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チーム・イリスの事件譚  作者: 髙橋貴一
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第12話「思い出の牢獄」アバン

第12話です!今回はソフィアについて掘り下げる回となっています。実は当初第8話のエピソードとして考案していたのですが、8話のテーマであるミュウの成長劇としてはどうも合わないと感じたので後ろ倒しにした、という経緯があるエピソードでもあります

「じゃあ、誠人君。母さんまたしばらく留守にするから、家のことお願いね」

 それは、梅雨まっしぐらのある日のこと。再び冒険に出ることになった茜が、ドアの前で誠人に声をかけた。

「うん、分かってる。・・・でも、何もこんな雨の日に出かけなくていいじゃないか」

「そんなこと言ってられないの。冒険っていうのはある意味、お魚と一緒。気持ちが新鮮なうちに行かないと、後々腐っちゃうことだってあるのよ」

「おお、お母様、名言ですね!」

 誠人達と共に見送りに来たミナミが、茜の言葉に感嘆の声を漏らす。それとは対照的に、誠人が褪めた声でツッコんだ。

「いや、よく分かんないんだけど・・・」

「まあとにかく、お土産楽しみに待ってて。・・・皆さん、誠人君のこと、どうかお願いね」

「はい、もちろん!誠人さんは、私がしっかりとお守りいたします!」

「ミナミだけじゃないよ!キリアもお兄ちゃんのこと、しっかり守るから!」

「私も、できる限りのことはします。茜さん、どうか安心してお仕事に臨んでください」

 キリアとレイも、ミナミに続いて声を上げる。その言葉を聞き、茜はほっと安堵のため意をついた。

「うん、安心したわ。じゃ、行ってくるわね」

「うん・・・気をつけて、行ってきて」

 誠人達に見送られながら、茜は新たな旅に出た。誠人はどこか寂しげな表情で、曇天の空をしばらく見つめ続ける。

「どうしたの、β?」

「ああ、いえ・・・こんな雨の日になると、つい思い出しちゃうんです。今から10年前・・・・・・僕の父も、こんな日に家を出ていったっけな、って」

「え・・・?そういえば、お兄ちゃんのお父さん、全然見たことないけど・・・どこにいるの?」

「キリア!」

 事前に誠人の家族について調べているレイが、キリアをたしなめる。だが、誠人はそれを気にしていないように語り始めた。

「ああ、まだキリアには話してなかったっけ?・・・僕の父さん、10年近く前に、母さんと離婚したんだ。その理由は分からないし、今どこにいるのかも分からないけど・・・・・・父さんが家を出ていったのも、こんな雨の日のことだった・・・・・・」

 誠人の脳裏に蘇る、雨の中去っていく父の姿。その大きな後ろ姿が徐々に小さくなっていく様を、幼き日の彼は鮮明に心に刻んでいた。

「そうなんだ・・・ごめん、変なこと訊いて」

「いや、いいんだ。もう、あの人がいない暮らしの方が長くなっちゃったし・・・・・・それで傷つくことなんて、もうないからさ」

 キリアの頭を優しくなでると、誠人は自分の部屋に向かった。隠そうにも隠し切れない寂しさを、ミナミは彼の背中から感じ取るのだった。



 それから、数時間後。雨上がりの郊外の墓地に、一人の青年が姿を見せていた。彼は一つの墓に水をかけると、花を供えてそっと手を合わせ、祈りを捧げる。

香織(かおり)・・・・・・もう、三年が経つんだな・・・・・・」

 そう呟いた彼の手には、一枚の写真が握られていた。そこには幸せそうな笑みを浮かべる、青年と若い女性の姿が写されていた。

「香織・・・・・・」

「なるほど。それがあなたの幸せな記憶、ですか」

 突然、背後から一人の女の声が聞こえた。青年が振り向くと、そこには黒いフードと魔女が使うような帽子を身に纏い、鈍色の髪を腰まで伸ばした、一人の女の姿があった。

「だ・・・誰ですか、あなたは!?」

 女はその問いに答えることなく、手にした杖のような物を青年の額に突き付けた。

「さあ、浸りなさい。あなたが・・・最も幸せと感じる思い出の中に・・・」

 そう女が口にすると同時に、彼女が手にする杖の先端にある球が桃色に輝いた。その輝きを直視した次の瞬間、青年の姿はいつの間にか墓地ではない場所に移っていた。

「え?・・・ここは・・・」

 そこは、数年前まで青年が暮らしていた、マンションの玄関であった。何が起きたのか訳が分からなかったが、なぜか彼の脚は無意識の位置にマンションの中へと進んでいった。

「・・・あ!お帰り、陽介(ようすけ)!」

 マンションのリビングでアイロンをかけていた若い女性が、青年に明るい笑顔と共に声をかける。その顔を見た青年が、驚きのあまり声を上ずらせた。

「か・・・香織!」

 青年に声をかけたのは、もう決して会うことは叶わないはずの、彼の最愛の人であった。

「どうしてここに?お前・・・三年前に事故で・・・」

「もう、何言ってんの?私はずっと、ここにいるよ。陽介」

 その口調も、声も、笑顔も、全てが三年前の彼女と同じであった。いつしか青年は、目の前の彼女が現実の存在で、この不思議な体験が彼の現在だと、信じて疑わないようになっていた。

「陽介・・・私、陽介に言いたいことがあるの」

 それは三年前、青年にとって人生最大の幸福が訪れた日に発せられた、恋人の言葉であった。

「ん?何だい、香織?」

「陽介・・・結婚しよう!」

 抱きついてきた恋人の体を、青年は強く抱きしめた。するとビデオ映像のように二人の動きが巻き戻り、再び場面は二人が向かい合うところになった。

「陽介・・・結婚しよう!」

 青年は何度も、恋人からの告白を受け入れ続けた。同じ時間がループし続けていることなど、彼はまるで気づいていない。だが、それでよかった。彼にとって、この瞬間が人生で一番、幸せな体験であったのだから。



「ふ・・・ふふ・・・・・・愚かなものねえ、この次元の人間って」

 青年の額から立ち上るピンク色の光球を、銀髪の女は手にした小瓶のような物に受け止めた。やがて光球の発生がぴたりと止まると、青年は墓地に倒れこんだ。

「死ぬ寸前まで浸ってなさい。あなたの、最も幸せだった瞬間に。ふ、ふふ・・・ふはははは・・・あーっはっはっは!」

 手にした小瓶の中で輝くピンク色の光を、女は愉悦そうに見つめていた。やがて彼女の姿は一瞬で消え失せ、そこには意識を失って倒れる青年だけが残されるのだった。

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[一言] 一番えげつない系の敵がきてしまった 被害者が下手すりゃ庇う系の敵が
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