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チーム・イリスの事件譚  作者: 髙橋貴一
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第20話「闇を切り裂く、太陽の輝き」前編

 それから、数分後。ソフィアが操縦するGPウィングは、ステルス機能で姿を隠して空中で静止していた。

「ショッキングボムが、ミナミ刑事の体内に・・・?」

 レイから報告を受けたジョージが、うめくように声を上げた。暗い顔でうなずくと、レイはさらに報告を続ける。

「はい・・・今、カグラがGPブレスをスキャンモードにして、爆弾の位置を特定しようとしています。ですが・・・」

「うむ・・・特定できたところで、それを体内から除去するとなると・・・」

 ジョージが暗い表情で言葉を返した、その時だった。ミナミの体のスキャンを終えたカグラが、他の刑事達に声をかける。

「見つけたよ。これが、ミナミの体内に埋め込まれた爆弾だ」

 スキャンモードのGPブレスの液晶画面に、ミナミの体内のX線写真が浮かび上がる。そこには彼女の心臓のすぐ近くに、小さな球体のようなものが確認できた。

「これがショッキングボム・・・・・・ねえソフィア、さっきの念力で、ミナミに触れずに取り出すことはできないの?」

 キリアがそう問いかけると、ソフィアは苛立ち混じりの声で答えた。

「簡単に言わないで。さっきだって、一か八かの賭けだったのよ。それに、起動中のショッキングボムに下手な刺激を与えた途端、ミナミの体の中でドカンよ。・・・正直、とても成功するとは思えない」

 ソフィアの言葉に、一同は黙り込んだ。それを横目で見ながら、レイが再びジョージに話しかける。

「ショッキングボムの機能を停止するリモコンは、アミー・スタークが持っています。長官もご存知でしょうが、セキュリティの都合上、あの爆弾のリモコンは代替えが利きません。つまり・・・」

「機能を停止できるリモコンは、アミーが持つ一つだけ、ということか・・・」

 沈んだ声でそう言うと、ジョージは表情を引き締めてレイに言った。

「ともかく、私はこの件を至急本部に報告する。アミー・スタークから連絡があり次第、すぐに伝えてくれ。・・・私も、2年前のミナミの同期のような犠牲は、なるべく出したくない」

「長官・・・・・・分かりました。そのように」

 アミーとの交渉を言外ににおわせながら、ジョージは通信を打ち切った。レイは張り詰めた表情を崩さず、カグラ達のもとを素通りしてコクピットに向かう。

「レイ、長官は何て?・・・レイ!」

 カグラの呼びかけにも応えずコクピットに入ると、そこには副操縦士が座る椅子に体育座りで腰かける、誠人の姿があった。彼は組んだ両手に額をつけてうなだれていたが、レイがやってくると彼女に視線を向ける。

「長官に報告してきた。ただ、ミナミを助ける方法は、やっぱりあのリモコン以外にはない」

「そう・・・ですか・・・・・・」

 消え入りそうな声で応えると、誠人は再び手に顔をつけた。やがて彼の口から、蚊の鳴くような声が漏れてくる。

「僕のせいだ・・・・・・僕が、ミナミを連れて外に出たりしたから、こんなことに・・・・・・」

「それはあなたのせいじゃない。遅かれ早かれ、アミー・スタークはミナミを誘き出すために、ショッキングボムをばらまいていた。そうしてミナミに爆弾を入れることが、彼女の目的だったのだから」

 そこで一旦言葉を切ると、レイは操縦席に腰掛けて誠人の顔を見つめた。

「ただ、あなたにも落ち度はある。それは・・・・・・私達に嘘をついたこと。『友達の家で一緒に勉強する』なんて見え透いた嘘、バレないとでも思った?」

「やっぱり・・・レイさん、気づいてたんですね・・・」

「あの場で気づかなかったのはキリアだけ。・・・まあ、あなたの気持ちもよく分かる。ミナミと二人きりで遊びに行く、なんて言ったら、キリアとシルフィが黙っていないだろうから」

 レイは誠人の両肩に手を置くと、その青い瞳で誠人の目をまっすぐ見ながら言った。

「ミナミが一緒にいるからと、それ以上追及しなかった私にも非はある。だけど、私達はあなたを守るために、銀河警察から派遣されてきたの。守る側と守られる側、この二つの信頼関係が成り立たなければ、取り返しのつかないことになる時だってある。・・・こんな言い方したくないけど、自分が守られてる立場だってこと、もう一度よく思い出して」

 あえて強い口調で言うと、レイはコクピットを後にした。残された誠人は彼女の言葉を胸に刻みこみ、再び自責の念に駆られ始める。

「βを一度、家に帰した方がいいと思う。あの子、今のままじゃきっと心が持たない」

 レイは他の刑事達を集めると、誠人に聞こえないように小さな声で話しかけた。

「そうね・・・自分を責めるにしろ、見つめ直すにしろ、どこか落ち着いた環境が必要だわ」

 レイの言葉に、ソフィアも同調の構えを見せる。他の刑事も無言ながら、彼女の意見に賛成した。

「なら、決まりね。・・・シルフィ、キリア、あなた達はβについててあげて」

「承知いたしました」

 シルフィがレイに小さく頭を下げると、キリアもうんとうなずいた。

「他は、ここでミナミを守りながらアミーからの連絡を待つ。・・・まあ奴のことだから、きっとβのGPブレスにも、連絡を取ってくるとは思うけど・・・」

「その時はその時さ。・・・どの道ここまで来たら、もう関わらせないなんて選択肢は取れないよ。少年とミナミ・・・二人の間の絆が、ここまで強くなった今となっちゃ・・・ね」

 うなだれる誠人に視線を向けながら、カグラはそう言い切った。その言葉を最後に、機内は重い沈黙に包まれるのだった。


☆☆☆


「ふ、ふふふ・・・もう傑作だったわ、あいつらの為すすべもないといった顔!」

 その夜。とある廃工場で、アミーが様子伺いで訪れたファルコに満足そうな表情で告げた。

「それは何より。お姉さまの無念を晴らすことは、できそうですかな?」

「ええ。あなたの会社には本当に感謝するわ。これで憎い連中に、一泡吹かせることができそうですもの」

 そう言うと、アミーは薄汚れた木製のテーブルに腰掛けた。そして左腕の機械を操作し、何かの準備をし始める。

「さて・・・そろそろ始めなきゃね。あいつがまだ、生きているうちに・・・」




 その頃。誠人の姿は、虹崎家の自室にあった。

「お兄ちゃん、ご飯できたよ。・・・一緒に、食べない?」

 キリアが部屋のドアをノックしながら、中の誠人に声をかける。誠人はドアに向かうことなく、暗い声でそれに応える。

「いや・・・今はいいや。先に、シルフィさんと食べてて・・・」

「うん・・・・・・分かった」

 予想通りの誠人の返事に、キリアも暗い声で言葉を返した。彼女は重い足取りで、シルフィが待つキッチンへ戻る。

「いかがでしたか?お坊ちゃまの様子は・・・」

「うん・・・お兄ちゃん、やっぱり大分落ち込んでる。きっと、いろいろと自分を許せないんだと思うな・・・」

 テーブルに突っ伏しながら、キリアがため息をつくように言った。シルフィも重い表情で、キリアの向かいの席に座る。

「できる限り、そっとしておいて差し上げましょう。きっと今は、ご自身と向き合うべき時なのです。ミナミ様のこと・・・私達についた嘘のこと・・・・・・ご自身の行いを顧みる時間を、少しでも長く、あの方には差し上げねば・・・」

 そう言いつつも、シルフィも心配そうに誠人の部屋に視線を向ける。その部屋の中では、誠人が夜だというのに電気もつけず、一人で座り込んでいた。


 ――私・・・今とっても幸せです。誠人さん・・・・・・ありがとうございます――


 ――痛みに悶えて死ぬくらいなら・・・・・・いっそ・・・誠人さんの手で――


 ――守る側と守られる側、この二つの信頼関係が成り立たなければ、取り返しのつかないことになる時だってある。・・・自分が守られてる立場だってこと、もう一度よく思い出して――


 たった一日の間に、あまりにも多くのことが起こった。幸せ、絶望、喜び、怒り・・・・・・様々な感情が誠人の中でせめぎ合い、傷ついた彼の心をさらに深く、鋭くえぐっていく。

(せめて・・・僕があんな嘘をつかなければ、少しは・・・)

 レイが言う通り、例え誠人とミナミが二人きりで外出していなかったとしても、アミーは動いていただろう。そして自分達はまんまと誘き出され、ミナミの体内に爆弾を入れられる結末は変わらなかったはずだ。

 だが、半ばばれていたとはいえ、仲間に嘘をついてしまったという罪悪感が、誠人の心をのどに刺さった小骨のようにチクチクと苦しめた。あの時、正直にミナミと二人で遊びに行くと言っていたら。恐らくキリアは金切り声を上げて自分も連れていけと言い出し、シルフィとレイは受験勉強に専念すべきと反対していただろう。

 しかし、それでも説得の余地はあった。説得というより、半ば言いくるめるという形になってはいただろうが、少なくともこの罪悪感を抱えることはなかったはずだ。

(信頼を裏切ってしまった・・・・・・あの三人の・・・いや、他の皆の信頼も、きっと・・・!)

 と、その時であった。突然誠人のGPブレスに、送り主不明の通信が届いた。そしてそれは、彼の家のキッチンで重苦しい雰囲気の中夕食を取っていたキリアとシルフィ、そしてGPウィングの中でアミーからの連絡を待っていたレイ達にも、文字通り同時に届いた。

「レイ先輩、これ・・・!」

 ミュウの言葉にうなずくと、レイはGPブレスを通信モードにした。ブレスレットには一通のビデオメッセージが届いており、レイとキリア、そして誠人が同時に、そのメッセージを再生させる。

「虹崎誠人君、そして銀河警察の皆さん。どうも、アミー・スタークよ」

 三人のブレスレットの液晶画面に、どこかの廃工場にいるアミーの姿が映し出された。その手には、先ほど誠人達に見せつけたあのリモコンが握られている。

「さっきも言った通り、ミナミ・ガイアの命を助けるには、このリモコンが必要よ。これが欲しかったら本日午後10時までに、このメッセージの最後に表示される地点に来なさい。・・・もちろん手ぶらじゃ渡さないわ。現金500万ギャラット、それがこのリモコンの代金にして、お姉ちゃんを殺したことへの賠償金よ」

「ご・・・500万ギャラット!?」

 その金額を聞いたカグラが、驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。その隣でメッセージを見ていたミュウも、その金額に魂の抜けたような表情を浮かべる。

「そんなお金、ボク達が一生働いたところで10分の1も稼げないよ・・・」

「ふふっ、安いものよね?一人の命を助けるためだったら。そして現金の受け渡し人には、虹崎誠人君を指名するわ」

「ぼ・・・僕に・・・?」

 アミーに名前を呼ばれた誠人が、少し驚いたように声を上げた。それを見透かしたように、アミーが飛び切りの笑顔で続ける。

「期限は今夜10時まで。虹崎君、それまでに500万ギャラットを持って、一人で私のもとまで来なさい。もし10時を一秒でも過ぎたり、他の誰かが一緒と認められたときは、この取引はなかったことになるわ」

 その言葉が終わった次の瞬間、画面にとある場所の地図が浮かび上がった。そしてその一か所に、赤く光る点が浮かび上がる。

「ここが取引場所、ってことね・・・・・・長官、アミー・スタークからメッセージが届きました」

「ああ。実はこちらにも、アミーからのメッセージが届いた。恐らく、君達が受け取ったのと同様のものだろう」

 レイがGPブレスで連絡を取ると、ジョージが苦り切った表情で言った。

「500万ギャラット・・・・・・確かに、用意できない金額ではない。しかし、そちらの時間の午後10時までとなると・・・」

「はい・・・あと2時間しかありません・・・!」

 GPブレスに表示される時刻を見ながら、レイがうめくように声を上げた。すでに時刻は8時を過ぎ、秒数が無情にも刻まれ続けていく。

「レイ、長官、お金のことならキリアに任せて!」

 と、その時だった。二人の通信システムに、メッセージを見たキリアが連絡を取ってきた。

「キリア・・・あなたも、メッセージを?」

「うん、シルフィと一緒に見た。それでね、今ゴルドスタインのお父様に連絡を取ってみたら、1時間くらいもらえれば、地球に500万ギャラット、現金で送ってくれるって!」

「すごい・・・さすがキリアちゃんのお父さん・・・」

 レイに返されたキリアの言葉に、ミュウがまたもや魂の抜けたような顔で呟いた。これで現金は確保できたが、それですべての問題が解決されたわけではない。

「でも、馬鹿正直にお金を渡したところで、アミーがリモコンをこっちに渡すとは限らないわ。奴もゼロワールドに連なる女、その言葉を額面通りに受け取らない方がいいわよ」

 かつての教え子達の名が刻まれたドッグタグを握り締めながら、ソフィアが厳しい顔で言った。レイも厳しい顔で、もう一つの問題を口にする。

「それに、あの女は現金の受け渡し人に、βを指名した。・・・民間人の彼を一人で行かせて、もしものことがあったら・・・」

 と、その時。レイのGPブレスに、誠人から通信が入った。

「β・・・こちらレイ」

「誠人です。・・・皆さんにも、あのメッセージは届きましたね?」

 部屋のドアを開けてキッチンに向かいながら、誠人はレイに確認した。

「ええ・・・見たわ」

「さっき、キリアの声が聞こえました。・・・もしお金が準備できるんだったら、その受け渡しには、僕が行きます」

「・・・!」

 その言葉にレイのみならず、GPウィングの中にいる刑事全員が息を飲んだ。それと時を同じくして、誠人がキッチンへと辿り着く。

「ちょ・・・ちょっと待ちな、少年!確かに、アミーはあんたを受け渡し人に指名した。でも、ただあんた一人を行かせるわけには・・・」

「え・・・?お兄ちゃん、まさかアミーのとこに行く気なの!?」

 誠人のGPブレスから聞こえてきたカグラの言葉に反応し、キリアが誠人に詰め寄った。

「ああ、僕が行く。・・・むしろ、これは僕にしかできない仕事だ。誰に何と言われても、僕は行く。一人で」

「む・・・無茶だよ、誠人君!」

「ミュウの言う通りよ、坊や。あなたが出向いたところで、あの女がリモコンを渡すとは限らない。それを分かってるんでしょうね?」

 ミュウとソフィアが、誠人を止めようと相次いで言葉をかける。だが、誠人の意思はもう変わることはなかった。

「それでも、10時までに僕が一人で行かなければ、確実にミナミは死んでしまいます。・・・こんな僕でも、ミナミを助けられる可能性がほんのわずかでもあるのなら・・・・・・僕は、その可能性に賭けたいんです!」

 心からの思いを叫びにすると、誠人は自分のGPブレスを外してキリアとシルフィの前に置いた。そして通信用のカメラに向け、両手をついて土下座する。

「皆さんの信頼を裏切ったことは、本当に済まないと思ってます。・・・僕の言葉を、信じてくれなくても構いません。でも!・・・・・・ミナミを助けたいという思いにだけは、一片の嘘偽りもありません!だからお願いします・・・・・・僕を、アミーの所に行かせてください!この通りです!」

 涙と共に声を震わせながら、誠人が一同に頭を下げた。彼の周囲、そしてGPウィングの中に、重い沈黙がしばらく流れた。

「・・・・・・分かりました。誠人お坊ちゃまの決意、しかと拝見いたしました」

 その沈黙を破ったのは、誠人のすぐ前に立つシルフィであった。彼女は誠人のもとに歩み寄ると、かがみこんでその頬にそっと触れた。

「ミナミ様も、幸せなお方です。好きなお方に、これほどまでに想われていらっしゃるとは」

「シルフィ・・・さん・・・」

 誠人は涙に濡れた目で、シルフィの顔をじっと見つめた。すると彼女の姿が、一瞬でディアナへと変わる。

「はっ、ほんっと男の涙に弱いよなあ、シルフィは。・・・でもいいさ。お前の姿には、オレもちっとばかしだが感銘を受けた」

「ディアナさん・・・」

 誠人が思わず声を上げた、次の瞬間。キリアが誠人の隣までやってくると、彼と同じ姿勢を取って目の前のGPブレスに語り掛けた。

「ねえレイ、キリアからもお願い。お兄ちゃんを・・・行かせてあげよ?ここまでされたらもう、キリアにはお兄ちゃんを止めること、できないよ・・・!」

「キリア・・・・・・でも、β一人を行かせるわけには・・・」

 その時、レイの肩にカグラが手を置いた。彼女は首を静かに横に振ると、諭すようにレイに言った。

「もう、止めても無駄さ。あの子・・・本気だよ」

 カグラの言葉を受け、レイはソフィアとミュウの方を向いた。二人は何も言わなかったが、何かを悟ったような目で小さくレイにうなずきかける。

「・・・分かった。β、私からもお願い。・・・ミナミを、あなたが助けてあげて」

「レイさん・・・・・・ありがとうございます。本当に・・・!」

 誠人は目元の涙を拭うと、GPブレスに映るレイに深々と頭を下げた。彼が頭を上げると、ディアナから体の主導権を取り返したシルフィが声をかけてきた。

「お坊ちゃま・・・あなたに、お渡ししたい物がございます」

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[一言] >500万ギャラット 多分ドル計算なんだろうなあ・・・という予想 前説明したかもしれないけど記憶にないし、まあ特にきにするべき部分じゃない さてどうなるか
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