第12話「思い出の牢獄」前編
「河原崎さん!・・・しっかりしてください、河原崎さん!」
その夜。墓地で意識を失って倒れていた青年が、病院に運び込まれてきた。
「駄目だ・・・ここ一週間ほど増えている、他の昏睡患者と同じだな・・・」
青年を診た医者が、困惑の表情で呟いた。彼の言う通り、ここ一週間ほど都内各地で、人々が昏睡状態で発見されるケースが相次いでいる。そのいずれも原因が不明で、医学的に調べても体の状態に問題はなく、また脳の状態も正常そのものであった。
「しかし、どうしてこうもみんな幸せそうな表情を浮かべているんだろう・・・?唯一の共通点といえば、まさにそれくらいだが・・・」
発見された人々が浮かべている、どこか幸せそうな表情。その理由を測りかねる医者達の姿を、魔女の如きいでたちの女が宙に浮きながら見つめていた。
「ふふ・・・治せるものなら治してごらんなさい。・・・むしろこのまま眠っている方が、当人達にとっては幸せというもの。ふふふ・・・」
冷たい笑みを浮かべながら言うと、女の姿はふっと煙のようにかき消えた。だがその一部始終を、ルナスネークの赤い目がしっかりと捉えていた。
「なるほど・・・これは確かに、妙な奴が現れたものね・・・」
そのルナスネークが記録した映像を見たソフィアが、物憂げに声を上げる。彼女は空を見上げると、一人小さくため息をついた。
「やれやれ、どんどん月が細くなってく・・・・・・大体こういう時って、厄介ごとが起きるのよね・・・・・・」
☆☆☆
それから、数日後のこと。誠人は友人の星南や柚音、そしてミナミと共に、学校帰りに近くのゲームセンターに遊びに出かけていた。
「あっ・・・ああ、また失敗・・・これで1,000円持ってかれた・・・」
「どれどれ、今度は私が・・・あ、あら?意外と難しいですね、これ・・・」
クレーンゲームに何度も失敗した柚音が、がっくりと肩を落とす。それを見て挑戦してみるミナミだったが、彼女もまた目当ての景品を掴むことに失敗し、クレーンが虚しく空を掴んだ。
「ははっ、こういうゲームはコツが大事なんだ。見てて、あのぬいぐるみを落としてみせるから」
そう言ってコインを投入すると、星南は慣れた手つきでクレーンを操作した。そして宣言通りにぬいぐるみを掴み、見事に落とすことに成功した。
「うわあ、すっごーい!」
「なかなかやるじゃないですか、星南さん!」
柚音とミナミが相次いで称賛の声を贈ると、星南は恥ずかしそうに頭をかいた。
「はは、大したことないよ。・・・僕も昔はこういうゲームが苦手でね、いつも失敗してた。でも妹がこういうゲームが得意でさ、一緒に遊んでコツを教わるうちに、僕も上手くなってたってだけの話さ」
「妹・・・星南、妹さんがいるのか?」
誠人の問いかけに、星南の表情がわずかだが曇った。
「ああ・・・いたんだ。二年前・・・僕が高校に受かったその日に、病気で亡くなっちゃったけど・・・・・・」
「そうだったんだ・・・ごめん、変なこと訊いて」
「いや、いいんだよ。もう、僕も家族もあいつの死は受け入れてる。・・・生まれつき体が弱い奴だったから、いつかはって覚悟はしてた。でも・・・こういうところに来ると、いつも思い出すんだよね。あいつと遊んだ時のこと・・・・・・楽しかった日々のことをさ」
一瞬遠い目をした星南だったが、すぐにまたいつもの明るい表情に戻った。
「ごめんね、気分が沈むようなこと言って。さあ、これは君にあげるよ、田代さん」
「あ・・・ありがとう。じゃさ、次はあれやろ、あれ!」
少し沈みがちなムードを盛り上げようと、柚音は誠人達をボーリング型ゲームやレースゲーム、そしてエアホッケーなどのゲームに誘った。そして小一時間ほど遊んだ後、一同はお開きとすることにした。
「今日はありがと!じゃあ皆、また明日学校でね!」
「うん、また明日」
「気をつけて帰ってくださいね、柚音さん!」
「また明日な、柚音」
誠人達に大きく手を振ると、柚音は電車に乗るため駅に向かった。残された二人は途中まで一緒に歩いていたが、やがてお互いの家に向かう分かれ道に差し掛かった。
「じゃあ、僕はここで。今日は楽しかったよ、二人とも」
「ああ、僕もだ」
「今日は星南さんの、隠れた凄腕を見ることができましたからね!・・・星南さん、今度は私にも、ぬいぐるみをお願いしますよ」
「あはは。うん、約束するよ。じゃあまた明日ね、虹崎君、ミナミさん」
二人と別れの挨拶を交わすと、星南は家に続く道を歩き始めた。今日という楽しかった一日を思い返しながらも、彼は無意識のうちにスマホの画面に、在りし日の亡き妹と撮ったツーショット写真を映し出していた。
「渚・・・」
「なるほど。それがあなたの幸せな記憶、ですか」
その時、突如として星南の背後から声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこには魔女のようないで立ちの銀髪の女の姿があった。
「あ・・・あなたは・・・?」
女はその問いかけに答えず、手にした不思議な形の杖を星南に向けた。
「ずっと浸らせてあげましょう、その記憶に・・・」
「うわあああああっ!」
同時刻。近くから聞こえてきた悲鳴に、誠人とミナミは表情を硬くした。
「・・・!誠人さん、今の声・・・!
「ああ・・・行こう、ミナミ!」
悲鳴の聞こえた方に向かいながら、二人はずっと思い続けていた。あの悲鳴、まるで先ほど別れたばかりの星南の声にそっくりだ、と。
(頼む・・・何かの間違いであってくれ・・・!)
だが、誠人のその希望は無残にも打ち砕かれた。駆けつけた誠人とミナミが目にしたのは、立ち尽くす星南に杖のような物を向ける不気味な女の姿であった。女の杖の先にある球体が光り輝くと同時に、星南の額からピンク色の光球が立ち上り、女が持つ小瓶に回収されてゆく。
「やめろ!星南に何をする!?」
GPブレスを戦闘モードに切り替えると、誠人は女に向かって光線を発射した。女がその光線をかわすと同時に、球体の放出が止まった星南がその場に気を失って倒れこんだ。
「おや、なかなか面白い物を身に着けていますね。それが、この次元におけるいわば『兵器』なのですか?」
「『この次元』・・・?まさかあんた、異次元から来た、とか言わないですよね・・・?」
「ふふふ、ご名答。私はこことは別の次元からやって来た、いわば異次元人。名はカリーナ、ケーニヒとローザの娘」
「本当に異次元人か・・・星南に一体何をした!?」
「ふふっ。今そこに無様に倒れている少年からは、生気を提供してもらいましたの。まああと何日かすれば死ぬことになるでしょうけど、その代わりこれまでで一番幸せだった時の記憶を追体験させてあげているのですから、文句はありませんわよね?」
カリーナの言葉通り、星南は今夢の中で、亡き妹・渚と幼い頃に共に遊んだ思い出に浸っていた。だが、その先に待っているのが数日以内の死と聞いては、誠人が黙っているはずもない。
「ふざけるな!今すぐ星南を元に戻せ!」
怒声と共に放たれたGPブレスから光線を、カリーナは軽やかに宙を舞いながらかわす。そして手にした杖から光弾を放ち、誠人達の足元に命中させた。
「うわっ!・・・こうなったら・・・ミナミ!」
「はい!」
誠人はイリスバックルを腰に装着すると、ベルトホルダーからグランドのカードを取り出した。そしてバックルを待機モードにすると、カードを認証部分にかざす。
「ユナイト・オン!」
『Read Complete.震える大地!グランドアーマー!』
一瞬で誠人の体を覆ったイリススーツに、ミナミが姿を変えた黒い鎧が装着される。その複眼が赤く輝いた瞬間、カリーナが興味深そうに声を上げた。
「ほう・・・他のヒューマノイドと合体ができるシステム、ですか・・・」
『だったら何だっていうんです?とにかく、星南さんを元に戻しなさい!』
イリスはソードモードのプラモデラッシャーを握り締め、カリーナに挑みかかった。だがカリーナはひらりひらりと宙を舞ってイリスの攻撃を回避し、なかなか攻撃が当たらない。
『ああもう、やりづらい!』
「ふふ。私の目的は、あなた方と戦うことではありません」
そう言うと、カリーナは右手を宙にかざした。するとその部分の空間が歪み、ブラックホールのような黒い穴が開く。
「ですが、その奇妙なベルト、そしてあなた方には興味がわいてきましたわ。・・・特別です。研究対象として私の故郷にご招待・・・うっ!」
その時、どこからか飛んできた一筋の光線が、カリーナの体に命中して地面に叩き落とした。それと同時に時空の穴は消滅し、イリスが光線の飛んできた方へ視線を向けると、そこにはGPブレスを構えながらこちらに歩み寄るソフィアの姿があった。
「ソフィアさん!」
『あんた、なんでここに!?』
「どうも、お二人さん。実は、ちょっとこの女に用があってね」
二人にそう答えながら、ソフィアは倒れこむカリーナにGPブレスを突き付けて問い詰めた。
「最近巷で、人々が意識不明の状態で発見されるのが流行ってるけど・・・・・・あれ、あんたの仕業よね?」
「ほう・・・私の存在を認知していたとは。・・・それに、随分と幸せな過去をお持ちのようですね、あなた」
「・・・?まさか、私の頭の中を覗き見た、とか言わないわよね?」
思わず顔をしかめたソフィアの問いかけに、カリーナは悪意ある笑みを浮かべた。
「そのまさか、ですわ。それに見たところ、あなたやそこの少年と合体している女の子は、どうやら他のヒューマノイドとは一味違うみたい。・・・ますます興味がわいてきましたわ、あなた達に」
『御託は結構です!早く星南さんを、元に戻しなさい!』
怒りに声を荒げると、イリスは再びカリーナに襲い掛かった。だがその剣の一撃がカリーナに直撃すると思われた瞬間、その体が二つに分身した。
『!?』
「ふっ!」
二人になったカリーナの杖から、同時にピンク色の光球が放たれた。その一撃にイリスは大きく吹き飛ばされ、地面に倒れこんだ拍子に合体と変身が解除される。
「ミナミ!坊や!・・・うっ・・・くっ!」
倒れこんだ二人に気を取られたソフィアの首に、一人に戻ったカリーナが杖から伸ばす触手が巻きつけられた。さらにカリーナは触手を伸ばし、誠人とミナミの首も絞めつける。
「うっ・・・あっ・・・」
「くっ・・・放し・・・なさい・・・!」
必死に抵抗する三人を嘲笑うと、カリーナは新たに時空の穴を開けてそこをくぐり、捕らえた三人を引きずり込もうとした。と、その時――
「・・・あ!カグラ先輩、あれ!」
「うっ・・・何だ、あれ!?」
誠人の家に行くために偶然通りかかったミュウとカグラが、目の前の異常現象に声を上げた。その二人の目の前で、触手に捕らわれたソフィアと誠人が次元の穴に引き込まれ、次いでミナミも穴に引き寄せられる。
「させるか!」
カグラは手にした剣を勢いよく触手に投げつけ、それを断ち切ることでミナミを救出した。触手から解放されて地面に落ちたミナミのもとに、カグラとミュウが駆け寄る。
「大丈夫ですか、ミナミ先輩!?」
「ミュウ・・・カグラ・・・っ!穴が閉じる!」
小さく叫んだミナミの目の前で、時空の穴は徐々に小さくなっていった。ミナミは意を決すると、二人に早口で言葉をかける。
「そこに倒れてる人を、すぐに病院へ!私、あの穴の向こうに行かないと!」
「お、落ち着いて!一体何があったんだい!?」
「異次元人とか名乗る奴が、誠人さんとソフィアをあの穴に引き込んだんです!とにかく、後は任せましたよ、二人とも!」
「あ、ミナミ!」
「ミナミ先輩!」
ミナミはカグラの制止を振り切って大きくジャンプし、穴の中に飛び込んだ。それと同時に穴は消滅し、空間は元の姿を取り戻す。
「異次元人、って・・・それ、本当なんでしょうか!?」
「分かんない・・・でも、今はできることをやるしかない。ミュウ、救急車!」
「あ・・・はい!」
カグラの指示を受け、ミュウが大急ぎで救急車を呼ぶ。一方のカグラは先ほどミナミが飛び込んだ、時空の穴が開いていた空間を睨みつけた。
(頼んだよ・・・ミナミ・・・!)




