第14話「イリス打倒計画」前編
『はっ!おりゃっ!この!』
数分後。夕焼けに染まる住宅街の一角で、イリスはロボットと一進一退の戦いを繰り広げていた。両者の剣技の腕は文字通りの互角で、互いに決め手に欠く展開が続く。
「ミナミ、さっきのこいつの言葉、覚えてるか?」
一旦ロボットと距離を取ると、誠人がミナミに話しかけた。その間にもロボットは目から光弾を発射し、イリスを牽制する。
「こいつ、僕に『イリスになって戦え』って言った。・・・もしかしたら、何か裏があるかも・・・」
『裏があるにしろ何にしろ、こいつを倒すことに変わりはありません。行きますよ!』
「あっ、ミナミ・・・!」
誠人の制止を無視し、ミナミは彼の体を操って再びロボットに接近し、プラモデラッシャーを叩き込む。一方、そのイリスの戦い方を、ロボットの丸い目を通して観察する者達の姿があった。
「イリスグランドアーマー。虹崎誠人がガイア星人の少女・ミナミと合体した、大地の力で戦う姿。そのデータを詳細に記録しろ」
脳波計のようなヘルメットをかぶり、銀色の服をまとった数人の男女が、ロボットの目から送られてくるデータを記録し、分析してゆく。やがてイリスの剣の一撃が、ロボットに直撃して大きく吹き飛ばした。
『これで決めますよ・・・!』
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスがプラモデラッシャーの認証部分に、フィニッシュカードをスキャンさせる。大地の力が充填されると、イリスはトリガーを押して剣を振り払った。
『グランドスラッシュ!』
凝縮された大地のエネルギーが光の刃と化し、ロボットの体を切り裂いた。ロボットは上半身と下半身が切り分けられ、文字通り一刀両断された。
「大地の力を武器に取り入れ、必殺の刃を放つ技・グランドスラッシュか・・・」
『ふう・・・何とか片付きましたね、誠人さん』
戦いぶりを観察されているとは露知らず、ミナミが両断されたロボットを見て安堵の声を上げた。だがその時、ロボットの上半身に隠されていた小型のジェットエンジンが作動し始め、ジェット噴射で空を飛びながらイリスに向けて目からの光弾を放った。
『くうっ・・・しぶとい相手ですね!』
「遠距離戦か・・・なら・・・!」
誠人はホルダーに手を伸ばすと、そこからフォレストのカードを取り出してミュウに連絡を取った。
「ミュウ!敵に襲われてるんだ、合体できるか!?」
「敵に!?・・・分かった、ボクのカードを使って!」
突然のことではあったが、ミュウも誠人との合体を承諾した。誠人はバックルを再度待機モードにすると、手にしたフォレストのカードをスキャンさせた。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.怒れる大自然!フォレストアーマー!』
ミナミとの合体を解除し、代わりにミュウと合体したことで、イリスの姿が変わった。ロボットの目を通して戦いを観察する者達も、その変化に素早く反応を示す。
「惑星ベルグラン出身のミュウと合体した、フォレストアーマー。大地の力のみを取り込むグランドアーマーとは違い、風力や太陽光、地熱といったありとあらゆる自然エネルギーを、その身に取り込み力とする。肉体的スペックはグランドアーマーより劣るが、自然エネルギーを取り込んだ遠距離戦を主体として、敵を倒す」
フォレストアーマーとなったイリスはロボットの攻撃をかわし、アローモードのプラモデラッシャーから光の矢を立て続けに放った。それが命中して動きを止めたロボットを見て、イリスは必殺のカードをバックルにスキャンさせる。
『これで決めるよ!』
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
イリスが弓を引き絞る動作を取ると同時に、自然エネルギーを取り込んだ光の矢が大量につがえられた。そして狙いを定めると、イリスは武器のトリガーを押す。
『フォレストフィニッシュ!』
無数の光の矢に射抜かれ、ロボットは空中で大爆発を起こした。それと同時に地面に転がっていた下半身も、爆発と共に消滅する。
「大丈夫だった!?誠人君!」
合体を解除すると、ミュウが心配そうな顔で誠人に問いかけた。
「ああ、ミナミとミュウのおかげでな。・・・にしても、一体何だったんだ、あのロボット・・・・・・」
『イリスとなって、私と戦え・・・』
ロボットの言葉が脳裏に蘇り、誠人は釈然としない気持ちに陥る。それと時を同じくして、イリスとロボットの戦いを観察していた者達が、戦闘データの分析を完了した。
「グランドとフォレスト、二つの姿の力は分かった。テストロイドβとγを差し向け、残る四つの姿のデータも回収する・・・」
一人の男がそう宣言すると、手元にあった機械のスイッチを押した。それと同時に別の部屋に保存されていた二体の人型ロボットの目が、怪しく黄色に輝くのだった。
☆☆☆
「正体不明のロボット、ね・・・部品の一つくらい、回収できなかったの?」
数十分後。虹崎家に帰宅した誠人達から報告を受け、レイが怪訝そうな表情で問いかけた。
「それが、活動を停止すると同時に、爆発してしまって・・・・・・多分、機密保持のための、自爆機能だったんだと思います」
「そう・・・それは残念ね・・・」
誠人の答えを聞き、レイは心から残念がって言った。部品が一つでも手に入れば、それを手掛かりに銀河警察の捜査能力で、ロボットを作った者達を特定できたかもしれないからだ。
「そのロボット、お兄ちゃんにイリスになって戦えって、そう言ったんだよね?ってことは・・・最初から、狙いはお兄ちゃんだったってこと?」
「そんなこと、ここにいるみんなが分かってますよ。無視できないのは誠人さんを知ってたことじゃなくて、イリスを知ってた、ってことの方です」
ミナミの言葉に、レイも重々しくうなずいた。イリスの情報は銀河警察内でもごく一部の関係者にしか知らされておらず、まして犯罪者にその情報が漏れるほど甘い管理をしているわけではない。ユナイトの能力を持っている誠人を狙うならいざ知らず、イリスを狙ってくる敵が現れるとは、ミナミもレイも想定外だった。
「とにかく、私は長官にこのことを報告する。イリスの情報が外部に漏れているなら、それはそれで捨て置けない問題だから」
レイはそう言うと、一人自室へと向かった。小さくため息をつきながら、誠人は居間のソファに腰を下ろす。
「ふぅ・・・なんか今日はいつも以上に疲れた・・・」
「お疲れ様、お兄ちゃん。・・・そうだ、キリアが肩揉んであげる」
疲れた表情の誠人を見て声を上げると、キリアは誠人の肩を揉み始めた。それを見て、ミナミがこの世が終わったかのような叫び声を上げる。
「んなああああああっ!何誠人さんの体に触ってるんですか、キリア!?」
勢いよくタックルを仕掛けてきたミナミの体を、キリアは一瞬高速移動してかわした。標的が消えて勢いよく壁に激突したミナミを尻目に、キリアが誠人の肩を揉み続ける。
「うわあ、すごい凝り・・・たまには休むことも大事だよ?お兄ちゃん」
「ああ・・・ありがと、キリア・・・・・・うーん、そこ気持ちいい・・・」
「ひええええええええっ!誠人さんもまんざらでもなさそうな顔してるし!私の立場はどうなるんですか!?」
一人叫びながら号泣するミナミを見て、誠人が小さくため息をついた。
「あのな・・・・・・あ、しまった!買い物忘れてた・・・!」
ふと思い出すように声を上げると、誠人は勢いよく立ち上がった。
「学校帰りにスーパーに寄ろうと思ってたのに、あのロボットに襲われたことで頭一杯になってた・・・・・・ちょっと、出かけてくる!」
「あ、待ってよお兄ちゃん!キリアも一緒に行く!」
慌てて家を飛び出した誠人の後を、キリアが追いかける。誠人はエコバッグを片手に、商店街に向けて走り出した。
「マズい・・・セールの時間、過ぎちゃうよ・・・!
GPブレスに映る時刻を見て、誠人が焦りの表情を浮かべる。と、その時。突然彼の足元に、小さな火花が舞った。
「うわっ!・・・!あれは・・・!」
誠人の目の前に、先ほど破壊したものとよく似た人型ロボットが現れた。青い頭部のロボットは機関銃が装着された右手を誠人に向けて伸ばし、彼に向かって歩みを進めながら言った。
「虹崎誠人・・・イリスとなって、私と戦え」
「またか・・・お前、一体何が目的なんだ!?」
その問いかけに答えることなく、ロボットは腕の機関銃を誠人に向けて発砲した。その攻撃をなんとかかわした誠人のもとに、ようやくキリアが追いついた。
「・・・!お兄ちゃん、あれ・・・!」
「ああ、さっきのロボットと同じタイプだ。・・・キリア、行けるか?」
「うん!今度は、部品の一つも手に入れないとね!」
イリスバックルを腰に装着すると、誠人はボタンを押して待機モードにした。そしてホルダーからゴールドのカードを取り出し、認証部分にスキャンさせる。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.高貴なる輝き!ゴールドアーマー!』
キリアとの合体を果たすと、誠人はプラモデラッシャーを両手に握りしめてロボットに立ち向かう。そのロボット――テストロイドβの目を通し、再び銀色の服を纏った者達がデータの収集を開始する。
「イリスとテストロイドβが、戦闘を開始したぞ。さあ・・・新たなデータを集めるのだ」
数分後。とある廃工場で、ゴールドアーマーとなったイリスとテストロイドβの戦いが繰り広げられていた。
テストロイドβの腕の機関銃が火を噴き、イリスを銃弾の雨が襲う。一方のイリスは高速移動してそれを回避し、両手のプラモデラッシャーをテストロイドβに振り下ろす。
「ゴルドスタイン星のキリアと合体した、イリスゴールドアーマー。フォレストアーマーと同じく肉体的なスペックは低いが、ゴルドスタイン星人が持つ高速移動能力を駆使し、スピードにものを言わせて敵を翻弄する」
テストロイドβの目から送られてくるデータを、銀色の服の男達は冷静に分析してゆく。一方のイリスは高速移動のタックルでテストロイドβを吹き飛ばすと、一気に攻勢に出ようと両手の武器を振り上げて襲い掛かった。
『もらっ・・・た!?』
勝利を確信して声を上げたキリアだったが、次の瞬間その声は驚きに裏返った。テストロイドβのボディの中央に入る銀色のラインが光り輝き、そのラインを基点として体が左右に分裂し、分裂した部分から瞬く間に半身が生成されて全く同じロボットが二体現れた。
「ぶ・・・分身した・・・!」
『お兄ちゃん、来るよ!』
呆気にとられる誠人に向かって、二体になったテストロイドβが同時に襲い掛かってきた。その攻撃をなんとかかわすと、イリスはプラモデラッシャーの認証部分にフィニッシュカードをスキャンさせた。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
電子音声が鳴り響くと同時に、プラモデラッシャーが金色の光に包まれる。力が最大まで溜まると、イリスはプラモデラッシャーのトリガーを押した。
『ゴールドストリーム!』
イリスはテストロイドβの一体に迫ると、両手のプラモデラッシャーを高速で振り回し、敵の体を切り刻んだ。そして武器を交差させて一気に敵を切り裂き、切り裂かれたテストロイドβの体は大爆発を起こした。
『きゃっ!』
だが一息つく間もなく、もう一体のテストロイドβの激しい銃撃がイリスを襲った。その弾幕はすさまじく、いくら高速移動できるイリスでも、容易に接近できないほどであった。
「こうなったら・・・レイさん!さっきと同じタイプのロボットが、また現れました!」
物陰に隠れながら、イリスがGPブレスでレイに連絡を取った。この時レイは長官のジョージに、誠人達が謎のロボットに襲われたと報告を終えたばかりであった。
「本当なの、β!?」
「ええ、今キリアと一緒に一体倒したんですけど、もう一体いて・・・・・・レイさん、合体いけますか!?」
「分かった。お願い、β」
誠人はイリスバックルのボタンを押すと、再度待機モードにした。そしてベルトのホルダーから、スプラッシュのカードを取り出してスキャンさせる。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.逆巻く荒波!スプラッシュアーマー!』
レイとの合体を終えると、イリスはマグナムモードのプラモデラッシャーを手に物陰から飛び出し、テストロイドβと激しい銃撃戦を繰り広げた。双方が凄まじい弾幕を張る中、イリスは砲口にアクアドルフィンを合体させ、強化された弾丸で相手が発射した弾丸を相殺し、一気に攻撃を仕掛けた。
「惑星オケアノスのレイと合体した、イリススプラッシュアーマー。水を自由自在に操るオケアノス人の力を利用し、銃にしたプラモデラッシャーから水を凝縮した弾丸を放つ」
アクアドルフィンと合体したプラモデラッシャーの威力に、テストロイドβの動きが緩慢になってゆく。その勝機を見逃すことなく、イリスはフィニッシュカードをプラモデラッシャーにスキャンさせた。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
『もらった・・・!』
アクアドルフィンと合体したことで、通常よりも大きな水の弾丸が砲口にチャージされる。力が最大まで溜まると、イリスはプラモデラッシャーの引き金を引いた。
『スプラッシュシュート!』
放たれた水の弾丸が、テストロイドβに直撃した。その体は先ほど誠人を襲ったロボット・テストロイドαと同様、大爆発を起こして木っ端微塵となり、痕跡一つ残すことはなかった。
『ふう・・・また、部品の一つも回収できなかったわね・・・』
「ええ・・・一体、敵は何が目的なんでしょう・・・?」
戦いに勝利したとはいえ、レイや誠人の心境は不完全燃焼といったところであった。一方の銀色の服の男達は、爆発する直前のテストロイドβから送られてきたデータの収集に成功し、その解析を進めていく。
「サポートロボットを武器に合体させることで、スプラッシュシュートの威力は通常の倍以上に強化される。だがその反動で、サポートロボットは破壊される、か・・・・・・」
先ほどの戦闘の映像を巻き戻しで見たリーダー格の男が、得られた情報に満足げな笑みを浮かべた。
「これでゴールドとスプラッシュのデータは手に入れた。残るは二つ・・・フレイムと、ムーンライト・・・!」
「イリスを狙う敵、か・・・なるほど。確かに捨て置けない問題だ」
その夜。レイに虹崎家まで呼び出されたカグラが、事情を聞いて深刻そうな声を上げた。
「あのロボットが何者の差し金かは分からないけど、よからぬ目的でβを襲ったのは間違いないと思う」
「不気味ですね・・・・・・一体、どうしてイリスを狙うんでしょう・・・?」
カグラと共に虹崎家にやって来ているミュウが、敵の狙いを量りかねて声を上げた。
「さあ、それが分かれば苦労はないんだけど・・・」
ミュウにそう応えた時、誠人はふとあることを思い出した。
「そういえば・・・これ、ただの偶然だとは思うんですけど、僕、二回襲われた時に、カグラさんとソフィアさん以外の刑事全員と合体したんです。一度目はミナミとミュウ、二度目はキリアとレイさん。・・・敵のロボットが意外としぶとくて、二つのアーマーの力を使わないと完全に倒せなかったんです」
「そういえば、確かに・・・」
そう口にしたその時、ミナミはある可能性を思いついた。
「・・・もしかして、イリスと戦うことで、その手の内を探ろうとした、ってことは考えられませんか?」
「なるほど・・・だとしたら、合点がいく。二度もβを襲って、その都度イリスになるよう促したのは、その戦闘データを手に入れるため。・・・でもそうなると、私達は偶然とはいえ、相手の意に添うように手の内をさらけ出してしまったことになる」
相手の目的をそう分析したレイが、焦燥の声を上げた。六つのアーマーのうち、すでに四つのアーマーをロボットとの戦いで使ってしまっている。恐らく敵は、残る二つのアーマーの力も探ろうと、再び刺客を放ってくるはずだ。
「残るはフレイムとムーンライト・・・カグラとソフィアがお兄ちゃんと合体しちゃったら、それでイリスのデータは全部敵に渡っちゃうんだね?」
「だったら話は早いじゃないか。あたしとソフィアさんが、しばらく少年と合体しなきゃいい。・・・ていうかそもそも、少年があたし達のカードを使わなきゃ、それで済む話じゃないか」
キリアにそう応えたカグラの声は、随分と楽観的なものであった。誠人はそれにうなずきつつも、不安げに声を上げる。
「ただ、相手はきっと、よほど用意周到な奴らです。恐らく何らかの手段を使って、僕に残る二枚のカードを使わせるよう、仕向けてくるはず・・・」
「なら、明日以降はこれまで以上に、βの警護を厳重にするしかない。今までは家の外の警護はミナミに任せきりだったけど、明日からは私達も、学校に赴いてβの身辺を守ることにしよう」
「はい、分かりました!」
レイの提案に、ミュウが賛同の声を上げる。それを頼もしく思いつつも、誠人は近いうちに必ず実行されるであろう敵の襲撃を考え、不安でいっぱいな気持ちになるのだった。




