第21話「離れる体、すれ違う想い」後編
その頃。ミナミは依然として、カグラに羽交い絞めにされたまま宇宙船から遠ざけられていた。
「は・・・放しなさい!放してくださいってば!カグラ、あのバンダッドファミリーは危険な奴らです。ミュウじゃ荷が重いって、あんたでも分かるでしょうが!」
「そりゃ・・・それくらい、あたしだって分かってるさ!」
もう十分宇宙船から離れたと見て、カグラはミナミの体から手を離した。そして彼女の目をまっすぐ見つめ、諭すように言った。
「けど、今のあんたと少年が合体したところで、あいつらにはどの道勝てないよ。それは・・・あんたも薄々気づいてるんじゃないのかい?」
「そ・・・そんなことは・・・そんなことは分かりませんよ!とにかく、早く誠人さんの所に・・・!」
「あらあら。復帰早々血気盛んになってるわね、ミナミ」
その時、二人の前にソフィアが姿を現した。彼女の顔を見て、ミナミが表情を曇らせる。
「くっ・・・今度は何の用ですか、ソフィア?」
「何の用も何も、この騒ぎを聞きつけてきたのよ。・・・でもあなた、さっきから聞いてれば何をそんなに焦っているの?焦りは正常な判断を狂わせる。そんな状態で戦ったら、勝てる戦いも勝てなくなるわよ?」
痛い所を指摘され、ミナミがさらに表情を曇らせた。だが彼女は、誠人のもとに戻るという考えを変えようとはしなかった。
「だ・・・黙りなさい!私は、誠人さんに証明しなきゃなんです。もう十分休んだって・・・私は、今までのようにまた戦えるんだって!だからどきなさい、ソフィア!」
ミナミがソフィアに向かって怒声を上げた、まさにその時。近くから、銃声のような音が聞こえてきた。
「この音・・・まさか、誠人さん!?」
「あ・・・おい待て、ミナミ!」
音の聞こえた方へ駆けだすミナミを、カグラが慌てて追いかける。やがて二人の視界に、バンダッドファミリーの戦闘員から攻撃を受け、必死に応戦する誠人達の姿が映った。
「誠人さん!無事ですか!?」
「・・・!ミナミ!?」
ミュウを担ぐキリアを庇いながら戦う誠人に、ミナミが駆け寄ろうとした。だがその時、風を切る音と共に飛んできた圏のような武器が、ミナミに猛スピードで迫ってきた。
「危ない!」
「きゃっ!」
誠人はとっさにミナミの体を押し倒し、武器の直撃を回避させた。武器は再び風を切りながら、コーディと共に現れたパメラの手に収まった。
「見ぃつけた。今度こそぉ、切り刻んであ・げ・る」
両手の武器を握り直しながら、パメラが冷酷な笑みを誠人達に向けた。その隣に立つコーディが、呆れたような顔でパメラをたしなめる。
「パメラ、あの少年を刻んではいけませんよ。・・・まあ、他の連中は別ですが・・・!」
「幹部クラスが二人・・・誠人さん、今度こそ私と!」
「駄目だ!・・・今の君とは、合体できない・・・!」
誠人からかけられた言葉に、ミナミは大きなショックを受けた。彼の声色は、まるで自分の存在そのものを拒絶しているかのように、ミナミには感じられた。
「そんな・・・誠人さん、どうして・・・?」
「あ・・・!少年、ごめん!あたしがついていながら・・・」
ようやくソフィアと共にミナミに追いついたカグラが、二人のもとに駆け寄って誠人に詫びた。
「カグラさん、今度こそミナミを頼みます。ここからは・・・僕一人で行きます」
誠人はGPドライバーV2を手に取ると、腰に装着して待機モードにした。そしてホルダーからサンライズのカードを取り出し、ドライバーに勢いよく挿し込む。
「アーマー・オン!」
『Read Complete.灼熱!焦熱!光熱!アーマーインサンライズ!サンライズ!』
誠人の体を真紅の鎧が包み込み、その姿をサンライズアーマーのイリスV2へと変えた。バイザー状の複眼が赤く輝くと同時に、ドライバーから真紅の剣が現れて彼の手に収まる。
『ライズガンセイバー』
「行くぞ。はあっ!」
イリスV2は剣に太陽の力を宿らせ、大きくジャンプしてパメラとコーディに挑みかかった。パメラが両手から圏状の武器を同時に飛ばしてイリスV2を狙うも、彼は剣を大きく振るって敵の武器を弾き飛ばし、一気にパメラに迫ってその体を切り裂いた。
「きゃあああっ!」
「パメラ!・・・ふん!」
パメラの危機に、コーディが指を触手に変えて遠距離からイリスV2を攻撃する。その攻撃を辛うじて回避すると、イリスV2は武器をガンモードへと変化させた。
『ガンモード』
「はっ!」
イリスV2は大きくジャンプしながら、ガンモードのライズガンセイバーから太陽の力を凝縮した紅い光弾を連続で発射した。複数の触手をまとめて盾にして防ごうとしたコーディだったが、光弾の威力は彼の想像をはるかに超え、盾をいともたやすく突破してコーディの体に直撃し、大きく吹き飛ばした。
「うわああっ!・・・何だ、この武器の威力は・・・?」
「よし。まずはあいつからだ・・・!」
イリスV2は地面に着地すると、手にしたフィニッシュカードをライズガンセイバーの認証スロットに挿し込んだ。
『Read Complete.Be prepared for burning impact.』
普段とは異なる電子音声が鳴り響き、同時に銃口が熱を帯びて紅い光を放ち始めた。吹き飛んだコーディのを守ろうと生き残っていた戦闘員が立ちはだかったその時、イリスV2は銃の引き金を引いた。
『バーニングサンライズ!』
放たれた灼熱の光線が、コーディとその部下達の体を包み込んだ。太陽の温度に匹敵する熱さの光線に焼き尽くされ、コーディとその部下達は跡形もなく消滅した。
「す・・・すごい・・・」
その威力を見たキリアが、呆然と声を上げる。一方でレイは、イリスV2の戦いを冷静に観察していた。
(あの威力・・・やっぱり、βとV2ドライバーの相性が良すぎるのが原因かも・・・)
一方のイリスV2は、今度はパメラに視線を向けた。パメラは表情を険しくしながら武器を握り直し、今度は白兵戦を挑んできた。
『セイバーモード』
だがパメラが放つ攻撃は、セイバーモードに戻ったイリスV2のライズガンセイバーにことごとく受け止められ、逆にお返しとばかりに強烈な斬撃がお見舞いされた。もはや一方的な戦いを見て、カムロがパメラに叫びかける。
「退け、パメラ!お前が勝てる相手じゃねえ!」
「や・・・やだ!こいつは・・・あたしが倒すんだ!うわあああああああああっ!!」
カムロの言葉を拒絶すると、パメラは雄叫びと共にイリスV2に襲い掛かった。イリスV2は相手の隙を見逃さずに剣を繰り出し続け、突きをパメラの体に直撃させて大きく吹き飛ばした。
「よし・・・今だ!」
『Read Complete.Be prepared for shining impact.』
再度認証スロットにフィニッシュカードを読み込ませると、今度は剣先が真紅の光に包まれた。イリスV2はライズガンセイバーを握り直すと、パメラに接近して一気に剣を振り払い、そのトリガーを引いた。
『シャイニングサンライズ!』
「はああああっ!!」
「いやああああああああああああああああっ!!」
その剣の一撃は、強化スーツごとパメラの体を深々と切り裂いた。絶叫を上げてパメラが倒れこむと、その体が大爆発を起こして消滅する。
「パ・・・パメラが・・・おのれ!覚えてやがれ、ガキめ!」
パメラの死に戦意を喪失しながらも、カムロは捨て台詞を吐いてその場から逃げ出した。ドライバーからカードを引き抜いて変身を解除した誠人に、レイ達が駆け寄る。
「やったわね、β」
「お兄ちゃん、ほんっとにすごかったね!キリアもあれくらい強くなりたいなあ・・・」
「はは、別に大したものでもないよ」
レイ達の言葉に応えながら、誠人はミナミの方へ視線を向けた。自分を見つめる彼女の複雑な表情に、誠人の顔からも笑みが消えるのだった。
「くっ、ガキどもが・・・・・・こうなりゃ、早いとここの星からおさらばしねえとな・・・!」
数分後。クルーズ用の宇宙船に戻ると、カムロは急いで船を起動させようとした。
「失敗したなんてばれたら、それこそ俺の命は・・・」
「ああ、ないな」
その時、カムロの背後からどこか冷たい声が聞こえた。ぎくりとしてカムロが振り返ると、そこには黒いスーツに身を包んだ、一組の男女の姿があった。
「あんたらは・・・ま、待ってくれ!これには、深い事情があるんだ!」
「何のために、あなた方を脱獄させたとお思いで?全てはこの星にいるユナイト持ちの少年を確保するため。あなたはそれができると確かに言いましたよ?」
「だからこそ、我々はお前達を脱獄させ、さらにこの船まで与えてやったのだ。契約の未履行は我らへの裏切り行為。我らネビュラカンパニーは、裏切りを決して許しはしない・・・!」
男が手をカムロに向けて伸ばすと、その指先に小さな稲妻のようなものが走り始めた。それを見て小さくため息をつくと、カムロは懐から取り出した光線銃を男に向けた。
「死ね!」
だが、その銃が発射される直前、男の手に宿っていた稲妻がカムロに向けて放たれた。カムロは稲妻に体を焼かれ、苦悶の叫び声を上げながら跡形もなく消滅した。
「対象の死亡を確認。私達の仕事は終わりですね、カイ」
「ああ。だがいずれ俺達にも、奴らと戦うよう命令が下るはず。もう少しこの星に留まるぞ、メル」
メルと呼ばれた女が小さくうなずくと、両手を広げて念じるように目を閉じた。すると船内の至る所から火が立ち上り始め、数分後にはその火が宇宙船全体を包み込み、一片の痕跡も残すことなく焼き尽くしていくのだった。
☆☆☆
「まあ、そのようなことが起こっていたのですか!?」
それから、およそ一時間後。ミュウの手当てのために虹崎家に戻った誠人達から話を聞き、シルフィが驚きの声を上げた。
「ええ。でも、V2ドライバーを使った坊やのおかげで、バンダッドファミリーは全滅した。あとはボスのカムロただ一人だけど、今頃はこの星から逃げてるんじゃないかしら」
「そうでしたか・・・申し訳ございません、お坊ちゃま。私が、事件を感知できなかったばかりに・・・」
「いえ、ミュウや他の皆さんのおかげもあって、なんとかなりましたから。それに、V2ドライバーの力も確かめることができましたし」
誠人がシルフィに言葉を返したその時、キリアがミュウの腕に包帯を巻き終えた。
「これでよしっと・・・ミュウ、まだ痛む?」
「ううん、大分楽になった。ありがと、キリアちゃん」
ミュウの言葉に安堵の表情を浮かべると、キリアはふと思いついたように声を上げた。
「でも、あれがV2ドライバーの力だとしたら・・・お兄ちゃん、もう今までのバックルいらないかもね。キリア達と合体しなくても、お兄ちゃん一人で十分戦えるもん」
その言葉に、部屋の隅でうなだれていたミナミがピクリと眉を上げた。そんな彼女に追い打ちをかけるように、誠人も言葉を発する。
「それもそうだな・・・もしそうなれば、君達に余計な無理をさせなくて済む。僕が、V2ドライバーの力で戦えば・・・」
「やめてください。そんなこと言うの」
その時、誠人の言葉を遮るように、ミナミが立ち上がって声を上げた。
「誠人さん・・・私達は、誠人さんを守るためにここにいるんです。そのためだったらいくらでも戦いますし、それで傷つくことだって覚悟の上です。だから、誠人さんは今までのように、もっと私達の力を頼ってください」
「私もミナミに賛成。β、前にも言ったでしょ?あなたは守られる側の人間。自分から進んで戦いに行く必要なんて、どこにもないの」
レイがたしなめるような言葉を誠人にかけたが、誠人も自分の意見を曲げようとはしなかった。
「その気持ちは、本当にありがたいです。けど・・・この間のミナミにしろ、今日のミュウにしろ、僕を守って傷つく人を、もうこれ以上見たくないんです。だから・・・これからは、もっと僕が・・・」
「ああもう、どうしてわかってくれないんですか、誠人さん!私はただ、誠人さんのことが心配なんです!もし、あなたの身に何かあったらと思うと、私は気が気じゃなくて・・・!」
「それ、本当にそうか?・・・もしかして、まださっきのこと、引きずってるのか?」
少しいらだったような誠人の口調に、さすがのミナミも顔色を変えた。二人の間に流れる空気を察し、シルフィが両者に声をかける。
「お、お話は、朝食の後になさいませんか?ほら、ちょうど朝ごはんができたのです。皆様もぜひ・・・」
「ええ・・・引きずってますよ」
シルフィの言葉は、ミナミの耳には全く届いていなかった。彼女は誠人を睨み据えると、感情のままに一気にまくしたてた。
「誠人さん、私言いましたよね?私はもう、十分休んだんです!もう十分、今までのように戦えるんです!だからさっき、合体して一緒に戦おうって、そう言ったんですよ!」
「ミナミ、僕は・・・」
何かを口にしかけた誠人だったが、彼は額に手を当てて首を横に振り、小さくため息をついた。
「もういい。今の君と話したところで、きっと僕の気持ちは分からない」
「分かってないのはそっちじゃないですか!人の気持ちを知りもしないで、新しい力に夢中になっちゃって!」
「・・・!何を・・・!」
「ど、どうしよう・・・二人とも、収まりつかなくなっちゃってるよ・・・!」
これまでにないほど険悪なムードの二人に、ミュウが怯えたように声を上げる。誠人とミナミの気持ちのすれ違いが齎した大喧嘩は、もはやどちらも退くことができない泥沼の展開へもつれ込もうとしていた。
第21話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです。




