第14話「イリス打倒計画」後編
翌日。少なくとも午前中いっぱいは、誠人が何者かに襲われることはなかった。
「やめ。・・・よーし、テスト回収するぞ」
試験監督の教師の声を合図に、後ろの座席からテストが回収されてゆく。誠人は答案を前に送ると、大きく伸びをして一息ついた。
「どうでした、誠人さん?いつもの調子、出せましたか?」
「ああ。皆に守ってもらえてるって分かってると、少しは安心できる」
昨晩決められたとおり、この日はミナミだけでなく、カグラとレイ、そしてキリアとミュウが、登校の時から適度な距離を保って誠人の警護に当たっていた。現在ミナミ以外の四人の刑事は、校外の東西南北の位置にそれぞれついており、不審な人物やドローン、ロボットへの警戒を行っている。
「まあ、それでも不安なことには変わりないけど・・・」
「不安って、何が?・・・ああ、もしかしてこれから受ける免許の試験?」
誠人の言葉を聞いた柚音が、身を乗り出すようにして尋ねてきた。一瞬ぎくりとした誠人だったが、とりあえずそれらしい言葉を柚音に返す。
「あ、ああ・・・ちょっとこっちの試験に力入れすぎて、免許の試験の勉強、あんまできてないからさ・・・」
「でもすごいよ、誠ちゃん。学校のテストだけじゃなくて、免許の試験まで受けるなんて。・・・あたしなんか、学校のテストだけでいっぱいいっぱいだよ・・・」
「それが普通だよ、田代さん。虹崎君は人一倍努力家だから、ここまでやれるんだ」
「やめろって星南、なんか照れ臭い・・・・・・じゃあ、また明日」
「うん。本免試験もがんばって、虹崎君」
「応援してるからね、誠ちゃん」
柚音と星南に応援されながら、誠人はミナミと共に校外に出た。校門を見張っていたマグマスコーピオンとゴールデンホークから送られた映像を見たカグラ達が、再び適度な距離を保って誠人の警護に当たる。
「今のところ、何も起こっていませんけど・・・・・・やっぱり奴ら、また襲ってきますかね?」
「ああ、絶対に奴らは襲ってくる。・・・どうせ来るなら、せめて免許を取った後に来てほしいものだけど・・・」
その誠人の言葉を受け、ミナミはずっと疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「あの、誠人さん・・・・・・なんでそんなに、免許を取ることを急ぐんですか?・・・いや、免許を取るなって言ってるわけじゃないんですよ?ただ、その・・・もっと、落ち着いた時に取ればいいんじゃないかって、そう思って・・・」
そう口にしたミナミの言葉からは、自分への気遣いが感じられた。それを承知しつつも、誠人は自分の思いを曲げようとはしなかった。
「気遣ってくれてありがとう。・・・でも、やっぱり免許は早く取った方がいい。昨日二度も襲われて、僕は余計そう思うようになった。だから・・・絶対に今日、免許を取る」
「うーん、そこが分かんないんです・・・・・・敵に襲われたことが、どうして早く免許を取ろうと思うことに繋がるんです?」
「ああ、それは・・・」
誠人が言葉を返しかけた、その時であった。
「β、頭上から何か来る!」
「!?」
レイの言葉がGPブレスから聞こえてきた、次の瞬間。両手に剣を握り締めた黄色い頭部のロボットが、誠人とミナミの前に降り立った。
「あれは・・・昨日のロボットと同じタイプ!」
「やっぱり来たか・・・ミナミ、打ち合わせ通りに行くぞ」
誠人が口にした、『打ち合わせ』の内容。それは、警護を務めるレイやカグラ達がロボットとの戦闘を引き受け、その間にミナミに護衛された誠人が戦場から脱出し、安全地帯まで逃走する・・・というものだった。
敵がイリスを狙っている以上、誠人がイリスの力を使うのは極力避けた方がいい。そう考えたレイの提案で、まずは誠人とミナミ以外の刑事で敵の打倒を図ることになったのだった。
「少年、ミナミ、早く逃げて!」
レイと共に誠人達の前方から駆けつけたカグラが、誠人達に叫びかける。同じく後方からはミュウとキリアが駆けつけ、予定通りロボットとの戦闘に当たる・・・かと思われた。
「テストロイドγ、妨害シールドを発生させろ。刑事達の進入を阻むのだ」
だが、敵方の方が一枚上手であった。命令を受けたテストロイドγの目から紫色の光線が放たれ、それはやがて光の壁となって誠人達をその中に閉じこめ、なおかつカグラ達の進入を妨害した。
「くっ・・・こんな対策を、立ててくるなんて・・・!」
レイが敵の用意周到さにうめき声を上げた、次の瞬間。テストロイドγが右手をさっと上げると、誠人がやむなく取り出したイリスバックルから自動的に四枚のカードが浮かび上がり、それがテストロイドγの手の中に引き寄せられていった。
「しまった・・・フレイムとムーンライト以外のカードが・・・!」
テストロイドγが握り締めたカードを見て、誠人が驚きの声を上げる。テストロイドγはカードを宙に投げると紫色の光線を照射し、発生させた小さな空間にカードを封印した。
「さあ、カードを取り返したければ、イリスとなって私と戦え」
そう言うが早いか、テストロイドγは誠人に襲い掛かった。彼と同じ空間に閉じ込められたミナミがGPブレスから光弾を放つが、テストロイドγはそれをものともせずミナミの胸ぐらを掴み上げ、一瞬光の壁を解除して彼女を放り投げ、再び壁を展開して誠人から遠ざける。
「結局こうなるのか・・・・・・カグラさん!お願いします!」
もはや打つ手なしと見て、誠人は局面打開のためにフレイムのカードをホルダーから取り出した。それを目にしたカグラも、表情を歪めながら苦渋の決断を下す。
「・・・ああ!頼んだ、少年!」
誠人は力強くうなずくと、イリスバックルを待機モードにした。そしてその認証部分に、手にしたフレイムのカードをかざす。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.燃え盛る業火!フレイムアーマー!』
誠人が思ったとおり、カグラが姿を変えた鎧は光の壁を通過し、イリススーツを纏った誠人の体と合体を果たした。イリスは双剣モードのプラモデラッシャーを握り締め、テストロイドγに襲い掛かる。
「惑星フラマーのカグラと合体した、イリスフレイムアーマー。その力を分析しろ」
リーダー格の男の指令に、銀色の服の者達がフレイムアーマーの分析を始める。一方のイリスは双剣に炎を纏わせ、テストロイドγに激しい攻撃を仕掛ける。
『何としても、あたし達でこいつを倒さないと!』
「ええ・・・ここで倒し損ねれば、きっとソフィアさんの力を使わざるを得なくなる!・・・それだけは・・・!」
だが、敵もただやられてくれるわけではなかった。テストロイドγも両手の剣で激しくイリスに攻撃を仕掛け、左右同時に繰り出された攻撃がイリスのプラモデラッシャーを弾き、イリスの手から武器が無くなった。
「しまった・・・!」
思わず声を上げたイリスに向け、テストロイドγが両手の武器を振り上げて迫ってくる。これまでかとあきらめかけた誠人だったが、カグラはこの戦況を冷静に分析し、すぐさま打開策を打った。
『Start Up、Magma Scorpion』
カグラが誠人の手を動かし、マグマスコーピオンのカードをイリスバックルに読み込ませる。すると現れたプラモデルが一瞬で合体してマグマスコーピオンとなり、襲ってきたテストロイドγの顔に尻尾からの火炎を浴びせかけ、わずかな間ながらその動きを止めてみせた。
『今だ!』
イリスは一気にテストロイドγに迫り、炎を纏わせた拳で強烈なパンチを連続でお見舞いした。その連撃にテストロイドγがひるむと、イリスはフィニッシュカードを素早くホルダーから引き抜いた。
『決めるよ、少年!』
「はい!」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
フィニッシュカードを読み込ませた瞬間、イリスの右腕に一段と強い炎が纏われた。その力が最大まで高まると、イリスは左手でイリスバックルのボタンを押す。
『フレイムフィニッシュ!』
電子音声が鳴り響くと、イリスは大きくジャンプした。そして急降下しながら、テストロイドγに炎の拳を振り下ろす。
『おりゃあああああああああああああっ!!』
その拳を受けたテストロイドγの体は大きく吹き飛ばされ、光の壁に当たって活動を停止した。その様子を、テストロイドを操る者達は冷静に観察する。
「惑星フラマーの住人が持つ、炎を操る能力。それを戦闘に取り入れ、なおかつ肉弾戦の攻撃力も上げている・・・純粋なパワーは、恐らく六つのアーマーの中で最強だろう」
リーダー格の男がそう分析する一方、カグラは大きな息をつきながら、倒したロボットをじっと見つめていた。
『はあっ、はあっ・・・やったん・・・だよね?』
「いえ・・・おそらく完全に倒せてはいません。もし倒せてるなら、この光の壁が消えるはず・・・!」
誠人の言葉通り、イリスを閉じ込める紫の光は消えずに残っていた。するとテストロイドγの装甲が弾け飛び、よりスリムな体系になって黄色い目を光らせ、立ち上がった。
『くっ・・・やっぱりか!』
カグラが拳を握り締めたその時、テストロイドγが再びイリスに右手を向けた。するとイリスバックルのホルダーからフレイムのカードが飛び出し、他のカードが封印されている空間に意志を持つように飛んでいき、その空間の中に収まった。
「あっ・・・!カグラさん!」
カードが封印された瞬間、誠人とカグラの合体は解かれた。テストロイドγはカグラを壁の外に放り出すと、剣を手にブランクモードになったイリスに襲い掛かる。
「マズいよ・・・誠人君、ソフィアさんを呼んで!」
「駄目!そんなことしたら、敵に全てのアーマーのデータが渡っちゃう!」
声を荒げてミュウに叫びかけたレイだったが、彼女にも打開策はひらめかなかった。光の壁の強度は高く、GPブレスの光弾やプラモデロイドの攻撃ではびくともしない。
(くっ・・・どうすれば、いいんだ・・・!?)
敵の攻撃をかわした誠人が心の中でうめき声を上げた、その時であった。
「あら、面白いことやってるわね、皆」
どこからかやってきたソフィアが、テストロイドγの攻撃から逃げ惑うイリスを見て声を上げた。
「ソフィア・・・!あんたはお呼びじゃありません、すぐに帰りなさい!」
「あら、つれないこと言うのねミナミ。まあ帰ってもいいんだけど、あなたの想い人、結構なピンチじゃない?」
「くっ・・・!」
ソフィアが指さした先では、テストロイドγの攻撃を必死にかわす、ブランクモードのイリスの姿があった。それを見て悔しそうに唇をかむと、ミナミはイリスに向かって叫びかけた。
「誠人さん!ソフィアの・・・ムーンライトのカードを使ってください!」
「!ミナミ・・・!」
その言葉に、誠人が思わず驚きの声を上げる。その一方で、レイも誠人に叫びかけた。
「β、駄目!全てのカードのデータが敵に渡ったら、どうなるか・・・!」
と、その時。ミナミがレイのもとに駆け寄ると、その口を手で無理やりふさいだ。
「んっ!んんっ・・・!」
「イリスのデータよりも、私達が心配すべきは誠人さんの命でしょうが!私達がこの星に来たのは、イリスを守るためじゃないんですよ!」
「ミナミ・・・・・・分かった。ソフィアさん!」
ミナミの思いを確かに受け止めると、イリスはホルダーからムーンライトのカードを引き抜いた。それを見て、ソフィアがくすっと笑みを浮かべる。
「はいはい。さあ、お楽しみよ」
イリスが再度バックルのボタンを押して待機モードにした途端、テストロイドγが剣を振り下ろして襲ってきた。その攻撃をなんとかかわすと、イリスは手にしたカードをバックルにスキャンさせる。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.神秘なる月光!ムーンライトアーマー!』
ソフィアが姿を変えた鎧が、光の壁の中に入ってテストロイドγを弾き飛ばし、イリススーツの上から装着された。合体が完了すると、イリスはランスモードのプラモデラッシャーを握り締める。
『さあ、行くわよ・・・!』
イリスはプラモデラッシャーを巧みに振り回し、長物の優位を生かしてテストロイドγを徐々に追い詰めていった。窮したテストロイドγは目から光線を放つが、イリスが左手を突き出すと光線はイリスの直前で動きを停止する。
『秘技・五月雨返し』
イリスが左手を再度突き出すと、動きを止めていた光線が幾重にも分かれてテストロイドγに跳ね返され、その体に直撃して大きく吹き飛ばした。それを好機と見たイリスは、プラモデラッシャーの認証部分にフィニッシュカードをスキャンさせる。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスが振り回すプラモデラッシャーの穂先に、黄色く輝くエネルギーが充填される。イリスは勢いよく駆けだして槍でテストロイドγを刺し貫いた。
『ムーンライトスタッブ!』
槍の先端から、エネルギーが一気にテストロイドγの体に流し込まれる。そのエネルギーは内側からロボットの体を破壊していき、やがてテストロイドγはその全機能を停止した。
「やった!」
倒れこんで大爆発を起こすテストロイドγを見て、キリアが短く歓喜の声を上げる。それと同時に光の壁は消失し、封印されていた五枚のカードもイリスのもとへ戻ってきた。
「これで、敵は倒せた。でも・・・・・・」
ようやくミナミから解放されたレイが、暗い表情で声を上げた。
「イリスの六つのアーマーのデータは、これで敵に筒抜けに・・・」
「その通り。よくぞ我らの研究に一役買ってくれた、銀河警察の諸君」
その時、何もなかった空間に突如として、銀色の服を着た数人の男女が姿を現した。彼らの背後には、イリスの六つのアーマーの色を反転させたボディカラーのロボットが、機能を停止した状態で立っている。
「あなた達が黒幕・・・?一体何のために、こんなことをしたの!?」
GPブレスを構えながら問いかけたミュウに、リーダー格の男が無機質な声で答えた。
「我らは機械惑星ブラックマキナの、兵器製造部門。我が星を管理する統治用AIは、銀河警察が開発したイリスシステムが、いずれ我が星の脅威となると判断した。故に、その実戦データを取り、イリスよりも強い兵器を作るために、我々が今ここにいるのだ」
『ブラックマキナ・・・一度だけ、任務で行ったことがある。何もかもをAIの判断に委ねた、最高にイカれた星よ』
誠人と合体しているソフィアが、ブラックマキナについて一同に説明した。その声を聞き、男の眉がわずかだが上がった。
「我が星の統治体制を侮辱した者は、たとえ他の星での発言であろうと死刑に値する。・・・ちょうどいい。君達の戦闘データから生まれた、最強の兵器。その第一号の威力を、君自身が味わってみるといい、ソフィア・ルン・ブラーン」
男がさっと右手を上げると、部下の一人がロボットの首元に、イリスの戦闘データが内蔵されたチップを装填した。それと同時にロボットの目が赤く輝き、その体が小刻みに動き出す。
「さあ・・・いよいよ実戦デビューの時だ。我が星が誇る最強のロボット兵器、イリスキラーよ・・・!」
男の声に応えるように、イリスキラーと呼ばれたロボットは武器を構え直すイリスに向かって歩き始めた。そしてその右腕を突き出し、そこから緑色の光線を連続で発射するのだった。
第14話、いかがだったでしょうか。もしよろしければ、評価やご感想をいただけると幸いです。




