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チーム・イリスの事件譚  作者: 髙橋貴一
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第23話「美の狩人」前編

「ミナミ。ミナミ、早く起きて」

 それから、数日後のこと。虹崎家のミナミの部屋で、すっかり夢の中のミナミをレイがなんとか起こそうとしていた。

「んん・・・何ですか、レイ?せっかく気持ちよく寝てたのに・・・」

「『何ですか』じゃないでしょ?・・・このままだと、学校に遅刻する」

『学校』、そして『遅刻』。この二つの言葉を聞いた途端、ミナミの両目がパチッと開いた。

「しまったあああああああっ!!昨日から学校始まってたんだったああああああああっ!!」

 大急ぎで身支度を整え始めるミナミを横目に、朝食を取っていたキリアが呆れたようにつぶやいた。

「あーあ。あれこそまさに、夏休みボケってやつだね」

「ええ、典型的すぎて言葉もありませんわ。ミナミ様、お着替えが済んだらお早めに朝食を」

「は、はい・・・ってあれ?誠人さんは?」

 シルフィが用意したトーストにかじりつきながら、ミナミは誠人がいないことに気づいて尋ねた。

「お兄ちゃんならもう行っちゃったよ。ミナミがいつまでたっても起きないから」

「ひー!それを先に言いなさいっての!こうしちゃいられません、行ってきまーす!」

 食べかけのトーストを咥えたまま、ミナミは家を飛び出した。そしてしばらく全力疾走するうちに、ついに彼女は誠人の背中を捉えた。

「誠人さん!誠人さーん!」

「ふう・・・やっと来たか、ミナミ」

 トーストを食べながら必死に駆け寄ってくるミナミを見て、誠人が小さくため息をついた。ようやくその隣に追いつくと、ミナミが荒い息と共に声をかける。

「ひ・・・ひどいじゃないですか誠人さん!私を置いて一人で行くなんて!」

「ひどいも何も、お前が寝坊するのが悪いんだろ?起こそうと思って何度も声をかけたのに、全然起きる気配なかったから・・・」

「え・・・?起こそうとしてくださったんですか?何度も?」

 誠人の言葉に、ミナミが驚いたような表情を浮かべた。

「ああ、何度もだ。体だって何度もゆすったんだぞ?それなのに・・・」

「誠人さんが・・・体をゆすった!?ああ!なんでその時起きてなかったんでしょう、私!誠人さんの手が触れる瞬間を、その感覚を、この身に刻み込む大チャンスだったのに!!」

 道のど真ん中ということも忘れて、ミナミが舞台女優顔負けの大きなリアクションで落胆を表現した。道行く人々が一瞬ミナミを見つめてそそくさとその場を離れる姿を見て、誠人の方が恥ずかしくなってきた。

「こ・・・こんなとこで芝居がかったことするな!行くぞ、ほら!」

「あ、誠人さ・・・!」

 誠人はミナミの手を取ると、大股で学校へと向かい始めた。手から伝わってくる誠人のぬくもりに、ミナミは数週間前の出来事を思い出す。


 ――私・・・本当に、ここにいていいんですか・・・?――

 ――ああ・・・いてほしい。いや・・・ここにいてくれ・・・!――


 ――誠人さん・・・私、ずっとあなたを守ります――

 ――ああ・・・よろしく頼む、ミナミ――


 あの時感じたぬくもりと同じ、まるで太陽のような暖かさが、誠人の手からは感じられた。ミナミはそれを感じられる幸せを噛みしめながら、誠人と共に前に進んでいくのだった。



 同時刻、所はドイツのブレーメン。現地時間では深夜のその街に、一人の女性が姿を現した。

「ここね。地球外の物体の反応が検知されたのは」

 そう呟いたのは、黄色い髪を夜風になびかせたソフィアであった。GPブレスのセンサーの反応を注視しつつ、彼女は周囲を警戒して様子をうかがう。

「だ・・・誰か!誰か来てくれ!」

 その時、現地の言葉で叫びかけた者がいた。ソフィアは表情を一瞬で険しくすると、声の聞こえた方へ急行する。

「なんということだ・・・アデリナ、アデリナはどこに・・・!」

 駆けつけた先では、一人の壮年の男性が呆然とした表情で、金魚のように口をパクパクと明けていた。明らかにただ事ではないその表情に、ソフィアがドイツ語で話しかける。

「落ち着いて。アデリナって誰?一体何が起こったの?」

「き・・・消えたんだ、彼女が。別れて1分も経っていないというのに、悲鳴が聞こえたと思ったら、彼女の姿が・・・!」

「!?消えた・・・?」

 ソフィアはうわごとのように言葉を漏らす続ける男性を尻目に、GPブレスを構えながら周囲に鋭い目を向けた。だが辺りに目を凝らしても、不審な気配や人物は見受けられない。

『Start up、Luna Snake』

 ソフィアはルナスネークを召還し、赤外線などを視覚できるその目で周辺を探らせた。するとルナスネークの目が赤く点滅し始め、同時にアラーム音のようなものが鳴り響いた。

「・・・!あそこ・・・!」

 ソフィアはGPブレスのモニターとルナスネークの視界をリンクさせ、ルナスネークが発見した"何か"の方へ駆け出した。そして前方の上空に向けてGPブレスからの光弾を発射すると、何かに当たったかのように光線が光の波紋を作った。

「・・・!宇宙船・・・?」

 ほんの一瞬ではあったが、頭上の空に宇宙船のような物がその姿を浮かび上がらせた。船はステルス機能を使ったのか、再び夜の闇に紛れてその姿を消し、GPブレスでも探知できなくなった。

「地球外の物体の反応、消えた女性、そして謎の宇宙船・・・これは、面白いことになってきたかもね・・・」


☆☆☆


「なあ星南、なんか今日、ここに残ってる奴らが少なくないか?」

 一方。所は日本、時間はその日の正午過ぎのこと。昼休みに弁当を箸でつつきながら、誠人がふと気づいたことを隣の席の星南に問いかけた。

「あれ?知らなかったのかい、虹崎君?実は昨日の新学期スタートに合わせて、1年生ですごい子が転校してきたんだ」

 そう答えると、星南はカバンの中から若者向けの雑誌を引っ張り出した。そしてページをペラペラとめくると、目当ての写真を見つけて誠人に見せる。

「ほら、これがその子」

「え?まさかモデルか?えっと・・・柿崎游亜(かきざきゆあ)・・・?」

「そう!その子もとは地方アイドルで、今年モデルとして全国デビューしたばっかなんだけど、今じゃ若者向け雑誌の表紙を飾るほどの人気モデルなんだよ!」

 二人の話を聞いていた柚音が、割って入るように誠人に解説した。

「なるほど。その人気モデルが転校してきたから、皆見に行ってるってわけか」

「そゆこと。ほら、昨日は始業式で半日しか学校なかったじゃない?游亜ちゃんも早々に帰っちゃったし、じっくり姿を拝めるのは今日からってわけ」

「なるほど。・・・でも、柚音さんは見に行かなくていいんですか?大好きな流行りものですよ?」

「おい、人を物みたいに言うな」

 ミナミの言葉の選び方に、誠人が思わず小声でツッコむ。一方問いかけられた柚音は、得意げな表情でふっふっと笑った。

「実はね、あたしもう昨日会っちゃったの!会ったのはトイレだったんだけど、転校初日ですっごく堅苦しそうにしてたから、『リラックスしていこう』って声をかけたの。そしたらほら!お礼にサインもらっちゃった!」

「なんと!すごいじゃないですか、柚音さん!人気モデルのサインなんて、その筋で売れば大儲け間違いなしですよ!」

「おい、なんでそういう方向に行くんだ、ミナミ」

 誠人が呆れたように声を上げた、その時だった。二人のGPブレスに、ソフィアから通信が入った。

「ソフィアさん・・・?ミナミ」

「あ、はい・・・」

 誠人はミナミを連れ、昼休みのため使われていない空き教室でソフィアからの通信に応じた。

「こちら誠人。どうしたんですか、ソフィアさん?」

「坊や、それにミナミ。今すぐ、学校の屋上に向かってちょうだい」

 どこか切迫した様子のソフィアの声に、誠人とミナミは思わず顔を見合わせた。

「ど・・・どうしたんですか、急に?」

「いいから早く!あなた達の学校の近くから、地球外の飛行物体の反応が検知されているの!」

「何ですって!?分かりました、行くぞミナミ!」

「あ・・・はい!」



 誠人とミナミが屋上に向かい始めた、まさにその頃。游亜の教室には、その姿を一目見んとたくさんの生徒が押し寄せていた。

「游亜ちゃん、本物の游亜ちゃんだ!」

「雑誌いつも見てるよ!ねえ、今度一緒にお買い物行こう!」

「游亜ちゃん、サインして!できることなら握手して!」

「あ、あはは・・・ちょ、ちょっと失礼・・・」

 押し寄せる生徒の波を潜り抜け、游亜は足早に教室を後にした。彼女は生徒達の目を盗むと、人気のない屋上へと逃げ込んだ。

「はあ・・・疲れるなあ・・・」

「ほう。お疲れのようだね、柿崎游亜君」

 その時、游亜の背後から男の声が聞こえた。びくっとして振り向いた彼女が見たのは、民族衣装の仮面のような顔をした不気味な宇宙人だった。

「きゃああああああああああっ!」

 その面妖な姿に、游亜は悲鳴を上げた。それと時を同じくして、誠人達が屋上に辿り着いた。

「誠人さん、あれを!」

「あれは・・・おい、止まれ!」

 宇宙人の姿を見るなり、誠人がGPブレスを戦闘モードにして突き付けた。その声に気づいた宇宙人が、誠人とミナミに視線を向ける。

「そのブレスレット・・・まさか、銀河警察がこの星に?」

「あんた、何者ですか?ことと次第によっちゃ、容赦しませんよ!」

 誠人と同じく、ミナミもGPブレスを戦闘モードにして宇宙人に突き付ける。宇宙人はため息をつくように顔を伏せると、両手に持った銃を二人に向けた。

「なるほど、私の調査が甘かったか。まあいい、君らを先に排除させてもらう・・・!」

 そう言うが早いか、宇宙人は銃身のダイヤルを回し、引き金を引いて銃口から光弾を発射した。辛うじてその攻撃を回避した誠人達だったが、光弾が当たった屋上の壁はその熱で焼け焦げてしまった。

「くっ・・・ミナミ、あの子を頼む!」

『Start up、Wind Pegasus』

『Start Up、Thunder Tyranno』

 ミナミに声をかけると、誠人はシルフィとディアナから預かった予備のプラモデロイドのカードをGPブレスにスキャンさせた。現れた二体のプラモデロイドが宇宙人に攻撃を仕掛け、追い詰められていた少女から引き離してゆく。

「今だ!」

「はい!」

 ミナミは誠人の声を合図に、游亜のもとに駆け寄った。その顔を見るなり、ミナミは驚きの声を漏らす。

「この子は・・・!とにかく、こっちに!」

 助けたのが先ほど話題に上っていた人気モデルと知り、ミナミはわずかに驚いた。彼女は游亜の手を引きながら、屋上から避難する。

「貴様・・・よくも邪魔を・・・!」

 襲ってくる二体のプラモデロイドを払いのけながら、宇宙人が誠人を睨みつけた。

「悪かったね。でも、あんたが何をしてたのか、こっちも聞き出す必要がありそうだ・・・!」

 誠人はGPドライバーV2を腰に装着すると、待機モードにして手にしたサンライズのカードを装填した。

「アーマー・オン!」

『Read Complete.灼熱!焦熱!光熱!アーマーインサンライズ!サンライズ!』

 誠人はイリスV2に変身すると、セイバーモードのライズガンセイバーを手に宇宙人に攻撃を仕掛けた。宇宙人は始め銃からの光弾をイリスV2に向けて放ったが、その攻撃が剣に次々と弾かれたと見るや両手に鎌を握り締め、イリスV2の攻撃を受け止めていく。

「答えろ!あの子に、一体何をしようとしていた!?」

 剣の攻撃を鎌に防がれながらも、イリスV2が宇宙人を問い詰めた。

「答える義理はないな。だが、私もこの欲望をここで終わらせるつもりはない」

 宇宙人は両手に力を込めてイリスV2の剣を押しのけると、バランスが崩れた敵を鎌で続けざまに切り裂いた。

「あと二人なんだ。君達を倒して、この星からおさらばするとしよう!ハアッ!」

「うわあっ!」

 宇宙人の力強い攻撃に、イリスV2は大きく吹き飛ばされた。鎌を手に倒れこむイリスV2に迫ろうとした宇宙人だったが、その時彼の体が黄色い光に包まれ、突然身動きを止めた。

「な・・・何だ、これは・・・!?」

「ようやく見つけたわ。まさか、よりにもよってこの学校に現れるとはね」

 イリスV2の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。それから程なくして、黄色く光る手を宇宙人に向けながらソフィアが姿を現す。

「ソフィアさん!」

「どうも、坊や。実は最近、この星で妙な失踪が相次いでいてね。色々調べていたんだけど、どうやらこいつが関わってるみたい」

 ソフィアはイリスV2にそう答えると、GPブレスを構えながら動きを封じた宇宙人の方へ歩み寄った。

「昨日、ドイツで歌手の女の子をさらったでしょ?それだけじゃない。アメリカやロシア、アフリカやブラジルでも、モデルや女優が姿を消してる。・・・あんたの仕業よね?」

「ふふ・・・だったら?」

 不敵な笑い声を上げた宇宙人だったが、次の瞬間彼を包む光が強くなった。うめき声を上げる宇宙人を、ソフィアは怒りの目で睨みつける。

「ふざけるのはやめなさい。その気になれば、このままあんたを絞め殺すことだってできるんだから・・・!」

 ソフィアが手を握る仕草を取ると、再び宇宙人が痛みに悶えて声を上げた。見かねてイリスV2が立ち上がり、ソフィアのもとに駆け寄る。

「ま、まだ殺しちゃだめですよ。こいつの犯罪履歴を調べて、何をしたのかを突き止めないと・・・」

「はは・・・どの道、君らに捕まったら私は殺されるさ。だが、ただじゃ死なない。死ぬのは・・・私の欲望が満たされたその後だ!」

 そう宇宙人が叫んだ瞬間、その両目から怪しい光が放たれた。その光にイリスV2とソフィアがひるみ、光の拘束が緩んだと見るや、宇宙人は手にした銃のダイヤルを回して銃口から煙を放ち、それを目くらましにして姿を消した。

「くっ・・・また逃がした」

「またって・・・さっきの話もそうですけど、ソフィアさん、あいつを追ってたんですか?」

 変身を解除すると、誠人は悔しそうな表情を浮かべるソフィアに問いかけた。

「ええ、そうよ。坊や、今のうちにこの星の刑事達を全員、あなたの家に集めといて。学校が終わったら、皆で作戦会議よ」



 誠人達が謎の宇宙人を取り逃がしたのと、ほぼ同時刻のこと。とある銀河に浮かぶ一隻の宇宙船の中で、数人の科学者がある装置を開発していた。

「よし・・・完成だ」

 完成した手のひらサイズの赤い装置を手に取ると、科学者の一人がそれをとある人物のもとへと持っていった。

「完成いたしました。フュージョントリガーです」

 科学者が差し出した装置を受け取ったのは、黒い眼帯を左目にあてた一人の男性であった。男性は装置を手に取ると、その出来栄えに満足そうな笑みを浮かべる。

「うむ・・・よく完成させてくれた。感謝するぞ、科学者諸君」

「はっ。・・・して、いよいよそれをデュアルに?」

「うむ。ベンブリッツ刑事も活躍してくれているが、今のままではイリスV2より戦力が劣る。彼女達にも、相応の力をつけてもらわねばな・・・」

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