ふん。所詮お前らもこれから始末することだ、冥途の土産に教えてやる。俺はゼロワールドの構成員の一人、マウォルス・ベンブリッツだ」

「・・・!ベンブリッツ・・・!?」

 男の名前を聞いた途端、シルフィが驚きのあまり目を丸くした。レイもベンブリッツという男の名字に、驚きの声を漏らす。

「それって・・・シルフィ達と、同じ名字・・・!」

「貴様ら銀河警察は、この星で多くの同胞の命を奪った。俺は貴様らと、貴様らが守る虹崎誠人というガキを始末するために・・・」

 驚く二人に何の反応も示さず、男は再び言葉を発した。するとその途中で、シルフィが絞り出したかのような声で問いかけた。

「あなたは・・・!あなたは、本当にベンブリッツの人間なのですか・・・?」

 そのどこか鬼気迫った表情に、マウォルスはわずかに首をかしげながら答えた。

「そうだ。俺は惑星フィーヴンの名家・ベンブリッツ家の当主。この俺に殺されることを、光栄に思うがいい」

「やはり・・・やはり、あなたは・・・!」

 男の言葉を聞くなり、シルフィの体がガクガクと震えだした。そんな彼女に危機感を覚えたのか、ディアナが体の中から叫びかける。

『おいシルフィ、あいつの言うことなんか真に受けんな。奴はテロリストだぞ、早いとこぶっ倒してお縄に・・・!』

「黙りなさい!だって、この人は・・・この・・・人は・・・!」

「さっきから何なのだ、貴様は?なぜそこまで俺のことを気にする?」

 どこか様子がおかしいシルフィに気づき、マウォルスが苛立ち混じりに問いかけた。シルフィは肚を決めると、一歩前に進み出た。

「シルフィ、下がって!」

「いえ、ここは私にお任せを。・・・マウォルス、と仰いましたか?私の名は、シルフィ・ベンブリッツ。あなたと同じ、フィーヴンのベンブリッツ家の生まれでございます・・・!」

「・・・!シルフィ、だと・・・!?」

 シルフィの言葉に、今度はマウォルスが驚きの声を上げた。彼はヘルメットを外すと、露わになった素顔でシルフィの顔をじっと見つめた。

「よく見れば、左右の瞳の色が違う・・・・・・そうか。お前が・・・母上の仰っていた、俺の・・・妹か・・・!」

「妹・・・?では、あなたは私の、お兄様ということなのですね・・・?」

 シルフィとマウォルス。この二人の間に、一瞬だが沈黙の空気が流れた。だがそれを破ったのは、ヘルメットを再びかぶり、腰に差していた剣を引き抜いたマウォルスであった。

「そういうことになる。・・・だが、お前は我が一家に災いをもたらした。その命、今ここで絶ってくれる!」

 マウォルスは剣の刃を光らせると、シルフィを目掛けて駆け出し始めた。レイがGPブレスから光弾を放って威嚇したが、マウォルスは剣でそれを弾き、シルフィに攻撃を仕掛ける。

「・・・!おやめください、お兄様!」

「黙れ!貴様が妹であるものか!貴様は・・・ただの忌み子だ!」

 感情的な声で叫ぶと、マウォルスはより激しい攻撃をシルフィに仕掛けた。必死にその攻撃をかわすシルフィに、ディアナが再び叫びかける。

『何やってんだ、戦えシルフィ!』

「できない・・・できないわ!だって・・・相手は、私のお兄様なのよ!?」

 マウォルスの剣をかわしながら、シルフィが必死に叫び返した。

『んなこと知るか!おめえがやられたら、こっちだって死んじまうんだ!』

「あ、ディア・・・!」

 勢いよく振り下ろされたマウォルスの剣が、シルフィの首筋を捉えたかと思われた。だが次の瞬間、シルフィの姿はディアナへと変わり、その左手が剣を持つマウォルスの右手をがっしりと掴んだ。

「ん!?・・・そうか、貴様がシルフィの中に宿った、もう一つの人格か・・・!」

「ああ、そうさ。言っとくがオレは、あいつと違って敵には容赦がなくてよ・・・!」

 ディアナは左手を離してマウォルスのバランスを崩すと、右手で強烈なストレートパンチを放ち、マウォルスの腹にお見舞いした。その一撃はマウォルスを後退させたが、強化スーツの固さにディアナも右手を痛めてしまう。

「ああ、痛ってえ・・・!」

『やめなさい、ディアナ!お兄様と戦う必要なんてないわ!』

「黙ってろ、馬鹿野郎。こいつ、おめえを殺す気だったんだぞ。売られた喧嘩は、買わねえとな・・・!」

 シルフィに言葉を返すと、ディアナはGPドライバーV2を腰に装着しようとした。と、その時。マウォルスが乗っていた紅い戦闘機から再び光が放たれ、今度は細身の女性がその中から姿を現した。

『・・・!あの方は・・・!』

 女性の顔を見た時、シルフィは思わず声を上げた。彼女の顔は少し老けていたものの、あの忌まわしき夢に現れる若い女性の顔と瓜二つであった。

「そこまでです、マウォルス。今のあなたは、少し感情的すぎます」

「はっ・・・すみません、母上」

「母上?・・・じゃあ、彼女が・・・!」

 マウォルスの言葉を聞き、レイも思わず声を漏らす。そんな彼女に目もくれずに、女性はディアナに複雑な表情を向けた。

「久しぶりですね、シルフィ。・・・いいえ、その中に宿っていた彼女の双子、とでもいうべきでしょうか?」

「はっ、好きに呼びな。会うのは初めてだが、オレはあんたをよーく知ってる。なんせ・・・オレ達を一度殺そうとしてくれやがったからな・・・!」

「殺す・・・?ディアナ、それはどういうこと!?」

 話の展開が読めず、レイがディアナの方へ駆け寄る。だがディアナはそんなレイを突き飛ばし、女性に怒りのまなざしを向けた。

「あんたも、その旦那も、まじないなんか信じてオレ達を殺そうとしやがった。てめえらだけは・・・絶対に許さねえ!」

 ディアナはドライバーを腰に巻くと、パーツをスライドさせて待機モードにしようとした。だがその時、彼女の右手が小刻みに震え始めた。

「な・・・何しやがる!やめろ、シルフィ!」

『いいえ、やめません!この方は私の・・・私の・・・!』

 シルフィは必死に力を振り絞り、ディアナから体の主導権を奪い取った。彼女は荒い息をつきながら、目の前の女性に左右で色が違う瞳を向けた。

「あなたは・・・お母様、なのですね・・・?」

「ええ・・・そうですよ、シルフィ」

 どこか懐かしそうな目で、女性はシルフィをじっと見つめた。だがそれも一瞬のこと、彼女はすぐに隣のマウォルスの方を向いた。

「一度退きますよ。彼女達と戦うのは、その昂る心が静まってから」

「はっ・・・そういうことだ。覚えておけ、次はない」

 ヘルメットを脱いでシルフィに鋭い視線を向けると、マウォルスは母と共に手に付けた機械のスイッチを押した。すると戦闘機から再度光が放たれ、二人の体を包み込んだ。

「お母様!お待ちください、お母様!お兄様!」

 シルフィの叫びも虚しく、二人は光と共に戦闘機の中に消えた。程なく戦闘機もその姿を消し、そこには力なく頽れたシルフィと、レイだけが残されるのだった。

「お母様・・・お兄様・・・!」

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