第22話「重なる体、交わる想い」後編
「やめなよ、ミナミ。そんなことしたって、何の解決にもなりゃしないよ!」
「そうですよ!落ち着いてください、ミナミ先輩!」
シルフィが誠人に連絡を取ってから、数分後。部屋の荷物を大きなカバンにまとめるミナミを、カグラとミュウが必死に制止しようとしていた。
「邪魔しないでください、二人とも。私、もう決めたんですから」
カバンを背負いながら言うと、ミナミは大股で部屋を後にした。その前に、慌てて駆け寄ってきたシルフィが立ちはだかる。
「ミナミ様、もう間もなく、誠人お坊ちゃまも戻られます。どうか・・・どうかそれまでは・・・」
「ああもう、どいつもこいつもしつこいですね!私が・・・私がいなくなれば、それで全部丸く収まるんです!それでいいでしょう!?」
「あっ!・・・ミナミ様!」
シルフィを乱暴にどけさせると、ミナミはそのまま玄関に向かった。すると彼女を黙って見ていたソフィアが、その背中から声をかける。
「逃げちゃうの?坊やと向き合うことから。関係をやり直すことから」
その言葉に、ミナミは一度足を止めた。だが彼女は瞬時うつむいたものの、すぐに顔を上げて言葉を返す。
「好きに言えばいいですよ。もう・・・私は決めたんです」
ソフィアの方を向かずに言うと、ミナミは玄関に向かってドアに手をかけようとした。するとその時、ドアが乱暴に開けられ、息も絶え絶えの誠人が姿を現した。
「誠人さん・・・」
「ミナミ・・・よかった、間に合って・・・!」
そう言葉を漏らした彼の背後からは、これまた息も絶え絶えのレイとキリアが姿を見せた。誠人は呼吸を整えると、ミナミに向かって言葉をかける。
「随分な荷物だな。・・・どこへ行く気だ?」
「誠人さん・・・私、この家を出ます」
「!?」
「え!?」
事情をあまり知らないレイとキリアが、同時に驚きの声を漏らす。一方の誠人は必死に気持ちを落ち着かせながら、ミナミに問いかけた。
「いきなり何を言い出すんだ?ここは地球における君の家だ。出ていく必要なんて・・・」
「だって!だってもう・・・私、誠人さんにとって必要ないじゃないですか・・・」
感情的な声で叫ぶと、ミナミは複雑な表情で誠人を見つめた。
「誠人さんには、V2ドライバーがあります。キリアも言ってましたけど、それを使えば、今までのイリス以上の力を使うことができます。それに・・・私がいなくたってレイやカグラが、シルフィとディアナだっていますし、・・・認めたくはないですけど、ソフィアだっています。子供だと思ってたキリアとミュウも、今じゃ私より誠人さんのことを理解できてます。だから・・・もう私がいなくたって、誠人さんは・・・」
と、その時だった。誠人が身を乗り出すと、ミナミの体を強く抱きしめた。
「誠人・・・さん・・・?」
「そんな・・・そんなこと言うなよ・・・・・・君が必要ないなんて、そんなことあるわけないだろ・・・!」
声を震わせながら言うと、誠人はより強くミナミの体を抱きしめた。
「誠人さん・・・?」
「さっき・・・僕が君を遠ざけたのは、もう・・・君に傷ついてほしくなかったからだ。もう・・・この前のようなことになるのは嫌だ。また君と、離れ離れになるのは嫌だ。そう思って、僕は君を遠ざけた・・・」
誠人の目から、一筋の涙が流れていった。それを拭うことなく、誠人はさらに言葉を続ける。
「でも・・・僕は間違ってた。自分の思いだけを押し付けて、君の気持ちを考えようともしなかった。少し考えれば、君がどれだけ僕のために頑張ろうとしてくれてるか、すぐに分かったはずなのに・・・!」
人目をはばかることなく、誠人は涙を流し続けた。そして彼は、偽りのない本心をミナミに告げた。
「こんな僕に、誰かに守られる価値なんてこれっぽっちもないとは分かってる。けど・・・一つわがままを聞いてもらえるとしたら・・・・・・君には、僕のそばにいてほしい。その力で、これからも僕を守ってほしい。君は・・・君は僕にとって、一番必要な人だから・・・!」
その言葉に、ミナミは驚いたように目を丸くした。彼女は消え入りそうな声で、誠人に質問を重ねた。
「私・・・誠人さんにとって、必要な女ですか・・・?」
「ああ・・・そうだ・・・」
「私・・・本当に、ここにいていいんですか・・・?」
「ああ・・・いてほしい。いや・・・ここにいてくれ・・・!」
誠人の言葉が、ミナミの胸に突き刺さった。彼女はカバンを足元に落とすと、誠人の体を強く抱き返した。
「ミナミ・・・?」
「誠人さん・・・私、嬉しいです。そこまで私のこと、想っててくださったなんて・・・!」
誠人を抱き返したミナミもまた、両目から涙をあふれさせていた。大好きな男のぬくもりを体中で感じながら、彼女は再び口を開いた。
「私も・・・謝らなきゃいけません。誠人さんの気持ちも知らず、勝手なことばかり言いました。本当に・・・ごめんなさい・・・!」
「いいんだ。もう・・・これで終わりにしよう。また・・・今まで通りに、一緒に過ごそう。デートの約束も、まだ果たせてないし」
「ふう・・・なんとか、丸く収まったみたいね」
二人の様子を見ていたソフィアが、安堵のため息と共に言った。他の刑事達も、二人の和解を目にして安心していたのだが・・・
「見つけたぞ。虹崎誠人」
突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。ミナミから手を離して誠人が振り返ると、そこにはバトルスーツに身を包んだカイとメルの姿があった。
「お前ら、さっきの・・・!」
「お熱い所に失礼します。虹崎さん、私達と共に来ていただきましょう。・・・ああ、今度は私達だけではありませんよ」
メルが指をパチンと鳴らすと、二人の周囲に無数のドローン兵器が現れた。それはイリスV2への対策として、二人がバラムに要請して急遽取り寄せた、ネビュラカンパニーの兵器であった。
「ッ!ドローンが、あんなに・・・!」
「まさか、この戦力差で勝てるとは思うまいな?怪我をしたくなければ、早々に降参することだ」
圧倒的なドローンの物量を見て声を上げた誠人に、カイは投降を促した。だがその時、ミナミのGPブレスから光弾が発射され、光弾はカイの頬をかすめてそのすぐ後ろにあったドローンに直撃し、粉々に破壊した。
「・・・!貴様・・・!」
「あんたらが誰かは知りません。ですがね、この私がいる限り、誠人さんには指一本触れさせませんよ!」
カイとメルを強い意志のこもった目で睨みつけながら、ミナミはそう宣言した。その言葉に勇気づけられ、誠人はイリスバックルを取り出した。
「ミナミ・・・一緒に戦ってくれるか!?」
「ええ、もちろんです。誠人さんの行く所、たとえ火の中水の中・・・!」
誠人の問いかけに、ミナミはくすっと微笑みながら答えた。それを見て嬉しそうな笑みを浮かべると、誠人はバックルを待機状態にし、ホルダーからグランドのカードを引き抜いてスキャンさせた。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.震える大地!グランドアーマー!』
誠人の体をイリススーツが覆い、同時にミナミの体が黒い鎧に変化した。そしてスーツに鎧が装着され、誠人とミナミの合体は完全に完了した。
『行きますよ・・・誠人さん!』
「ああ!」
ソードモードのプラモデラッシャーを手に、イリスは敵に向かって駆け出した。それを見たカイがイリスを指さすと、背後のドローンが一斉にイリスに攻撃を仕掛ける。
『はっ!やっ!おりゃああっ!』
ドローンから放たれる光弾を、イリスは剣で次々と弾き飛ばしていく。イリスは眼前に迫ったドローンを斬り捨てると、カイとメルに攻撃を仕掛ける。
「はっ!」
カイはイリスと距離を取ると、その手からビーム状の電撃を放った。スーツによって強化された電撃が、イリスの体を包み込んでその動きを封じる。
「うっ・・・ミナミ、大丈夫か・・・?」
『ええ・・・なんの、これしき・・・うおおおおおおおおおおっ!』
ミナミは電撃を受けながらも、一歩一歩前に進んでいった。そして剣を振りかざすと、一気にカイに迫ってその体に斬りつけ、大きく後退させた。
「ば・・・馬鹿な!スーツによって強化された、俺の攻撃を・・・!」
「ならば・・・はあっ!」
今度はメルが、両手から炎の弾丸を放つ。だがイリスはその攻撃を剣で弾き飛ばし、大きくジャンプしてメルに接近し、その体を剣で斬り裂いた。
「うああああっ!」
「メル!くっ・・・ドローン!」
カイがさっと手をかざすと、ドローンが陣形を組みながらイリスに攻撃を仕掛けてきた。その攻撃をなんとか剣でさばきながら、誠人がミナミに叫びかける。
「ここじゃ家が危ない。ミナミ、イリスピーダーを!」
『はい!』
『Iri-speeder、come closer.』
イリスがカードを使うと、ギャラクシーガーディアンから放たれた虹色の光線の中からイリスピーダーが現れた。イリスはそれに飛び乗って発進させ、ドローンとツインズを住宅街から離れたエリアに誘導する。
「私達も行くわよ。βとミナミをサポートしないと」
レイの声に従い、戦いを見守っていた刑事達もイリス達を追って走り出す。シルフィもそれに続こうとしたが、その時彼女の目の前に、ギャラクシーガーディアンからもう一筋の虹色の光線が降り注いだ。
「な・・・何!?」
光線の眩さに、シルフィは思わず両手で顔を覆った。やがて光線が消滅すると、彼女の中でディアナが声を上げた。
『お・・・おい、シルフィ!これ・・・!』
その声に顔を上げたシルフィは、目の前の光景に驚きの表情を浮かべた。先ほど光線が降り注いだ場所には、風と雷を模したパーツが取り付けられた一台のバイクがあった。
「シルフィ刑事、そしてディアナ刑事。贈り物は、無事に届いたかな?」
GPブレスに映るジョージが、茶目っ気のある表情で二人に声をかけた。バイクのシートには『DUAL-SPEEDER』と刻まれた、バイクのイラストが描かれたカードが置かれている。
『はは・・・いい時に送ってくれたぜ、長官』
「ええ。行くわよ、ディアナ」
「ほら、こっちだ!」
数分後。イリスはバイクを巧みに操り、ツインズとドローンの群れを人気のない河川敷まで誘導していた。そしてある程度敵と距離を取ると、Uターンして追手と対峙する。
「ここでなら、いくらでも暴れられる。行くぞ、ミナミ!」
『はい!』
イリスはバイクを急発進させ、今度は敵に向かって突進していった。メルが威嚇として放った火球が近くの地面に直撃して火柱を上げても、イリスは動じることなくバイクを走らせ続ける。
「撃て!」
カイの指示で、ドローン群も光弾をイリスに雨あられと発射する。イリスは巧みなバイクさばきでそれをかわすと、剣を一閃してドローンを斬り裂き、破壊した。
『ついでにこれで!』
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスはフィニッシュカードを剣にスキャンさせ、大地の力をその刃に集積させる。そして力が最大まで溜まると、イリスは剣を大きく振り払ってトリガーを引いた。
『グランドスラッシュ!』
『やあああああああああっ!』
裂帛の気合と共に放たれた光の刃が、数多くのドローンを破壊した。だがそれを見ても、カイ達は余裕の表情を崩さない。
「まだだ。ドローンはいくらでもある」
カイが指をパチンと鳴らすと、その言葉を裏付けるように再び大量のドローンが現れた。イリスが再び身構えたその時、バイクのエンジン音がどこからか聞こえてきた。
「あ・・・あれは!」
音のする方に視線を向けたイリスが見たのは、一台のバイクに乗ってこちらに向かって走ってくる、ハリケーンアーマーのデュアルの姿だった。彼女は片手でバイクを運転しながらもう片方の手にボウガンモードのプラモデライザーを持ち、そこから放つ光の矢でドローンを破壊していく。
「新手か・・・ふん!」
カイがデュアルに向け、光線状の電撃を放つ。デュアルは巧みなバイクさばきでそれをかわすと、一気にバイクの速度を上げて立ちはだかろうとしたツインズを退け、イリスのもとに駆け付けた。
「お待たせいたしました、お坊ちゃま!ミナミ様!」
「シルフィさん、そのバイクは?」
「ガイルトン長官が私達のために作ってくださった、デュアルスピーダーでございます。このマシンは・・・」
『ああ、うだうだ言ってんな。代われ、シルフィ!』
「な・・・ディアナ、急に・・・あああっ!」
『アーマーインライトニング!ライトニング!』
ディアナは強引に体の主導権を奪ってデュアルの姿を変化させると、ハンドル付近のボタンに指を伸ばした。
「えっと・・・あのマニュアル通りなら、確かこのボタンで・・・」
バイクの到着直後に斜め読みしたマニュアルを思い出し、デュアルはボタンを押した。すると――
『Switch to flying-mode』
「え?うわお!」
電子音声が鳴り響くと同時に、マシンの車体が中央から開き始めた。驚いてジャンプしたデュアルが見下ろす中、紫と翠の色をした内部パーツがその姿を現し、飛行機の翼のように展開した。
「よっと。・・・わお、こりゃすげえ・・・!」
ものの数秒で、バイクだったデュアルスピーダーは小型の飛行マシンにその姿を変えていた。その車体に着地して感嘆の声を上げると、デュアルは目の前の敵の群れに視線を向けた。
「確か、オレの意思を信号に変えて、それで動くんだよな?なら・・・早速暴れるか!」
デュアルは興奮気味に声を上げると、デュアルスピーダーを発進させて敵に突進した。早速ドローン群が攻撃を仕掛けてきたが、デュアルは手にしたハンマーモードのプラモデライザーを振るい、ドローンの攻撃を弾いて一気に距離を詰め、強烈な一撃で破壊していく。
『私達も行きましょう、誠人さん!』
「ああ!」
イリスもバイクを急発進させ、再び敵の群れに突っ込んでいった。ツインズがそれを止めようと炎と雷の攻撃を放つが、イリスはそれにひるむことなく突進を続けていく。
「はあ、はあ・・・あ、あそこ!」
ようやくデュアルに追いついたレイ達が、息を上げながらイリス達の方へ駆け寄ってきた。だが彼女達が加勢するまでもなく、勢いに乗るイリスとディアナは次々と敵のドローンを破壊し、それを操るツインズに迫りつつあった。
「馬鹿な・・・このような、ことが・・・!」
もはや数えるほどにまで減ったドローンを見て、メルが驚愕の声を上げる。一方のイリスとデュアルはツインズを挟み込むように、左右から一気に接近してゆく。
「同時に決めるぞ、ボウズ達!」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
ハンマーを投げ捨てると、デュアルはフィニッシュカードをV2ドライバーに挿し込んだ。
「分かりました!ミナミ!」
『はい!』
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスもバイクを自動操縦にすると、そのシートに立ちながらフィニッシュカードをバックルにスキャンした。そして二つのマシンがツインズの目前に迫ると、イリスとデュアルは同時にジャンプして必殺技を発動させた。
『グランドフィニッシュ!』
『ライトニングフィニッシュ!』
大地と雷、二つの力を凝縮させたキックが、ツインズに向けて放たれた。ツインズは背中合わせになって全エネルギーを変換した光線を同時に放ったが、イリスとデュアルのキックはその光線を押しながらツインズに急接近し、同時に両者の体に直撃した。
「うわああああああああっ!!」
「ああああああああああっ!!」
ツインズの体は爆発と共に吹き飛び、地面に叩きつけられた。それと同時に、イリスとデュアルが同時に地面に着地した。
「よし・・・!」
勝利を確信したレイが、短く喜びの声を上げる。あとはこの謎の襲撃者を逮捕し、真相を暴くだけであったが・・・
「この失態・・・もはや我らの生きる道は絶えた」
「ええ・・・かくなるうえは、潔い最期を選ぶのみ・・・!」
ツインズの二人は小さくうなずき合うと、小型のスイッチを手に取った。そして同時にそのボタンを押すと、次の瞬間両者の体は大きな爆発を起こし、あとには二人の痕跡は何一つ残らなかった。
「・・・!自爆した・・・」
「一体、何だったんでしょう、あいつら・・・?」
その爆発を目にした誠人とミナミが、怪訝な表情で声を上げる。だがその問いに答えられる者は、この場に一人たりとて存在しなかった。
☆☆☆
翌日の夕方。レイはGPブレスで、昨日襲ってきたツインズについて調べていた。
「やっぱり、銀河警察のデータにもない。・・・あいつら、何の目的でβを・・・」
「ま、この広い宇宙には、あたしらの分からないことなんて山のようにある、ってことさ」
虹崎家を訪れていたカグラが、伸びをしながらレイに言葉をかけた。するとその時、彼女と共にやって来ていたミュウが、あることに気づいて声を上げる。
「そういえば、誠人君とミナミ先輩は?さっきから、二人の姿が見えないですけど・・・」
ミュウのその問いかけに、シルフィが料理の手を止めて答えた。
「今、お二人は外出されています。・・・約束を、果たすために」
「うわあ・・・綺麗・・・」
同時刻。誠人とミナミの姿は、夕日に彩られるとある海の砂浜にあった。
「ああ・・・すごいな、本当に」
ミナミともう一度デートする。その約束を果たすため、誠人は彼女をこの海に連れてきていた。『砂浜で夕日が見たい』。療養中に彼女が口にした願いを、誠人は叶えてあげようと心に決めていた。
「誠人さん・・・私、ずっとあなたを守ります。この地球にいる限り、ずっとそばで、あなたをお守りいたします」
「ああ・・・これからもよろしく頼む、ミナミ」
オレンジ色に燃える夕日を見つめながら、二人は互いの手をつないだ。そんな二人を祝福するかのように、陽光は二人の顔を美しく照らすのだった。
☆☆☆
「ツインズめ・・・高い報酬を手にしておきながら、任務一つ果たせずか・・・」
その頃。ネビュラカンパニーの本社で、ツインズの死を知った社長のバラムが吐き捨てた。
「虹崎誠人よ、これは始まりだ。私は必ずお前を手に入れる。そう・・・必ずな・・・」
デスク上のパソコンに映る誠人の顔を見ながら、バラムは決意を新たにして言った。その彼の片手には、四角く黒い謎の装置が握られていた。
第22話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです。




